表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
第一幕 北西街代表選

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/53

24 アンビシアの訪問


 やることがはっきりとしてから、私は今まで以上に精力的に劇団の運営に邁進した。劇団員たちの練習を見て事務作業をこなし、宣伝のためにファンの夫人たちや劇団に興味がある人たちとお茶会を開く。

 ヴァレーリアやキジーニから紹介された、嫁入りで移住民から地元民になった人たちにも協力してもらい、移住民の人たちに招待状を広めてもらった。招待状を配りすぎてもいけないので、そのバランスにも気を遣う。

 そんなことをしているうちに、ラギナから再生用ロイハが五個出来上がったという連絡が入った。私はすぐに工房に取りに行き、料金を支払う。たった五個だが、真新しい魔石装具で量産もできないため、正直めちゃくちゃ高い。

 

 王立だから劇団の備品は問題なく買えるけど、その分売り上げ目標にも上乗せされちゃうんだよね。うう、経営頑張らなきゃ。

 

「魔石装具としての登録は済んだから、今日から他の貴族にも見せていいよ。ただこの小さい記録の奇石は今のところこれだけしかないから、誰かに売ったり渡したりはしないで」

「わかりました。すぐ許可が出ただけでも助かります」

 

 ちなみに新たな魔石装具を認めて、使用許可や売る許可を出すのはアルスラン様だ。ちゃんと書類で申請して、許諾を得る。今回は王の塔に行く機会はなかったので、クィルガーからロイハの詳細をアルスラン様に伝えてもらうように頼んだ。

 なるべく早く認可が欲しいと伝えたからか、「今までにない映像を使った魔石装具が人々に与える影響がどれくらい大きくなるかわからないので、使用者を限ること」という条件付きですぐに許可が降りたらしい。

 それを受けて、私はハンカルと再生用ロイハを使っての宣伝をどうするか考えた。最初は劇団の平民の職員にロイハと紹介冊子を預けて、他の街にいる知り合いの高位貴族の元へ持っていってもらい、そこで宣伝をしてもらおうと思っていたのだが、ロイハに興味を持った人が職員にロイハを返さず、追い出してしまう危険性があることに気づいた。貴重品を預けるには平民は向いていない。それが下位や中位の貴族であっても同じである。

 そのため私とハンカルが手分けして高位貴族の家へ赴き、そこでお茶会を開いてもらって複数人の貴族にまとめて見てもらうことにした。高位貴族である私たちならば、ロイハを盗られる心配もない。公演前にかなり忙しくなってしまったが、少しでもお客さんを増やすためだと思って二人で動きまくった。

 ロイハ宣伝をしたお茶会の数自体は少なかったが、それでも効果抜群だった。

 

「おおっすごい! このようなものは初めて見る!」

「こ……これは⁉ 本当に絵ではないのか」

「これが実際の劇場だと……? なんということだ」

「あなた、私にも早く見せてくださいな」

「待て待て、もう少しじっくり……」

 

 このように貴族たちの食いつきが全く違ったのだ。お茶会を開いてもらった五大老やアリム家と懇意の人たちは、みんな劇場の映像に驚き、実際に劇場に行ってみたいと言ってくれた。

 

「ロイハの宣伝効果、すごかったね」

「ああ、チケットが思ったより売れたな」


 お茶会から戻ってきた私とハンカルはそう言いながら今回の宣伝の成果をまとめる。

 北西街のファンたちより早く他の街の貴族たちにロイハを見せることになってしまったので、不満が出ないように公演中の劇場の社交用大広間にもロイハを置いておくつもりだ。

 

「あとは他の街から来てくれたお客さんを満足させて、劇団の知名度を上げてもらうだけだな」

「そうだね。ロイハの宣伝は今後の公演の宣伝で思いっきり使おう」

 

 そうして準備を進めていた一の月の終わりに、私宛てに手紙が届いた。その差出人の名前を見て私は目をパチパチとする。

 

 アンビシア様だ……あれかな、招待状突き返されちゃったかな。

 

 実は個人的に、彼女にも公演の招待状を送っていたのだ。高位貴族で移住民からの支持も厚いであろう彼女にもうちの劇を見てほしかったのだが、相当嫌われているとわかっていたので返事は来ないと思っていた。

 手紙の確認をしていたルザが眉を寄せたのを見て、私は耳を下げる。

 

「やっぱり招待状なんていらないって感じ?」

「いえ……それが」

 

 そう言って渡された手紙には、『招待状、確かに受け取りましたが、目的が不可解です。説明を求めます』と短い文章で書かれてあった。とても簡潔で飾り気のない文章だ。

 

「……これって、会って話がしたいってことかな」

「そのようですね。しかしなんという不躾な……」

「貴族女性の文らしくはないよね。でも、招待状を突き返されたわけじゃないから良かった」

「ディアナ様、まさかお会いするのですか?」

「もちろん。だって無視することだってできたのに、こうしてわざわざ返事をくれたんだよ。しかもちゃんと受け取りましたって。彼女は私の目的が聞きたいだけ。それって私に興味があるってことでしょ?」

「そのお考えは楽観的すぎます。おそらくディアナ様のことを探りたいだけなのでしょう。開発案を出すライバルとして警戒しているのですよ」

「わかってる。でもどんな目的で会いに来るのかなんて関係ないよ。彼女が私を避けずに近づいてくるのなら、私も彼女と向き合う。その方が健全だからね」

 

 貴族社会は思惑と根回しの世界だ。表立って動くのではなく、裏でコソコソと探り合う。私だってルザやイシークを使って情報を得てきた。こうして堂々と「意味がわからないから、話を聞きに行くわ」と言ってくる貴族なんてそういない。

 

 こういう真っ直ぐな感じ、学生の時だってあんまりなかったよ。

 

「ルザ、彼女を劇団の館に招待するよ」

「劇団の方にですか? 彼女は高位貴族ですが……」

 

 中位貴族の住むエリアに高位貴族を呼ぶのは普通なら失礼に当たる。

 

「うちに呼ぶより劇団の館に呼ぶ方が腹を割って話せるから、って丁寧な言葉で書いておくよ。多分彼女は乗ってくると思う。この手紙読んで確信した」

 

 彼女は気が強いというだけじゃない、きっと曲がったことが大嫌いなタイプなのだ。思ったことは堂々と口にする。そうでなければあの貴族の会議の時にわざわざ喧嘩を売りに来たりしない。


「ディアナ様、なぜそのようにやる気なのですか。喧嘩腰の相手と会うというのに」

「だって私は向こうに対して後ろめたいことなんてないんだもん。移住民のことを知らなかったのはマズかったなって思うけど事情があってのことだし。それを説明できる機会があるなら、逃したくないし」

 

 私はそう言ってアンビシアに返事を書いた。公演前なので私にも会える時間が限られている。指定した日にちでいいのなら、劇団の館に来てほしいと伝えた。

 


 そして数日後、本当にアンビシアがやってきた。劇団の館のロータリーに停まった馬車から、アンビシアと同行者の男性が降りてくる。正面玄関前で彼女たちを出迎えるのは、私とハンカルだ。なぜか私の肩にはパンムーもいる。貴族たちの会議に参加できなかった彼は、私に喧嘩を売ったアンビシアに興味があるらしい。

 

「パンムー、変なことしないでね」

「パムー」

 

 どうやら私を守る気でいるパンムーは、そう言って胸を張る。心配だなと思っていると、アンビシアとその同行者が階段を上ってやってきた。私たちは通常の高位貴族同士の挨拶をする。

 

「私の求めに応えてくれて感謝してるわ。こちらは私の弟のクヤン。今日は仕事が休みだというから、私の見張り役として付いてきたの」

「あ、姉上……そのようなことを。あの、初めまして、ディアナ様。それと久しぶりです、ハンカル様」

 

 その言葉に私とアンビシアは目を瞬く。

 

「あれ、ハンカル知り合いなの?」

「ああ。学院時代のクラスメイトだ。まさかクヤンに会えるとは思わなかったぞ。別に話し方は学院のころと同じでいい。高位貴族同士なんだし」

「いやぁ、ハンカル様はウヤトの王族に近い高位貴族だし……学院を離れると馴れ馴れしくできないよ」

 

 そう言いつつ、呼び方以外は敬語がすでに抜けている。なんというか、姉のアンビシアと違って呑気な人だ。

 それから私たちは彼らを談話室へと案内する。席に座り、使用人たちがお茶とお菓子を用意し終えて下がったのを見て、私はまず自分の無知について詫びた。

 テルヴァのことがあり、地元民と移住民について教えられていなかったと説明すると、アンビシアはわずかに眉を寄せる。

 

「……本当に、なにも知らなかったのかしら?」

「はい。恥ずかしながら、受けた貴族教育が全てだと思い込んでいました。学生時代は外に目を向ける機会もなかったので……」

「……確かに、ディアナ様は学生時代も大変でしたよね。他国の王女様からも攻撃されていましたし」

 

 そう同情的な言葉を返すクヤンに、アンビシアは「テルヴァに、他国の王女、それにアルタカシークの貴族にも狙われていたとはクヤンから聞いたわ」と言って私の目を真っ直ぐに見る。探るような視線を正面から受け止めていると、少しして彼女は顔を少し伏せた。

 

「……移住民について知らなかったというのは信じましょう。でも今は違うということなのね?」

 

 その言葉に私はこくりと頷く。

 

「おじい様から移住民の歴史のことは聞きました。あくまで地元民から見た移住民について、ですが」

「それを聞いてどう思ったのかしら?」

「すぐに『失敗したぁ〜』って思いましたよ」

「は?」

「だって他にも第一工房の候補があったのなら、その人たちに劇場の建設を頼めましたから。もう本当に大変だったんですよ、自分で造るの。あれでかなりの時間をロスしたんですから」

 

 私が真剣な顔でそう言うと、アンビシアは目を見開いたまま固まる。

 

「え、じゃあディアナ様は、もしうちの工房のことを知っていたら仕事を依頼してくれた、ということですか?」

「うん、そう。もちろんいい工房かどうか確かめてから、になったと思うけど。技術的に問題がなければ、頼んだと思うよ」

「そうだったんですか……姉上、誤解だったじゃないですか」

 

 クヤンがそう言って隣のアンビシアに向かって眉を下げた。しかしアンビシアはハッと我に返ってキリッとした表情を作る。

 

「そのようなこと、あとからなんとでも言えるわ。本当に頼んだかなんてわからないでしょう?」

「いいえ、アンビシア様の工房に頼んでいた確率は結構高かったと思いますよ」

「なぜそんなことが言えるの」

「だって……アンビシア様のお抱えのタジャシス工房は、かなり高い技術を持った工房でしょう?」

「……! なぜそれを」

 

 私はそこで商業区域に行った時にたまたま広場へ向かう平民を見かけたこと、その平民の会話が気になってあとで調べてもらったこと、そこには豪華な闘技場が建っていて、タジャシス工房が作っていたことを知ったのだと話した。

 後ろでルザとイシークが「そのようなことまで話すのですか」と慌てるが、私はくすりと笑う。

 

「隠すようなことじゃないでしょ? 私は事実を話しただけ」

「……そういう情報を持っていることは、開発案を考えるライバルに話すことではない、とは私も思うわ。貴女、なにを考えているの?」

 

 怪訝な顔をするアンビシアに、私は少しだけ首を振った。

 

「開発案については、今は横に置いているんです」

「横に置いている? それは……」

「さすがにこれ以上は言えませんよ。アンビシア様は今日、違うことを聞きにいらしたのでしょう?」

 

 私の言葉に、アンビシアは少し間を置いて「……そうね」と答える。

 

「では単刀直入に聞くわ。先日送られてきた公演の招待状、一体なにを考えて送ってきたのかしら?」

「劇団の公演に移住民の方にも来ていただきたくて、送りました。他意はありません」

「そんなこと信じられると思って? 今までどれだけ私たち移住民が空気のように扱われてきたか、貴女は知らないでしょう?」

「想像してみましたが、具体的なことはなにもわかりませんでした。辛かったですね、と同情することもできません。私は当事者ではありませんから。けれど、移住民の方々にも演劇を観てほしいと思う私の気持ちは本当です」

「……なぜ、そんなことを思うの。可哀想だからと同情したわけでもないなら、動機が見えなさすぎるわ」

「私の夢は、どんな人にも平等に演劇を楽しんでもらうことですから」

「…………は?」

 

 私が胸を張って答えると、アンビシアは再びポカンとしたまま固まった。根が真っ直ぐだからか、リアクションが貴族にしては素直だ。わかりやすくてとても良い。

 私は彼女の隣で同じように口を開けているクヤンに問いかける。

 

「学生の時、演劇クラブの公演会に来たことは?」

「も、もちろん話題になってたから観に行ってたよ。アルタカシーク出身の学生で観に行ってない人なんていないんじゃないかな」

「それは嬉しいな。それで、どうだった? 面白かった?」

「面白かったよ。特に六年生で観た公演は見たことのない場所で、すごく派手で……アルスラン様も観に来られていたし、特別な思い出になってる。あ、でも私が一番好きだったのは、五年生の時に見たフィヤト物語だよ。あの推理と戦いが組み合わさった劇は凄かった。ワクワクして、友達と一緒に興奮して観たよ。あの時のディアナの演技も敵役の人の演技も凄かったもん。あ、なんか凄いしか言ってないね」

 

 あははと笑うクヤンに、アンビシアが「貴方一度もそんな話したことなかったじゃない」と声を荒げる。

 

「だって姉上は地元民のことずっと恨んでたし、ディアナのこと言ったら怒るってわかってたから……初めて言うけど、私は演劇クラブの公演すごく好きだったんだよ。だから今回公演の招待状もらって、とても嬉しかった」

「な……クヤン、貴方そんなこと思ってたなんて……」

「ねぇ、姉上。私は学生のころからずっとディアナがやることを見てきたからわかる。彼女は本気で演劇を広めたいと思ってるよ。なにか思惑があってとか、そういうのじゃなく。そうでしょう? ディアナ」

 

 すっかり敬語が抜けてしまったクヤンに向かって、私はこくりと頷く。

 

「思惑があるとすれば、まだ誰も知らない演劇や音楽の素晴らしさを世界中の人たちに知ってもらいたい、ってことかな。思惑というか、野望だね」

「確かにその野望だけは、出会った時から変わらないな、ディアナは」

「そうじゃなきゃ、劇団なんて作らないよハンカル。私が本気じゃなかったら王立になんかなってないし」

 

 ハンカルにそう答えると、クヤンが「確かに王立って聞いた時は驚いたけど」と言って口に手を当てて笑う。アンビシアはそんな私たちのやり取りを見てしばらく眉を寄せたあと、ゆっくりとため息を吐いた。

 

「……わかったわ。貴女が思ってたような人物じゃなかったってことは認める。なんというか……ずいぶんとあけすけなのね。貴女を見ていると気が抜けるわ」

「ふふ、よく言われます」

「褒めてないわよ」

「アンビシア様は思ったより素直なんですね。私の友達とちょっと似てます」

 

 学生時代、相部屋になってから態度を軟化させたザリナとよく似ていて、私は懐かしさに目を細める。どうやら、彼女の誤解は解けたようだ。身内のクヤンに言われたのもあって、警戒心丸出しだった雰囲気が少しだけ落ち着いている。

 

「開発案のことよりも、私は劇団の公演をもっともっとたくさんの人に観てもらいたいんです。それが招待状を移住民の方々にも配った理由です。私はこの街にいる全ての貴族に演劇を知ってもらいたいので」

「……私のところだけでなく、地元民に親戚がいる移住民たちから『自分の元に招待状が届いた』って聞いた時はどういうつもりなの? って思ったわ。そうやって移住民を仲間に引き入れようとしているのかと思って……」

「確かにそう受け取られてもおかしくないですね。でも仲間にしようだなんて無理じゃないですか? 移住民の方たちは結束力が強いのでしょう? 演劇を観たくらいで裏切らないでしょうし」

 

 そう言うと、なぜかアンビシアもクヤンも目を伏せる。二人の雰囲気が変わったことに、私とハンカルは顔を見合わせた。

 

 

 

 

ロイハを使っての宣伝が始まりました。この世界で初めての実写映像。

インパクト抜群です。

そしてアンビシアとのお茶会。なんとか彼女の誤解は解けたようですが、なにやら様子が?


次は 猛烈な勧誘と通し稽古、です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ