表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/159

74 エドワード対ノーマン

 ――次の日の昼。


 トランタ山の採掘現場での作業を終えたアリアたちは、昼食をもらう列に並んでいた。


「昨日も思ったけど、本当に君たちは体力がないね! 午前中の間、ツルハシを振るっただけど、そんなになるなんて!」


 ミハイルは、自分の組の面々を見ている。

 昨日に引き続き、エレノア、エドワード、学級委員長三人組がミハイルの組であった。


「団長と一緒にしないでください! 僕たちは、普通の人間なんですよ! 何時間も、全力でツルハシを振るっていたら、こうもなります!」


 エドワードは、疲れた顔で抗議をする。

 学級委員長三人組も、ウンウンとうなずいていた。


「おーほっほっほ! あなたたちと一緒にしないでくださいまし! ワタクシは、まだまだ余裕ですわ!」


 対して、エレノアは、腕を組んで高笑いを上げる。

 その足は、ガクガクと揺れてしまっていた。


「なにを言っているんだ! そんな生まれたての小鹿みたいな、足をして! 腕を組んで、なんとか体勢を保っているようだけど、ごまかせてないぞ!」


 エドワードは、すぐに指摘をする。

 すると、顔を真っ赤にしたエレノアは、エドワードに食ってかかった。

 そこから、昨日の夕食と同様に口論が始まる。


「なにが、あそこまでエレノアーヌさんを駆り立てるんでしょうか? 普通に疲れているなら、疲れていると言えば良いと思いますけど! 同じおほほ属性のサラーヌさん、分かりますか?」


「誰がおほほ属性ですの! おおかた、成長したところを見せれば、採掘作業で楽ができると思っているのかもしれませんわ!」


 アリアの言葉を聞いたサラは、プンプンと怒りながら推測をした。


「まぁ、竜の食べている肉を盗むくらいですからね。その可能性はあると思います」


 いつも通りの顔をしたステラは、同意をする。


「そんなことをしても、余計、つらくなるだけだと思います。あのナルシストが、そんな甘い考えをしているワケがありません」


 カレンは、ボソッとミハイルに聞こえないようにつぶやく。


「ご名答だよ! 体力が余っているんだったら、もっと採掘作業を頑張ってもらうだけだからね!」


 ミハイルは、カレンのほうに振り向いた。


「チッ! どれだけ耳が良いんだ! 自分で振るったツルハシで頭をかち割って、死ね!」


 またも、カレンはボソッとつぶやく。


「いやいや、そこまでいくと、ただの悪口だよ! 美麗な僕に嫉妬する気持ちは分かるけど、それを表に出してはいけない! 自分磨きなくして、僕のように美麗な人間にはなれないからね!」


 ミハイルはそう言うと、髪をかきあげる。

 土まみれの姿でも、自分自身に対する美意識は変わりがないようであった。

 そうこうしているちに、アリアたちの順番が来る。


 アリアたちは、昨日とは違う肉と野菜が挟まっているパンを受けとった。

 その後、昨日と同じ場所に腰を下ろす。


「ちょっと、君たち! 食べ始める前に、提案があるんだけど聞いてくれるかな?」


 アリアたちがパンを持って、今、まさに食べようとしている中、立っていたミハイルは提案をする。


「なんですか、ナルシスト? つまらないことだったら、ご自慢の美麗な顔面とやらを潰しますよ」


 カレンは、露骨にイラついた声を出す。


「はぁ……もう隠すこともしなくなったんだね……まぁ、それはいいや。僕が提案したいのは、昼食を食べながらの観戦だ! たまには、そういうのも良いでしょう?」


 ミハイルは、大きなパンを片手に持ちながら、アリアたちの顔を見渡した。

 提案を受けたアリアたちは、顔を見合わせる。


「観戦するのは良いですが、誰と誰が戦うんですか?」


 ステラは、手を上げ、質問をした。


「昨日言っていたノーマン君だっけか? 彼と君たちの中の誰かが、戦うことになるかな? どのくらいの強さだったら、竜騎兵の士官になれるのか、知りたいからね! それに、僕とカレンが試合に出たら、一撃で終わってしまうよ!」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔で説明をする。


「分かりました。それでは、エドさんにお願いをしましょう」


 ステラはそう言うと、エドワードのほうを向く。


「ワタクシも、エドが良いと思いますわ! たまには、男気を見せてくださいまし!」


「お二人の言う通りだと思います! ここは、エドさんが雄姿を見せるいい機会ですよ!」


 サラとアリアは、なんとかエドワードに試合をさせようとする。

 学級委員長三人組も、ウンウンとうなずいていた。

 どうやら、彼らも、ゆっくりとしたいようである。


「おーほっほっほ! 奴隷1号! せっかくの見せ場ですわよ! ここで頑張らないで、どこで頑張りますの!」


 エレノアは、アリアたちに同調して、エドワードを煽っていた。


「くっ! 君たちは、なにか、結託でもしているのか? 僕も試合をしたくないのは、君たちと一緒だ! ここは、公平にジャンケンで決めよう!」


 焦ったエドワードは、なんとかして、この場を切り抜けようとする。


「君たち、一人に押しつけてはいけないよ! たしかに、僕もエドが試合をしてくれたら良いなと思っている。だけど、押し付けるのは違う気がするよ! エドの言う通り、ジャンケンで決めたほうが良い! そっちのほうが後腐れがないしね!」


 ミハイルは、エドワードの援護をした。

 結局、誰がノーマンと試合をするかは、ジャンケンで決めることになる。

 ミハイルはというと、ノーマンに試合のお願いをしにいっているようであった。


「それでは、いきますよ! ジャンケン、ポン!」


 アリアは、パンが落ちないように手の平で支えながら、ジャンケンの手を出す。

 サラたちも、同様にして、ジャンケンの手を出した。

 結果は、エドワードがグー、それ以外の面子がパーである。


「おーほっほっほ! 奴隷1号、残念でしたわね! ほら、ワタクシにパンを寄越してさっさと行ってきますの!」


 エレノアは、エドワードのパンを奪い取ろうした。

 どうやら、試合云々というよりは、エドワードのパンが狙いだったようである。


「くっ! 僕が言いだしたことだから、結果は甘んじて受け入れよう! だが、パンは渡さないぞ!」


 エドワードは、パンを両手で持ち、必死に抵抗をしていた。

 そんな中、ミハイルが戻ってくる。


「いや、ノーマン君は、良い人だね! 竜騎兵に憧れている子が君と試合をしてみたいって言ったら、快く快諾してくれたよ! 顔も良いし、相当、モテるだろうね! まぁ、美麗な僕の顔面には、及ばないとは思うけど! それで、試合を誰がするか、決まった?」


 ミハイルは、パンを片手に、アリアたちの様子をうかがう。


「奴隷1号に決まりましたわ! ほら、さっさと試合をしてきますの! 奴隷1号のパンは、ワタクシが持っておきますわ!」


「絶対、食べる気だろ! ミルさん! 僕のパンをお願いします! 試合が終わったら食べるので、残しておいてください!」


 エドワードは、エレノアを振り切ると、ミハイルにパンを渡す。


「武器はノーマン君が用意してくれるみたいだから、頑張ってね! あ! あと、手を抜いてすぐに負けたら、採掘現場で君に不幸なことが起きるから、気をつけて!」


「手を抜くなんてしませんよ! それでは、行ってきます!」


 エドワードはそう言うと、ノーマンのほうに向かっていった。


「くっ! ワタクシの完璧な作戦が崩れましたの! あれでは、パンを奪えませんわ! 奴隷1号のくせに、やりますわね!」


 エレノアは、恨めしそうにミハイルが持っているパンを見ている。


「それじゃ、君たち、試合を観戦できる場所に移動しようか!」


 ミハイルはそう言うと、歩き出した。

 アリアたちも返事をすると、その後ろをついていく。






 ――数分後。


 エドワードとノーマンは、間合いをとった状態で対峙している。

 エドワードの得物は訓練用の剣であった。

 対して、ノーマンの得物は、槍のようである。


 少し離れた場所では、アリアたちがパンを持って、地面に座っていた。


「昨日、食われそうになっていた女性を運んでいたよね! たしか、名前はドレイイチゴウだっけ? 珍しい名前だね!」


「違う! 僕の名前は、エドワ……エドだ! 今回は試合を受けてくれて、ありがとう! 全力で挑むから、覚悟してくれ!」


「気合いが入っているね! 軽く稽古をつけてあげるつもりだったけど、ちゃんとやったほうが良いかい?」


「もちろんだ! 例え、敵わなくても、そっちのほうが竜騎兵になる近道になるハズだ!」


「よし、分かった! 将来の同僚になるかもしれないし、ちゃんと試合をしよう! 攻撃はエドからしていいよ! さすがに、現役の竜騎士だからね! 君よりは強いと思うし!」


「ならば、ありがたく先手はとらせてもらう!」


 エドワードとノーマンは、お互いに武器を構えながら、会話をしていた。

 どうやら、エドワードは話を合わせつつ、上手く立ち回っているようである。

 そんな様子をアリアたちは、パンを食べながら、見ていた。


「アリア、アリア! どちらが勝つか、ワタクシと賭けをしますの! もちろん、商品はパンですわ! 食べかけでも、全然、構いませんの!」


 エレノアは、アリアを賭けに誘う。

 ただし、エレノアの持っているパンは、ほとんど残っていなかった。


「えぇ~、嫌ですよ! だって、もうパン食べちゃっているじゃないですか! 私のは、全然、残っていますし、やる意味がないです!」


 当然、アリアは嫌がる。

 そんな中、ステラが口を開く。


「その賭け、乗っても良いですよ」


「本当ですの!? 一度吐いた言葉は戻せませんわよ! よし! パンが手に入りますの!」


 エレノアは、もう、パンを手に入れた気になっているようだ。


「ただし、私が勝ったら、顔面を一発、思いっきり殴らせてください。ほとんど残っていないパンなんてもらっても、仕方がないので」


「別に良いですわよ! ワタクシが勝つに決まっていますもの!」


 ステラの言葉を聞いたエレノアは、自信に満ちた顔をする。


「それで、どちらにしますか? 勝敗をつけるために、私は逆を選ぶので、教えてください」


「ワタクシは、奴隷1号が勝つほうに賭けますの!」


「なら、私はノーマンさんに賭けますかね」


「賭け成立ですの! ぐへへ! パンを食べるのが楽しみですわ!」


 アリアの隣に座ったエレノアは、よだれを垂らしながら、ステラの持っているパンを見ていた。

 そんな中、サラが口を開く。


「あ! 動きましたの! 試合が始まりましたわ!」


 サラは、パンを両手で持つと、大きな声を上げた。

 アリアたちの視線が、エドワードとノーマンのほうに向く。

 そこでは、エドワードが一気に距離を詰め、斬りかかっている姿が見えた。


 対して、ノーマンは余裕のある表情をなくし、急いで受け止める態勢をとる。

 数秒後、ガンという金属音が打ちつけあう音が周囲に響く。


「嘘だろう!? 思った数倍、速い! 相当な修練を積んでいるみたいだね!」


 エドワードの連続攻撃をさばきながら、ノーマンは声を出していた。

 その顔には、必死さがにじみ出ている。


「チッ! 初撃を防がれるとは! さすがは、竜騎兵と言ったところか!」


 エドワードは、何度も横なぎを繰り出しながら、冷静に戦っていた。


「これは、僕も本気を出さないと駄目みたいだ! 今度は僕からいくよ!」


 ノーマンはそう言うと、一瞬の隙をついて、エドワードの顔面に目がけ、突きを放つ。

 エドワードは、体をひねり、ギリギリのところで槍を避ける。

 ビュンという音が、アリアたちのところまで聞こえていた。


「くっ! 本当に本気を出しているみたいだな! 顔面狙いとは!」


 体勢を立て直したエドワードは、ノーマンの動きに注目している。


「当然だよ! 例え、公的な試合でなくても、竜騎兵が負けたと知られるのはよろしくないからね! 悪いけど、勝たせてもらうよ!」


 ノーマンはそう言うと、エドワードとの距離を詰め、槍の連撃を放ち始めた。

 今度は、エドワードが防戦一方になってしまう。

 カンカンカンと金属音が高速でなり続けている。


「もう見ているだけで、槍と戦い慣れていないって分かりますね! これは厳しそうですよ!」


 アリアは、パンを食べながら、試合を分析していた。


「本当ですわ! 敗色濃厚ですの!」


 サラは、パンを両手に持って、興奮している。


「でも、あのまま負けたら、大変なことになるかもしれませんね。ミルさんが許すと思えないので」


 ステラはそう言うと、ミハイルのほうを向く。


「え? 僕? たしかに、このまま、なにもできずに負けたら、僕直々に訓練をしてあげようかと思ってはいたよ! ただ、そんなに厳しくはしないから、大丈夫!」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔で答える。


(絶対、ヤバいでしょう! 団長、普通の人と感覚が違うから、エドワードさんが大変な目にあうのなんて、考えなくても分かるよ!)


 ミハイルの言葉を聞いたアリアは、そんなことを思ってしまう。

 エドワードとノーマンの試合は、すぐに決着がつきそうではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ