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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
第一幕 北西街代表選

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05 アンビシアとの出会い


「カラバッリ様、ご挨拶してもよろしいでしょうか?」

 

 間近で見る女性は、とてもエキゾチックな顔立ちをしていた。褐色の肌に彫りの深い目鼻立ち、そしてストレートな黒髪。改めてよく見ると、彼女の風貌はとある人を思い起こさせる。

 

 クレオパトラみたい……。

 

 そもそも私のイメージするクレオパトラも想像上のものだが、昔見た映画の風貌と雰囲気がそっくりで、私はしばし見惚れる。

 初めましての挨拶をカラバッリが許し、二人が言葉を交わすと、周りにいる人たちが戸惑った顔を見せた。彼女の仲間である移住民の高位貴族たちは「よく声をかけられるな」と少々ビビり気味に驚いているし、カラバッリの知り合いたちは警戒するような視線を彼女に向けている。

 

「アンビシアと申します。家は代々建設工房を営んでいまして、私が継ぐ予定をしています。以後お見知り置きを」

「元王宮騎士団長のカラバッリだ。其方の出身は?」

「両親はアルヒンから移住してきましたが、私はこちらで育った時間の方が長いです。学院にも初年度から通いました」

「そうか……アルスラン様の教育を受けた者か」

「はい。今まではこうして地元民の貴族の方々とご一緒する機会がなかったので、ご挨拶が叶いませんでした。本日お目に掛かれて大変光栄でございます」

 

 アンビシアは強気な赤い目をまっすぐにカラバッリに向ける。彼にここまで堂々と挨拶できる人はなかなかいない。

 

 さっきも思ったけど、めちゃくちゃ肝が据わってるね、この人。

 

 カラバッリはそんなアンビシアを黙って見ていたが、スッと私の背に手を当てて口を開いた。

 

「こちらは孫のディアナだ」

「初めまして、ディアナと申しま……」

「存じています。彼女を知らぬ者はこの王都にはいませんから」

 

 アンビシアはそう言ってフンッと鼻を鳴らす。カラバッリとは違い、めちゃくちゃ嫌味ったらしい言い方をしてくる。彼女はそこでようやく私の方へ視線を向けると、目をスッと細めて言った。

 

「噂では、ご自分で大きな施設を建てたとか」

「あ、劇場のことですか? そうですね、この夏に……」

「そこまでして、我らには頼りたくないということですのね」

「え?」

「専門家でもない方が建てるだなんて……建築を馬鹿にしているのではないかしら?」

「は?」

 

 敵意剥き出しの彼女の言葉に、後ろにいる移住民の貴族たちが「おい、アンビシア!」と騒ぎ出し、そしてその中から一人の男性が慌てた様子で飛び出してきた。

 

「アンビシア! 目を離した隙に一体なにを……! も、申し訳ありませんカラバッリ様! 娘が失礼なことを! お許しください!」

 

 どうやら彼女の父親らしい。アンビシアはその男性に強引に腕を引かれるが、それを振り解いて私と対峙する。

 

「貴女、この封鎖街の開発に関わるつもりなの?」

「……そうですね。そのつもりです」

「地元民の力を使って優位に立とうという魂胆なのでしょうけど、そうはさせないわ」

「え、いやそんなつもりは……」

「貴女が提案した紙による匿名投票は良い案だと思うけれど、自分の首を絞めることになるのよ? わかっているの?」

「ア……アンビシア……!」

 

 後ろにいる父親の顔は青色を通り越してすでに土色になっている。高位貴族の中でも力のあるカラバッリの孫に、娘が堂々と喧嘩を売っているのだから仕方がない。

 

 ……なんか、ものすごく誤解されている感じがする、私。このまま喧嘩を買うのはあんまり良くないね。

 

「私は、私がそうした方がいいと思ったことを提案しただけです。そこに他意はありません。アリム家は個人の意見を尊重するのが方針ですから。そうですよね? おじい様」

「そうだな。自分の中に芯のある考えならば、家のことは気にせずに行動すれば良い。それを止めはせぬ」

 

 その言葉に、アンビシアは再び私を見て眉を寄せる。私がなにを考えているのか探るような目だ。

 

「私には、得たいものがあるのです。そのためにこの会議に来ました。封鎖街の開発案についても、自分なりの案を出すつもりですよ」

「……」

「ところで、なぜアンビシア様が私のことをそこまで気に入らないのか、理由をお聞きしたいのですけれど……私がエルフだからですか?」

「……! 貴女……そんなこともわからないの」

 

 私の質問に目を見開いたアンビシアは、ギロリと私を睨む。

 

「話にならないわね。そんなこともわからない状態でここに来るなんて。対戦相手として不足はないと思っていたのに、ガッカリだわ」

「え……」

「貴女には、負けないわ。北西街の代表の一人には私がなる」

 

 彼女はそう言い放って、スタスタと行ってしまった。アンビシアの父親が私とカラバッリに平謝りしながら彼女を追いかけていく。残された私はポカンとするばかりだ。

 

「……行ってしまいましたね」

「よく喧嘩を買わなかったな、ディアナ」

「んー、なんだか激しく誤解されてる感じだったので。おじい様、彼女の言う通り、私まだ知らないことが多いようです。教えてもらえますか?」

「そうだな……ではうちで話をするか」

 

 そんなやりとりをしている後ろで、ルザとイシークは「ディアナ様になんという態度を」とわなわなと怒っていたし、知り合いの高位貴族のおじさんたちは「これだから移住民は」「躾がなっておらぬ」と呆れていた。

 それから私たちは馬車に乗ってカラバッリ邸に戻り、出迎えてくれたターナと一緒に談話室でお茶を飲んだ。カラバッリから会議のあらましを聞いたターナは「それは大変でしたねぇ」と眉を下げて笑う。

 

「それで、おじい様……私今回の会議で初めて『地元民』『移住民』という言葉を聞いたのですけれど、どういうことなのですか?」

「そうだな……順を追って説明しよう」

 

 カラバッリはお茶を飲みながら、テーブルに乗っているお菓子を使って話し出した。

 

「十六年前、黄光の奇跡が起こったあと、アルスラン様は減りに減っていたアルタカシークの人口を元に戻すため、三年という期限を決めて移住者を募った。貴族も、平民も含めてな」

 

 アルタカシークの衰退期、砂に埋もれた王都からは人が減っていた。平民も貴族も生き延びるために砂漠を越えて地方か他国へ行くしかなかった。古くから王都で暮らし、最後まで国とともにあると覚悟を決めていた者たちはそのまま残ったが、それ以外の人たちは次々と去っていった。

 

「その時代に王都に残っていたものが『地元民』と呼ばれる。平民も、貴族も」

「おじい様たちや五大老たちも『地元民』なんですね」

 

 その後、アルスラン様によって黄光の奇跡が起こると、国に水が戻り、土が戻り、作物が戻った。しかし人口は減ったままで、国を復興させる力が弱い。そこでアルスラン様はまず、地方や他国に移った人たちを呼び戻そうと考えた。

 地方から王都に戻る者と、他国籍となっていた元アルタカシーク民に対して、市民権を無料で付与するという施策を打ち出したのだ。しかし、それでも復興が始まったばかりの王都に人はなかなか戻らなかった。そこでアルスラン様は元アルタカシーク民ではない、完全な他国の者たちにも移住を認めることにした。

 

「三年間、大国を除く他国からの移住者を歓迎し、市民権も安く売る。ということにしたのだ。その政策に魅力を感じ、他国から移ってきた者たちを『移住民』と呼ぶ」

 

 地元民と移住民、復興後のアルタカシークは二つの勢力に分かれた。

 今ではどちらの人口も同じくらいらしいのだが、地元民は移住民が我が物顔でアルタカシークに住むのを厭い、婚姻で地元民と繋がった者以外の存在を認めようとしなかった。

 

 ああ……それで大事な高位貴族の会議に移住民は参加できなかったのか。

 

 そしてさっきのカラバッリの「この国へ来て日が浅い者たちに、アルタカシークを任せることはできぬであろう?」という言葉通り、それはこの国を支えてきた地元民にとっては当たり前の価値観なのだ。

 国籍を得るには十年ほどアルタカシークに税金を納める必要があったので、移住民はその間は表立って抵抗はしてこなかった。しかしここ数年で、正式にアルタカシーク籍を手に入れる移住民たちが増えたのだという。

 

「その者たちが最近、我々地元民に対抗しようと結束したらしい。その噂を聞いていた故、今日の会議では地元民と移住民の貴族たちが表立って対立することになったのだ」

「……全ての貴族が集まる機会が今までなかった、というのも大きそうですね」

 

 それぞれの身分の割合は、地元民は高位貴族が多く、下位貴族が少ない。反対に移住民は下位貴族が多く、高位貴族が少ないらしい。国が衰退して王都が砂に埋もれ始めて、力のない者たちから国を去ったのが原因なのだそうだ。

 

 その穴を埋めるように、移住民が入ってきたってことか……。

 

 人口比率が同じくらいとはいえ、移住民に下位貴族が多いのならば、高位貴族の多い地元民には太刀打ちできないだろう。今まで地元民の高位貴族が街を治めていたのも納得がいく。

 

「おじい様、さっき私に突っかかってきたアンビシア様のことはどう思われますか? 私のなにが彼女を怒らせたのでしょう?」

「建設を営む家と言っていたからな。おそらく今まで地元民優先でいい仕事が回ってこなかったのであろう。その怒りもあり、そしてディアナが自分の力で劇場を作ったことが許せなかったのではないか?」

「……私、頼める第一工房がなかったから自分でやるしかないって思ってやったんですけど……」

 

 正直、頼める工房があったのなら速攻でお願いしている。そのおかげで劇団員の新メンバー募集ができなかったのだから。


「お父様に出してもらった第一工房の候補には全部当たったのですよ? そこで断られて……」

 

 私がそう言うと、ターナが眉を下げて口を開いた。

 

「おそらく、その候補の中にそのお嬢様の工房がなかったのだと思いますよ?」

「え?」

「私たちの馴染みの工房は、地元民の工房に限られますから」

 

 その言葉に私はハッとする。

 

 そうか、そもそも地元民のアリム家の馴染みの中には地元民しかいないのか。アンビシア様や他の移住民の工房は最初から候補に入ってなかったんだ。

 

 クィルガーから教えてもらった候補先が全てだと思っていたが、そうではなかった。

 それに気づいて、私は思わず頭を抱えた。

 

「ああー……そういうことだったんですか……そんな……失敗したぁ〜!」

「ディアナ? どうしたのだ」

「おじい様、第一工房の候補がまだ他にあったのなら、その人たちに頼めばよかったんですよ! そうすれば新メンバーを集めるのに力を注げましたし、劇団の始まりをもっとこう、どーん! とぶちかますことができたのに!」

「……ぶちかます、とは」

「あらまぁ、ディアナったら」

 

 二人の呆れ顔を前に唸っていると、ルザがコホンと咳払いをして言葉を挟む。

 

「ディアナ様、地元民であるアリム家のディアナ様が、移住民の方に仕事を振るのはいかがなものかと……」

「え、ダメなの?」

「表立っては禁止されていませんが……暗黙の了解といいますか……」

「ええー……」

 

 そんなことを言っていたら、掴めるチャンスを逃すではないか。

 劇場の建設にめちゃくちゃ時間を取られた私は、ルザの言葉に納得がいかず、がっくりと肩を落とした。

 

 

 

 

一方的にアンビシアに宣戦布告されたディアナ。

そこで知った地元民と移住民の確執。

しかしディアナの頭には劇場建設時の失敗が浮かびます。

もっとぶちかましたかったディアナ。がっかりです


次は ハンカルと作戦会議、です。

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