16 劇団入りの根回し
聖火と話した後日、学生たちの冬休みが終わったタイミングで、私はハンカル、イリーナ、エルノ、ヤティリを連れて再び学院へ向かった。演劇クラブのその後の様子を知るのが主な目的だが、私はそれ以外にも大事な用があった。
面会用の談話室には今の六年生メンバーであるマーラ、チェシル、エガーリク、ナミク、ツァイナ、メイユウが集まっている。彼らから報告や相談を受け、話がひと段落したあとで私は六年生メンバーに向き合った。
「今日みんなにここに来てもらったのは、卒業後に劇団に来てほしいって話をしたかったからなんだ。個人的に手紙は送ってたんだけど、改めてみんなの意志の確認をしたくて」
私がそう言うと、六人ともお互いの顔を見合わせて目を瞬いた。
「え……手紙って、みんなももらってたの?」
「そう言うマーラも? え、私だけじゃなかったの?」
マーラとナミクの言葉に、他のメンバーがくすりと笑う。
「僕は、みんなにもディアナ先輩から手紙が届いてるって思ってたよ」
「ディアナ先輩の手紙にまだ誰にも言わないようにってあったから黙ってたけど、私もなんとなくそうかなって思ってた」
メイユウとツァイナがそう答えると、マーラとナミクが「ええー! そんなこと全く思ってなかった!」と驚いた声を上げる。その反応に、私はくすりと笑う。
「今まで黙っててごめんね。劇団の勧誘は内密なことだから、周りの人にバレないようにお願いしてたんだよ。みんなからはいい返事をもらってたから、今日ここで改めて話そうと思って」
「え、ということは、私たちみんな春からディアナ先輩の劇団に入るんですか⁉」
「ウソ! みんな一緒に?」
「そう。六年生メンバーは全員うちに来てもらおうと思ってる。よろしくね」
「えええー!」
マーラはそう叫んだあと、目を潤ませながらチェシルの方を見る。
「ウソだ……。だってチェシルは卒業したらカリムに戻るって……」
「ごめん、マーラ。六年生が始まった時はそう思ってたんだけど、ディアナ先輩から手紙が届いて気持ちが動いちゃって……」
「言ってよぉ……私、卒業後はチェシルと離れ離れになるんだって思って……悲しくて」
「演劇クラブのことで忙しくて、伝える機会がなかったのよ。マーラは劇団に入りたいって言ってたから、その話が確定したら話そうかと思ってたの」
「うううーチェシルぅぅ……」
「もう、こんなところで泣かないで。みっともないわよ」
べそべそと泣き顔になるマーラを慰めながら、チェシルが微笑む。この二人は突出した才能があるわけではないが、マーラには周りをやる気にさせる力が、チェシルには冷静に状況を観察できる能力がある。それに長く演劇クラブで指導を受けていたのもあって、演技が安定しているのだ。そんな人材が欲しくて、二人に劇団に入ってほしいという手紙を書いた。
二人はカリム国出身のため、卒業後は国で就職か結婚の予定があるかもしれない。その時は遠慮なく断ってほしいとお願いしていたのだが、結果的に二人とも劇団に入りたいと返事をくれたのである。
そんな二人の喜び合う様子を見ていたエガーリクが、ぽやっとした雰囲気のまま口を開いた。
「……マーラも、劇団に入るの? 僕と同じ?」
「え⁉ うん。入るよ。ディアナ先輩の元でもっと演劇を学びたいし……その、エガーリクのことも心配だし」
マーラが少し照れくさそうに話すと、エガーリクが赤い目をふわりと緩めて彼女を見つめる。
「嬉しい。マーラがいないと、僕なにもできないから」
「う……うん、そうだね。私も、エガーリクと一緒に働けるの、嬉しいよ」
その二人のやり取りを、私を含めた周りの人たちが生暖かい目で見守る。
……この二人はまあ、そういうことになりそうだね。
憑依型の役者でぼんやりとしたところのあるエガーリクのことをマーラがフォローするようになって、二人の間には特別な絆が生まれたのだろう。チェシルの方を見ると、彼女は私に向かって笑顔で頷く。このまま劇団入りの話を進めて問題ないようだ。
「ディアナ先輩、本当に私もいいんですか?」
「もちろんだよ、ナミク。去年から立候補してくれてありがとね。音出し隊はまだ貴族のメンバーがいないから、ツァイナと一緒に支えてほしい」
「は、はい! 私、全力で頑張ります!」
「良かったね、ナミク」
「ツァイナ、ありがとう。お父様の説得方法一緒に考えてくれて。本当に嬉しい!」
ナミクはこの一年、私に音出し作りへの情熱を手紙で伝え続け、父親とも話し合いを重ねていた。そしてエルフや音出しへの忌避感が強かった父親をなんとか説得し、許可を得ていたのだ。それを手紙で知らされて、私は彼女の劇団入りを承諾した。
ナミクは新しい音出しを作るのが夢だからね。今の音出し隊のおじさまたちとも仲良くできそうだし。
ツァイナと喜びを分かち合ったナミクは、次にメイユウの方を見て眉を下げる。
「メイユウ、前に劇団に入るのか聞いた時は『どうかな?』って答えてたよね?」
「ふふ、ごめんね。内緒の話だったから。でもナミクが劇団に誘われたことはわかってたよ。顔に出てたし」
「え! ウソ!」
「ツァイナと二人で盛り上がってたのも見てたから」
メイユウは笑顔でそう言うと、私とイリーナの方に向き直って姿勢を正した。
「ディアナ先輩、イリーナ先輩、僕のこと認めてくださってありがとうございます。春からよろしくお願いします」
「うん。メイユウが来てくれて本当に嬉しいよ。衣装係、イリーナと一緒に引っ張っていってね。期待してる」
「メイユウ、また一緒に服作りができますわね。春が来るのが待ち遠しいですわ。貴方の刺繍の技術を早く劇団のメンバーに披露したいですもの」
イリーナがそう言って微笑むと、メイユウは少しだけ目を赤くして頷く。彼はリンシャークの少数民族の出身なのだが父親とソリが合わず、跡継ぎを断って家を出て、アルタカシークで働くことを選んだ。後ろ盾がない彼にとって、師匠のイリーナやここにいるメンバーたちの存在は大きいのだ。
メイユウも、他のみんなのことも、ちゃんと支えられるようにしなきゃね。
六年生のメンバーを見て決意を新たにしていると、隣に座っていたハンカルが口を開いた。
「それにしても、六年メンバー全員が入ることになるとはな」
「今の劇団にはめちゃくちゃ必要でしょ?」
「そうだな、今すぐ入ってほしいくらいだ」
「……だよね」
超小規模で始動することになってしまった劇団には、即戦力が必要なのだ。本音を言うなら、ここにいるメンバーに今すぐ劇団に来てほしいくらいである。
うう、二の月の公演がんばらなきゃ。みんなが春にうちに来た時にがっかりしないように……。
そんなことを考えていると、ふと劇団入りを猛烈に希望していたメンバーがいたことを思い出した。演劇に対する情熱や根性が十分でないと感じて、国に帰って家族の了承をちゃんと得てくるようにとジャヌビに帰したメンバーだ。
タルティン……どうなったかな。
卒業してから一度だけ彼から便りが届いていた。そこには「絶対に家族を説得してみせるから、待ってて」と書かれてあったが、そこからさっぱり音沙汰がない。
具体的にどうやって説得するか書かれてなかったから……多分行き当たりばったりでやってるんだろうなぁ。
彼には演劇クラブに所属していた三人の兄がいる。個性的な彼らを説得するのは骨が折れるだろう。
まあ、タルティンに関しては、あまり期待せずに待とう。
「あの、ディアナ先輩。来年のことについて、こちらからも一つ相談があるんですけど」
「なに? マーラ」
「来年の演劇クラブ長と副クラブ長……どうしましょう?」
「ああ……今は五年生のクラブメンバーがいないんだっけ」
「いえ、今年入った新メンバーに五年生はいるんですけど、クラブ長を任せるには経験が足りないですし……それで今の四年生メンバーから選ぼうと思ったんですが」
「四年生にはリンシャークとザガルディの犬猿の仲のメンバーがいまして」
「あー……あの四人か……」
マーラに続いて発言したチェシルの言葉に私は半眼になる。いつもなにかと対立するので、指導係のツァイナがよくキレているメンバーたちだ。
「その他となると大人しいルーホアに、騒がしいギタラ、それにヴィヴィとサルキーしかいません。どうしましょう?」
「裏方仕事のヴィヴィとサルキーには無理だね。……うーん、じゃあギタラをクラブ長にしたらどうかな」
「ええ! ギタラをですか? 彼だとみんなに見くびられませんか?」
「ディアナ先輩、それはダメです。ギタラの言動についていく人はいません」
マーラとツァイナがなかなか失礼なことを言うが、私は眉を下げて笑う。
「確かにギタラは的外れなことを言う時もあるけど、いつも真剣だし、前向きでしょ? クラブを引っ張っていく力はあると思うよ。彼の暴走気味なところをフォローしてくれる人が副クラブ長にいれば大丈夫」
「……暴走をフォローできる人……ですか。だったらルーホアに任せるしかないですかね。彼女はシャオリー先輩の親戚だけあって、穏やかなのにしっかりしてますから」
「そうだね。ギタラと接点があまりないかもしれないから、これから二人の相性とか見てみて」
「わかりました。その方向で進めてみます」
そうしてクラブメンバーとの打ち合わせは無事に終わった。次に会うのは四の月の演劇クラブの公演会だ。
「公演会、楽しみにしてるね」
「はい! ヤティリ先輩が素晴らしい脚本を書いてくださったので、お話はバッチリです! それを最大限素晴らしいものにできるように頑張ります!」
マーラはそう言って拳を握る。ここでプレッシャーに負けないのが彼女のいいところだ。クラブの人数が増えて少し心配していたのだが、大丈夫そうでホッとする。
「演劇クラブに負けないように、私たちも頑張らなきゃね」
「ディアナ、あまりやる気になるな。うちの新メンバーが大変なことになる」
「大丈夫だよ、ハンカル。練習も順調だし、思った以上にみんな成長してるから」
「……心配だ」
相変わらず私の大丈夫は信用がないようで、ハンカルはため息を吐いて肩を竦めた。
今回は演劇クラブメンバーとの話でした。
前作を読んでいない人には難しかったと思いますが
今後も彼らは出てきますので、その根回しの回です。
気になった方はぜひ前作をお読みください。
次は アルスランのお忍び、です。来週はお忍び回




