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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
序幕

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18/53

17 初公演 洞窟での出会い


 舞台が暗くなっている間にナレーションが流れ始めた。

 

『旅の準備を十分に整え、タシュビとムロイの兄妹は洞窟へと向かいました。目の見えないムロイをタシュビや使用人たちがサポートし、砂漠を越え、旅を続けます。やがて二人は古の部族が住んでいるという集落に辿り着き、そこで『願いの花』の話を聞いて、情報が本物であることを知りました』

 

「やはり、『願いの花』は実在するのだな。やったぞムロイ!」

「お兄様。まだ喜ぶのは早いですわ。問題は洞窟の中です」

 

『古の部族たちは貴族ではないため、その洞窟に入ったことはないと言います。今まで何人か貴族がやってきて洞窟に向かったが、帰って来た者はいない、と。彼らからその話を聞いても、タシュビは諦めません。そして二人は集落から出発し、その洞窟を目指しました。それから数日が経ったころ……』

 

「おお、目印の木が見えてきたぞ。ムロイ、もうすぐだ」

「本当に洞窟がありますの?」

「タシュビ様! 木の側に大きな穴が空いております。あそこではありませんか?」

「おお! 砂に埋もれていると思ったが、木々が防いでくれていたのだな。よし、お前たちはここで待機だ。私とムロイが戻るまで出口を守っていてくれ」

「かしこまりました。お気をつけて」

 

『タシュビとムロイは使用人たちと別れ、洞窟へと入っていきます。しばらく行くと、石で出来た扉のようなものがあり、そこにマギアを流すと重たい音を立てて扉が開きました。タシュビはムロイの手を引いて、ゆっくりと中へ進んでいきます』

 

 そのナレーションが終わると、舞台の照明が灯り、洞窟のセットが現れた。

 

「まぁ……先程と背景が変わりましたわ」

「灯りの色も仄暗くて……なんとも不気味ですわね」

 

 お客さんがざわついていると、上手(かみて)からタシュビとムロイが登場する。彼らの衣装は序盤の貴族服とは違い、旅用のものに変わっている。

 

「衣装が……」

「この短時間で着替えたのか?」

「どうやって……」

 

 役者の早着替えに驚いた声が上がるが、すぐに静かになった。舞台を真剣に観ようとお客さんが集中しているのがわかる。さっきのファリシュタの歌声で彼らの心は十分掴めたようだ。

 タシュビとムロイは周りを警戒しながらゆっくりと洞窟の中を進む。

 

「ムロイ、寒くないか?」

「ええ、大丈夫です。お兄様、中はどのような様子なのです?」

「思ったより綺麗な洞窟だ。鍾乳石のようなものもないし、足元も濡れていない。天井には光虫もいるし、随分と整っている……もしかしたら人工的に作られたものなのかもしれない」

「まぁ……そうですの? その『願いの花』を隠すために作られたのでしょうか」

「……そうかもしれない。とにかく慎重にいこう。ムロイは私のマントをしっかり掴んでいなさい」

「ええ……わかりました」

 

 と、その時、舞台の下手(しもて)奥から突然男の声が響いた。

 

「だ、誰か来たのか! おーい! 助けてくれー!」

「な! 人の声⁉」

「お兄様、あちらの方から聞こえます!」

 

 ムロイがそう言ってセットの二階部分の奥の方を指差すと、タシュビは彼女の手を引いて階段を上っていく。

 

「おーい!」

「誰かそこにいるのか⁉」

「おお! 本当に人が! 助かった。崖の下に落ちてしまったんだ! 魔石術で引き上げてくれないか?」

 

 二階の奥へ向かうと、タシュビがセットの端から裏の方へ首を伸ばす。

 

「あ、いた! あんなところに……」

「お兄様、誰かいましたの?」

「そこの裏が崖になってるんだが、下に男が一人落ちている。困ったな、私の魔石術の力ではここまで引き上げられない。ロープを使うしかないか……ムロイ、あの男を助けてもいいか?」

「もちろんですわ。怪我もしているのでしょう? 放ってはおけません」

「怪我は特にしていないように見えるが……まあいい。私もこのまま放ってはおけぬ」

 

 タシュビは荷物からロープを取り出し、崖下へと投げ入れる。

 そうして、二人がいる場所へ一人の男がロープを伝って登ってきた。ラクス演じる男は、タシュビやムロイより貧相な格好をしていた。

 

「はぁはぁ……ああ、助かった。ありがとう、礼を言うよ。俺の名前はガンガル。見ての通り、下位貴族の中でもかなり下の方の者だ。そっちは?」

「同じく下位貴族のタシュビ。王国騎士団に所属している。こっちは妹のムロイだ」

「ムロイです。私、目が見えないのできちんとご挨拶できないの。ごめんなさい」

「えっ目が見えない⁉ そんな令嬢がなぜこのようなところに……って、そうか……二人も『願いの花』が目的で」

 

 そう言いながらガンガルはポリポリと頭を掻く。それに顔を顰めながら、タシュビがムロイを一歩後ろへ下がらせ、ガンガルに問いかける。

 

「二人も、ということは其方も『願いの花』を探しにきたのだな。まぁ、ここに来るのはそれが目的の人ばかりだろうから。ところで、なぜあんな崖の下にいたのだ?」

「実は、魔物の罠に引っ掛かってしまったんだ。なにもないと思って進んでいたら、急に植物の根っこのようなものが足に絡みついて、引き摺り下ろされたんだよ」

「なに⁉ するとここには魔物もいるのか? 根っこのようなもの、というのは植物の魔物アシームタのことではないか?」

「タシュビ様は魔物に詳しいのだな。さすが王国騎士だ。俺も、罠の解除には自信があるんだが、魔物が相手となるとお手上げなんだ」

 

 ガンガルはそう言って軽いステップを踏んで二人の前を通り過ぎ、二階の中央でポーズをとる。すると軽快な音楽が鳴り始めた。それに合わせて、ガンガルが歌って踊る。

 

 

 家柄は下の下

 親も兄弟もすでにいない

 魔石術も三級の下

 そんな俺には一つだけ

 得意なことがある

 

 この軽い身のこなし

 前転 側転 思いのまま

 柔軟だってこの通り

 

 手先も器用だ

 こうやって

 鍵の解除も

 お手のもの

 

 貴族としてはいらない特技

 あっても仕方がない特技

 だけどここなら活かせるさ

 だからここまでやってきた

 

 

 ガンガルは最後まで踊り切ると、いきなり二階から下へ向かって飛び、くるりと一回転して着地した。そして音楽のフィニッシュとともにバッと両手を二人に向って掲げ、笑顔で口を開く。

 

「なあ、もしよかったら、三人で協力して進まないか?」

「はあ? なぜそのようなことを」

「見たところ、タシュビ様は体力があって魔物の知識があるようだが、他の罠についてはどうだ?」

「基本的な罠なら対策してきた」

「でも特殊なものだったら?」

「それは……」

「俺はそういうものにも対応できる。手を組むのはいい案だと思わないか?」

 

 舞台の端にある階段を駆け上って、再びガンガルが二人の側に歩み寄ってそう言うが、タシュビは疑い深そうな目で彼を見返した。

 

「其方の目的も『願いの花』なのだろう? 手を組んでも最後は取り合いになるではないか」

「俺の願いはさ、自分に合う仕事を見つけること、なんだよ」

「仕事を見つけること? 金ではないのか」

「俺には地位もないしコネもない、騎士団に入れるほど強くもない。一生暮らせる金が手に入っても、貴族社会の中じゃ、秘密にしておくのも難しい。だったら、自分に合った仕事が欲しいと思ったんだよ。碌に教育も受けてない俺でも、細々とでも暮らせるくらいの仕事が……」

「……」

「そっちの願いはお嬢さんの目だろう? それに比べたら俺の願いは軽い。だから協力して『願いの花』を見つけることができたら、そっちに譲る。その代わり、俺に仕事を紹介してくれないか?」

「それが対価ということか?」

「そうだ。悪い話じゃないだろう?」

 

 ガンガルの言葉を聞いて渋い顔をしていたタシュビの袖を、ムロイがクイっと引っ張る。

 

「お兄様、いいのではありませんか? この通り、私は目が見えませんし、二人だけで進むより安全かと」

「……確かに、魔物などが出た時に、其方の守りを任せられるのは大きいが」

 

 タシュビはそう言ってガンガルを見定めるように、彼の周りをぐるぐると回る。

 

「仕事先を紹介するのは可能だ。しかし先程から気になっていたが……その言葉遣いはどうにかならないのか?」

「家庭教師を雇えなくて、学院にも入れなかった。礼儀も、学問もダメなんだ。だから就職もできなかった」

「それはそうだろう。はあ……そういう教育代も含めて、ということか。……ではせめて、今その身なりをどうにかしてくれ。臭くてかなわぬ」

「洗浄の魔石術の出来も悪くて……」

 

 そう言って肩をすくめるガンガルに、ムロイがくすりと笑って「『マビー』ガンガルに洗浄を」と唱えた。彼女の腕輪から青い光が放たれ、ガンガルを包み込む。

 

「おお、ありがとう。すごい、服がこんなに綺麗に……」

「ムロイ、其方がわざわざかけなくとも良い」

「この中で魔石術を使う余裕があるのは私だけのようですもの。洗浄を一度かけるくらいどうってことはありませんわ。では、これからよろしくね、ガンガル」

「ああ、よろしくな、ムロイ様」

「おい、妹に近寄るな。一定の距離を保て」

「タシュビ様は真面目だなぁ」

 

 そうして三人は階段を下り、舞台をそろりと歩きながら、下手へとはけていく。照明が消えて暗くなると、再びナレーションが始まった。

 

『三人はそうして一緒に行動をともにすることにしました。人工的な洞窟には特殊な罠や、珍しい魔物がたくさんいましたが、それぞれに得意なことを生かして、突破していきます』

 

「魔物だ! ガンガル、ムロイを守れ!」

「わかった!」

「気をつけてお兄様!」

 

 その声とともに剣を抜く音や、魔石術がぶつかる音、魔物の断末魔が響き渡る。戦いが終わったあと、今度はガンガルの声が響く。

 

「おっと、止まれ。この床は変だ。きっと罠がある」

「解除できるか?」

「時間はかかりそうだが、やってみる」

「気をつけて、ガンガル」

 

 カチャカチャ、トントンという音がしたあと、少ししてゴゴゴゴ……となにかが動く音がした。

 

「よし、やっぱり床が抜ける罠だったか。いいぞ、解除できた! 色の濃い場所を歩いてくるんだ」

「よくやった。ムロイ、ここは私がおぶっていこう。しっかり捕まっていろ」

「はい……」

 

 その会話が終わると、再び照明が点いて三人の姿が上手(かみて)から現れた。下手(しもて)にはけていったのに、上手(かみて)から三人が出てきたことにお客さんたちが驚く。

 

 こういう反応は初見ならでは、だね。

 

 天井裏で照明を操作しながら、私はふふ、と笑う。

 洞窟を進んできた三人は、野営の準備を始めた。

 

「結構進めたな。途中で危ないところはあったが、なんとかなった」

「お兄様、さっきの戦いで怪我をしたのではありませんか? 癒しをかけます」

「いや、これくらい大丈夫だ」

「タシュビ様、それは駄目だ。かすり傷には見えない。お嬢様、癒しを」

「ガンガル、余計なことを言うな。ムロイの魔石術の力は最後まで残しておきたい。俺たちはみんな三級なんだからな。余裕がない」

「お兄様、癒しくらいなら平気です。『ヤシル』お兄様に癒しを」

 

 ムロイがそう言うと、緑の光が腕輪から放たれ、タシュビを包み込む。

 

「ガンガル、ありがとう。私は目が見えないから、判断ができなくて」

「いや、お嬢さんの目の代わりならいくらでもやるさ。それくらいなら俺でも出来る」

「全く……」

 

 怪我が治ったタシュビがぐちぐちと言いながら軽食の準備をしていると、ムロイがくすりと笑って口を開いた。

 

「それにしても、私たちとてもいい連携ができていると思いませんか? お兄様」

「いい連携?」

「お兄様が魔物を倒して、ガンガルが罠を解除して、私が魔石術を使う……こんなことが出来るなんて思わなかった。お兄様、私嬉しいのです。目が見えなくても、私にも出来ることがあるんだって実感できたから」

「ムロイ……」

 

 ムロイは座っていた石から立ち上がり、客席に向かって歌い出す。

 

 

 ずっと思っていたの

 誰かの役に立ちたい

 誰かのことを助けたい

 

 ずっと思っていたの

 できることはなにか

 私にだってできること

 

 見えない代わりに

 いろんな音を聞こう

 見えない代わりに

 いろんな感触を知ろう

 

 そこで知った 魔石術の力

 

 音を鳴らして

 合わせる魔石術

 これなら私にもできる

 誰かを助けられる

 

 今ようやく

 その力を使えるの

 思いきり

 

 私は役に立っている

 それが嬉しいの

 とても嬉しいの

 

 ああ 私は

 これがしたかったのね

 やっと見つけた

 私のしたいこと

 

 

 序盤の歌と違い、その歌声はどこまでも朗らかで、明るい。ムロイの喜びが明るい粒となって弾けるように、今度は跳ねて会場中に広がっていく。

 

「まぁ……なんて……」

「嬉しいという感情が……こちらにまで伝わってきますわ」

 

 客席から、ほぅ……と見惚れるような声が聞こえてくる。

 そのムロイの歌声に、タシュビは「そのようなことを考えていたのか……ムロイ」と驚き、ガンガルはなぜか黙って俯いてしまう。そんな二人の気配を察して、ムロイは眉を下げて笑った。

 

 

 

 

洞窟で出会ったのは、貧しい下位貴族の男。

三人で協力し合い、進むうちにムロイは己の望みに気づきます。


次は 初公演 志と罠、です。

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