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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
第一幕 北西街代表選

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06 ハンカルと作戦会議


「——と、まあそんなわけで、第一回目の北西街の会議は大変だったよ」

「……なるほどな、地元民と移住民の対立か……アルタカシークにはそのような問題が生まれていたのだな」

 

 翌日、劇団の館でハンカルに報告すると、彼は考えるように腕を組んだ。国の内情を他国の人に話すのはどうかと思ったが、彼の協力なしには事が進まない。

 

「しかし、初日から喧嘩を売られるとは……」

「まあ、自分が無知だったことは認めるけどさ、知らない間に恨みを買ってたんだもん……どうしようもないよ。私だって前もって知ってたら、彼女の工房に劇場の建設を頼めたかもしれないのに」

「しかしそれは地元民にとってはあまり好ましくないことなのだろう? 知っていたとしても止められていたんじゃないか?」

「そこはこう……なんとかみんなを説得して……」

 

 私がそう言うと、ハンカルは仕方がなさそうにため息を吐く。

 

「ディアナはこの王都に住み始めて浅いから、自分の欲望に真っ直ぐに突き進もうとするのだろうが、それを強引に進めようとすれば、いらない軋轢を生むかもしれない。エルフということで最初から目立っているのだから、そこは慎重になるべきだ」

「……」

 

 彼の意見は全くもってその通りで、私は口を閉じた。私はエルフで、この街に来てまだ六年ちょっとで、さらに前世の記憶があるものだから、貴族内のしきたりを飛ばしそうになる時がある。大好きな劇団やエンタメのことが絡むと尚更だ。そこは気をつけなければと常に思っている。

 

 でも、だからといってすんなり引き下がるのは嫌なんだよ……。

 

 むーんと考え込んでいると、ハンカルがなにかに気づいたように顔を上げる。

 

「それにしても、ディアナは地元民と移住民の関係についてなぜ今まで知らなかったんだ? この街では常識的な話なのだろう?」

「え? さあ……今まで誰も教えてくれなかったから?」

 

 彼の質問に首を傾げて、後ろに控えているルザに視線を移すと、彼女は眉を下げて口を開いた。

 

「……そもそも地元民と移住民の関係については、表立っては口にしないようにしていました。特に地元民は移住民の話をしません。悪くいえば、眼中に入ってないのです」

 

 その説明にハンカルが、ふむ、と頷く。

 

「なるほど……地元民にとっては、移住民の存在そのものが空気のようなものということか」

「はい。それに加えて、ディアナ様には特別な事情がございます。学院においても、地元民以外のアルタカシークの学生は近づけさせないように、という指示がございました」

「え! そうなの?」

「ご説明が遅くなり、申し訳ございません。まずテルヴァからディアナ様を守ることが最優先でしたので、それ以外の面倒は避けよと、クィルガー様やカラバッリ様から……」

「ええっじゃあ、学院で仲良くなったアルタカシークの子たちは? みんな地元民だったの?」

「そうです。移住民のアルタカシークの学生は下位貴族が多かったので、そもそもディアナ様に近づこうとはしていませんでしたけれど。ザリナも地元民ということで、相部屋のメンバーに入ったはずです」

「そ、そんな……知らなかった……」

 

 今さら知る真実に、ガガーンと頭の中で音が鳴る。そんな私を見て、ハンカルが呆れたように口の端を上げた。

 

「ディアナは、本人が思っている以上に頑丈に守られていたわけだな」

「あれ、待って。じゃあお母様と一緒にこっちにやってきたサモルやコモラはどうなるの? 彼らも平民の中では地元民と差別されてるの?」

 

 彼らはザガルディの商人と料理人としてアルタカシークにやってきて、こちらの市民権を得ている。サモルに至っては商業区域に店も出していた。

 

「あの二人も本来ならば移住民という扱いになるのですが、アリム家に嫁いだヴァレーリア様の専属ということで、そこまでの差別はありません。それにもうこちらの人と結婚しているので、今では地元民と同じ扱いになっているかと思います」

「おお……そうなんだ……それにしても私、知らなさすぎ……」

「……ちなみに、この春の社交においても、ディアナ様は地元民の方々にしかお会いしておりません」

「うそぉ……」

 

 次々と判明する事実に、私は自分の頬を両手で包んで固まる。そんな私を見て、ルザが申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「今回、貴族たちの会議に出席するということで、クィルガー様からは時期を見計らって移住民のことをディアナ様に説明して欲しいと言われていたのですが……まさか初日からあのような騒ぎになるとは思わず……」

 

 ルザはそう言って跪いて謝罪しようとする。それを慌てて止めて、私はため息を吐いた。

 

「まぁ、今までの生活が特殊だったからね。テルヴァの問題が大きかったし。このタイミングで知れてよかったって思うよ」

 

 私はそう言って頭を切り替え、ハンカルに今後の話を振る。大事なのはこれからどうするか、だ。

 アルスラン様は地元民と移住民の確執を解決するため、すべての貴族が参加して、封鎖街の開発をするように命じた。これから貴族たちはそれぞれ開発案を用意し、発表していくだろう。

 その中で私は、あの古代劇場をうちの劇団の本拠地として使える案を考えなくてはならない。

 会議の時にもらった封鎖街の地図を眺めて、私は唸る。

 

「この古代劇場をうちの本拠地にして、活気のある街づくりをしたらいいと思うんだけど……本命は住宅づくりだよね?」

「そうだな。王都の住宅問題を解決するという目的なら、ここに新しく住宅街を作ろうと考えるのが普通だ」

「だよねぇ……他の貴族の人たちも、そういう案を持ってくるのかな」

「それが一番多いだろうな。ディアナに突っかかってきた女性も、建築工房を持っているんだろう? だったら住宅一択だろう」

「でもさあ、この封鎖街全体を住宅街にするってどうなんだろ? 面白みに欠けると思うんだけど」

「この際、面白みは考えなくていいと思うが……それよりもこの封鎖街に移りたいと思う貴族がどれだけいるかだな」

 

 手狭になってきたとはいえ、王都に住む貴族たちはこの立派な街に住んでいる、という誇りがある。新しく封鎖街に街を作っても、そこに引っ越そうと思うのだろうか。

 

「ルザ、貴族の中で特に人口が増えてるのってどこかわかる?」

「移住政策により減っていた人口が戻り、街が栄えたことで生活が安定し、一族が揃って増えてきましたのでどの身分の貴族も増えております。特に高位貴族は家の敷地が広大ですので、新しい土地を探すのは苦労しているようです」

 

 まあ……ほんとにデカいもんね、高位貴族の家って。

 

 その敷地を一律で少しずつ減らしていけば住宅問題は解決しそうだなとは思うが、そんなことを高位貴族が承知するはずがない。

 

「それにこの封鎖街には平民の住居も要るのだろう? 王都より狭いこの街に貴族と平民の住居を作るのは、なかなか大変じゃないか? おそらくこの王都より貴族と平民の距離が近くなるぞ」

「確かに……そうなったら貴族は嫌がりそうだよね。新しい街に住みたいなんて言う人、いなくなっちゃうかも」

 

 だとしたら、ただの住宅街ではなく、特別な魅力がこの街には必要になる。

 そこで私は考える。

 

「……例えば、古代劇場やその他にも博物館とか、美術館とか……貴族たちが好きそうな施設を作って、新しい街に住むことが自慢だって思えるようにしたらどうかな」

 

 私が博物館や美術館の説明をすると、ハンカルが興味深そうに頷く。

 

「貴族たちにとって魅力のある街にするというのはいいかもしれないな。ただの住宅街よりもテーマ性がある。学べる街ができるのならば、俺も住んでみたいと思うぞ」

「ハンカルは学院の図書館も好きだったもんね……あ、そっか。図書館もあればいいかもしれない。他にも、なにか学べる施設を作るとか……」

 

 私は他にも思いつくままに公共施設の名前を紙に書いていく。

 

 図書館の他にも執務官向けの勉強ができる学校とか、女性が刺繍を学べる場所とかあってもいいよね。前世にあった職業訓練みたいな、資格が取れる施設を作るとか。あ、そうやって人が集まる場所を作るなら、カフェみたいなものがあってもいいかも知れない! オシャレなカフェ! 絶対欲しい!

 

「学べる街、いいんじゃない⁉ ちょっとワクワクしてきた! ハンカルもこんな街好きでしょ?」

「そうだな……このような施設が揃っている街に住めたらいいなと思う」

「だよね! そっか、貴族にとって必要なものを作ればいいんだ」

 

 これきっとアルスラン様も気にいると思う。いや、絶対に好きだね。博物館とか行きたいって言うに決まってる。

 

 私が鼻歌を歌いながらその紙を眺めていると、ハンカルが施設の名前をじっと見つめて、眉を寄せた。

 

「……ディアナ、喜んでいるところ悪いが」

「え、なに?」

「この並びだと……古代劇場だけが浮いてないか?」

「へ? なんで?」

「他の施設は貴族に利のあるものばかりだ。新しさもあり、勉強にもなる。だが劇場は劇を観るためのものだろう? 新しくはあるが目的が違うような気がする」

「演劇だって新しいし、学びもあるよ⁉ それ以上に楽しいし!」

「その楽しい、というのは貴族にとって必須ではないだろう?」

「楽しいは人類にとって必須のものでしょ⁉」

 

 思わずそう言い切ってしまったが、私はそこで止まる。ハンカルの言う通り、この世界の貴族にとって楽しいは必須ではない。歌と踊りが禁止になって一千年以上、派手な娯楽がないまま暮らしてきたのだ。だからこそ、この世界に娯楽は必要なのだと、新しいことなのだと劇団の宣伝で言ってきた。

 

「……つまり、古代劇場の楽しいって目的だけじゃ、魅力がないってこと?」

「そうだな。もちろん、目的が他と違っていても貴族に支持されるものであればいいとは思う。しかし、そこまでの求心力が今の劇団にあるか?」


 そう言われて私は俯く。劇団の公演がスタートしてまだ数週間、公演回数は重ねているし、お客さんも増えてきた。しかしその影響力はまだまだ小さい。

 

「……貴族の人たちが、劇場に大きな魅力を感じる状態にしないとダメってことだね。今の状態だと認知度も低いし、人気もまだまだ……」

「これは後々、他の街の代表者とも話し合っていくものなんだろう? 少なくとも、他の街まで劇団のことが知れ渡ってないと説得力に欠けるんじゃないか?」

「確かに……今のままじゃ不可能だね。なにもできない」

 

 劇場の有用性だけが、不足している。それに気付いて私はふう、と息を吐いた。興奮していた熱がスウっと収まっていく。

 だがそのおかげで、やらなければならない道がはっきりと見えてきた。

 

「わかった。まずは劇団をもっともっと広めるところからだね。うちの劇団が成長しない限り、開発案は出せない」

「そうだな。そこはコツコツやっていくしかないだろう」

「コツコツは演劇クラブでもやってきたからね。……この話、劇団のみんなにはいつ言ったらいいかな?」

「開発案がしっかりまとまってからでいいんじゃないか? メンバーには劇団の方に集中してほしいから」

「そうだね。うん……よし、やるかぁ」

 

 そう言って出されていたお茶をズビッと飲むと、私は気合を入れ直して机に向かった。

 劇団大成長作戦の始まりだ。

 

 

 

 

開発案を考えていたディアナですが

そこで劇団の有用性だけが足りてないことが判明しました。

劇団を育てないと、何もできません。


次は 劇団の育成、です。

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