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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
第一幕 北西街代表選

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15 聖火の分析


『その石、もうちょっとよく見せて』

「は、はい」

 

 聖火に言われるままに、私は持っていたカメラもどきを浮かんでいる彼の方へ近付ける。カメラもどきは小ぶりの携帯ゲーム機のような薄い長方形の形をしていて、外側には木の枠が、中にはガラスのような透明な薄い石がはまっていた。木枠の下側には別にカートリッジのような四角い棒状の石がはまっていて、こちらは映像を記録する奇石であることがわかっている。

 聖火はカメラもどきにできるだけ近付くと、じぃっとその石を観察するように止まった。

 

 う……指先があっつい。

 

 魔石術で繋がって話している間は気にならないのだが、さすがにここまで近付くと聖火の炎にジリジリと指先が焼かれそうになる。

 

『……うん。なるほど、大体わかったよ』

「え、もうわかったのですか⁉」

『石と僕は友達みたいなものだから』

 

 彼はそう言って私の手から離れてまた楽しそうにポワッと火を吐く。その瞬間、持っていたカメラもどきがブルっと震えた気がして、私は思わず目を見開いた。

 

 え、なに今の。それに……。

 

 ご機嫌な聖火とは対照的に、カメラもどきからは嫌な感じの空気が流れてくる。聖火に対して怯えているような反応だ。

 

「……聖火様。なんだかこの奇石から妙な気配みたいなものが流れてくるんですけど……これ、気のせいですか?」

『え? ああ……今かわい子ちゃんと僕とその石が繋がってるから、わかっちゃうのかもね。かわい子ちゃんは受け取る力が強いし』

「受け取る力?」

『そうだよ。そういう石……ええと、人間は奇石って呼んでるんだっけ。その奇石は地面の中で魔石が生まれる時に、その力の影響を受けて変化しちゃった石だから。魔石みたいに生きてるというか、生き物に近いというか……だからそういう反応が返ってくるんだ』

「ちょ、ちょっと待ってください! 今ものすごく大事なことを聞いた気がするんですけど!」

 

 奇石は確かに魔石が採れる場所でよく見つかるとは聞いたが、魔石が生まれる時に影響されて出来る石とは初めて聞いた。奇石がなぜ出来るのかは学院で習った時も謎とされていたのだ。

 

 あ、あとでラギナに報告しなきゃ……!

 

 私は落ち着かない気持ちのまま、聖火と話を続ける。

 

「それで……この奇石はどのような仕組みになっているのですか?」

『その石の中身は、マギアを蓄えた水だよ、かわい子ちゃん』

「え? 水?」

『表から見たらただの透明な石に見えるけど、中身は水。しかもマギアたっぷりの。あとね、その木枠の中に小さな透明の魔石も入ってるよ』

「ええ! こんな細い枠の中になぜ透明の魔石が……?」

『さあ? それは僕にはわかんない。それがないと動かないんじゃない? 前にラギナが透明のミニ魔石があればいろんな魔石装具が作れるんだって嬉しそうに話してたけど……そういう道具を使うのに必要なものなんじゃないの? 透明の魔石って』

 

 聖火の言う通り、魔石装具に透明のミニ魔石を使うことで、細かな調整が可能な魔石装具を作ることができる。それを発見したのは自分なので、そこはわかる。

 

 でもその仕組みがこの古代のカメラもどきにも使われたなんて……!

 

「透明の魔石はどのあたりに入ってるんですか?」

『えっとねぇ……黄のミニ魔石があるでしょ? そこから下にはまってるもう一つの奇石の方まで連なってあるよ。見えなくても魔石の力は感じるから』

「……ということは、このスイッチになってる黄のミニ魔石と下の奇石を繋げてるんでしょうか? じゃあこのガラスのような奇石はどういう役割で……」

 

 そこまで考えて、私はハッと目を瞠る。

 

 もしかして……下の映像を記録してるカートリッジから映像を引き出して、この水ガラスの奇石に流し込むために、カメラの上の方に黄のミニ魔石が付いているのかな。だとしたら……。

 

「もしかすると、このカメラもどきって再生専用なんですかね?」

『さあどうだろ? かわい子ちゃん、試したんじゃないの?』

「はい……ラギナといろいろ触ってはみたんですけど、この黄のミニ魔石を押して再生はできても、録画はできなかったんですよ。それがなぜかもわからなかったんですけど……」

 

 記憶を辿り、エルフの父ユーテルがこのカメラもどきを使っていた映像を思い出そうとするのだが、映像を撮っていた時も、再生していた時も同じように使っていたように思えて、手がかりが全くなかった。ユーテルは大事なもだから、と言って私にあまり触らせないようにしていたのだ。もしかしたら撮る用のカメラもどきと、再生用のカメラもどきが別にあったのかもしれない。

 私は水ガラスの奇石の方に話を戻す。

 

「この奇石の中にはマギアを蓄えた水が詰まっているんですよね? そのマギアって特別なものなんでしょうか?」

『ん〜……別に特別でもないんじゃない? マギアって水に溶けやすいし。今その中には黄と透明のマギアが溶け込んでるみたい』

「黄と透明のマギア……この木枠の中にはまってる二つから流れてるのかな……」

『黄のマギアはそうだけど、どっちかっていうと透明のマギアの方が量は多いね。透明の魔石が多いところで出来た奇石なのかもしれない』

「透明の魔石が多いところ……透明のマギア……」

 

 と、そこで私はとあることに気付いて「あ——!」と声を上げる。びっくりした聖火から小さな火花がパチパチと飛んでいく。

 思い出したのだ。透明の魔石と水の組み合わせで、自分がしていたことを。

 

「映像を映す魔石術だ!」

『ん、なにそれ?』

「私が持っている水流筒から出した水に透明の魔石を浸して『私の記憶を映して』と命じると、自分の頭の中に浮かぶ映像をその水に映すことができるんです! 水に赤のミニ魔石が溶け出すことで、できるようになったものなんですけど、それと原理は同じなんだ!」

『??? かわい子ちゃん、なに言ってるか全然わかんない』

 

 体をクネらせて燃える聖火を置いて、私は一人で興奮する。

 

 そうだ、なんで気付かなかったんだろう……! 映像に関する魔石術だったらもうとっくに見つけてたのに! それとカメラもどきが全く繋がってなかった!

 

「自分の頭の中にある映像を映すには、透明の魔石を水に浸す必要があったけど……カートリッジに保存した映像を映すだけなら黄のミニ魔石と透明のミニ魔石があればいけるんだ」

『かーとりっじ?』

「あとわからないのは、映像の撮り方だけか……うー……もう少しなのに!」

『かわい子ちゃん……僕の声聞こえてる?』

「あ、聖火様、ありがとうございました! とても参考になりました」

『あ、そう? 僕、役に立った?』

「はいとても! 今の話を参考にラギナと新しい魔石装具作ってみます!」

『う、うん。まあ、かわい子ちゃんがいいのならよかった』

 

 私はそのあと聖火との繋がりを解除し、お茶を楽しんでいたラギナたちにカメラもどきについて報告した。ガラスのような奇石の正体がマギアを含んだ水だと伝えると、ラギナが「えー!」と言って立ち上がる。

 

「そんな構造だったの⁉ じゃあこの奇石を探さなくても、ガラスと水さえあれば再現できるんじゃない?」

「そうなんですよ! あ、ただ下の記録用の奇石がないと、こうやって映像を映すことはできないと思うんですけど」

「ああ、そっかぁ……記録の奇石か。こっちも探さないとな。でも一回実験してみようよ。このカメラもどき? っていうのは一級の人しか使えないけど、マギアコードと透明のミニ魔石を使えば私にだって使えるようになるかもしれないし」

 

 ラギナはそう言って、私に「ディアナ、これ木枠を分解してみてもいい?」と聞いてくる。木枠の中の仕組みを確認して、同じ形のものが作れないか試してみたいらしい。

 

「はい、いいですよ。私もこれと同じもの作りたいですし」

「本当にいいの? 大事なものなんだよね?」

「こっちの記録の奇石が無事なら大丈夫です」

 

 この記録の奇石には私の生まれてからの成長記録が入っているので、こちらが壊れると困るのだが、映像を映す水ガラスの奇石の方はたとえ壊れても再現できる可能性は高い。

 私の意志を確認したラギナは真剣な顔で頷いて、工具箱を用意し始めた。

 それから下部の記録の奇石を取り外し、慎重にカメラもどきの木枠をラギナが解体する。細い木枠は楔がいくつかあり、それを外すと上下にパカッと外れた。木枠の中は空洞になっていて、右上に起動スイッチの黄のミニ魔石があり、そこから連なるように透明のミニ魔石がいくつもはまっていた。

 

「思った通り、透明のミニ魔石は下の記録の奇石がはまる穴まで続いてるね……奇石側の突起がこの木枠にはまるようになってて……で、その奇石に透明のミニ魔石が触れるようになってる」

「マギアコードがないのに、ちゃんと並んでるのが不思議ですね……」

「あ、見てよディアナ。透明のミニ魔石が窪みでちゃんと固定されてる。うわぁ……すごい繊細な加工技術」

 

 ラギナはルーペのようなもので木枠の中を覗き、ピンセットで一つの透明のミニ魔石を取り出した。取り出された木枠の方を見ると、ミニ魔石の形に合わせるように窪みができている。ここにミニ魔石を置き、同じような窪みのある木枠を上からはめて固定していたのだ。

 

「ラギナ、黄のミニ魔石の方はどうですか? 映像を映す水ガラスの奇石とどう繋がってます?」

「待って、黄の魔石外すから……ん、と……。あれ、特になにもない。黄のミニ魔石とただくっついていれば映像を映すことができるみたい」

「中にある水と触れていないのに、黄の力が届くんですね……」

「このガワの部分含めて奇石だからかなぁ……うーん……これガラスとマギア水で再現しても上手くいくかわかんないね」

 

 ラギナはそう言いつつ、広げた紙にカメラもどきの解体図を書いていく。私は計測を手伝いながら、水ガラスの奇石をじっと見た。

 

 もし再現が上手くいかなかったら、この奇石を探しにいくしかないね。それと記録の奇石も……。ん?

 

「……あれ、ラギナ。記録できる奇石ならもうありますよね?」

「え?」

「録音筒に使ってるやまびこ石ですよ。あれに記録できないんでしょうか?」

「あ〜あれは音を覚える石だからなぁ……映像までは無理じゃない?」

 

 と言ってラギナは木枠を元に戻し始める。

 結局その日は設計図だけ書いて、木枠をとマギア水を入れるガラス板をそれぞれの職人に頼むことになった。

 

「繊細な作業だから少し時間かかるかな。出来たらまた連絡する」

「わかりました。ありがとう、ラギナ」

「いいのいいの。やっぱりディアナと魔石装具作るの楽しいわ。今日わかったこと話したら、父さんもびっくりするだろうな。絶対お前だけ実験してずるいとか言いそう」

「ふふ、あまり喧嘩しないでくださいね」

「それは父さんに言ってよ。最近なぜか私の嫁入りを心配し出して鬱陶しいんだから」

「ラギナ、結婚するんですか?」

「しないよ! こっちはする気ないってずっと言ってるのに、なんで今さら……。まあ、魔石装具作り命の私を受け止めてくれる人だったら考えるけど」

「それは……難しそうですね」

 

 普通の貴族とは違う価値観を持つ彼女についていける人なんているのだろうか。

 

「……意外と、テクナ先生みたいな豪快なタイプだったらうまくいくかもしれませんよ?」

「げぇ! やめてよディアナ! 気持ち悪いっ」

「じゃあ、ガラーブ様みたいな男前の人とか」

「そこでなんで母さんが出てくんの! あんな愛想のない人ヤダよ! 小言が多いし!」

「それじゃあ、どんな人がいいんですか?」

「えー……私のことを受け止めてくれて、毎日一緒にいて楽しい人かな……」

 

 そこまで言って、ラギナは私の方をじっと見る。

 

「……ディアナが、男だったらよかったのに」

 

 彼女の一言に、後ろに控えていたルザとイシークとパンムーがブハッと咽せた。

 

 

 

 

聖火の分析によって奇石の性質がわかりました。

そこでカメラもどきの分解を決め、仕組みを調べた二人。

カメラもどきがカメラになる日が少し近づきましたが

ラギナの嫁入りはまだまだ遠そうです。


次は 劇団入りの根回し、です。演劇クラブのメンバーが出てきます。

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