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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
第一幕 北西街代表選

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01 プロローグ


 私はアンビシア。アルタカシークの王都に住む高位貴族で、独身、もうすぐ二十四歳になる。

 十一の月の半ばに差し掛かったところで、我が家に驚くべき書簡が届いた。

 

「封鎖街の開発……それを、全ての貴族で議論する、ですって⁉」

 

 王からの通達『シハット』に目を通して、私をはじめ、父や母、弟が同時に目を見開く。そこには、信じられないことが書かれてあった。

 

「封鎖街とは、王の所有物ではなかったか? そこを解放するとは……」

「しかもその開発のための議論を、わたくしたち貴族たちに任せるなんて。このようなこと……前代未聞ですわ」

 

 父と母の言葉に、おっとりとした弟が丸っこい目を瞬く。

 

「確かに、そんなこと今まで聞いたことないね。アルスラン様が執務に本格的に復帰されてから、驚くことばかりだよ」

「クヤン、これについて執務館の方でなにか聞いた?」

 

 私が鋭い視線を向けて問うと、クヤンは「んー」と言いながら首を傾げた。

 

「特になにも。今年から執務官として働き始めたばかりの私に、重要な話なんて降りてこないよ、姉上。それにこれはアルスラン様自ら出された『シハット』だろう? 高官の人だって内容は知らないと思うよ?」

「このような大事なことを、周りの高官たちと話し合わずに決定されるはずがないでしょう? アルスラン様から話を聞いている者たちは絶対にいたはずだわ」

「そうかもしれないけど……この話を早く知っていたからって、なにかできたわけじゃないでしょ?」

「それはそうだけれど……」

 

 クヤンにそう答えて私は腕を組む。貴族社会は情報戦だ。より早く有利な情報を得たものが利益をとれる。

 今まで散々そのやり方で出し抜かれてきた経緯があるため、今回も自分たちが知らないところで事が進んでいるのではないかと勘繰ってしまう。

 

 封鎖街の開発……各街で選出される代表者三名……。

 

 その選出に関しても、アルスラン様は「偏りのなきように」と釘を刺している。今までこのように貴族たちに書面で指示されたことはない。

 

 ……なにかが、変わろうとしている?

 

 書面を見つめながら私は眉間に力を入れた。自分の勘が、大きな風の流れが変わる時だと告げている。

 だが父は、『シハット』を持つ手を少し下げて、自信なさげに言う。

 

「もしや……アルスラン様は我々の動きを止めるためにこのようなことをされたのでは?」

「お父様、それならば全ての貴族で議論を、なんて仰られないわ。移住民(われわれ)の動きを警戒された可能性はありますけれど。むしろ我々の結束が、上を動かしたのかもしれません」

「そうだといいが……」

 

 父はそう言って黒い顎髭を撫でる。十六年前の黄光の奇跡のあと、人口の減ったアルタカシークに人を戻そうと、アルスラン様は大国を除く他国から、移住者の積極的な受け入れを始めた。

 その政策を知って南国アルヒンから移住してきた私たちや、同じように他国から移住してきた者たちは、新しい国での生活に希望を抱いていたのだが、我々は王都で移住民と呼ばれ、地元貴族たちから余所者として扱われることになった。表向きは高位貴族として尊重されているが、内情は酷いものだ。大きな仕事は回されず、重要な話し合いに参加することもできない。それは明らかな差別だった。

 アルタカシークの王都の人口は、今や半分が移住民だというのに、昔からの地元貴族たちにずっと頭を押さえられている状況が続いていたのだ。

 

 これ以上、苦しむのは嫌よ。

 

 移住から十年以上税金を納めたことで、ようやくアルタカシークの国籍を手に入れたのだが、苦しい状況は全く変わらなかった。そのため、移住民の貴族同士で結束して今の状況を変えていこうと動き出したのが、この春のこと。

 

「アルスラン様が表に出られるようになった途端、色々と動き出したわね……」

「我らの苦しみが、ようやく届いたのだろうか」

「お父様、そうだと信じましょう。風向きがようやく変わろうとしているのです。私、この封鎖街の開発に絶対に関わりますわ」

「アンビシア……本気か」

「当然でしょう? うちは建築工房を営む家。誰にも負けない技術も持っています。この大きな開発計画に関わることができれば、もっと力をつける事ができるでしょう。……それに、今までやられたことをやり返す、いい機会だわ」

 

 私がそう言って口の端を上げると、クヤンが一歩後ずさる。

 

「姉上……怖いよ。頼むから変なことはしないでよ。私は執務官として普通に働きたいのだから」

「貴方は本当に甘いわね。今から執務官を辞めさせて、うちで鍛え直そうかしら」

「や、やめて! それだけは」

 

 そのやり取りを見ていた父がため息を吐く。

 

「アンビシア、やめてあげなさい。クヤンは其方と違って好戦的ではないのだから」

「あら、私は別に好戦的ではありませんよ。こんな性格になったのは、地元貴族たちのせいです」

 

 私は昔から、家の事業が好きだった。建築を学ぶことも楽しかったし、素晴らしい技術を持つ職人と仕事をするのも好きだった。あまりにのめり込んだために、本当は弟が継ぐはずだった事業を、私が継ぐことになったほどだ。

 優れた技術を持っているのに、その力を発揮することが今までできなかった。それがとてつもなく、悔しい。

 

 見てなさいよ……今までうちの邪魔ばかりしてきたクソジジイども。絶対に打ち負かしてやるわ。

 

 貴族にはあるまじき暴言を心の中で吐いて、私は今後のことを考え始める。

 そこに「この様子だと、今年も婿は取れそうにないな……」「あなたがこの子を後継ぎにと決めたのですよ。わたくしは知りませんからね」という父と母のやりとりが聞こえた。

 

 

 

 

第一幕「北西街代表選」が始まりました。

プロローグはアルタカシークの高位貴族、アンビシア。

初登場です。これからディアナとどう関係してくるのでしょうか。


次は 新しい幕開け、です。

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