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第11話 放課後の真剣相談 ~友人の心配と思わぬドキドキ~

放課後の教室。窓から差し込む夕陽が、徐々に黄金色を帯びてきていた。

俺は、鞄に教科書を詰めながら、隣の席の和泉に声をかける。


「じゃあ、俺はこれで帰るわ。明日の数学の宿題、忘れるなよ」

「あー、わかってるって。それより、昼休みの神崎の妹さんのあれ、まだ考えるとちょっと現実感なくて……」


和泉は眼鏡を直しながら、半ば呆然とした表情で言う。妹の二面性のショックがまだ抜けきっていないようだ。


「あ、あれは……特別な状況というか……」


俺は言い訳を考えあぐねていると、ふと教室の入り口に目がいった。


そこには、おずおずとした様子で、廊下から教室内をキョロキョロと覗き込んでいる一年生の女子生徒の姿があった。

小柄な体格に、黒髪のショートカット。よく見ればそれは美月だった。

玲奈の親友で、小さい頃から玲奈とよく一緒に遊んでいた女の子。

俺の家にも何度か遊びに来ていたっけ。


美月は、俺と目が合うと、小さく手を振り、廊下へと手招きした。


「……お兄さん、ちょっとお話があるんですけど」


その声には、少し緊張感が混じっているように聞こえた。


「ん? 俺に?」


俺は少し首を傾げながら、和泉に「先に帰ってていいぞ」と声をかけ、美月のところへと向かった。


「どうした、美月ちゃん?」


教室を出て廊下に立つと、美月はどこか落ち着かない様子で、周囲を見回している。


「あ、えっと……」


美月の様子に、俺はふと懐かしさを覚えた。そういえば、小さい頃、この子はいつも少し遠慮がちだったっけ。

玲奈が人見知りで人の後ろに隠れがちなのに対して、美月はいつも冷静で、少し大人びていた。


「久しぶりだね。こうして話すの」


俺が自然と笑いかけると、美月も少しだけ表情を和らげた。


「そうですね。こうして話すの、久しぶりです」


小さく微笑む美月の姿に、小学生の頃、一緒に鬼ごっこをしたり、トランプで遊んだりした記憶が蘇る。


しかし、その懐かしい雰囲気は長くは続かなかった。美月は再び周囲を見回すと、少し声を低めた。


「あの、ここではちょっと話しづらいので……」


美月は、人気の少ない階段横の廊下へと俺を案内した。


そこで立ち止まると、美月は真っ直ぐに俺の目を見上げ、唐突に切り出した。


「お兄さん、玲奈と一緒に……寝ましたよね?」


「ぶっ!?」


俺は思わず咳き込んだ。な、なんで美月がそんなことを……!?


「い、いや、なんのことだ? そんな……」


必死にとぼけようとする俺に、美月は冷静に言い放った。


「玲奈が言ってました。昨日の夜、二人でベッドで寝たって」


「………」


ぐうの音も出ない。言い逃れできないと悟り、俺は観念して小さく頷いた。


「……ああ、まあ、確かに……」

「まさか、手は……出してませんよね?」


美月の声は、静かだが芯があった。その目は、真剣そのもので、嘘をつけばすぐに見抜かれそうな鋭さを持っている。


「は!? バ、バカ言うな!!」


俺は思わず声を荒げた。


「妹にそんなことするわけないだろ! しかも、先日の二回目は母さんに見つかって、あいつはガッツリ怒られてたんだぞ!」


憤慨しながら言い返す俺を、美月は真剣な目で見つめ続けた。その視線の重さに、俺は少し気圧される。


「……」


美月は、じっくりと俺の表情を観察した後、大きくため息をついた。


「はぁ〜、どうやら本当みたいですね……良かった……」


そう言って、彼女は胸に手を当て、明らかにホッとした表情を浮かべた。


「え?」


「実は、玲奈が『お兄ちゃんに間違いを起こさせる』って言ってたんです。すごく真剣に。だから、心配で……」


美月の言葉に、俺は「間違い」という行き過ぎたからかいの単語を思い出し、顔が熱くなるのを感じた。そ、そうか、あれは美月が言ったことだったのか……。


美月は続ける。


「私、本気で心配したんです。玲奈の暴走を止められなかったから……。もし、何か取り返しのつかないことになったらって……」


その表情には、本物の心配と友人を思う気持ちが表れていた。


「美月ちゃん……」


俺は、彼女の気持ちに胸を打たれた。幼い頃から玲奈のそばにいて、こんなにも真剣に心配してくれる友人がいるんだ。玲奈は本当に恵まれているな。


「あいつは……なんていうか、すごく変な子だけど」


俺は微笑みながら言った。


「こうして心配してくれる友達がいてくれて、安心だよ。ありがとう美月ちゃん」


そう言いながら、俺は自然と手を伸ばし美月の頭を優しく撫でていた。

妹の頭を撫でる時のような、無意識の仕草だった。


「っ!!」


ところが、少しの時間撫でた後突然美月の体が強張り、顔がみるみる赤くなっていくのが見えた。


「ち、ちょっと、撫でないでくださいよ!」


彼女は慌ててそっぽを向き、耳まで真っ赤になっている。


(あっ……)


俺は慌てて手を引っ込めた。そうだよな、相手は高校生の女の子だ。

急に頭を撫でるなんて、いくら昔からの知り合いでも、失礼だったかもしれない。


「ご、ごめん! 急に撫でるとか、キモいよな!」


俺は頭を下げながら謝った。


「い、いえ、そんな……」


美月は、まだ顔を赤らめたまま、俺から少し距離を取る。


「き、気持ち悪いとかそういうんじゃなくて……ビックリしただけです」

「そ、そうか……」


俺たちの間には、一瞬、妙な空気が流れた。


「あ、あの、それじゃあ私、もう行きますね!」


美月は急に慌てた様子で、鞄を抱えるようにして言った。その顔は、まだ赤みを帯びたままだ。


「玲奈には……くれぐれも気をつけてください。あの子、本気ですから……」

「ああ、わかってる。俺も気をつけるよ。ありがとう、美月ちゃん」


俺は再び笑いかけた。小さい頃と変わらず、しっかり者の子だな。


美月はペコリと頭を下げると、足早に廊下を去っていった。その背中が、なぜか少し小さく見えた。


(美月ちゃん、成長したなぁ……)


そう思いながら、俺も帰路につくことにした。

今日は色々あったけど、玲奈に良い友達がいることがわかって、少しだけ安心した。

俺は、そんなことを考えながら、夕暮れの校舎を後にした。

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