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88 味方からの攻撃

 ――近衛騎士団が削り取った防御陣地に布陣してから、1時間後。


 突如、辺りに銅鑼の音が響き渡る。

 と同時に、大きな喚声が聞こえてきた。


「うわ! エンバニア帝国軍が攻めてきましたよ!」


 アリアは急いで剣を抜くと、前方を指差す。

 そこでは、エンバニア帝国軍の防御陣地からどんどんと兵士が向かってきていた。

 空からは、矢と炎の球が飛んできている状況である。


「ああ、もう! まさか、本当に来るとは思いませんでしたの! しかも、見た感じ、相当な数の兵士がいますわ!」


 サラも大きな声を上げると、剣を構える。


「本気で奪還しにきていますね。これは激戦になりそうな予感がしますよ」


 ステラは、いつも通りの顔をしていた。

 興奮しているアリア、サラと違い、冷静なようである。


「おい! お前たち! 私から離れるなよ! 途中ではぐれても、探す余裕はないだろうからな!」


 フェイはそう言うと、周囲にいた第2中隊の近衛騎士たちに大きな声で指示をしていく。


(はぁ……なんか、久しぶりだな、この感じ。ハミール平原で戦っていたときは日常だったけど、まさか、士官になっても、最前線で戦うことになるとは思わなかったよ。普通だったら、最前線から少し離れた場所で、小隊長として指示をしていただろうにな)


 アリアは、エンバニア帝国軍の喚声に負けないよう、大きな声を上げながら、そんなことを思っていた。

 走り出した先には、エンバニア帝国軍の兵士たちがいる。


 空から炎の球が降り注いでいるおかげで、周囲はそれなりに明るい状況であった。


「うわ! 昼間と違って、飛んでくる矢が見づらいですの! 炎の球の明かりがなかったら、ほとんど見えなかったと思いますわ!」


 サラは、エンバニア帝国軍の兵士を倒すと、そんなことを叫ぶ。

 周囲には、第2中隊の近衛騎士たちが展開しており、凄まじい勢いで敵を倒していっていた。


「しかも、夜だから、昼間より狙いが甘いですしね。そのおかげで、避けるのも簡単ですよ。ただ、それは味方にも言えることですけどね。サラさん、ちょっと動かないでもらえますか?」


 ステラはそう言うと、サラの背中側に移動する。


「へ? なんですの、ステラ?」


 戦闘中にも関わらず、サラはキョトンとしていた。

 ステラは、そんなサラを気にせず、剣を振るう。

 その瞬間、パシュンと炎の球を切り払った音が聞こえてくる。


「サラさん、危なかったですね。炎の球が当たっていたら、今頃、丸焦げになっていましたよ」


 飛んでくる矢を斬り払いながら、ステラはいつも通りの声を出す。


「え!? なんで、後ろから炎の球が飛んできますの!? ワタクシは敵ではありませんわよ!」


 サラはというと、プンプンと怒りながら、矢に当たらないようにしている。


「というか、私たちの周囲に味方の矢と炎の球が落ちてきていますよ!? いったい、どうなっているんですか!?」


 前方と後方から飛んでくる矢と炎の球に対処しつつ、アリアは大きな声で叫ぶ。


「多分、暗くて良く見えていないんですよ。一応、矢と炎の球を観測している人はいると思うんですけど、離れた場所にいますからね。味方がどこまで進んでいるかが見えていないみたいですよ。しかも、暗がりで目測も狂っているでしょうしね」


 ステラは、向かってくる兵士を倒しながら、冷静に状況を分析していた。


「ああ、もう! 後ろにも気をつけないといけないなんて! これじゃ、戦いになりませんよ!」


 アリアは、前に後ろに体を動かしながら、なんとか飛んでくる矢と炎の球を斬り払っている。


「あああああ! 矢が髪をかすりましたの! せっかく、エバーで元の長さに戻ったのにあんまりですわ!」


 サラは、剣の切っ先を空に向け、ブンブンと振り回していた。


「くっ! 第1、2小隊は、このまま前進! 第3小隊は前方から、第4小隊は後方から飛んでくる矢と炎の魔法を防ぐのに専念をしろ! ともかく、動け! このままだと死ぬぞ!」


 フェイは、周囲に聞こえるよう、大きな声で叫ぶ。

 その指示が聞こえたのか、各小隊長は細かな指示を飛ばす。

 第2中隊の近衛騎士たちは、戦いながらも、迅速に反応し、指示された行動をとる。


(よく、こんな混乱した状況で動けるな! 私が、前いた部隊だったら、こうはいかないハズだ! やっぱり、各人の実力が高いから、その分、余裕があるんだろうな! さすが、精鋭部隊!)


 アリアは、フェイの周囲で、飛んでくる矢と炎の球を斬り払いながら、そんなことを思う。

 サラとステラも、アリア同様、フェイが指揮に専念できるよう、動き回っている。

 その後、態勢を整えた第2中隊は、ゆっくりではあるが、前進を始めた。


「よし! いいぞ! そのまま、前進を続けろ! ともかく、味方の矢と炎の球が飛んでくる範囲から出るんだ! まったく、味方の攻撃で死ぬなんてシャレにならないぞ!」


 フェイは、指示を出しながら、愚痴を言ってしまう。

 そうこうしているうちに、しばらく進んでいると、フェイの先輩方三人組が現れる。


「先輩方!? どうして、ここに!? たしか、団長の指揮の補佐をしてたのでは!?」


 フェイは驚きながら、先輩方三人組に尋ねた。

 先輩方三人組はというと、急いで、事情を説明し始める。

 アリア、サラ、ステラは、近づいてくるエンバニア帝国軍の兵士と飛んでくる矢と炎の球を防ぎつつ、会話に耳を傾けていた。


(どうやら、現状の確認をするために、団長が派遣してきたみたいだ。全身、返り血まみれだし、現地で戦っている中隊長全員に聞いて回っているだろうな。佐官なのに、最前線まで来ることになるなんて、大変そうだ)


 アリアは、チョロチョロと動きつつ、そんなことを考えてしまう。

 フェイはというと、プンプンと怒って、状況を報告している。

 先輩方三人組は、その報告を聞きながら、落ちつくように、なだめていた。


 しばらくすると、報告が終わり、フェイは指揮をするのに戻る。

 と同時に、先輩方三人組は、どこかへといってしまう。


(とりあえず、味方側から飛んでくる矢と炎の球をなんとかしてほしいよ! こんな状態では、戦いにならない! フェイ大尉の先輩方、頼みますよ!)


 アリアは、走り去っていく先輩方三人組を見送りつつ、そんなことを思っていた。






 ――先輩方三人組が去ってから、30分後。


 味方側から飛んでくる矢と炎の球が、アリアたちの遥か前方を目指して飛んでいくようになっていた。

 どうやら、先輩方三人組が、なんとかしてくれたようである。


「ふぅ! やっと、味方の矢と炎の球から解放された! これで戦いに専念できるぞ! まったく、味方の攻撃に、こんな手こずることになろうとはな! まぁ、もう終わったことだから、考えるのをやめよう!」


 フェイはボソッとつぶやくと、周囲にいる小隊長に指示を出していく。


(あんなものないほうが良いからな。とりあえず、安心できるか。とはいっても、まだまだ、戦闘は続きそうだ)


 アリアは、近くにきたエンバニア帝国軍の兵士を倒しながら、そんなことを思う。


「ちょっと、慣れてきましたの! ここからは、ツルハシを振るって鍛えた腕力でどんどんと倒していきますわ!」


 味方の矢と魔法が飛んでこなくなったことで、サラは少しだけ余裕ができていた。


「ただ、あれだけ遠くに飛ばされると、こちら側の援護にまったくなりませんね。しかも、遠くに飛ばせば飛ばすほど狙いはデタラメになるでしょうし、炎の球に至っては、威力が減衰していまいます。なので、エンバニア帝国軍にとっては、大した脅威にならないでしょう」


 ステラは、いつも通りの顔で、冷静に分析している。


「まぁ、味方に後ろから攻撃されるよりはマシですかね! 死因が、味方の飛ばした炎の球に当たっての焼死なんてシャレになりませんから!」


 アリアは、前方から飛んでくる矢と炎の球を避けながら、大きな声を上げる。


「おい! お前たち! 遅れないように、ついてこい! ここからは、進軍する速度を上げるからな! 戦場で迷子になっても知らんぞ!」


 フェイは大声でそう叫ぶと、進軍速度を速めた近衛騎士たちについていく。

 アリアたちも、置いていかれないよう、エンバニア帝国軍の防御陣地があるほうに向かって走っていった。


 しばらくすると、後方からきたミハルーグ帝国軍と合流することになる。

 そこからは、近衛騎士たちが斬り開いた突破口を、ミハルーグ帝国軍が押し広げるといった感じで戦闘が推移していく。


「ミハルーグ帝国軍が来てくれたおかげで、戦闘が少しだけ楽になりましたね! さすがに、近衛騎士団といえど、これだけの人数を相手にするのはキツイと思いますし!」


 アリアは、エンバニア帝国軍の兵士を倒しながら、話しかける。


「ワタクシも、そう思いますわ! 人が多いせいで、矢と炎の球も散らばりますし、良いこと尽くしですの!」


 サラは、敵の攻撃を半身で避け、返しの剣で相手の首をはねていた。


「まぁ、まさか、近衛騎士団が出てくるなんて思ってもいなかったでしょうしね。加えて、夜で連携がとりづらい中、戦わないといけません。こういった場合、練度の高いほうが、より有利になるようですね。実際、近衛騎士たちが突入しただけで、エンバニア帝国軍はすぐにバラバラになっていますし」


 ステラは、相変わらず、いつも通りの顔で冷静に分析している。


(この調子でいけば、防御陣地を全て占領するのも夢ではない気がする。そうすれば、直接、城攻めができるようになるし。まぁ、今は、目の前の敵に集中したほうが良いな)


 アリアは、そんなことを考えつつ、剣を振るっていた。






 ――5時間後。


 太陽が昇り始め、辺りが明るくなり始めた頃。


 アリアたちを含む近衛騎士団は、フレイル要塞の近くで待機していた。

 もちろん、ミハルーグ帝国軍も一緒である。


「やりましたの! 防御陣地を突破しましたわ! あとは、フレイル要塞を陥落させるだけですの! ワタクシの巻き髪も、心なしか調子が良い気がしますわ!」


 サラは、どうやら絶好調のようであった。

 剣をブンブンと上下に振り回している。


「かなり上手くいきましたね。ただ、城攻めは難しいと思いますよ。防御陣地とは違って、堅牢ですから。近衛騎士団でも近づけるかどうか、わかりませんね」


 ステラは、顔についていた血を手で拭っていた。


(もう防御陣地も陥落したし、帰りたいな。近衛騎士団の働きとしては十分すぎるでしょう。あとは、ミハルーグ帝国軍の人たちに任せて、ゆっくりと休みたいよ)


 元気なサラとは違って、アリアは疲れた顔でフレイル要塞を眺める。

 そんな中、銅鑼の音が鳴り響く。

 攻撃開始の合図であった。


「はぁ……無理だと思うけどな。とりあえず、危なくなったら、すぐに後退させよう」


 近衛騎士団の第1大隊長の指示を聞いたフェイは、ボソッとつぶやく。

 その後、第2中隊の小隊長に指示を出していた。

 指示を聞いた小隊長は、自分の小隊を前進させていく。


 その動きを追うように、ミハルーグ帝国軍も走り出す。

 アリアたちはというと、フェイについて指揮の様子を見ていた。


(絶対、近づいてきたところを狙いうちにされるよ……中隊長も嫌そうな顔をしてるし、無謀なんだろうな……)


 アリアは、フレイル要塞に近づくごとに、嫌な考えが頭を巡る。


「うおおおですわ! やってやりますの! やってやりますわあああ!」


 サラは、気合い十分なのか、大きな声を上げていた。


「はぁ……絶対、無理ですよ。犬死にするだけですって」


 ステラは、フレイル要塞の城壁の上にいる弓兵を見ながら、ボソッとつぶやく。

 その声が聞こえたアリアは、目をこらして、状況を確認する。


(うわ! 滅茶苦茶、弓兵と魔法兵がいる! これはヤバい! フレイル要塞は高い場所にあるから、城壁の上から簡単に狙いうちにされるよ!)


 アリアは、引きつった顔をしながら、走っていた。

 しばらくすると、フレイル要塞にいる弓兵と魔法兵の攻撃範囲に入ったのか、猛烈な勢いの矢と炎の球が直線的に飛んでくる。


(言わんこっちゃない! こんなの攻める以前の問題だよ! 私たちは、良い的になっているだけだ!)


 アリアは、なんとか剣で防ぎつつ、そんなことを思ってしまう。


「ああああああ! これは無理ですの! 絶対、死にますわ! 近づく前にやられてしまいますの!」


 隣にいたサラも、剣で斬り払いながら、大きな声で叫んでいる。

 ステラはというと、アリアと同じようなことを考えているのか、げんなりとした顔をしていた。


「やっぱり、駄目か! 第2中隊の総員は退却しろ! こんなところで死ぬなよ!」


 一瞬で状況を把握したフェイは、急いで大きな声を出す。


(よし! やっと、この危険地帯からおさらばできるよ! まったく、これだから、最前線は嫌なんだ!)


 アリアは、必死の形相とは裏腹に、そんなことを思っていた。

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