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83 悪党の捕縛

 タイリース中将の屋敷の大広間。


 そこでは、現在、アリアたちと謎の男との戦闘が繰り広げられていた。


「皆さん! ある程度まとまって戦いましょう! そうじゃないと死にますよ!」


 アリアは、謎の男から目を離さずに、そう叫ぶ。


「絶対、そのほうが良いですわ! 一人で敵うような相手ではありませんの!」


 隣にいたサラも、同意をする。

 そんな中、弾き飛ばされたエドワードが床を削りながら、アリアに近づく。


「くっ! 強い! 今日は、そんなに大変ではないと思ったんだかな! たまには、楽な任務をしたいものだ!」


 額に大粒の汗を浮かべたエドワードは、ぼやく。

 続いて弾き飛ばされてきた学級委員長三人組も、剣を構えながら、ウンウンとうなずいている。


「これは少しというか、かなりマズい気がしますね。一瞬でも気を抜いたら、あの世行きですよ」


 サラの隣にいたステラは、いつも通りの顔ではあるが、あまり余裕がないようであった。


「……おほほ。ワタクシ、天幕の中に忘れ物をしましたの。だから、今、とってきますわ」


 エレノアはそう言うと、剣を構えながら、ジリジリと後退をする。

 どうやら、機会を見て、逃げ出そうとしているようであった。

 そんなエレノアの後ろに人影が現れる。


「エレノア様。まさか、逃げようとはしていませんよね? そうでしたら、今、この場で不幸な出来事が起こりますよ」


 いきなり現れたカレンは、エレノアの肩に手を置く。


「も、もちろん、逃げようなんてしていませんわ! 忘れ物は、この戦闘が終わったら、とりにいくことにしますの! まるで、ワタクシが臆病者みたいな言い草はやめてくださいまし!」


 エレノアは、後ろを振り向かず、元気な声を上げる。

 どうやら、逃げられないと悟ったようであった。


「それは良かったです。4大貴族レッド家の令嬢が、そんな風では困りますからね。それでは、引き続き、頑張ってください」


 カレンはそう言うと、次の瞬間には離れた場所に移動する。


「くっ! 奴隷1号! あの黒ローブに突っこみなさい! その間に、ワタクシの魔法で黒焦げにしてあげますわ!」


 必死の表情をしているエレノアは、エドワードに指示をした。


「絶対、僕ごと、燃やすつもりだろう! それに、今さっき、アリアが一人で行動するなと言っていたのを聞いていないのか?」


 当のエドワードはというと、謎の男から視線を外さず、反論をする。


「キー! 奴隷1号のくせに、生意気ですの! ご主人様のために、死ぬ気で働こうという気持ちを見せてほしいですわ!」


 エドワードの反論を受けたエレノアは、プンプンと怒り出す。

 そんな中、謎の男が動きを見せる。

 いきなり、エレノアほうに向かって走り出したのだ。


 どうやら、怖気づいているのを見破られたようである。


「ああああああ! なんで、こっちに来ますの! 奴隷1号のほうに行ってくださいまし!」


 エレノアはというと、炎の球を連発しながら、そう叫んでいた。

 先ほどと同様の光景が繰り返され、あっという間に、謎の男はエレノアのそばまで近づく。


「くっ! しょうがありませんわね! ワタクシの剣技の冴えを見せつけてやりますの!」


 エレノアはそう言うと、両手で剣を握り、細かく斬撃を放ち始める。

 どうやら、剣を弾かれないように工夫しているようであった。

 謎の男は、その戦法を前に、少しだけ勢いを止められてしまっている。


 カンカンと軽めの音が大広間に響く。

 そんな中、階段の上にいたタイリースが大声を上げた。


「おい! なにを遊んでいるんだ! さっさと始末をしろ! そうでないと、逃げる時間がなくなるだろう!」


 タイリースは、どうやら、いら立っているようである。

 その声を聞いた謎の男は、『はぁ……』とため息をつくと、一気に攻勢をかけ始めた。


「あああああああ! ヤバい、ヤバいですの! これ、絶対、死にますわ! 誰か、助けてくださいまし!」


 先ほどとは一転、エレノアは、防戦一方となる。

 ガンガンガンと金属音が大広間に鳴り響く。

 そんな中、ステラが思いついたかのような顔をする。


「皆さん! エレノアが斬られている間に攻撃をしましょう! そうすれば、この難局を打開できるハズです!」


 珍しく笑顔になったステラは、アリアたちに呼びかける。


(滅茶苦茶、嬉しそうだな。おおかた、エレノアさんと黒いローブを着た人を一緒に始末できて、運が良いなとでも思っていそうだ)


 アリアは、ウキウキ顔のステラを見て、そのようなことを思ってしまった。


「ちょっと! ワタクシを囮にするのは、やめてくださいまし! ここは一致団結して、戦ったほうが良いですの! というか、早く助けてくださいまし! 本当にヤバいですの!」


 エレノアは、戦いながら、必死の形相で訴えかける。


「はぁ……エレノアが言うと空虚に聞こえるな。とはいっても、死んでしまったら、後味が悪いのも事実。気は進まないが、加勢をしよう」


 エドワードは、ため息をつくと、エレノアを攻撃し続けている謎の男に斬りかかった。

 学級委員長三人組も、それに合わせて斬りかかる。


「サラさん、ステラさん! 今なら、いけるかもしれません! 私たちも、加勢をしましょう!」


 エドワードたちの様子を見たアリアは、大きな声を上げる。


「そうですわね! 一気に攻めかかれば、勝機はあるかもしれませんの!」


 サラは同意をすると、剣を構えて走り出す。


「はぁ……一石二鳥の良い策だと思ったんですがね……」


 ステラはというと、がっかりした様子で、サラの後を追う。


(やっぱり、エレノアさんの始末を狙ってたんだな。最近、表立って対立はしていなかったけど、仲良くなっていないみたいだ。まぁ、今はそんなことより、目の前の敵を倒すことに集中しよう。タイリース中将を捕まえるにしても、この人をなんとかしないことには難しいだろうしな)


 アリアは、走りながら、そんなことを思っていた。






 ――20分後。


「ちょっと、君たち! 時間かけすぎだよ! 八人もいて、まだ倒せないの? そろそろ、飽きてきたから、早く倒しちゃってよ!」


 アリアたちの戦いを見ていたミハイルは、大きな声を上げる。

 その近くでは、カレンが口を開けて、あくびをしていた。


(いや、そんなことを言われても困るよ! こっちは必死にやっているんだから!)


 アリアは、大粒の汗を流しながら、そんなことを考える。

 周囲には、同じく汗まみれになったサラたちがいた。


(連携もできてきたし、優勢な状況で戦えてはいるけど、決め手がないな。まぁ、誰か一人が斬られる覚悟で飛びこめば、いけそうではある。だけど、その人は確実に死ぬだろうしな。ただ、このままだと、いつまで経っても倒せない状況が続いてしまうか)


 アリアは、頭の中で考えをめぐらす。

 そのことは、残りの面々も承知しているようであった。


「奴隷1号! 突っこみなさい! ワタクシに男気を見せますの!」


 エレノアは、剣を構えたまま、エドワードに命令をする。


「嫌に決まっているだろう! そんなことを言うエレノアが、突っこんだらどうだ? その隙に僕たちが倒すと約束をしよう!」


 エドワードは、すぐに言い返す。


「私もエレノアが突っこんだほうが良いと思います。相手の方もエレノアを狙っているみたいですしね。私も相手の方も満足できる素晴らしい案だと思います」


 ステラも、エドワードに乗っかる。


「キー! ふざけるんじゃありませんわよ! なんで、ワタクシが斬られにいかないといけませんの! そういう役目は、奴隷1号か暴力女がお似合いですわ! 高貴なワタクシには似合いませんの!」


 二人の言葉を聞いたエレノアは、プンプンと怒り出す。


「今は身内で争っている場合じゃありませんわ! 気を抜くと死にますの!」


 醜い争いを前に、サラは大きな声で注意をする。

 学級委員長三人組も、ウンウンとうなずいていた。

 そんな中、屋敷の外から、金属のこすれる音が聞こえてくる。


「ああ、もう! エンバニア帝国軍の人たちが来ちゃったよ! 時間切れみたいだ!」


 観戦していたミハイルは、大きな声を上げた。

 と同時に、謎の男は階段を駆け上がる。


「あ! 逃げるつもりですよ! 皆さん、追いかけましょう!」


 アリアは大きな声を上げると、急いで走り出す。

 他の面々も、一気に階段を目指して走っていく。

 謎の男はというと、タイリースを脇に挟み、そのまま、2階にある窓から飛び降りてしまう。


「くっ! 皆さん、外に出て追いかけましょう! 逃げられたらマズいですよ!」


 階段を上がったアリアは、大きな声を上げる。

 その声に従って、サラたちは、急いで階段を下りていく。

 さすがに、2階から飛び降りるのは、危ないと思ったようである。


 そんな中、ミハイルが、入口の扉に近づいたアリアたちの行く手を阻む。


「もう、追いかけなくても良いよ! カレンが追いかけていったからね! あ! あと、扉から離れたほうが良いよ!」


 ミハイルはそう言うと、扉の延長上に入らないよう、横にジャンプをする。

 と同時に、扉がぶち破られ、なにかが飛んできた。

 アリアたちは、その瞬間、空いている手で頭を守り、身を伏せる。


「え? なんで、皆、伏せ……ぶへらぁ!!」


 一人反応が遅れたエレノアは、飛んできたタイリースに激突すると、そのままゴロゴロと転がっていく。

 そのすぐ後、アリアたちの上空を謎の男が通過する。

 謎の男は、大広間の正面にある階段に激突すると、そのまま動かなくなってしまった。


「若いのに、なかなか良い動きをしますね。そこのナルシストと私がいなければ、逃げ切れたかもしれません。まぁ、今回は、運が悪かったですね」


 壊れた入口の扉から、スタスタとカレンが歩いてくる。

 どうやら、先回りしたカレンに、タイリースと謎の男は倒されてしまったようであった。

 アリアたちは、これ以上、なにも起きないことを確認すると、立ち上がる。


「重いですの! まったく、高貴なワタクシにこんな小汚いおじさんをぶつけるなんて、ひどいですわ!」


 エレノアはタイリースを蹴り飛ばすと、急いで立ち上がり、服についた埃を払う。

 小汚いおじさんこと、タイリースは、口から泡を出し、ピクリとも動かない。

 気絶しているようであった。


「それにしても、若いね! アリアより年下なんじゃないかな? この若さでアリアたちよりも強いなんて、才能もあるし、なにより相当な努力をしたんだろうね!」


 ミハイルは、頭を覆っていたものが脱げ、顔が露わになった謎の男を見ている。

 謎の男の顔には、まだ幼さが残っており、アリアたちよりも若いと一発で分かるような見た目をしていた。


 ミハイルとエレノアの声に反応したのか、階段にもたれかかっていた謎の男が目を覚ます。

 だが、カレンから受けた攻撃の影響か、体は満足に動かせないようであった。


「……俺は負けたのか……上には、上がいるものだな……」


 謎の男は、カレンのほうに顔を向ける。


「なんだか、凄い既視感があるね! 昔、カレンも、こんな感じでレナード殿にやられていた気がするよ! ただ、そのときは、もう少しカレンが粘っていたけどね!」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔で、歩いているカレンを見ていた。


「余計なことを言う必要はありませんよ。私の人生最大の失敗を思い出させないでください」


 カレンは、顔を動かさず、スタスタと歩いている。

 数秒後には、謎の男の目の前に立っていた。


(トドメを刺すのかな? まぁ、確実なのは間違いない。ただ、動けないから、放っておいても大丈夫だと思うけど)


 アリアは、遠くのほうにいるエンバニア帝国軍の兵士を、壊れた扉越しに見ている。

 そんな状況で、カレンは謎の男を担ぐ。


「ナルシスト、この人をもらっても良いですか? なかなか、強いようですし、レナード様のお役に立つと思うので。悪党一人を連れていっても、問題はないですよね?」


「まぁ、僕が言われているのは、屋敷にいる人たちの無力化とタイリース中将の捕縛だけだからね! 屋敷にいた人の一人を連れていっても問題はないよ! ハインリッヒ殿も興味ないと思うしね!」


「ありがとうございます、ナルシスト。レナード殿もお喜びになると思いますよ。タイリース中将も捕まえたことですし、私は、そろそろ、アミーラ王国に戻ります。お嬢様方、それでは、失礼しますね」


 カレンはそう言うと、次の瞬間には消えていた。

 しばらくすると、エンバニア帝国軍の兵士が屋敷に踏みこんでくる。

 目的は、タイリース中将の捕縛と屋敷にある金品の差し押さえであった。


 アリアたちが安全を確認した場所から、どんどんと美術品や金塊などが運ばれていく。


(とりあえず、今回も生き残れて良かった。ただ、団長とカレンさんがいなかったら、かなり危なかった気がするな)


 運ばれていく物品を見ながら、アリアはそんなことを思った。

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