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82 謎の男

 アリアたちは、ローマルク王国軍の現役中将であるタイリース・バーンの屋敷の敷地に侵入していた。

 少し離れた場所には、ミハイルが蹴り飛ばした鉄製の門がある。


「アリア。ワタクシ、前々から思っていたことがありますの」


 サラは、鞘から剣を抜き、構えていた。

 現在、アリアたち、若手士官は、剣を構えている。

 当然、注意は、100mほど離れた場所にある屋敷に向いていた。


「なんですか、サラさん?」


「団長とカレンさんの体の構造って、ワタクシたちと違う気がしますわ。だって、人の頭を破裂させたり、頑丈そうな門を蹴り飛ばしたりできませんもの」


 サラは、思案顔になっている。

 どうやら、あらゆる可能性を考えているようであった。


「あ! 奇遇ですね! ちょうど、私も同じことを考えていました! 多分、団長とカレンさんの骨は、なんらかの手段で、鉄くらい硬くなっているに違いありません! そうじゃないと、説明がつきません!」


 アリアは、視線を屋敷のほうに向けつつ、持論を述べる。


「それだけじゃなく、筋肉にも秘密がありそうだ! 普通の鍛え方では、あんな風にできないからな! 危険な薬物を摂取して、身体機能を飛躍的に上昇させているのかもしれない!」


 エドワードも、アリアに触発されたのか、考えを言う。

 二人の意見を聞いた学級委員長三人組も、ウンウンとうなずいている。

 どうやら、同じような考えを持っているようであった。


「4大貴族の血筋が関係している可能性もあります。エレノアの顔面も異様に硬いですからね。何度か顔面ぐちゃぐちゃになるぐらいの攻撃を受けていますが、鼻が折れるどころか、鼻血すら出ていないみたいですし。加えて、運動能力も、普通の人とは比べものにならないほど高いですからね。なので、流れる血の影響があるのかもしれません」


 ステラは、意外な視点を提供する。


「おーほっほっほ! なんだか分かりませんけど、悪い気はしませんわ! ようやく、ワタクシの素晴らしさに気づいたみたいですわね!」


 エレノアは、ステラに褒められたと思ったのか、上機嫌になっていた。


「ただ、エレノアの場合、頭にいくハズだった栄養が骨と筋肉にいっているだけかもしれません。行動からして、頭のネジが外れていると思う場面が多いですからね」


 ステラは、いつも通りの顔で考察を述べる。

 どうやら、エレノアを上げて落とす作戦のようであった。


「キー! 素直に褒めたと思ったら、この仕打ち! わざわざ一言付け加えるところが、本当にムカつきますの!」


 当然、エレノアはプンプンと怒り出す。

 だが、ステラに斬りかかる気配はない。

 さすがに、ヒャッハー系がわんさかと出てきそうな状況で、同士討ちをする気はないようであった。


(なんだか、緊張感がなくなってきたな。というか、エドワードさんがさっきから凄い落ちこんでいる気がする。もしかして、4大貴族なのに、私たちと大して変わらないことを気に病んでいるのかな?)


 エレノアがキーキー騒いでいる中、アリアはエドワードを見ながら、そんなことを考える。

 エドワードはというと、アリアの視線に気づいたのか、口を開く。


「……いいさ。必ず、4大貴族の一員として、ふさわしい実力をつけて周りを驚かせるからな!」


 誰のほうを向くワケでもなく、エドワードは宣言をする。


(なんだか、見ていて悲しくなってきたな。最近、エドワードさん、不遇続きで大変そうだ)


 物悲しい光景を見たアリアは、そんなことを思ってしまう。

 同じことを考えたのか、学級委員長三人組は剣を構えながらエドワードを慰める。

 そんな中、カレンが合流したことを確認したミハイルは口を開く。


「君たち、僕をなんだと思っているんだい? カレンとは違って、正真正銘、普通の人間だよ! ただ、ちょっと強いだけだからね!」


 ミハイルは、頭の後ろで両手を組んでいる。

 どうやら、剣を抜いて戦うつもりがないようであった。


(ちょっと? 遥かにの間違いじゃないのか? どれだけ訓練をしても、団長の強さに追いつける気がしないんだけど。そもそもの身体能力から違うだろうしね)


 ミハイルの言葉を聞いたアリアは、白けた顔をしている。

 残りの面々も、同じような表情を浮かべていた。


「皆さん、私やナルシストみたいに蹴りの威力を強くしたいんですか? それだったら、私が編み出した拳法術を習得しましょう。修行では熊と素手で戦ったりしますが、習得すれば、私やナルシストみたいな動きができるようになりますよ」


 ミハイルの隣に来ていたカレンは、アリアたちに提案をする。


(……熊と素手で戦ったら、間違いなく死ぬよね。しかも、あんなイカれた動きができるようになる拳法術でしょ? 絶対、それ以外にもヤバいことをさせられるに決まっている。一応、初歩中の初歩は知っているけど、本格的な修行は無理だろうな)


 アリアは、希望を見出すことなく、即座にそう判断した。

 もちろん、残りの面々も、誰も本格的に習おうとは思っていないようである。

 表情が、かんばしいものではないからだ。


(とりあえず、今は、出てくるであろうヒャッハー系を倒すことに集中しよう。そろそろ、出てくるだろうしね)


 アリアは、頭を切り替えると、屋敷のほうに注意を向ける。

 至る所から、一目で裏世界の人たちだと分かる人間が、アリアたちに向かってきていた。


「皆、頑張ってね! 僕とカレンは、危ないとき以外、手出しをしないから! しっかりと連携をして戦いなよ! あと、タイリース中将を殺しては駄目だからね!」


 かなり多くのヒャッハー系を確認したミハイルは、笑顔で、アリアたちに伝える。


「お嬢様方、健闘を祈ります。半殺し程度では、加勢しないので、死ぬ気で頑張ってください」


 丸腰のカレンは、いつも通りの顔で、アリアたちを見ていた。

 そうこうしているうちに、ヒャッハー系の人たちは、アリアたちのすぐそばまで近づく。


(とりあえず、油断はしないでおこう。裏の世界には、カレンさんみたいにヤバい人がいてもおかしくないからな)


 アリアは、改めて、眼前の敵に集中をする。

 すでに、ヒャッハー系の一人が剣を振り上げ、アリアに斬りかかっている状況であった。

 アリアは、その剣を半身で避けると、お返しに横なぎを相手の足に繰り出す。


 相手は体格の小さいアリアを侮っていたのか、完全に反応が遅れていた。


(なんか、軍隊で習うような剣の振りだな。もしかすると、ローマルク王国軍に所属していたのかも。裏世界に行かざるを得ない、なんらかの事情があるんだろうな)


 アリアは、相手の足に食いこむ剣を見ながら、そんなことを思う。

 対して、現在進行形で足を斬り裂かれている相手はというと、


「ぐあああああああ!? 足が、俺の足が!?」


 などと言いながら、体勢を崩してしまっていた。

 当然、アリアは大きな隙を見逃さない。

 剣を返すと、地面に近づきつつある首に向かって、斬撃を放つ。


 結果、相手の頭と胴体は永遠の別れを迎えてしまった。


(さて、皆の様子はどうかな? まぁ、滅茶苦茶、弱いってワケではないけど、エンバニア帝国軍の兵士よりは弱いから、大丈夫だと思うけど)


 アリアは、振り終わりを狙ってきた相手と剣の打ち合いをしながら、周囲を素早く観察する。

 サラを始めとした面々は、大して苦戦もせず、次々と倒しているようであった。


 エレノアにいたっては、『おーほっほっほ! ワタクシの魔法から逃れることなど不可能ですわ! 大人しく、黒焦げになりなさい!』などと言いながら、逃げ惑うヒャッハー系の人たちに向かって、炎の球を連発している。


 そんなヒャッハー系の人たちの中には、なんとか隙を見出して、エレノアに攻撃をしようとする者もいた。

 だが、炎の球の連発速度が速すぎるため、近づけないまま、黒焦げにされてしまっていた。


(まだまだ新米とはいえ、近衛騎士団の士官だからな。この程度の相手に苦戦するワケがないか。さっさと片づけて、タイリース中将の下に行かないとな)


 アリアは様子見をやめて、次々とヒャッハー系の人たちを倒していく。

 同様に、残りの面々も、殲滅速度を速めていった。

 10分後には、入口の門から屋敷の間までの道に、動くヒャッハー系の人たちはいない状況となる。


「こんなんじゃ、準備運動にもならないよね? さぁ、さっさと屋敷の中を制圧して、タイリース中将を捕まえてしまおう!」


 キョロキョロとした後、ミハイルは両手を頭の後ろに組んだまま、屋敷のほうへ歩いていく。

 カレンも、つまらなそうな顔をしながら、スタスタと歩いていた。


(屋敷の中にいる人たちも、あれくらいの強さだったら良いな。こんな意味の分からない任務で死ぬなんて、まっぴらごめんだ)


 アリアは、皆に混じって歩きながら、そんなことを思う。

 目の前には、豪華な屋敷がそびえ立っていた。






 アリアたちは、屋敷に入ってすぐの大広間に集まっていた。

 その姿を見下ろすかのように、二人の人物が立っている。

 薄暗い中、少し離れた場所にある階段の上を、アリアたちは眺めていた。


「ようこそ、アミーラ王国の近衛騎士団の諸君! さすがは、精鋭と呼ばれるだけのことはあるな! 私の部下たちが、束でかかっても敵わなかったか!」


 小太りのおじさんが、大きな声を上げる。

 その姿には、余裕が漂っていた。


(あれが、十中八九、標的のタイリース中将だろうな。というか、私たちの身元、バレてるよ。これは、一筋縄ではいかなそうだ)


 アリアは、剣を握る手に力を入れ、なにが起こっても良いように警戒をする。

 ミハイルとカレンを除いた面々も、すぐに動けるよう、剣を構えていた。


「うわ、バレているよ! この状況は、なかなか、ヤバいんじゃない? 頑張ってよ、君たち! 下手したら、表で転がっている人たちの仲間入りするかもしれないからね!」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔で伝える。

 言葉とは裏腹に、かなり余裕があるようであった。


「近衛騎士団長ミハイル! ずいぶんと余裕があるようだな! たしかに、人数では、そちらが有利だろう! だが、この男を前に、いつまで余裕でいられるかな?」


 タイリースはそう言うと、隣にいる男に目配せをする。

 合図を受けた男は、剣を抜くと、カツカツと音を立てて、階段を下りていく。

 黒いローブで全身を覆っており、どのような人間かは判別がつかない。


(タイリース中将があれだけ余裕を見せるということは、あの人だけで、私たちに勝てると思っているんだろう。姿はよく分からないけど、相当、強いんだろうな)


 アリアは、警戒の度合いを、さらに上げる。

 サラたちも、いつ戦闘を始めても良いようにしていた。

 そんな中、エレノアが動く。


「おーほっほっほ! ワタクシの魔法で、ローブごと燃やしてあげますの! 華麗なるワタクシの手にかかって死ねるなんて、光栄ですわよ!」


 邪悪な笑みを浮かべたエレノアは、左手を男のほうに向け、炎の球を連発し始める。

 対して、男のほうはというと、エレノアに向かって、一直線に走っていく。

 炎の球を高速でさばきつつ、あっという間に、エレノアの目の前まで迫る。


「くっ! こうなったら、剣でボコボコにしてあげますの! 魔法だけではないことを見せるいい機会ですわ!」


 エレノアは、剣を両手で握ると、一気に斬りかかった。

 ブンという風切り音が、アリアたちにも聞こえてくる。

 男は動揺した様子を見せず、振り下ろされる剣に向かって、自分の剣を当てた。


 結果、ガンという金属音が響いた後、剣を弾かれたエレノアは、大きくのけぞってしまう。

 男は、その隙を見逃さず、返しの剣でエレノアのことを撫で斬りにしようとする。

 そんな中、ステラがエレノアの前に躍り出た。


「お馬鹿さん、なにをやっているんですか? そんな大振りをしたら、見切られるに決まっています。少しは頭を使ったほうが良いですよ」


 ステラは男の剣を受け止めると、鍔迫り合いをしたまま、口を動かす。

 だが、力の差があるのか、徐々に押されている状況であった。


(これはヤバいな! エレノアさんがあんな簡単にやられるなんて! とりあえず、ステラさんを助けないとマズい!)


 アリアはそう思うと、男に向かって斬りかかる。

 見物をしているミハイルとカレンを除いて、残りの面々も男に迫った。

 その様子を見た男は、剣を少し引き、思い切りぶつけることで、ステラを弾き飛ばす。


 さすがに、大人数を相手にするのは、マズいと思ったようである。

 ぴょんぴょんと跳ねながら、距離をとっていた。


「君たち! しっかり連携しないと勝てないよ! 日頃の訓練の成果を発揮するには、ちょうど良い相手なんだから、頑張ってよ!」


 少し離れた場所にいるミハイルは、アリアたちに檄を飛ばす。


(そう言われても困るよ! 一斉に攻撃をしようとしたら、今みたいに避けられるだろうし、かといって、一人一人向かっていったら、絶対死ぬに決まっている! くっ! これは、非常にマズいな!)


 アリアは、男の動きに注目しながら、そんなことを考えていた。

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