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89 竜騎兵の戦い方

 ――近衛騎士団が後方へ退却してから、1時間後。


 太陽が姿を現わし、辺りを照らす中、アリアたちはミハイルの近くにいた。

 現在、近衛騎士団は、後方にて、フレイル要塞攻略軍の指揮官たちを守るために展開している。


 そんなワケで、アリアたちは、本来の任務であるハインリッヒの護衛に戻っていた。


「はぁ……夜中は大変でしたね。まさか、味方から攻撃されるとは思いませんでいたよ」


 アリアは、疲れた顔で、フレイル要塞のほうを眺める。

 そこでは、現在進行形で、ミハルーグ帝国軍がフレイル要塞を攻めていた。

 だが、猛烈な矢と炎の球の攻撃に阻まれ、まったく近づけていない状況である。


「本当ですわ……でも、フレイル要塞を攻めようとしたときが一番ヤバかったですの。高所から矢と炎の球が、正確に飛んできて死ぬかと思いましたわ」


 サラは、フレイル要塞のほうを見ながら、かなり渋い顔をしていた。


「まぁ、城攻めは、どんな方法をとっても難しいですからね。相当な時間、兵力、軍需物資を投入しないと、陥落させることはできないでしょう」


 対して、ステラはいつも通りの顔をしている。

 そのような会話を三人がしていると、エドワード、エレノア、学級委員長三人組が近づいてきた。


「君たち、無事だったか! 良かった、良かった! あの乱戦を生き残るとは、さすがだな!」


 アリアたちの無事を確認したエドワードは、笑顔を浮かべる。

 だが、疲れているのか、笑顔の中に少しかげりが見えた。

 学級委員長三人組も、エドワードと似たような表情をしている。


「エドワードさん! 姿が見えないので、死んだのかと思いましたよ! まぁ、打たれ強さがエドワードさんの持ち味なので、殺しても死なないとは思いますけど!」


「意外ですわ、エドワード! 生き残っているなんて! 死んだと思いましたの!」


「お二人とも、心配しすぎですよ。エドワードさんは弱いですけど、腐っても、近衛騎士団の一員ですからね。さすがに、大丈夫だと思っていました」


 アリア、サラ、ステラは、順番に思ったことを言ってしまう。


「……君たち、僕をいじめて、そんなに楽しいかい? いくら、打たれ強い僕でも、悪口には耐えられないよ」


 エドワードはそう言うと、シュンとなってしまった。

 そんな様子を見かねた学級委員長三人組が、急いで慰めの言葉をかける。


「おーほっほっほ! なにを言っていますの、奴隷1号! ワタクシがいなければ、死んでいましたわよ! ゴキブリみたいにカサカサ動き回っていて、滑稽でしたの!」


 邪悪な笑みを浮かべたエレノアは、追撃をした。


「そうか……僕はゴキブリなのか……そんなにカサカサ動いていたんだな……」


 エドワードは、さらに落ちこんでしまう。

 学級委員長三人組は、さらに慰めの言葉をかけていた。

 そんな中、騒いでいるアリアたちの下にミハイルがやってくる。


「君たち、元気があるね! やっぱり、若いからかな? 僕も、あと10歳くらい若かったら、君たちと同じくらい体力が残っていそうなものだけど! まぁ、そんなこと言っても仕方がないか!」


 ミハイルはそう言うと、ふわぁとあくびをしていた。


(団長でも、疲れることなんてあるんだ。それほど、昨日は大変だったんだな。近衛騎士団の指揮をするのは、最前線で戦うことよりツラいのか、どうかは分からないけど。一応、どんな感じで動いていたのか、聞いておいて損はないな)


 そう思ったアリアは、ミハイルのほうを向く。


「団長! 夜はどんな感じで動いていたんですか? やっぱり、近衛騎士団の指揮は大変ですよね?」


 アリアは、何気ない感じを装って、質問をする。

 その声を聞いたサラたちも、興味があるのか、騒ぐのをやめて、ミハイルのほうを向く。


「大変といえば大変かな! まぁ、でも、最前線で戦うのとは、また違った大変さだよね! 昨日の夜は、久しぶりにヤバいと思ったよ! なんせ、前線の状況が一切上がってこなかったからね! ハインリッヒ殿とかキレそうになりながら、ミハルーグ帝国軍を指揮してたよ!」


 ミハイルは、一度、一呼吸を置く。


「まぁ、そんなワケで、佐官級の人たちに最前線まで走ってもらうことになってしまったね! あまり本部で動いている人たちを直接動かすのは、良くないんだけど、事情が事情だからしょうがない! それで、前線の状況を把握できて、ある程度、細かい指示ができたから良かったよ! 結果、防御陣地も全て陥落させられたしね! まぁ、ザックリだけど、こんなところかな? まぁ、細かい動きは、あとで落ちついたら、本部にいた人たちに聞いておいて!」


 ミハイルは、細かいことを説明してもしょうがないと思っているようであった。


(実際、細かいことを説明しだしたらキリがないと思うしな。それに、まだ戦闘も終わってないから、ゆっくりと説明するワケにもいかないか。まぁ、前線の状況が届かないとヤバいことになるのが分かっただけ、マシだと思うことにしよう)


 そう思ったアリアは、改めて、ミハイルのほうを向く。


「団長、ありがとうございます! 前線の状況を伝えるのが、いかに大切かを学べました!」


「いや、ごめんね、こんなザックリで! 細かいことを言い出したら、長くなってしまうからさ! というか、君たち、そろそろ準備を始めたほうが良いよ!」


 ミハイルはそう言うと、フレイル要塞のほうを指差す。

 アリアたちは、指差す先を確かめようと、顔を向ける。

 その瞬間、全員の顔が険しくなってしまった。


「とうとう、竜騎兵が出てきましたね……こっちに来るかは分かりませんけど、団長の言う通り、いつでも戦えるようにしておいたほうが良いのは間違いないです」


 アリアは、剣を抜くと、フレイル要塞の上空をにらみつける。

 そこでは、赤い体をした竜が、多数、羽ばたいているのが見えた。


「とうとう、このときが来ましたの! トランタ山で鍛えた腕力を発揮しますわ!」


 サラは、二の腕を叩くと、剣を抜いて構える。


「竜は、口から炎の球を吐いてくるらしいですよ。しかも、騎乗している兵士は、上空から矢を射ってくるので、要注意ですね」


 ステラは、一応と言った感じで、周りに聞こえるよう声を出す。


「おーほっほっほ! 竜なんて、恐くありませんわ! ワタクシの魔法で黒焦げにしてあげますの! 今日の夜ご飯は、竜の丸焼きに決まりですわ!」


 エレノアはというと、余裕のある表情をしている。


「エレノア、知らないのか? 竜に炎の球は効かないぞ! 騎乗している兵士はともかく、竜の鱗は熱に対する耐性が高い! しかも、生半可な攻撃では通らないほど、堅い! だから、竜騎兵と戦うときは、急降下してきたところを狙うんだ! それか、矢で兵士を狙うかのどちらかだぞ!」


 エドワードは、そこら辺に置いてある弓矢を見ながら、注意をした。

 学級委員長三人組も、弓の弦が切れていないかを確認しつつ、ウンウンとうなずく。


「も、もちろん、分かっていますの! ワタクシが弓もできるところを見せてあげますわ! 目を見開いて見ていなさい、奴隷1号!」


 エレノアはそう言うと、急いで、置いてある弓の確認をする。


(エレノアさん、知らなかったんだ……さては、ここに来る前にやった説明会で寝てたな。そうじゃなきゃ、知らないなんて有り得ない話だし。そんなことより、エドワードさんは大丈夫かな?)


 アリアは、エドワードの様子をうかがう。

 当の本人はというと、矢などの確認などに精一杯のようであった。


(見ている感じは大丈夫そうだな。実際、どう思っているかは分からないけど)


 アリアは、横目で確認しつつ、同様に矢などを確認する。

 そんな中、ミハイルが動き出す。


「それじゃ、僕はハインリッヒ殿のところに戻るから、竜騎兵は頼んだよ! 天幕に近づけないようにしてね!」


 ミハイルはそう言うと、木々で隠された天幕に歩いていく。


(さて、今度は厳しそうだけど、どうなるかな?)


 アリアは、フレイル要塞の上空にいる竜を見ながら、そんなことを思う。






 ――30分後。


 アリアたちは、竜騎兵を迎え撃つ準備を整え、フレイル要塞のほうを眺めていた。


「竜騎兵って、ヤバいんですね。ここから見えている範囲だけでも、戦うのは大変だと分かりますよ」


 アリアは、ボソッとつぶやく。

 現在、フレイル要塞から出撃した竜騎兵たちは、前線を荒らし回っている。

 フレイル要塞を攻めているミハルーグ帝国軍の兵士たちに向かって、矢やら、炎の球やらを放ち続けていた。


 そのため、アリアたちのいる場所からでも、大混乱に陥っているのが確認できる。


「前線の兵士も矢を射っているようですけど、厳しそうですわ。竜騎兵が速すぎて、かすりもしていませんの」


 サラは、キョロキョロとしながら、そう言った。


「しかも、隊列が崩れた瞬間、竜騎兵が急降下して来ますしね。もう、それで、隊列は完全に崩壊しますよ。あとは、各個撃破をされるだけですね」


 ステラは、冷静に状況を分析している。


「あれと戦うのは、無理な気がするぞ。獅子軍団とは、また違った絶望を感じるな」


 エドワードは、竜騎兵のあまりの強さに、ドン引きしてしまっていた。

 学級委員長三人組も、ドン引きしながら、前線のほうを眺めている。


「おほほ……ワタクシ、ちょっと、用事を思い出しましたわ。すぐに戻ってくるから、待っていてほしいですの」


 エレノアはボソッとつぶやき、忍び足で逃げ出そうとした。

 そんな中、ミハイルがやってくる。


「うん? エレノア、そんな忍び足でどうしたの? まさか、逃げようとはしていないよね?」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔で尋ねた。


「も、もちろんですの! 竜騎兵に勝てるワケないなんて、思っていませんわ! よし! やる気が出てきましたの!」


 エレノアはそう言うと、弓を手に持ち、戦う意思を示す。


「良かったよ! 敵前逃亡は、軍法会議の上、死刑だからね! まぁ、そんなことより、そろそろ、来そうだよ! 君たちの健闘を祈る!」


 ミハイルは、フレイル要塞の上空を確認すると、そのまま、天幕へ戻っていった。

 アリアたちは、前線のほうに目を戻す。


「うわ! こっちに竜騎兵が来ていますよ!」


 アリアは指差しながら、大声を出す。

 指差した先では、現在進行形で、竜騎兵たちが迫ってきていた。

 どうやら、指揮官などを直接叩こうとしているようである。


 アリアたちは、木々に隠れながら、様子をうかがう。

 数分後には、アリアたちのすぐ近くの上空に、竜騎兵たちがやってくる。


(よし! 気づかれていないみたいだな! これなら、矢で落とせるかもしれない!)


 木々に隠れていたアリアは、手を縦に振り、矢を一斉に射る合図を出す。

 その合図を見たサラたちは、一斉に矢を放つ。

 ビュンという風切り音が、重なって聞こえる。


 竜騎兵たちはというと、突如、飛んできた矢に驚いているようであった。

 当然、回避は間に合わず、サラたちの放った矢の一つが竜騎兵に命中した。

 結果、竜騎兵の一人が落下してくる。


「やりましたの! きっと、当たったのはワタクシの矢ですわ!」


 エレノアはそう言うと、跳び上がらんばかりに喜んでいた。


「いえ、私の矢ですよ。エレノアの矢は変なところに飛んでいったのを見ました」


 すかさず、ステラがツッコミをする。

 その後、すぐに二人は口論を始めた。


「二人とも、やめるんだ! 竜騎兵が来るぞ!」


 エドワードは、弓を背中にかけ、急いで剣を抜く。

 目線の先には、急降下してくる竜騎兵たちがいた。

 どうやら、アリアたちが木々に隠れているので、矢ではなく、直接攻撃しようと考えたようである。


 その声を聞いたステラとエレノアは、すぐにケンカをやめると、剣を抜く。

 もう、その頃には、二人の目前に竜騎兵が迫っていた。


「くっ! ワタクシに向かってくるなんて、良い度胸ですの! すれ違いざまに斬り捨ててあげますわ!」


「お馬鹿さんとの共同作業なんて反吐が出ます。ただ、そうも言っていられない状況ですね」


 エレノアとステラは、剣を構えると集中をする。

 そんな二人に向かって、勢いをつけた竜騎兵が突っこんできた。


「はえええええ!」


「ふっ!」


 エレノアとステラはギリギリまで引きつけると、剣を振りながら、横に思いっきり飛び跳ねる。

 まさか、避けられると思っていなかったのか、竜騎兵は反応できなかったようであった。

 結果、二人の剣は、竜騎兵の喉に命中し、勢いで首を刎ね飛ばす。


 主を失った竜はというと、そのまま、二人の横を通り過ぎると、どこかへ行ってしまう。


(凄いな、あの二人! 仲は悪いけど、意外と一緒に戦うのはいけるのかも! この調子で、どんどんと竜騎兵を倒していってほしい!)


 他力本願なアリアは、そんなことを思っていた。

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