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73 竜

 アリアたちがエレノア救出に苦戦している中、白い髪の若い男性が近づいてくる。


「君たち! なにをしているんだ!」


 サラたちと同年代くらいの男性は、竜の下まで来ると、大声を上げた。


「すいません! 竜が珍しくて近づいたら、仲間が餌と勘違いされたみたいで!」


 アリアは、竜の口のほうを指差しながら、釈明をする。


「それは大変だ! 少し待っていてくれ!」


 男性はそう言うと、竜の体を叩き始めた。


「セキライ! ペッだ、ペッ! そんなのを食べたら、お腹を壊すぞ!」


 男性は、地面近くにある竜の顔に向かって語りかける。

 その意思が通じたのか、セキライと呼ばれた竜は、口を大きく開けた。


「今です! 皆さん! 一気に引き抜きましょう!」


 一瞬の隙を見逃さず、アリアは大きな声を上げて、合図をする。

 その声に従って、エレノアの両足を持ったサラたちは、一気に力を入れた。

 結果、エレノアは、竜の口から出ることができた。


「ふぅ~! 助かりましたの! 本当に食われるかと思いましたわ!」


 エレノアは、立ち上がると、男性に近づく。

 どうやら、面と向かってお礼を言うようであった。

 対して、男性は少し距離を開ける。


「お礼は大丈夫だから、僕に近づかないでほしい!」


 男性は、手を体の前に出しながら、エレノアが近づかないように拒否をしていた。


「キー! せっかく、ワタクシ自ら、お礼を言ってあげようと思いましたのに! なんですの、その態度は!」


 エレノアは、プンプンと怒り出す。


「そこの君たち! 仲間なんだろう? 彼女を止めてくれ!」


 男性は、必死の顔で、アリアたちに訴えかける。

 対して、アリアたちは顔を見合わせていた。


(……エレノアさん、竜のよだれでベタベタだからな。しかも、変な臭いがするし。ちょっと、触りたくないな……)


 アリアは、サラたちの顔を見ながら、そんなことを思う。

 皆、アリアと同じことを考えているのか、微妙な表情をしている。

 ステラとカレンでさえ、少し嫌そうな顔をしていた。


(ここはエドワードさんにお任せしよう。いつもエレノアさんを止めているし、手慣れているだろう)


 そう思ったアリアは、エドワードのほうを向く。

 皆の視線も、自然とエドワードのほうに向いていた。


「……はぁ、僕も嫌なんだけどな。だが、皆の気持ちはよく分かった! 僕の雄姿を見ていてくれ!」


 エドワードはそう言うと、エレノアに近づく。

 どうやら、覚悟が決まったようである。

 エレノアはというと、竜を止めてくれた命の恩人と、現在進行形で口論になっている。


「落ちつけ! というか、臭っ! 凄い匂いだな! しかも、ベタベタするし!」


 エドワードは、エレノアを羽交い絞めにすると、ズリズリと引きずっていく。


「放しなさい、奴隷1号! せっかくの好意を無下にした、あの男を倒してやりますの! 黒焦げにしてあげますわ!」


「やめろ! 元はと言えば、自分のせいだろ! 済まない、竜の人! 彼女は、少々、頭のネジが外れているんだ! 多めにみてくれ!」


 エドワードはそう言うと、暴れるエレノアを引きずっていき、アリアたちのところに戻ってきた。


(さすがに、このままお礼を言わずに帰るのは、マズい気がする。ここは、エレノアさんの代わりに、お礼を言っておいたほうが良いな。あとで、余計な揉め事になったら面倒だし)


 そう考えたアリアは、竜の近くにいる男性に近づく。

 考えを察したのか、サラとステラもついていった。


「すいません、軍人さん! 私の仲間が迷惑をかけてしまって!」


 アリアは、男性の前に到着すると、頭を下げる。


「いやいや、大丈夫だよ! セキライが迷惑をかけたね! それにしても、彼女、凄い力があるみたいだ! なんせ、竜のかむ力に負けないくらいだからね! なにか特別な訓練でも受けているのかい?」


 男性は、疑問に思ったのか、質問をした。


「ははは……彼女は、昔から力が凄いですからね! 薪割りを良くしているせいかもしれません!」


 アリアは、適当なことを言って、ごまかす。


「たしかに、薪割りは力がつくからね! 彼女の力の秘密はそこにあるのかもしれない! まぁ、それはいいや! なんだか、迷惑をかけたみたいだし、お詫びにセキライの背中に乗せて、飛んであげるよ! どう?」


「本当ですか!? ちょっと、待ってください!」


 アリアはそう言うと、カレンたちがいる場所に急いで戻る。

 それに伴って、サラとステラもついて来た。


「皆さん、あの方が竜に乗せて、空を飛んでくれるみたいです! この申し出、受けても大丈夫ですかね?」


 アリアは、集まってきた面々の顔を見ている。


「別に良いのではないでしょうか。竜に乗るくらいですし。私は遠慮しますが」


 カレンは、許可を出す。

 学級委員長三人組も、遠慮をするようであった。


「僕も遠慮しておくよ。エレノアーヌを止めないといけないしね」


 エドワードは、エレノアを羽交い絞めにしながら、答える。

 その服には、竜のよだれがついており、エレノア同様、ベタベタになってしまっていた。


「キー! ワタクシも竜に乗りたいですの!」


 エレノアは、ジタバタと暴れ始める。

 その際、竜のよだれによって、エドワードの拘束から逃れてしまった。


「あっ! 待て!」


 エドワードは、急いで追いかける。

 アリアたちも、声を出しながら、エレノアの後を追う。


「おーほっほっほ! 竜に乗るのは、ワタクシですわ」


 竜のいる場所に到着したエレノアは、無理矢理、竜の背中に飛び移ろうとする。


「君! 危ないぞ! そんな風に無理矢理、飛び移ろうとしたら……」


 男性は、向かってきたエレノアに声をかけた。

 だが、間に合わなかったようである。

 ベタベタのエレノアを嫌がったのか、竜は、尻尾でエレノアの顔面を弾き飛ばす。


「ぶへぇ!?」


 顔面を尻尾で払われたエレノアは、矢のような速度で飛ばされていく。


「君、大丈夫かい!?」


 男性は、驚いたような顔をして、エレノアに近づく。

 アリアたちも、エレノアの様子を見るために、近づいた。


「鼻!? 鼻、折れていませんわよね!?」


 転がって止まったエレノアは、立ち上がると、急いで顔をペタペタと触り出す。


「大丈夫です! 鼻も折れていませんし、鼻血も出ていませんよ!」


 駆け寄ってきたアリアは、エレノアを安心させようとした。


「本当!? 本当ですわよね!? ワタクシのキレイな顔面に傷はついていませんわよね!?」


 エレノアは顔を触りながら、そんなことを叫んでいる。


「いや、凄いね、彼女の顔面は! 普通、竜の尻尾で振り払われたら、無事で済むワケがないんだけどね! 余程、彼女の顔面は固いみたいだ!」


 男性は、エレノアの顔面を見ながら、感心していた。


「彼女は、昔から顔面が固いことで有名ですからね。ところで、軍人さん。私はステラーヌというのですが、お名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」


 ステラは、意味の分からないことを言った後、名前を尋ねる。


「あ! そういえば、名乗っていなかったね! 僕の名前は、ノーマン・アストレイ! よろしく!」


「ノーマンさんですか。こちらこそよろしくお願いします」


 ステラはそう言うと、お辞儀をした。

 そこから、アリアたちは自己紹介をする。

 エレノアは、顔面が大丈夫なことを確認すると、ふたたび、竜に向かっていったため、エドワードによって、羽交い絞めにされていた。


 今回は、学級委員長三人組も、よだれがついてない足を押さえていたため、エレノアが抜け出すことは不可能である。


 結局、アリア、サラ、ステラの三人が、竜に乗ることとなった。






 ――数分後。


 竜の背中にある鞍に乗った三人は、風を全身で受けていた。


「いや、済まない! 本当はもっと高いところを飛んであげたいんだけど、この高さで我慢をしてくれ! 乗せているのを見られたら、収拾がつかなくなりそうだからね!」


 三人の前にいるノーマンは、風に負けないよう、大きな声を上げる。

 現在、竜は、地上3mくらいのところを旋回していた。


「いえ、竜に乗せてもらっただけでも、ありがたいことです!」


「そうですの! 竜に乗れるなんて、滅多にないことですわ!」


「一生の思い出になりそうですね」


 アリア、サラ、ステラは、ノーマンの言葉に反応する。


「楽しんでくれているようで、なによりだよ!」


 ノーマンはそう言うと、竜を操るのに、集中をした。

 数分間、アリアたちは竜に乗るのを楽しんだ。


「ノーマンさん! ありがとうございました! 楽しかったです!」


 竜から降りたアリアは、ノーマンにお礼を言う。

 サラ、ステラも同様にお礼を言っていた。


「楽しんでくれたようで、良かった! そろそろ、戻らないといけない時間だから、失礼するよ!」


 ノーマンはそう言うと、竜に乗り、木箱のほうへ移動する。

 他の竜騎兵は、すでに、木箱の上空にいるようであった。

 しばらくすると、大きい木箱を吊り下げた竜は、エンバニア帝国のほうへ飛んでいってしまった。


「いや、竜って凄いですね! あれが戦場に現れたら、きっと、度肝を抜かれてしまいますよ!」


「本当ですの! 上空から攻撃をされたら、ひとたまりもありませんわ!」


「しかも、矢と炎の魔法では、翼を含めて体表に、傷一つ、つけられませんからね。もちろん、剣や槍でも厳しいことには変わりはありませんが」


 アリア、サラ、ステラは、遠ざかる数匹の竜を見ながら、各々、感想を口にする。

 その近くでは、エドワードと学級委員長三人組が膝をついていた。

 どうやら、エレノアを止めるために、体力を使ってしまったようだ。


 エレノアはというと、白目をむいて、地面に倒れている。

 そばには、カレンがおり、なにかをしたようであった。

 そんな中、アリアたちの下に、ミハイルが近づいてくる。


「君たち、そろそろ、採掘現場に戻るよ!」


 ミハイルは、アリアたちに聞こえるよう、声を出す。

 アリアたちは返事をすると、ミハイルの後をついていく。


 エドワードたちも、フラフラとしながら、なんとか歩いていた。

 そんな中、カレンは、地面に倒れているエレノアの顔面に向かって、水筒の水をかける。


「ぶぶぶぶう!? なんですの!? なんですの!?」


 白目をむいていたエレノアは、すぐに意識を取り戻し、立ち上がる。

 顔面についた水を、急いで払っていた。


「もう休憩は終わりみたいです。さぁ、行きましょうか」


「ええええですわ!? もう、休憩が終わりましたの!? 全然、休めませんでしたわ!」


 カレンの言葉を聞いたエレノアは、落胆する。

 その後、アリアたちは採掘現場に到着し、ツルハシを振るい始める。

 ミハイルの指揮の下、エドワードたちも、ツルハシを振るっていた。


 ただし、その速度は、アリアたちの5倍の速度である。

 必死な顔でツルハシを振るっているエドワードたちの近くでは、ミハイルもツルハシを持って、採掘をしていた。


 どうやら、午後はミハイルも採掘をするようである。

 カンカンカンとツルハシを振るう音が、周囲には響いていた。

 数時間後、一日の採掘作業を終えたアリアたちは、鉱山の入口で労働者の列に並ぶこととなる。


 目的は、一日の労働の成果として、お金を受けとることであった。

 無事、一人5千ゴールドを手に入れたアリアたちは、宿屋に戻ってきていた。


「それにしても、良い人でしたね、ノーマンさんは! 格好良くて、優しいって凄くないですか?」


 食堂のイスに座って、料理を食べていたアリアは、午前中のことを思い出す。


「そうですわね! しかも、強そうでしたの! 少なくとも、エドよりは腕が立ちそうですわ!」


 サラも、同意をする。


「へぇ~、僕はあんまり見ていないけど、そうなんだ! 結構、年がいっている感じかい?」


 ミハイルは、興味を持つ。


「たしか、今年、士官学校を卒業したと言っていたので、私たちと同年代だと思います」


 ステラは、食事をしながら、疑問に答える。


「いや、それは若いね! ということは、士官か! しかも、竜騎兵ということは、実力もあるんだろうね! エド! 試合を申しこんできてよ! 竜騎兵の士官の力を見てみたいからさ!」


 ミハイルはそう言うと、エドワードのほうを向く。


「僕は嫌ですよ。戦うのなんて。採掘作業で死ぬほど疲れているのに、試合なんてしたら、余計、疲れるに決まっています」


 エドワードは、乗り気ではないようである。


「おーほっほっほ! きっと、負けるのが恐いんですの! 奴隷1号のくせに、一丁前に自尊心があるようですわね! 例え、負けても、誰も驚きませんわよ! なんたって、奴隷1号は弱いですもの! 雑魚、最弱ですわ!」


 邪悪な笑顔を浮かべたエレノアは、暴言を浴びせた。


「くっ! 僕を怒らせて、試合をさせようとしても無駄だ! 冷静さが重要だと習ったからね! それなら、エレノアーヌが試合をすれば良いだろう!」


 エドワードは、すかさず反撃をする。

 その後、エドワードとエレノアは、食事をしながら、延々と口論をしていた。

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