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94 暗い坑道

 ――夜12時。


 ミハイルに先導されたアリアたちは、数ある坑道の入口の一つに到着していた。

 周囲には木々が生い茂っており、月明かりさえ届かない、真っ暗闇である。

 そんな中、アリアたちは、坑道の中へ入っていく。


「うわ! 結構、狭いですね! しかも、寒気がしますよ!」


 アリアは、体をさすりながら、狭い坑道内を進む。


「コラコラ! ミハルーグ帝国軍が死ぬ気で掘った坑道にケチをつけるのはやめなよ! それに、アリアは、腰を屈めないでも大丈夫でしょう? 僕なんて、さっきから天井にガンガン頭が当たっているせいで、馬鹿になりそうだよ!」


 先頭にいるミハイルは、陽気な声を上げる。

 たしかに、アリアの目には、腰を曲げて進んでいるミハイルが見えていた。

 暗い坑道を照らしている魔法のおかげである。


「ちょっと、アリア! 速く進まないでくださいまし! 焦って、炎の球が消えますの!」


 アリアの後ろで、炎の魔法を維持していたエレノアは声を上げた。


「団長! エレノアさんがゆっくりと歩いてほしいって言っています!」


「え? ゆっくりと歩く? それは無理だよ! 襲撃予定時間に遅れちゃうからね! エレノア、無理そうだったら、炎の球を消しても良いよ! ぶっちゃけ、明かりがなくても僕は困らないからね!」


 ミハイルは、アリアの言葉を聞いた結果、明かりを消す提案をする。


「消して良いんですの? それじゃ、消しますわよ! ふぅ~、やっと肩の荷が下りましたの! 意外と炎の球を維持するのは難しいんですわよね!」


 エレノアは嬉しそうな声を上げると、すぐに炎の球を消す。

 その瞬間、坑道の中は真っ暗になってしまう。


「うわ! なにも見えない! エレノア、明かりをつけてくれ!」


 エレノアの後ろにいたエドワードは、大きな声を上げる。

 学級委員長三人組も、いきなり暗くなってビックリしたのか、エレノアに明かりを嘆願していた。


「え、嫌ですわよ! 面倒ですの! それに、エドワードの泣き言を聞いている暇はありませんわ! ワタクシもついていくので精一杯ですの!」


 エレノアはそう言うと、腰を屈めて坑道の中を進んでいく。


「ちょっと、待ってくれ! 胸のあたりがバクバクして大変なんだ! 今、置いていかれたら、発狂するかもしれないぞ! それでも良いのかい!?」


「知りませんわよ、そんなの! 勝手に発狂すれば良いですの! ああ、もう! 奴隷1号に構っているせいで、アリアが先に行ってしまいましたわ! ふざけんなですの!」


「ああああ! 幼なじみを見捨てたら、大変なことになるぞ! 良いのか、エレノア!?」


 エドワードは、必死でエレノアを追いながら、そんなことを叫ぶ。

 その後ろでは、学級委員長三人組があたふたとしてしまっている。


「もう、なにをさっきから騒いでいますの! さっさと行ってくださいまし! そうじゃないと、どんどんと遅れてしまいますの!」


「サラさんの言う通りですね。まったく、たかだか暗くなったくらいで騒ぎですよ。さぁ、さっさと行ってください」


 最後尾のサラの前にいたステラはそう言うと、学級委員長三人組をグイグイと力づくで押していく。

 押されている学級委員長三人組は、速度を上げて進んでいった。

 当然、学級委員長三人組の前にいるエドワードも、押されるようにして歩いていく。


「押さないでくれ! あ、これはマズいぞ! なんだか、胃から酸っぱい物が……」


 学級委員長三人組が叫んでいる中、エドワードは弱々しい声を出す。


「奴隷1号! もし、ワタクシに向かって吐いたら、ぶち殺しますわよ! 分かっていますわよね!?」


 前を進んでいるエレノアは、慌てているようであった。


「いや、そんなことを言われても……おうぇ!」


 エドワードは、なんとか吐き気を抑えているようである。

 その声を聞いた後続の面々が、またしても騒ぎだす。


(うわぁ……エレノアさんの前で良かった。少なくとも、エドワードさんから出るであろうキラキラの上を歩かないで済むし。それにしても、皆、奇襲をする前なのに元気だな。私にも元気を分けてほしいくらいだよ)


 アリアは、後ろの騒ぎを聞きながら、そのようなことを思う。


「はぁ……緊張しろとは言わないけどさ……もうちょっと、緊張感を持っても良いんじゃないかな? 一応、敵の真っただ中を突っ切るワケだし」


 先頭を進んでいるミハイルは、ボソッとつぶやく。


(団長の言う通りだ。とはいっても、私より後ろにいる面々には聞こえていないんだろうな。今は、エドワードさんのキラキラがかかるか、踏むかの瀬戸際だろうし)


 アリアは、ミハイルに置いていかれないよう進みながら、そんなことを考えていた。






 ――10分後。


 アリアたちは、予定よりも早く、坑道の終わりに到着していた。

 それもこれも、エドワードがキラキラを出しそうだったためである。

 なるべく早く、外の空気を吸わせようと、ミハイルは速めに進んでくれたようであった。


「よし! アリア少尉! 出口の隙間から外を観察せよ!」


 ミハイルは、かしこまった口調で命令をする。

 声の感じはいつもと変わらないため、どうやら、面白がっているようであった。


「はい、了解しました」


 アリアはそう返事をすると、ミハイルの横を通り抜ける。

 出口付近は、少し広めに作られているため、できた芸当であった。


(えっと、外は、どんな感じかな……)


 出口を塞いでいる金属製の蓋をずらし、アリアは外をうかがう。

 全体は良く見えないが、少し離れた場所に並んだ兵士の足が見えた。


(……え? これさ、待ち伏せされていない? そうじゃなきゃ、並んだ足なんて見えないよね?)


 そう思ったアリアは、静かに蓋を閉めると、ミハイルのほうに戻る。

 ふたたび、暗闇に戻った坑道を少し戻り、アリアは見たままのことを報告した。


「あ! それは、完全に待ち伏せされているね! 坑道を掘る音が聞こえていたのかな? まぁ、良いや! 予定は変わりないから行こうか!」


「え!? 正気ですか、団長!? 自分から罠に飛びこむ人間がどこにいるんですか!?」


 アリアは、動き出そうとしたミハイルを、急いで引き止める。


「アリア、最強の戦術って知ってる?」


「なんですか、いきなり!? 今は、そんなことを言っている場合ではないと思います!」


「まぁまぁ、そう怒んないで聞いてよ! 最強の戦術ってのはね……」


 ミハイルはそう言いかけると、いきなり動き出し、地面近くにある蓋を殴り飛ばす。

 その瞬間、バンという爆発音とともに、坑道の中に明かりが差しこむ。


「団長! まだ、心の準備ができていませんよ! ああ、もう!」


 しょうがなく、アリアは急いで坑道の外に出る。

 後続の面々も、次々と坑道の外に出ていく。

 そんなアリアたちの周囲には、エンバニア帝国軍の兵士たちがいる状況であった。


「ああ! 普通に待ち伏せされているではありませんの! 最悪ですわ!」


「ああ! やっと、外に出られた! やっぱり、外の空気は最高だね!」


 ステラとエドワードは、正反対の反応をしている。

 学級委員長三人組は、どちらかというと、エドワードよりの表情をしていた。


「……これは、あまりよろしくない状況ですね。というか、絶対絶命の危機では?」


「……なんだか、こんな気がしていましたの。はぁ……世の中、上手くはいきませんわね」


 ステラとサラは、坑道から出るなり、げんなりとした顔をしてしまう。

 ほどなくして、状況に気づいたエドワードと学級委員長三人組が慌て始める。


「団長! それで、最強の戦術ってなんですか!? この危機的状況でこそ発揮するべきものですよね!?」


 自暴自棄になったアリアは、剣を抜いているミハイルに向かって、そう叫ぶ。


「もちろん! 最強の戦術ってのはね、つまり……」


 ミハイルは、一度、言葉をためる。


「つまり、なんですか!?」


 アリアは、すかさずツッコミをした。


「つまり、こういうこと!」


 ミハイルはそう言うと、次の瞬間には姿を消す。

 と同時に、アリアたちを囲む兵士の一角が爆発に巻きこまれたかのように吹き飛ぶ。


(いや、どういうことだよ!? 最強の戦術って、団長が突っこんでいくことなのか!? まったく、分からないよ!)


 居並ぶ兵士が慌てふためいている中、アリアは心の中でツッコミをしてしまう。


「ね? 最強の戦術でしょう?」


 いつの間にか戻ってきていたミハイルは、アリアに向かって、そう言った。


「いや、全然、分かりませんよ! 言葉で説明してください!」


「もう、察しが悪いな! つまり、最強の戦術ってのは、分かっていても、避けようがない攻撃をすることなんだよ! もっと簡単に言うと、近衛騎士団の動きそのものが、最強の戦術ってワケ!」


 ミハイルは、自信に満ちた顔つきをしている。


「ああ、もう! 聞いた私が馬鹿でした! つまり、ゴリ押しをするってことですね!?」


「まぁ、若干、違うけど、その認識で大丈夫だよ! それじゃ、皆、頑張っていこうか!」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔を、アリアたちに向けていた。

 対して、ステラを除いた面々は、鬼気迫る表情をしている。

 皆、なにかを言いたそうであったが、口にはしないようであった。


「とりあえず、皆さん! 団長が斬り開いた道を通りましょう! 周囲にいる敵兵に構っていたら、あっという間にやられてしまいますよ!」


 アリアはそう言うと、動き出したミハイルの後を追う。

 サラたちも、返事をすることなく、追従をする。

 もちろん、その後ろからは、大勢のエンバニア帝国軍の兵士が迫ってきていた。


 そのような状況で、アリアたちは、フレイル要塞の総司令官がいるであろう建物を目指して、走っている。


(くっ! 全然、簡単な任務じゃないよ! いつも通り、というか、いつもよりひどい任務だ! なんだよ、この状況! 最初から待ち伏せされていたせいで、斬っても斬っても、敵が湧いていくる! というか、他の近衛騎士の人たちもヤバいんじゃないのか? 絶対、待ち伏せされているだろう!)


 そう思ったアリアは、側面から突撃してきた兵士を斬り払うと、ミハイルのほうを向く。


「団長! これ、マズくないですか!? 多分、他のところでも、待ち伏せされていますよ!?」


「まぁ、そう考えるのが普通だろうね! でも、多分、大丈夫なんじゃない? ちょくちょく、敵の焦っている声が聞こえるからね! それより、今は、自分たちのことに集中したほうが良いよ! なんせ、敵に追われている最中だからね!」


 ミハイルは、前方にいる敵を蹴散らしながら、そう言った。

 余裕のある口ぶりなので、心配はしていないようである。


「くっ! 分かりました!」


 アリアは、言いたいことをグッと飲みこみ、戦闘を続けた。


(一応、敵の叫んでいる声を聞いてみるか! 実際に自分で確認したほうが良いしな!)


 そう思ったアリアは、周囲の声に集中をする。


 すると、『城門前の守備隊が突破されました!』、『なに!? あれだけの兵士をどうやって突破したのだ!?』、『近衛騎士の勢いが凄まじく、善戦するも、突破されてしまったようです!』、『馬鹿な!? 待ち伏せをしていた部隊はどうなったのだ!?』、『瞬く間に壊滅したようです!』、『それでは、待ち伏せの意味がないではないか!?』


 などと言う声が聞こえてきた。


(どうやら、団長が言っていたのは本当みたいだな。というか、近衛騎士、強すぎだろう。待ち伏せを強引に破るって。エンバニア帝国軍の兵士たちもビックリしただろうな。なんせ、楽勝かと思っていたら、出てきたのが近衛騎士で、しかも、ヤバいくらい強いっていうね。局地戦ってのもあるだろうけど、エンバニア帝国軍にとっては災難なことだ)


 アリアは走りながら、そんなことを思う。


「おい、アリア! 手を動かしてくれ! ただ、走っているだけでは、いる意味がないだろう!」


 エドワードは、鬼気迫る表情でアリアに、そう言った。

 どうやら、ヤバすぎるほどの危機感によって、吐き気がおさまってしまったようである。


「すいません、エドワードさん!」


 アリアは即座に謝ると、周囲にいるサラたちと同様に戦いながら、走り始めた。

 そんなアリアたち一行の最後尾では、『おーほっほっほ! やっぱり、ワタクシの炎の魔法は最高ですわ! 竜騎兵には効かなかったみたいですけど、あなたたちには、良く効くみたいですわね!』などと言っている、エレノアがいる。


(エレノアさん、やっぱり分かっていたんだな……竜騎兵に炎の球が効かなかったこと)


 アリアは、戦いながら、そんなことを思っていた。

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