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90 素晴らしい囮

 アリアたちは、ハインリッヒがいる天幕から少し離れた場所で、戦闘を続けている。

 もう少し正確に言うと、竜騎兵から逃げ回りながら、戦闘をしていた。


「あああああ! 誰か、助けてくださいまし! このままだと、死にますわああああ!」


 エレノアは、森の中を走りながら、叫んでいた。

 上空には、多数の竜騎兵がいる。

 その竜騎兵たちは、エレノアに向かって矢を射っていた。


 もちろん、竜も、炎の球を吐いて援護をしている。


「ぷふぅ! 自分から囮役をするなんて、さすがですね! 皆さん、エレノアの死を無駄にしないようにしましょう!」


 ステラは、珍しく笑顔になっていた。

 竜騎兵を倒したため、エレノアとステラは、他の竜騎兵に狙われる。

 だが、いつの間にか、エレノアだけが追われている状況になっていた。


 どうやら、ステラは、どさくさに紛れて、エレノア一人に竜騎兵を押しつけたようである。


「ふざけんじゃありませんわよ、ステラ! もし、ワタクシが死んだら枕元に出てやりますの! 一生、耳元でわめき続けてやりますわ!」


 エレノアはそう叫ぶと、走りながら、左手だけを後ろに向けた。

 その直後、炎の球を連発し始める。

 竜騎兵はというと、当たらないように回避行動をとった。


 一応、竜に当たっても大丈夫だが、万が一を考えての行動であるようだ。


「エレノア! 竜騎兵を狙いづらくなったではありませんか! 今すぐ、魔法をとめてください!」


 ステラは、弓を持って狙いをつけながら、そう叫ぶ。


「できるワケありませんの! そんなことより、早く、後ろの竜騎兵をどうにかしてくださいまし! 本当にヤバいですの!」


 追撃が緩まったため、エレノアには少しだけ余裕ができているようであった。

 そんな中、木々に隠れながら、矢を射っているサラが口を開く。


「そういえば、全然、ワタクシたちのことを狙ってきませんわね! なにか、理由があるのかしら?」


「多分、エレノアが竜騎兵を倒したせいですね。優先順位を考えてのことだと思います。エレノアの次は、きっと、私が狙われますよ。あと、森を動き回っている私たちより、今、追いかけているエレノアを確実に始末しようと思っているのでは?」


 いつの間にか、近くにきていたステラは、冷静に分析をしていた。


「まぁ、エレノアには悪いと思うが、このまま囮になってもらおう。僕たちが正面から挑んでも、一方的にやられるだけだからな」


 エドワードはそう言うと、竜騎兵の移動する場所を予測して、矢を射る。

 だが、竜騎兵は上下左右に動いているため、竜の鱗に当たり、あえなく弾かれてしまう。


(いや、やっぱり、走りながら矢を射るのは無理があったな。息が乱れて、狙いがぶれるし。しかも、複雑に動いているから、兵士だけを射るのは至難の業だ。かといって、近接戦闘はしてくれなさそうだしな。まぁ、近接戦闘でも厳しそうだけど)


 アリアは、次々と矢を射ながら、そんなことを思ってしまう。

 そんな中、アリアたちの誰かが射た矢が竜騎兵に命中をする。

 しかも、首に当たっていたため、かなり有効な一撃であった。


「おお! さすが、2組の学級委員長さん! 学級対抗戦で弓兵隊を指揮していただけはありますね!」


 アリアは、すぐ近くにいた2組の学級委員長だった人を褒める。

 サラたちも、走りながら、口々に褒めていた。

 当の本人はというと、久しぶりに褒められたのか、凄く照れている。


「くっ! 僕だって、できるハズだ! なんたって、4大貴族ブラック家の一員だからな!」


 エドワードはそう言うと、今まで以上に頑張って矢を射っていた。

 どうやら、2組の学級委員長だった人に対抗心を燃やしているようである。

 残りの学級委員長だった二人も、負けじと矢を射続けた。


 結果、執拗に狙われ続けた三騎の竜騎兵が、アリアたちのほうに進路を変えて、向かってくる。

 エレノアを追うより、鬱陶しさのほうが勝ったようであった。


「なにしてますの、エドワード!? こっちに竜騎兵が来ていますわ! まったく、余計なことをしないでくださいまし!」


「エドワードさん? せっかくエレノアが良い感じに囮をしていたのに、どうしてくれるんですか? あまりふざけたことをしていると、丸ハゲにしますよ?」


「ちょっと、エドワードさん! 困りますよ! これじゃ、エレノアさんの犠牲が無駄になりますって! ただの犬死にですよ!」


 サラ、ステラ、アリアは、エドワードのほうを向くと、怒った声を出す。


「なんで、僕だけ怒られるんだ!? 彼らも、同罪じゃないのか!?」


 エドワードはそう叫ぶと、学級委員長だった二人のほうを向く。

 当の本人たちはというと、すでに剣を抜き、迎撃の体勢をとるよう、エドワードに促していた。


「くっ! 今、言い争いをしている暇はないか! なんだか釈然としないが、とりあえず、切り抜けるしかないな!」


 エドワードは、モヤモヤとした顔をしながら、剣を構える。

 アリア、サラ、ステラは、すでに剣を構え、いつでも戦えるようにしていた。


 そんな状態のアリアたちの耳に、『おーほっほっほ! ワタクシを囮にしたバツですわ! 串刺しにされると良いですの! 特に、暴力女は竜に食われて死ぬのを望みますわ!』などという声が聞こえてくる。


「チッ! あとで、お馬鹿さんを殺すのは確定ですね。誰だか分からないよう、顔面を潰すのも、忘れないように覚えておきましょう」


 ステラは、眉間にしわを寄せると、物騒なことを口にする。


(やっぱり、全然、仲良くなってなかったな。さっきは息ぴったりの連携をしていたのに。剣術の相性は、かなり良いと思うんだけどな)


 物騒なことを耳にしたアリアは、そんなことを思ってしまう。

 そうこうしているうちに、アリアたちのすぐそばまで、三騎の竜騎兵が迫ってきていた。

 手に持った槍で、勢いをつけて、そのまま串刺しにしようと考えているようである。


「サラさん、足止めをお願いします!」


「サラさん、トランタ山で鍛えた腕力を見せるときが来ましたよ」


 そんな中、アリアとステラはそう言うと、竜の進んでくるであろう直線状から退避をした。


「ちょっと!? もしかして、ワタクシを囮にするつもりですの!? ひどいですわ!」


 もちろん、サラは、激怒をする。


「違います! サラさんを信じての行動です!」


「そうですよ。自分の腕力を信じてください。竜騎兵の一撃を受け止められるのは、サラさんしかいませんよ」


 アリアとステラは、剣を構えながら集中をしていた。


「もう、怒りましたの! こうなったら、竜騎兵の一撃を受け止めて、伝説になってあげますわ!」


 サラはそう叫ぶと、突っこんでくる竜騎兵に向かい合う。

 どうやら、半ば、自暴自棄になっているようである。

 その横では、エドワードと学級委員長だった二人が剣を構え、無謀にも受け止める態勢を整えていた。


 2組の学級委員長だったはというと、そんな三人の後ろで弓に矢をつがえている。

 そんなアリアたちに、先行していた二騎の竜騎兵がそれぞれ突っこんでいく。

 もちろん、勢いのついた状態で、槍を突き出していた。


「ふぉぉぉぉ! 絶対、しのいでみせますのおおおお!」


 サラは、衝突する直前にそんな声を叫ぶ。

 近くにいるエドワードたちも、思い思いの声を上げていた。

 瞬く刹那、サラたちは竜騎兵と激突をする。


「うわぁぁぁぁですわ!」


 結果、サラは、叫び声を上げながら、森の中を凄まじい勢いで飛んでいくことになった。

 エドワードたちも、サラほどではないが、相当な距離を飛ばされてしまう。

 そんな中、アリアとステラは動いていた。


「サラさん、今です!」


「分かっています!」


 サラが作り出した一瞬の隙を二人は見逃さない。

 アリアとステラは、サラを弾き飛ばした竜騎兵に向かって、同時に横なぎを放つ。

 ブンという風切り音が、竜騎兵を襲う。


 竜騎兵は、なんとか反応しようと動いているが、勢いがついているため、逃れることはできなかった。

 二人の横なぎは、首と胴体に吸いこまれ、竜騎兵に致命傷を与えることに成功する。

 だが、喜びの声を上げている暇はなかった。


「うわぁぁぁ! これ、どこまで飛ばされるんですかあああ?」


「くっ! さすがに、無傷とはいきませんでしたか!」


 竜騎兵を倒した代償として、アリアとステラは、木々の枝を折りながら飛ばされてしまう。

 攻撃をしたときに、竜に接触してしまったせいであった。

 時間にして数秒後、アリアとステラは、地面に着地し、ゴロゴロと転がっていく。


(竜騎兵一騎を倒すのに、このザマか。今みたいな攻撃を繰り返していたら、確実に死ぬな。とりあえず、今は、エドワードさんたちの状況を確認したほうが良いか。死んでいる可能性もあるしな)


 そんなことを思ったアリアは、痛む体を引きずりながら、急いで、エドワードたちの下に戻る。


「皆さん、大丈夫ですか!?」


 先ほど戦った場所に戻ったアリアは、大きな声を上げた。


「アリアも大丈夫だったか。どうやら、これで、全員、なんとか切り抜けたみたいだな」


 木にもたれかかっていたエドワードはそう言うと、立ち上がる。

 すでに、その周囲には、サラとステラも駆けつけていた。

 近くには、アリアとステラが倒した竜騎兵と眉間に矢が刺さった竜騎兵がいる。


 どうやら、2組の学級委員長だった人が倒したようであった。


(とりあえず、全員が生きていて良かった。なんだか、足りない気がするけど、気のせいだろう。そういえば、もう一騎、竜騎兵は残っているハズだけど、どこに行ったのだろう?)


 疑問に思ったアリアは、上空を眺める。

 そんなアリアに、エドワードが話しかけた。


「残りの一騎は、主がいなくなった竜を連れて、どこかへ行ったぞ」


「え? それって、撤退してってことですかね?」


「それは分からない。だが、上空にいた竜騎兵が見当たらないのも事実だ。もしかすると、倒されすぎて、撤退したのかもしれないな。竜は貴重だと言われているし、このようなところで失うのは勿体ないと考えていても不思議ではない」


 エドワードは、推察を口にする。

 そんな中、囮になっていたエレノアがアリアたちの下にやってきた。


「おーほっほっほ! 無様な姿ですわね! ワタクシを囮にしたバツですの!」


 土まみれのエレノアは、木の枝やらなんやらがついているアリアたちを見て、高笑いを上げる。


「あ!! エレノアさん、無事だったんですね!! あんなに攻撃されている中、帰ってくるなんて、さすがです!!」


 アリアは、エレノアの機嫌を損ねないよう、褒めたたえた。

 学級委員長三人組も、大袈裟ともいえるくらい、褒めまくる。


「そういえば、エレノア。追いかけていた竜騎兵はどこに行ったんですか? まさか、全騎、倒したワケではありませんよね?」


 対して、ステラは、落ちついた声で質問をした。


「おーほっほっほ! 竜騎兵たちは、ワタクシの魔法に恐れをなして逃げ出しましたの! ほら! ステラも、ワタクシの偉業をたたえなさい!」


 エレノアは、褒められたことで機嫌を良くしたようである。


「ワァ! サスガ、エレノア! スゴイ、スゴイ!」


 ステラは、思いっきり棒読みで、そう言った。


「キー! なんですの、その演技は!? 絶対、馬鹿にしていますわ! もう、怒りましたの!」


 エレノアは怒り出し、剣を抜こうとする。


「なんですか、エレノア? もしかして、死にたいんですか? せっかく拾った命を無駄にするなんて、本当に馬鹿ですね」


 ステラも、持っていた剣をエレノアに向けた。


「ああ、もう! 最近は表面上、仲良くなったと思ったら、これか! 一応、まだ戦闘中なんだからやめろ!」


 エドワードは、いつも通り、エレノアを羽交い絞めにする。

 学級委員長三人組も、エドワードに協力をしていた。


「奴隷1号、放しなさい! 今日こそ、あの暴力女をけちょんけちょんにしてやりますの!」


 エレノアは、なんとか抜け出そうと暴れ回っている。

 だが、抜け出すことはできず、そのまま、エドワードに引きずられていった。


「ほら、ステラさんも行きますよ! 今のうちに、矢を補充しておきましょう!」


「そうですの! ケンカはあとでいくらでもできますわ!」


 アリアとサラはそう言うと、それぞれ腕を持ち、ステラを引きずっていく。


「お二人とも、放してください。お馬鹿さんは、今、あの世に送っておいたほうが良いと断言をします」


 ステラはというと、落ちついた声で、物騒なことを言っていた。

 アリアとサラは、その声を無視すると、矢が積まれている場所まで、強引にステラを連れていく。

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