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79 別れ

 ――鉱山での崩落から、5時間後。


 アリアたちの活躍によって、崩落に巻きこまれた人たちは、全員助け出される。

 鉱山の外で、ノーマン率いる竜騎兵隊が準備をしていたため、宿場街に運び、迅速な治療を受けさせることができていた。


 また、足を岩に押しつぶされるなど、かなり程度が悪い者は、フレイル要塞に運びこまれる。

 宿場街では、専門的な治療ができないためであった。

 これらの者は、フレイル要塞にいた軍医の手によって、一命をとりとめることができたようである。


 ただ、足などは切断しなければいけなくなったようであった。

 トランタ山の採掘現場はというと、さすがに崩落事故が起きたため、今日は終日出入り禁止となっていた。


 どうやら、エンバニア帝国軍の軍人が安全を確認した後に、採掘を許可するようである。

 そのため、アリアたちは、いつも使っている宿屋へと戻っていた。

 なんだかんだ、もう日が沈みそうになっている。


「いや、本当に助かったよ! 君たちの活躍で、崩落事故に遭った人たちを助けることができた! フレイル要塞にいる司令官も、感謝していたよ!」


 竜を部下に預けたノーマンは、謝辞を述べる。

 現在、アリアたちは、いつもの宿屋の食堂に集まっていた。

 もちろん、クラフトも一緒である。


「そ・れ・で! 本当に、いくら食べても大丈夫ですの? 吐いた言葉は飲みこめませんわよ、ノーマン!」


 イスに座っているエレノアは手を上げて、再度、確認をする。


「もちろんだ! お金も司令官からもらっているし、存分に食べてくれ!」


 ノーマンは、懐から札束を取りだす。

 さほど、厚みがあるワケではないが、アリアたちが飲み食いするだけなら、十分そうである。


「さすが、ノーマン! 奴隷1号とは違って、太っ腹ですの! それじゃ、どんどん注文していきますわ!」


 エレノアはそう言うと、紙を見ながら、近くにいた店員に次々と注文をした。

 店員はというと、言われた料理名を必死で紙に記入している。


「ノーマン、安心してくれ! 足りなかった分は、本人に払わせるから!」


 料理名を次々と声に出しているエレノアを横目に、エドワードは、そう言った。

 当然、エレノアにも、その声は聞こえる。


「なにを言っていますの、奴隷1号! ワタクシに残金はありませんわ! だから、それでいくなら、代わりに奴隷1号が払ってくださいまし! たんまりとお金を貯めているのは知っていますの!」


 エレノアは、紙から目を外すと、エドワードのほうに顔を向ける。


「ふざけるな! 僕の金は僕のものだ! お金がないなら、借金をしてでも払え!」


 エドワードも、負けじと言い返す。


「キー! 奴隷1号のくせに、生意気ですの! 奴隷1号の物はワタクシの物! ワタクシの物はワタクシの物ですわ! これは、小さい頃からの取り決めですの!」


「聞いたことがないよ、そんな取り決め! なんだい、その悪徳な独裁者みたいな発想は? 本当に昔から成長しないな! 少しは大人になったら、どうだい?」


 エドワードは、やれやれといった顔をする。

 そこから、エレノアとエドワードは、口論を始めた。


「二人とも大丈夫だ! 僕の手持ちで10万ゴールドがある! それも合わせれば、絶対に足りるハズだ! だから、ケンカするのはやめてくれ!」


 ノーマンは、二人に近づくと、なんとか口論をやめさせようとする。

 そんな中、アリアたちは二人を無視して、料理の注文をしていく。

 こうして、出発前、最後の晩餐が始まる。


「それにしても、あっという間だったな! 実際、そんなに長い期間ではなかったけど! それでも、エドたちのおかげで、カエリス士官学校への道がグッと近くなった気がする! ありがとうな!」


 クラフトは、アリアたちを見ながら、満面の笑みを浮かべる。


「それは良かった! 短い期間ではあったけど、僕も剣を教えたかいがあるよ!」


 対して、エドワードは、複雑そうな笑みを浮かべた。


(まぁ、そういう顔になるよね。本当のことは言えないし、しょうがない。でも、エドワードさんは本気で剣を教えていたと思うな。そこだけは、嘘じゃない気がする)


 アリアは、運ばれてきた料理を食べながら、そんなことを思う。


「うん? どうした? そんな微妙な顔をして! 俺の顔に、なにかついているか?」


 疑問に思ったのか、クラフトは質問をする。


「いや、別れるのが寂しいと思ってな! ちょっと、しんみりしてしまった!」


 エドワードは、いつも通りの笑顔で、そう答える。


「くぅぅぅ! 俺もだよ! 絶対、カエリス士官学校で再会しような!」


 クラフトはそう言うと、エドワードと肩を組む。

 その後、隣にいるノーマンのほうに視線を向ける。


「ノーマン、お前も来い!」


 クラフトは、空いている手で強引にノーマンの肩を組んだ。


「ハハハ! こういう経験も悪くない! 新鮮だよ!」


 ノーマンも、肩を組みながら、笑顔になっていた。

 その後、クラフト、ノーマン、エドワードの三人は、今までのことを思い返しながら、楽しそうに会話をする。


 アリアたちは、そんな三人の様子を眺めながら、食事をしていた。

 ただ、一人、『今日は最高の日ですわ! 久しぶりにお腹一杯食べられますの!』と声を出し、有り得ない量の料理を食べている女性を除いて。






 ――次の日の朝。


 出発の準備を整えたアリアたちは、馬車に乗りこむ。

 そんな中、エドワード、クラフト、ノーマンの三人は、馬車の外にいた。


「いや~、これでお別れか! くぅぅぅ! 俺は悲しい! 悲しいぞ!」


 クラフトは、エドワードの手をつかみ、ブンブンと上下に振っている。

 対して、エドワードは少し困った顔になってしまっていた。


「クラフト! そんなに手を振ったら、いけないよ! エドの顔を見るんだ! 困った顔をしているだろう?」


 ノーマンは、クラフトの肩に手をポンと置く。


「いや、ごめんな! カエリス士官学校で再会できるとはいえ、別れが悲しくってさ! つい、興奮してしまった!」


 クラフトはそう言うと、ようやく手を放す。


「大丈夫だ、クラフト! 少し、驚いただけだから!」


 エドワードは、気遣いの言葉をかける。


「まったく、クラフトは! 直情的すぎる! まぁ、それが君の良いところでもあると思うけど!」


「おいおい! 今、少し、馬鹿にしただろう!? 口の端がニィとなってたぞ!」


「ハハハ、そんなワケないだろう! 君のなにも考えず、一気に突き進む姿勢は、僕も尊敬している!」


「やっぱり、馬鹿にしているじゃないか! もう、今に見てろよ! 士官学校を卒業したら、あっという間に、ノーマンを追い抜くからな!」


 クラフトは、自信のある顔つきをしていた。


「それなら、まずは、カエリス士官学校に入らないと! 貴族だろうが、平民だろうが、試験の点数が足りなかったら、容赦なく落とされるからね! それに、首席で卒業しないと、僕には追いつけないよ!」


 対して、ノーマンは、冷や水を浴びせる。


「はぁ!? お前、カエリス士官学校を首席で卒業したのかよ!? 滅茶苦茶、凄い奴だったんだな!」


「凄いかどうかは置いといて、最低でも、10番以内の成績で卒業しないと竜騎兵の士官にはなれないからね! 本当に死ぬ気で頑張ったよ! エンバニア帝国は実力主義の国だから、貴族である僕に配慮とか一切ないからね! しかも、陛下に能力なしと判断されれば、貴族の地位をすぐに剥奪される! だけど、実力さえあれば、どこまでもいける! エンバニア帝国はそんな国だ!」


 ノーマンは、笑顔でそう言った。

 どうやら、実力主義の風土を歓迎しているようである。


「今の話を聞いたら、俄然、やる気が出てきたぜ! 今に見てろよ! 周りがあっというような男になってみせる!」


 クラフトは、拳を突き上げ、高々と掲げていた。

 その様子を見たノーマンは、エドワードのほうに顔を向ける。


「エド! しばしの別れだ! 君なら、きっと竜騎兵の士官になれる! 再会のときを楽しみにしているよ!」


 ノーマンはそう言うと、エドワードの手を堅く握った。


「僕もだ! 無事、竜騎兵の士官になれたら、すぐに報告しにいくよ!」


 エドワード、笑顔を浮かべながら、堅く握り返す。


「俺も、カエリス士官学校での再会を楽しみにしているぞ、エド!」


 二人の様子を見たクラフトは、エドワードのほうに手を差し出す。


「もちろんだ、クラフト! 僕も楽しみにしている!」


 ノーマンの手を放したエドワードは、クラフトとも握手をする。

 そんな中、馬の手綱を握ったカレンの声が聞こえてきた。


「エドさん! そろそろ、出発しますよ! 馬車に乗ってください!」


「分かりました!」


 エドワードは、カレンのほうに振り向き、返事をする。

 その後、クラフトの手を放し、二人のほうに視線を戻す。


「そろそろ、時間みたいだ! またな! 再会を楽しみにしている!」


「俺もだ! カエリス士官学校で会おう!」


「頑張ってくれ、エド! 応援しているからな!」


 別れの言葉を聞いたクラフトとノーマンは、最後の言葉をかける。

 その言葉を聞いたエドワードは、馬車に乗りこむ。

 と同時に、馬車が走り始める。


 エドワードは、馬車から身を乗り出し、クラフトとノーマンに向かって手を振り続けていた。

 寝ているエレノアとミハイルを除いた馬車の中の面々も、声を出しながら、手を振る。

 同様に二人も、声を出しながら、手を振り続けていた。


 しばらくすると、アリアたちからは、完全に二人の姿が見えなくなってしまう。

 馬車は、宿場街を離れて、林道にさしかかっていた。


「いや、なんだか、あっという間でしたね! 採掘でお金も稼げましたし、なかなか、良い経験ができました!」


 馬車の中のイスに戻ったアリアは、元気そうな声を上げる。

 残りの面々も、座席に戻っていた。


「本当ですの! しかも、採掘作業をしたおかげで、筋肉がついた気がしますわ!」


 サラはそう言うと、服の袖をまくり、力こぶを作る。

 トランタ山に来る前と比べて、明らかに大きくなっていた。


「まぁ、力があるに越したことはありませんからね。ただ、女性としては、筋肉モリモリになるのは避けたいですが」


 ステラは、いつも通りの顔で、自分の腕をさすっている。


「そんなこと言っていられませんの! 生き残るには、体を鍛えるしかありませんわ!」


 サラは、腕をブンブンと振って、興奮していた。

 そんな中、アリアは、エドワードのほうを向く。


(クラフトさんとノーマンさんと一番仲が良かったからな、エドワードさん。結構、落ちこんでいるみたいだ)


 アリアは、エドワードを見ながら、そんなことを思ってしまう。

 近くでは、学級委員長三人組が、なんとかエドワードを元気づけようと、話題を振っている。

 だが、エドワードの表情に変化は見られない。


(まぁ、次に会うとしたら、戦場だもんな。クラフトさんはともかく、ノーマンさんは竜騎兵だから、いずれ戦うことになるだろうし。私たちにとってもだけど、酷な話だ)


 アリアがそんなことを思っていると、ミハイルが眠りから目を覚ます。

 腕を伸ばした後、周囲を確認するため、キョロキョロとしていた。

 瞬く刹那、その視線が、エドワードのところでとまる。


「エドワード、落ちこんでいるのかい? 僕で良ければ、相談にのるけど? 昔からの付き合いだし、美麗な僕に遠慮することはないからね?」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔で、そう言った。


「いえ、大丈夫です。これは自分自身の問題なので。ただ、少し考えているだけですから」


 エドワードは、ミハイルのほうに向くと、そっけない返事をする。


「まぁ、いろいろと考えることはあると思うけど、吐きだしたほうが楽な場合も多いからね! それと、あんまり考えすぎないほうが良いのは、たしかだよ! 戦場は、答えのない疑問であふれている! エレノアを少しだけ見習うと良い! 物事をあまり深く考えないのも、才能だよ! それじゃ、僕はまた寝るから、よろしく!」


 ミハイルはそう言うと、目を閉じ、再び眠りにつく。

 その近くでは、エレノアがよだれを垂らしながら、いびきをかいて寝ている。


(まぁ、団長が言うことも一理あるよな。実際、戦いの正義の是非とか、考えれば考えるほど、頭がゴチャゴチャになるし。ただ、一方で、なにも考えないのも、良くないよな。頭、空っぽでいられるほど、戦場は甘くないから、当然だ)


 アリアは、顔を下に向けているエドワードを眺めていた。

 サラとステラも、心配そうにエドワードを見ている。

 そんな中、ステラが口を開く。


「とりあえず、目の前のことに集中する。将来のことを考えすぎると、身動きがとれなくなるから。昔、カレンが言っていた言葉です。役に立つか分かりませんが、エドワードさんの心にとめておいてください」


「ありがとう、ステラ。ただ、今は、ゆっくりと考えさせてくれ」


 エドワードはそう言うと、再び、黙ってしまった。


(目の前のことに集中する。私にも、あてはまる気がするな)


 ステラの言葉を聞いたアリアは、そんなことを思う。

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