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92 再会のち危機

 アリアたちの眼前に舞い降りた竜騎兵は、竜から下りると、アリアたちのほうに歩いてくる。


「竜を連れ帰った者から話を聞いて、もしやとは思っていたが、君たちだったとはね」


 竜騎兵たちを率いていたノーマンは、悲しそうな顔をしていた。


「はて? どなたですか? 私にあなたのような知り合いはいませんが」


 アリアたちが驚いている中、ステラはいつも通りの顔をして、知らないフリをする。


(……ステラさん、かなり厳しいのでは? もう、皆、驚いた顔をしているし。それにしても、いつか再会するとは思っていたけど、こんな状況でとはな。まったく、皮肉なものだよ)


 近づいてくるノーマンを見ながら、アリアはそんなことを思っていた。


「ステラーヌ……いや、これも偽名なのかもしれないな。ただ、この期に及んでは、名前など、どうでもいい話ではあるか」


 ノーマンは、知っている前提で話を進めていく。


「単刀直入にお願いします。長い話は、お互いにとって得ではないハズですからね」


 ステラは、表情を一切変えず、本題に入るように促す。


「そのほうが良さそうだな。一応、戦闘中ではあるしね。それじゃ、端的に言うよ。降伏をしてほしい。その軍服から察するに、君たちはアミーラ王国軍の近衛騎士団なのだろう? だったら、実力もあるハズだ。わだかまりは残ると思うが、竜騎兵を倒した罪も働きで十分挽回できるだろう」


 ノーマンは、アリアたちに向かって、そう言い放った。

 瞬間、アリアたちの顔に困惑を広がる。

 聞き耳を立てていた竜騎兵たちはというと、驚いた顔をしていた。


(絶対、殺すほうが楽なのに。私たちは、エンバニア帝国軍の兵士を数えきれないほど殺している。それなのに、降伏をするように言ってくれるのは、優しさからだと思うな。本当に良い人だよ、ノーマンさんは)


 アリアは、剣を構えたまま、表情を引き締める

 そのような状況で、エドワードが口を開く。


「申し出はありがたい! だが、腐っても、僕たちはアミーラ王国軍の近衛騎士団の一員だ! 降伏することはできない!」


 エドワードは、大きな声でノーマンにそう告げた。


「正気かい、エド!? このままだったら、確実に死ぬんだよ!? 降伏すれば、命だけでなく、その後の安全も約束する! だから、おとなしく降伏をしてくれ!」


 ノーマンは、必死の形相で訴えかけている。

 あまりの必死さに、アリアたちは顔を見合わせていた。


(本当に良い人すぎてビックリするよ! 出会い方が違えば、絶対、友人なれたハズだ! エドワードさんなんて、なおさらだろう! でも、降伏はできないよな。私はともかく、皆、それなりの家の貴族だし。エレノアさんとエドワードさんに至っては、4大貴族だからな。降伏したなんて、本国に知られたら、大変なことになるに決まっている)


 アリアは、必死な顔をしたノーマンを見ながら、そんなことを思う。


「……本当に君は良い人だな。もし、僕がただの平民だったら、降伏しても良いかと思う! だが、僕はアミーラ王国の4大貴族であるエドワード・ブラックだ! 誇りにかけて、降伏をすることはできない! 分かってくれ、ノーマン!」


 エドワードは、ついに本名を明かしてしまった。

 隣では、ステラが、はぁとため息をついている。


「アミーラ王国の4大貴族!? 嘘だろう!?」


 ノーマンは、信じられないといった顔をしていた。


「まぁ、そういう反応になるのも当然だと思う! 僕だけではなく、ここにいる者は、ただ一人を除いて、全員、貴族だ! しかも、同じく4大貴族のレッド家の令嬢もいるぞ!」


 エドワードは、ぺらぺらと身元を話してしまう。

 どうやら、死ぬ前まで、嘘をつきたくないようである。


「君たちのほとんどが貴族なのか……この期に及んで嘘をついてもしょうがないしな。たしかに、そう言われてみると、今の君たちからはどことなくそんな感じもする。僕も貴族だから、そういうのは分かるんだ。加えて、レッド家の令嬢もいるのか……)


 ノーマンはそうつぶやくと、サラのほうを向く。


「え? なんですの? やるなら、容赦しませんわよ?」


 サラは、剣を構えたまま、威嚇をする。


「いや、まじまじと見つめて済まない! 君がレッド家の令嬢なのだろう? 以前はなかったようだが、その気品のある巻き髪を見れば、分かるよ!」


「え? 違いますわよ? レッド家の令嬢は、そこの赤い髪をしているエレノアですの」


 サラは、戸惑った顔で、そう答えた。


「……嘘だろう? あんな気品の欠片もない食べ方をしていたのに、君がレッド家の令嬢なのか? てっきり、平民だと思っていたよ!」


 ノーマンは、思ったことを、そのまま口にする。


「キー! 平民は、そこの小さい短髪頭のアリアですわ! こんなにも、気品があるワタクシを平民と間違えるなんて、万死に値しますの! キェェェェェですわ!」


 エレノアはそう叫ぶと、剣を振りかぶり、ノーマンに斬りかかろうとした。


「本当にレッド家の令嬢なのか!? この状況で僕に斬りかかるなんて!? 頭のネジが飛んでいるとしか思えない!!」


 ノーマンは、持っていた槍で迎撃をしようとする。

 だが、体勢が不完全だったために、エレノアの横なぎを受けきれず、弾き飛ばされてしまった。


「くっ! 魔法兵だと聞いていたが、剣術も凄まじいな! もしかして、エドより強いのか!?」


 ノーマンはなんとか体勢を立て直すと、次の攻撃に備える。


「おーほっほっほ! 奴隷1号と一緒にされるなんて、虫唾が走りますわ! 死ぬ前に、ワタクシを馬鹿にした貴方を道ずれにしてあげますの!」


 エレノアはそう叫ぶと、苛烈な攻撃を加えていく。

 ノーマンはというと、完全に押されてしまっており、誰が見ても劣勢であった。

 そのような状況で、呆気にとられていた竜騎兵たちが動き出す。


 ノーマンを救わんと、数騎の竜騎兵がエレノアに向かっていっていた。

 もちろん、その他の竜騎兵たちは、弓に矢をつがえて、アリアたちを狙っている。


(あ。終わったな)


 その光景を見たアリアは、そう直感してしまった。

 瞬間、辺りの光景がゆっくりとし始める。


(エレノアさんは、あのまま竜騎兵の槍に貫かれて死ぬだろうな)


 アリアは、広くなった視界の端にエレノアをとらえていた。

 ノーマンを攻撃するのに夢中で、エレノアは背後から迫る竜騎兵の槍には気づいていないようである。


(エドワードさんと学級委員長さんたちは、剣を構えて、なんとかしようとしている。でも、全方位から一気に射られたら防げないだろうな)


 エドワードと学級委員長三人組は、最後まで諦めていないようであった。


(サラさんとステラさんは、エレノアさんの助けに行っているみたいだ。まぁ、間に合わないだろうな。それでも、助けに行くなんて。思考するよりも先に体が動いているのかな?)


 竜騎兵に向かっていく二人を見ながら、アリアはそんなことを思う。


(さて、最後は私か。一応は、剣を構えているけど、厳しいだろうな。なんせ、手は二本で、後ろに目がついているワケでもないし。ハリネズミになって、この世からサヨナラする以外の選択肢はないな)


 アリアは、自分に向かってくる矢を見ていた。


(まぁ、遅かれ早かれって話ではあったよ。退役まで生き残るなんて、平和なときでもなかったら、難しいからな。ただ、私は間違いなく、運が良い部類だと思うよ)


 なぜか、アリアは、昔のことを思い出してしまう。


(そもそも、軍人になったのも、生きていくあてがなかったからだ。まぁ、とはいっても、なんとか今まで生きてこられた。本当はハミール平原の戦いで死んでいただろうしな。訓練していたとしても、最前線で生き残るのは難しいことだ。しかも、その後、士官学校に合格もできた。良いかどうかはさておき、出来すぎではあったな)


 アリアは、迫りくる矢を迎撃するため、無意識に体を動かしていた。


(はぁ……訓練は裏切らないか。こんなときでも、体は勝手に動くんだからな。空しい限りだよ)


 動いた体は、目の前に飛んできた矢を切り払う。

 だが、アリアに近づいていた矢は、それだけではない。

 四方八方から、矢は射られていた。


(もう振り返らなくても分かるよ。避けられないだろうな。ただ、最後まであがいてみるのも悪くはない)


 アリアは覚悟を決めると、体をひねり、そのまま、剣を横なぎに振るおうとする。


(はぁ……軍人になんて、なるものではないな。最後がハリネズミなんて、死んだ後でも、後悔しそうだよ)


 ヒュンと耳元を掠めた矢を気にせず、アリアはそんなことを思っていた。






「ちょっと、殺されると困るかな。近衛騎士団の士官には、あまり替えがいないからね」


 ボソッとつぶやくような声が聞こえた後、広場の中心が爆発をする。


「え!? なに!?」


 なにが起こっているのか分からないまま、アリアは押し寄せてくる土砂に飲みこまれた。

 アリアだけではない。

 覚悟を決めていたサラたちも、地面近くにいた竜騎兵たちも押し流されていく。


 アリアたちに向かって矢を射っていた竜騎兵たちは、すぐに上昇をしていた。

 そのおかげで、土砂に飲みこまれはしなかったようである。

 しばらくすると、土煙がおさまり、なにが起こったかが確認できるようになった。


「ぺっぺっ! 口の中に土が入りましたわ! 一体、なにが起こりましたの!?」


「……よく分かりませんけど、生きているのはたしかみたいですね」


 エレノアの下に向かっていたサラとステラが立ち上がる。

 もちろん、軍服にも顔にも、土がついてしまっていた。


「まったく……一体、なんなんだ? いきなり広場が爆発したように見えたが……」


 土砂に埋もれていたエドワードは、這い出ると、軍服についていた土を払う。

 学級委員長三人組も、髪についた土やら小石やらを、手でとっていた。


(サラさんたちは大丈夫だったみたいだな。というか、なんで、いきなり爆発なんて起きたんだろう?)


 土砂の上に立ったアリアは、広場の中心に目を向ける。

 陥没した広場の中心には、頭から土を被って、薄汚れたミハイルがいた。


「ああ、もう! 本当に最悪だよ! このままだと、僕の美麗な肌がガサガサになってしまう!」


 などと言って、ミハイルは、懐から取り出したハンカチで顔をゴシゴシしている。


「団長!! もしかして、私たちを助けてくれたんですか!?」


 アリアは、土砂の上を走って、ミハイルに近づく。

 土がついたままのサラたちも、アリアの後を追う。


「いや、天幕の近くで竜騎兵が旋回しているのが見えたから来ただけだよ! そうしたら、ビックリ! 君たちが倒されかけているじゃないか! だから、竜騎兵を追い払うついでに助けてあげたってワケ!」


 ミハイルは、近づいてきたアリアたちに向かって、そう言った。

 そんな中、辺りを旋回していた竜騎兵たちが、弓に矢をつがえる。

 どうやら、アリアたちを倒そうとしているようであった。


「はぁ……土まみれになった上に、血まみれになるのは勘弁なんだけどな……」


 ミハイルはため息をつくと、剣を抜き、動き出そうとする。

 そのような状況で、大きな声が響く。


「総員、弓に矢をつがえるのはやめろ! 死ぬぞ!」


 土砂から這い出てきたらしいノーマンは、竜騎兵に聞こえるよう、指示を出す。

 その声が聞こえたのか、竜騎兵たちは困惑しながら、矢を矢筒に戻していた。


「お! ノーマン君! 久しぶりだね! 元気にしてた?」


 ミハイルは、ノーマンに気づくと、笑顔で話しかける。


「ミルさん、お久しぶりです! まさか、このような形で再会するとは思いませんでしたよ!」


 対して、ノーマンは土まみれのまま、険しい顔をしていた。


「ミル? ああ、僕の偽名ね! 本当の名前は、ミハイル・ホワイトだから覚えておいてよ! それにしても、良い判断だったね! 止めていなかったら、ノーマン君の小隊の竜騎兵たちは、今頃、死んでいたよ!」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔で、少し離れた場所にいるノーマンを見ている。


「アミーラ王国の近衛騎士団長にお褒めいただき、光栄です! トランタ山にいた理由も、これで察しがつきました! 道理で、防御陣地が、あっという間に陥落したワケですね!」


 ノーマンは、納得したような顔をしていた。


(さすがにバレたか。というか、今、現在、危機的状況には変わりない気がする。団長は、どうするつもりなんだろう?)


 アリアは、周囲を警戒しながら、そんなことを思う。

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