23 カメラの誕生
テクナ先生が出してきたのは、ラギナが作った複製品とよく似たものだ。それを見て、私は首を傾げる。
「テクナ先生も同じものを作ったんですか?」
「いや、これはラギナのと同じもんじゃねぇよ。ほれ、黄のミニ魔石がはまってる位置が違うだろう?」
「え? あ、本当だ」
オリジナルのカメラもどきとラギナが作った複製品のカメラもどきには、木枠の右上部分に黄のミニ魔石がはまっていた。しかし先生のは木枠の右下に黄のミニ魔石がはまっている。
それに気づいてさらに不可解な顔をしていると、テクナ先生はニッと笑って「いいからこのカメラもどき持って起動してみろ」と私にそれを手渡した。
おお……タブレット並みに重いね。
私は先生のカメラもどきの下を両手で支えながら、側面にある黄のミニ魔石を押した。するとガラス画面がパアッと光り出す。しかしガラス面にはなにも映らない。
「……光りましたけど……なにも映りませんよ?」
私の声にテクナ先生は「ああ、それでいい」と言って腰袋からサイコロのような石を取り出した。よく見ると、それはオリジナルのカメラもどきにくっついている記憶の奇石によく似ている。
「先生、それ……!」
「うちで保管してる『目的不明の奇石』の一つだ。初めてその記憶の奇石を見た時には気づかなかったが、大きさといい、付いている突起の形といい、よく似たのがあったように思ってな。ずっと倉庫で探してたんだ」
そのサイコロ石の一面には記録の奇石と同じような突起が一つだけ付いていて、テクナ先生はその突起を私が持ったままのカメラもどきの下部の右端にはめ込む。
「これでよし、ディアナ、もう一回起動してくれ。できればそのガラス面がこっち向くように」
私は先生に言われた通りによいしょっと構えて黄のミニ魔石を押す。するとまた画面がふわっと光り、そのまますぐに消えた。
「……今度は消えちゃいました」
「それでいい。そんで、次はこれをラギナが作った複製品の方にはめてくれ」
テクナ先生はサイコロ石を抜いて、それを私に手渡した。テクナ先生のカメラもどきを机に置き、私はラギナのカメラもどきにはまっていた自分の記憶の奇石を引っこ抜いて、代わりにサイコロ石をはめようと持ち上げる。
「石をはめる位置は一番右の穴だ。そう、それで起動してみてくれ」
「……わかりました」
言われるがままに設置して、ラギナのカメラもどきの右上にある黄のミニ魔石を押す。すると、パアッと画面が光って起動し、とある画像を映し出した。
「え……! これ、今のテクナ先生? しかもさっきと違って綺麗に映ってる!」
「うわぁ! 本当に映ってるじゃない! 絶対無理だと思ったのに!」
「ははははは、どうだ、見たか」
「父さんから話を聞いた時は絶対嘘だと思ったのに……悔しい!」
そう言って拳を握るラギナに、ガハハハハと先生は勝ち誇ったように笑う。私はどういうことですか? と問いかける。
「倉庫で見つけたこの四角い石が記憶の奇石と同じ性質を持つのなら、これになにか記憶ができるってことだろ? それでラギナが作ってた複製品の設計図を改めて見てよ、気づいたんだ。もしかしたら黄のミニ魔石の位置の違いで、記録用と再生用にわかれてるんじゃないかってな」
そう言って先生はカメラもどきの設計図を広げた。
再生用のカメラもどきには右上に黄のミニ魔石があり、そこから透明のミニ魔石が下部に向かって連らなっていて、記録の奇石に繋がっている。
「黄の魔石の力は『引力』だ。位置関係から予測すると、引力の力は透明のミニ魔石を伝って下部の記憶の奇石に繋がる。つまり、記憶の奇石から映像を引っ張りだそうとするわけだ。で、その引っ張ってきた映像が黄のミニ魔石に触れているガラス水板の方に流れる仕組みになっている。それはおまえも予想していただろう?」
彼がその設計図に書き込む図を見ながら、私は頷く。再生用と撮影用のカメラもどきが別にあったのではと言ったのも私だ。先生はそれを聞いて閃いたらしい。
「じゃあこの仕組みを逆にしたらどうなるかって思ったんだよ。記憶の奇石に黄のミニ魔石をくっ付けて、そこから透明のミニ魔石を連結させ、ガラス水板に繋げると……」
「あ! ガラス水板に映った映像を引っ張って……記憶の奇石に入れることができる⁉」
「そういうことだ。透明のミニ魔石には奇石と繋がりやすくするためだけじゃなく、連なることで力のかかる方向を定める役目もあったんだ」
そうか……黄のミニ魔石の力が働く方向も、透明の魔石の数と距離で変えることができるんだ。
「しかもさっきと違ってはっきり映るってことは、撮影用と再生用のガラス水板の大きさを揃えると、そのままの綺麗な映像が映るってことですよね。すごい発見じゃないですか? これ」
「そうだ。というか、ヤバい発見なんだよ。なんせマギアコードを使って作ったから、一級じゃなくても使えるしな」
「あ! そっか……これ立派な魔石装具になったんだ。この小さい記憶の奇石は一つしか保存できないんでしょうか?」
「俺が実験した時は二つできたぞ」
二つ……! つまり二枚だけ画像を撮影、再生させることができるタブレットができたってこと……⁉
その事実に感動して画面を見つめていると、これを使ってなにができるか、私の頭の中で思考が勢いよく回りだした。
「先生、この小さい方の記憶の奇石はこれ一個だけしかないんですか?」
「いや、いくつかある。全部使えるものかはわからんが、五個くらいはあるんじゃないか? 倉庫をよく探せばもっと出てくるかもしれないが」
「わかりました。ラギナ、再生用のカメラもどきをあと五個、すぐに作れますか?」
「え? まあ、もう作り方はわかったから五個くらいならすぐに作れると思うけど」
「じゃあ急いで発注してもらっていいですか? 特急料金ちゃんと払いますから」
「ちょ、ちょっと待ってディアナ、こんなのいっぱい作ってどうするの?」
「公演の宣伝に使うんですよ」
私はそう言ってニヤリと笑う。
そう、現在このタブレットを知る人なんてこの世界のどこにもいない。見たままの映像を映すという全く新しい道具に注目しない貴族なんていないのだ。
このカメラもどきに劇場や舞台の画像を入れて、劇団の紹介冊子と一緒に他の街の貴族たちに見てもらえれば……めちゃくちゃ知名度が上がるよ。インパクト抜群なんだから。
「先生! この魔石装具、購入してもいいですか?」
「お? おう……ていうか、そもそもおまえが持ってきたエルフの道具から思いついたんだから、共同開発ってことでいいだろ。再生用と撮影用がわかれてるかもしれないって気づいたのもおまえなんだし」
「いいんですか? それだと費用的にとても助かります!」
「ねぇディアナ、これ量産するつもりなの? だったら名前をもうちょっと変えた方がいいと思うんだけど」
ラギナの言う通り、カメラもどきというのはちょっとダサい。それから三人でうんうんと考えて、カメラもどきは「映すもの」という意味の「ロイハ」に決まった。今までの魔石装具は「◯◯筒」や「◯◯灯」という名前が多かったが、そのイメージが一新された。
「これは今までの魔石装具とは毛色が違うからな。名前も真新しい感じでいいだろ。ただし魔石装具としての承認を得るまで、貴族に配るのは待てよ」
「わかりました。貴重な魔石装具ですし、壊れてもいけませんから配るという形にはしない方がいいですね。いい方法を帰ってすぐに考えます」
ウキウキしながらそう答えると、テクナ先生は側にあった椅子にどかっと座り、笑いながら息を吐く。
「……おめえは本当に、次から次に新しいものを作るな」
「今回のロイハに関しては、先生の閃きが大きかったと思いますけど? 新しいものを作ったのは先生とラギナですよ」
「俺は設計図を見て仕組みに気づいただけだ。そもそもおまえがその道具を魔石装具で作れないかって考えたのが始まりだろ? いつも自分が持っているものと、欲しいものを繋げようと考える」
「……確かに、それはそうですね。劇団に役立つものを作ろうと思ったらそうなってしまうというか……欲しいものは常にたくさんあるので」
「はははは、なるほど。……おまえを見てると、昔を思い出すよ」
「昔……ですか?」
私が首を傾げると、先生は少し遠い目をして腕を組む。
「黄光の奇跡が起こる前、魔石装具工房がこんなに立派なものじゃなかった時の話だが……。その時、使用目的がわかっていない奇石をうまく使って、新しい魔石装具を作る才能を持った奴がいたんだ。ラシャっつってな。周りには天才だと騒がれていた」
「天才……ですか」
「おまえが録音筒を作った時みたいに、発見済みの奇石を使って新しいものを作ったり、すでに開発済みのものを改良したりしていた。ただみんなが驚くようなすげーものを作りたい、なんて子どもじみたことを考えていた俺と違って、そいつはとことん魔石装具というものを突き詰めてた」
「ものすごく職人気質の方ってことですか?」
「少々行き過ぎるくらいのな。おまえを見てるとそいつを思い出すんだよ。自分が作りたいと思ったものは絶対に完成させるというか。そういう真っ直ぐさが似てる」
テクナ先生はそう言ってフッと笑う。どこか翳りのある声に私は少し眉を寄せた。
「その方は今は……」
「死んだよ。黄光の奇跡のちょっとあとにな。あいつがまだ生きてたら、魔石装具工房長はあいつがなってただろうな……」
「……」
いつも豪快で面倒くさがりの先生が、こんな個人的な話をするのは初めてだ。なんとなくしんみりしていると、ラギナが肩を竦めて口を開いた。
「珍しいね、父さんがラシャさんのこと話すなんて」
「……この前あいつが夢に出てきたんだよ。だから最近よく思い出すんだ。昔のこと」
「へぇ、言うことが年寄りみたいになってきたね」
「誰が年寄りだ!」
「もう五十になったんだから、立派なジジイでしょ」
「俺はまだまだ現役だ! ジジイじゃねぇ!」
「はいはい、二人とも面倒臭いのでそこまでで」
私はそう言ってさっさと喧嘩を止め、文句を言う二人を無視して片付けを始めた。撮影用と再生用のロイハを丁寧に包んで魔石装具工房をあとにする。
魔石装具作りの天才か……テクナ先生より頼りになる人だったのなら、会ってみたかったな。
それから劇団の館に戻ると、私はハンカルに事情を話して急いで劇場の撮影を行った。ただ初めてのことなので、どんな画像を撮ればいいかわからず、二人で何度も撮り直す。記憶の奇石が上書きすることが可能な石で助かった。
「……一枚目は劇場の外観でいいと思うんだけど、二枚目が迷うね」
「やはり会場内の舞台を映すのがいいんじゃないか?」
「そうなんだけど……演劇を観たことのない人たちに舞台や緞帳を見せてもねぇ。どういう楽しさがあるかなんて感じてもらえないだろうし」
「小冊子のような文字情報でもなく、絵でもなく、そのままの景色が映ってるんだから、それだけで強い印象は残ると思うけどな」
ハンカルはそう言ってじっとロイハに映る画像を凝視している。さっき初めてロイハを見せてから、彼は珍しく興奮していた。今も「俺に撮らせてくれ」と言ってずっとロイハを持っているのだ。
画家が描く絵か、印刷された絵しかなかった世界に、いきなり実写を映す道具が出てきたんだもんね。そりゃ興奮するか。
ロイハに夢中になっているハンカルを眺めながら、私は違うことを考え始める。この世界にとって画期的な物が出来たが、それよりもロイハの誕生で見えてきた、とあることの方が重要だ。今は画像二枚しか撮れないが、これから先もっと改良していけば、これで動画を撮ることだって可能になるかもしれない。そうなれば念願の映画だって撮れるのだ。映画や映像作品が作れたら、エンタメの世界はもっともっと広がる。
うう、マズい。ワクワクしてきちゃった。だってこんなに早く映像を映せるものができるとは思わなかったから……!
頭の中でわーっと未来の妄想が走り出しそうになって、私は自分の胸押さえる。ハンカルとは違う理由で興奮し始めた私は、必死でそれを抑えながら宣伝用の撮影に勤しんだ。
結局宣伝用画像は、劇場の外観と、客席を含む舞台を四階席から見下ろした画像の二つになった。ラギナから新しい再生用ロイハが届けば、ラティシの推薦文入りの劇団小冊子とともに各街の馴染みの高位貴族たちに見てもらうつもりだ。
北西街以外の貴族への宣伝も形になりそうだね。あとは公演までしっかり練習するだけだよ。
テクナのおかげでついにカメラが誕生しました。
まだできることは少ないですが、
ディアナは将来への期待が止まりません。
次は アンビシアの訪問、です。




