第22話 秘密の共有と友人の願い
昼休み終了のチャイムが鳴り響き、俺は詩織先輩に別れを告げて生徒会室を後にした。
「いやー、語った語った!」
ジークソードの熱い展開について先輩と心ゆくまで語り合えた満足感で、足取りも軽い。
やっぱり、好きなことについて話せる相手がいるって最高だ。
自分の教室に戻ると、ちょうど和泉が席に着くところだった。
俺の姿を見ると、彼はやれやれといった表情で声をかけてきた。
「おかえり、神崎。姉さんの呼び出しって、やっぱりいつものやつか?」
「ああ、その通り」
俺はニヤリと笑って答える。
「ジークソードの最新話で、めちゃくちゃ大盛り上がりしてきたぜ。先輩、あの戦闘シーンの演出に感動しててさ」
「はは、やっぱりか」
和泉は苦笑いを浮かべた。
「今朝の朝食の席でも『早く秀一くんと語り合いたい』ってそわそわしてたからな。昨日の今日で早速呼び出すとは思わなかったけど」
「え、俺の名前出してたのか? 光栄だな」
あの完璧な生徒会長が、俺とのオタクトークを楽しみにしてくれてるなんて、なんだか嬉しいじゃないか。
「ああ、まあな」
和泉は、少しだけ真面目な顔つきになった。
「うち、知ってると思うけど、結構古風な神社でさ。両親も厳しくてな。『アニメやゲームなんて時間の無駄、低俗なものだ』って、小さい頃からずっと言われて育ってきたんだ」
「……そうだったな」
俺は頷く。和泉から、彼の家の事情は何度か聞いたことがあった。
彼は神社の跡取りとして、詩織先輩は巫女としての役割を期待され、幼い頃から厳しい躾を受けてきたのだと。
「だから、本当はアニメやゲームが大好きな姉さんが、素の自分を出せる相手ってのは、本当に少ないんだ。家族の前ではもちろん、学校でも『完璧な生徒会長』を演じてるからな」
和泉は、俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「秀一、お前は、姉さんにとって、数少ない……いや、もしかしたら唯一、本音で趣味の話ができる大切な相手なんだ」
そして、和泉はすっと立ち上がり、俺に向かって深々と頭を下げた。
「だから……頼む。これからも、姉さんの相手をしてやってくれないか」
「お、おい、和泉!?」
突然、親友に頭を下げられ、俺は戸惑って後ずさる。
「な、何言ってんだよ! 頭上げろって!」
俺は慌てて和泉の肩を掴み、頭を上げさせる。
「お願いされるようなことじゃないだろ! 俺だって、先輩と話すの楽しいんだから。好きでやってるだけだって!」
「……そうか?」
「ああ、そうだ! だから、そんな風に頭なんて下げるなよ。友達だろ、俺たち」
俺がそう言うと、和泉はようやく少しだけ表情を和らげた。
「……悪い。なんか、姉さんのことになると、ついな」
「気持ちはわかるけどさ」
和泉は、ふぅ、と息をつくと、今度は少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。
そして、俺の肩をポンと叩きながら、とんでもないことを言い出したのだ。
「まあ、一番手っ取り早いのは姉さんがお前みたいな奴と結婚して、うちから嫁いでくれたら、晴れて自由に生きられるようになるんだがな」
「…………は?」
俺は、和泉が何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
結婚? 俺と、詩織先輩が?
「お前、巨乳好きだろ?」
和泉は、ニヤニヤしながら俺の耳元で囁く。
「なっ……!?」
その一言で、俺の顔は一気に沸騰した!
「な、な、な、何言ってんだバカ!!!! 誰が巨乳好きだ!!!」
俺は顔を真っ赤にして叫びながら、和泉が肩に置いていた手を、思いっきりはたき落とした!
「いって! なんだよ、図星だろ?」
和泉は、手をさすりながらも、まだニヤニヤしている。
「図星じゃねえ! 大体な、なんで俺と先輩が結婚する話になるんだよ! ありえねえだろ!」
俺は、心臓をバクバクさせながら反論する。
詩織先輩は綺麗だし、優しいし、話も合うけど……でも、結婚なんてそんな……!
「まあまあ、落ち着けって。冗談だよ、冗談」
和泉は笑いながら言うが、その目が全く笑っていないように見えるのは気のせいだろうか。
「冗談でも言うな! 先輩に失礼だろ!」
俺は、まだ顔の火照りが収まらないまま、和泉を睨みつける。
「はいはい、わかったよ」
和泉は肩をすくめ、自分の席へと戻っていく。
俺は、その場でしばらく立ち尽くしていた。心臓がまだドキドキしている。
(結婚……俺と、先輩が……)
そんなこと、考えたこともなかった。でも、和泉に言われて、一瞬だけ、想像してしまった自分がいる。
詩織先輩が、俺の隣で、あの優しい笑顔を浮かべて……。
(……いやいやいや! 何考えてんだ俺は!)
俺は再び頭を振って、邪念を追い払う。和泉の冗談に、何を本気で動揺してるんだか。




