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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
第一幕 北西街代表選

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03 北西街の貴族たち


 馬車を降り、ルザとイシークとともにカラバッリの後ろに付いて歩いていくと、同じように会議場の入り口へ向かっていた貴族たちがこちらを見て目を見開いた。私を見て驚いている人もいれば、カラバッリを見てビビっている人もいる。

 

「おじい様を初めて見る人も多いのでしょうか?」

「……そうだな。全ての貴族が集まることなど、今まではなかったからな。私が知らぬ者も多い」

 

 カラバッリは周りの貴族たちにチラリと視線を向け、短い階段を上り始めた。会議場は普通の貴族の建物と違い、二階からではなく一階から中に入る。一階は平民の使用人たちが働く場所なのだが、会議場には使用人がほとんどいないためその場所を作る必要がない。今日のように貴族たちが集まる時だけ使用人が派遣されるシステムなので、会議場とは別に彼ら専用の棟がある。

 広めの階段を数段上がって、開かれた正面玄関から中へ入ると、まず天井の高いホールのようなものがあり、正面に大きな扉、そして左右に広い廊下が広がっていた。

 

 おお、思ったより大きい。

 

「正面の扉が大会議場の入り口だ。左右の廊下の先には中会議場や小会議場がある」

 

 カラバッリの説明によると、高位貴族同士で集まる時は中会議場を使うことが多く、大会議場は滅多に使わないのだそうだ。会議場に入ってきた人たちは、みんな大会議場の入り口へと向かっていく。

 

「ディアナ、ここからは人がかなり多くなる。手を」

 

 カラバッリがそう言って自分の右腕を少し上げて合図をする。

 

「わ、もしかしてエスコートですか? おじい様」

「そうだが……嫌か?」

「まさか。ただ……あまりしたことがないので、ちょっと照れますね」

 

 私は目をパチパチとさせて、そっとカラバッリの右腕に自分の左手を回す。

 

 おお、なんだか貴族女性って感じがする!

 

 私は背が低いのであまり様にはならないが、なんだか大人扱いされているようで面映い気持ちになる。

 

「おじい様、こっちは利き腕なのにいいのですか?」

「右目しか見えぬからな。守るべき者を死角に置くことはできぬ。なに、いざとなったら左だけでも攻撃は可能だ。ルザ、イシーク、ディアナから決して目を離すな」

「はっ」

「心得ております」

 

 指示の出し方がまるで戦場だ。その様子に苦笑しながら大会議場の中に入ると、私は目を丸くした。

 

 すんごい人!

 

 大会議場の中はすでに人で溢れていた。出入り口から細長い絨毯が会場の奥に向かって伸びているのだが、その絨毯の左右の空間にたくさんの貴族たちが集まっている。そのほとんどが男性で、いくつかの塊になってガヤガヤと話をしていた。社交とは違い、華やかさというものがほとんどない。

 私たちの姿に気づいた人たちから一斉に視線を向けられるが、カラバッリはそれに臆することなく私の歩幅に合わせて絨毯の上を進んでいく。

 

「カラバッリ様だ……」

「現役のころから変わらぬな」

「一緒にいるのが例の……」

「耳が……本当にエルフなのだな」

 

 よく聞こえる私の耳にいろんな貴族の声が入ってくる。社交で会ったことがない人たちが相当数いることに私は驚いた。

 

 アリム家の派閥はそこそこ大きいから、社交で見た人たちばかりなのかと思ったけど、そうでもないんだね。

 

 なんとなくそれを不思議に思いながら、私はカラバッリとともに前の方へと進んだ。どうやら待機する位置も身分で決まっているようだ。

 その途中で見知った顔にも出会った。劇団の公演を観にきてくれた人たちだ。私は彼らに向かって笑顔を向けながら進む。

 そして一番前の方まで来ると、そこにヤルギリがいた。彼は私たちを見るとニカっといつも通りの人懐っこい笑顔を見せる。

 

「おお、まさかディアナも一緒だとは。カラバッリ様も、どうぞこちらへ」

 

 彼はそう言って隣の場所を空けて、私たちが入れるようにしてくれた。

 

「人が集まる場所で立ちっぱなしって、珍しいですね」

「私もほととんど見たことがないぞ、ディアナ」

「そうなのですか?」

「今日は集まる人数が今までにない規模だからな。座る余裕がないのだ」

 

 私とヤルギリが話していると、カラバッリが周りを見回しながら口を開く。

 

「今日の進行は其方が?」

「ああ。人前に出るのは慣れているであろう? と頼まれた。全く、面倒なことよ。そうだ、カラバッリ様がやってくれませんか?」

「私が前に出れば場が重くなる。やめておいた方がよかろう」

「はっはっは。それもそうですな」

「おや、ヤルギリ様、カラバッリ様、お久しぶりですな」

 

 私たちが喋っていると、周りにいた人たちが次々と挨拶にやってくる。みんな社交で会ったことのある人たちで、高位貴族ばかりだ。彼らは私がいることに驚いた顔を見せる。

 

「成人貴族なら誰でも参加していい、ということだったので来ました。今日は勉強させていただきます」

「ほお、ディアナ様はお若いのにこういう集まりに興味がおありなのですか。感心ですな」

「こういう場所に女性は少ないが……まあカラバッリ様がいらっしゃるなら心配ない」

「ところでヤルギリ様、今日はどのようなことが発表されるのです?」

「まだここでは言えぬ。あとでみなに伝える故、少し待たれよ」

 

 そんなことを話しながら待っていると、不意に耳がピクリと動いて、私はくるりと振り返る。

 

 なんか、鋭い視線を感じるんだけど……。

 

 その気配がした方を注意深く探ると、少し後ろに集まっているひと塊りの高位貴族の数人がこちらを見ていた。その人たちは私と視線が合うとスッと顔を背けるが、その中に一人、私のことをさらにジッと見続けている背の高い女性がいる。

 褐色の肌をしていて艶のある黒髪を肩あたりで数束に分けて髪飾りで留めている。頭に被っているスカーフも着ている服もアルタカシークではあまり見ない柄だ。キリッとした赤い目は私と視線がぶつかっても微動だにしない。

 

「ディアナ様?」

「どうかされましたか?」

 

 イシークとルザがそう言って私の視線を追うと、彼女はやっと私から顔を逸らした。

 

「……ううん、なんでもない」

 

 ……私、彼女になにかしたのかな? それともエルフがただ嫌いとか?

 

 彼女の視線は学生の時によくあった忌避的なものとはちょっと違う、ただ真っ直ぐな敵意だった。

 それから会議開始の時間となり、今回の進行を務めることになったヤルギリが、会議室の前方にある壇上に上って拡声筒を手にした。

 

『あー、聞こえますかな? この度の会議を進行することとなったヤルギリだ。先週届いた『シハット』にあった通り、アルスラン様は封鎖街の開発を決定された。そしてその議論をすべく、来年の夏までに各街の代表者を決めることとなった。そのための詳細と手順をアルスラン様からみなに伝えるよう言付かったので、それを発表する。あー、質問などは最後にまとめて聞くのでの、それまで待ってくれ』

 

 ヤルギリはいつも通りの軽い口調で会議を進める。そのおかげか緊張感が漂っていた会場に、少し緩い空気が流れた。

 彼は上着の内ポケットから紙の束を取り出し、それを開いて読み始める。

 

『黄光の日から十五年以上が経ち、その間にアルタカシークは新しい国へと生まれ変わった。作物が育ち、人が増え、活気が戻った。その為に力を尽くしてくれた民たちには礼を言う。そして、疲弊していたこの王都に希望を持って移り住んでくれた者たちにも、感謝している』

 

 ヤルギリが伝えたその言葉に、会場にいた人たちからどよめきが起こった。


「なんと……アルスラン様からそのようなお言葉が」

「初めて我らのことを……」

「おお……」

 

 え、なになに? 今の言葉になんかあった?

 

『街に活気が戻り、人が増えたことについては喜ばしいことだ。しかし、それによって新たな問題が出てきた。それが住宅地の不足と、地元民と移住民との確執だ』

 

「……! アルスラン様……っ」

「それは……」

「やはりアルスラン様にまで届いていたのだな」

 

 そんな貴族たちの反応に、私は首を傾げた。

 

 住居問題に……地元民と移住民の確執? そんな問題があったんだ。

 

『王都では増えた人口によって十分な住居を確保できなくなったため、平民たちの住む環境が劣悪になり、貴族の住む土地にも余裕がなくなってきている。私はこの問題を解決するために、今まで放置されていた封鎖街の開発を決めた。封鎖街をどのような街にすればいいのか、みなに考えてもらいたい』

 

 ヤルギリは紙を捲りながら言葉を続ける。

 

『地元民も移住民も関係なく、意義のある議論を重ね、封鎖街の開発を進めたい。そのために代表者の選出の仕方もこちらで決定した。内容は以下の通りだ。

 

 ◯各街において、開発についての案を出し合う

 ◯その案の中で自分が支持するものを選び、投票する

 ◯その際、他人に票を強制することは禁じる

 ◯選ばれた案を作った者から一人、その案を支持した別派閥の者から一人、その案を中立にまとめられる者を一人、その三人を代表者とする

 

 その他、封鎖街の詳細と地図は別紙にて』

 

 そこまで読み上げると、ヤルギリは近くに控えていた使用人に言って、紙を配り始めた。前の方にいる高位貴族から順番に、会場にいた人たちに順番に一枚の紙が渡されていく。

 

「と、投票……ですか」

「別派閥の者から一人、とは……」

「どういうことだ?」

 

 紙を回しながら、貴族たちが困惑した声を上げる。私はその様子を見ながら、自分に回ってきた紙を確かめた。

 

 あ……封鎖街の地図だ。

 

 紙には封鎖街の大まかな地図と大きさが書かれていて、現在発見されている重要な施設の位置が記されていた。そこには古代劇場も旧王宮もある。そして端には『名前のある施設は保護対象』と書かれてあった。紙の下段にはさっきヤルギリが読み上げたアルスラン様のお言葉が書かれてある。

 

「封鎖街とは……このように大きかったのですか」

「長年砂に埋もれて廃れたと思っていたが……残っていたのだな」

「ここは元王都なのだろう? そこを開発とは……」

「魔女時代の名残がある街だぞ。触れても大丈夫なのか?」

「アルスラン様が決定されたのだ。そこは問題ないのであろう」

 

 ざわざわと貴族たちが紙を見て落ち着かない様子で話し始める。そして地図が全員に配られたのを確認して、ヤルギリが口を開いた。

 

『アルスラン様からのお言葉は以上だ。各街の代表者は来年の夏までに決める予定だが、それまでの段取りはこちらで決めるように、とのことだ』

 

 その言葉を受けて、カラバッリがポツリと呟いた。

 

「……この人数で今から段取りを決めるのか?」

「……確かに、どうやって決めるんでしょうか」

 

 ぎゅうぎゅうに人が詰まった大会議場の中で、戸惑う貴族たちの声がずっと響いていた。

 

 

 

 

会議場の中は約九割が男性です。

そこで発表されたアルスランからの言葉。

今までにないやり方に貴族たちは困惑します。


次は 貴族たちの会議、です。

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