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アリアの軍生活  作者: 夕霧ヨル
ローマルク王国防衛編
72/148

72 肉の奪い合い

 ――アリアたちが採掘現場を出てから、数分後。


 鉱山を出たところにある広場には、数匹の竜が舞い降りようとしていた。

 その真下では、竜から吊り下げられた大きな木箱を、エンバニア帝国の軍人たちが周囲から押さえて、ゆっくりと降ろさせている。


 しばらくすると、大きな木箱は、全て無事に着地をした。

 そのことを確認した軍人たちは、木箱につけられている紐を外していく。

 上空では、竜が大きな翼をはためかせている。


 相当な風圧が発生しているのか、地面に生えている草は大きく揺れていた。

 アリアたちは、他愛のない話をしながら、その様子を眺めている。

 数分後、軍人たちは、木箱につけられていた紐を全て外し終わっていた。


 それに伴い、竜騎兵は、紐を回収すると、少し離れた場所に竜を着地させていた。


「さぁ、君たち、お昼ご飯をもらいにいこうか!」


 ミハイルは、いつも通りの笑顔で、アリアたちのほうを向く。

 返事をしたアリアたちは、ミハイルの誘導に従って、木箱の前にできていた列に並ぶ。


「うわぁ! 凄い良い匂いがしますよ!」


 列に並んでいたアリアは、腕をブンブンと振って、興奮していた。


「本当ですの! 焼きたてのパンとお肉の匂いがしますわ!」


 サラは、口からよだれが垂れそうになっている。


「おーほっほっほ! 奴隷1号! 全然、疲れていませんわよね? さすが、男の子ですの!」


 そんな中、エレノアは、なにやら含みのある笑顔になっていた。


「疲れているに決まっているだろう! おおかた、僕を褒めて良い気になったところで、お昼ご飯を巻き上げようという作戦だろうが、引っかかる僕ではない!」


 エドワードは、食欲をそそる匂いによって、元気になっているようである。


「キー! 奴隷1号のくせに生意気ですわ! ワタクシに飢えて死ねと言いますの!?」


 エレノアは、すぐにプンプンと怒り出す。


「たかが、お昼ご飯が少ないくらいで死にはしないだろう! それに、あげてしまったら、僕はなにを食べれば良いんだ!?」


「そこら辺にある草でも食べれば良いですの!」


「僕は馬ではない! 午後も採掘作業をするには、しっかりとした食事をする必要がある! だから、お昼ご飯は、絶対に渡さない!」


「くっ! 強情ですわね! 諦めるしかなさそうですの! となれば! あなたたち! ワタクシにお昼ご飯を渡しなさい!」


 エレノアは、学級委員長三人組のほうに目を向ける。

 どうやら、学級委員長三人組の昼食を狙っているようであった。

 当然、学級委員長三人組もお腹ペコペコであったため、すぐに言い返す。


「ウンウン! まだまだ、元気があるみたいで良かった! 午後はもう少し頑張らせても大丈夫そうだ!」


 ミハイルは、腕を組みながら、口論を見守っている。

 エレノアたちは、夢中になっているようで、ミハイルの言葉に気づかない。


「ご愁傷様ですね、エレノアーヌたちは」


「そうですわね。多分、午前よりも大変だと思いますの」


「大丈夫ですよ。ミルさんも、そこら辺は分かっていると思いますし」


「そうだと良いですね。ただ、あのナルシストは常人とは感覚が違います。滅茶苦茶、働かされる可能性もなきにしもあらずですね」


 ステラ、サラ、アリア、カレンは、ミハイルに聞こえないよう小声で話す。

 そんな中、ミハイルがアリアたちのほうに、いきなり振り返る。


「ひどいな、カリス! 僕がそんなことをする男に見えるかい? 大丈夫! エドたちがギリギリ移動できるくらいには留めておくから!」


 ミハイルは、カレンのほうを向くと、そう言った。


「チッ! 地獄耳が! さすがですね。そこまで、お考えとは。これなら、大丈夫そうですね」


 カレンは、ボソッとつぶやいた後、ミハイルを褒め称える。


「……宿屋でも言ったけど、もう少し演技をしようよ! 露骨すぎるって!」


「はて? 私は、演技などしていませんよ。本心から、先ほどの言葉を述べたまでです」


 カレンは、いつも通りの顔をしていた。


「はぁ……もう、いいよ。とりあえず、そろそろ僕たちの順番だから準備をしようか! ほら、君たちもしょうもない言い合いをやめて、準備をして!」


 ミハイルは、ため息をつくと、現在進行形で口論をしているエレノアと学級委員長三人組のほうを向く。

 その後、アリアたちは昼食を無事に受け取ると、地面に座っている労働者を避けながら、空いている場所を探すことになった。


 数分後には、空いている場所を見つけることができていた。

 アリアたちは、背丈の低い草が生えている地面に座りこんでいる。


「うう~ん! この肉を挟んだパンは、最高ですね!」


 アリアは、手に収まらないほど大きなパンを食べていた。

 野菜と肉を挟んだパンからは、食欲をそそる匂いが漂う。


「おいしすぎますわ! 食べ応えもあって、最高ですの!」


 サラも、両手でパンをつかんで、ムシャムシャと食べている。


「しかも、一般的なパンより大きいですからね。これだけで、労働者のことを考えていることが分かります」


 ステラは、パンを観察して、分析しているようであった。

 カレンはというと、黙って、パンを食べている。


「いや~、本当においしいね、このパンは! いつも食べていたものより、全然、おいしいよ!」


 ミハイルは、笑顔でパンをパクパクと食べていた。


「本当ですよ! いつも食べていたものは、パサパサで、味気がないものばかりでしたからね! こんなに肉汁あふれるものを食べれるとは、最高です!」


 エドワードは、ミハイルに同意をする。

 学級委員長三人組も、パンを食べながら、ウンウンと頷いていた。

 そんな中、エレノアが立ち上がる。


「ああ~! もっと食べたいですわ! 余りがないかを聞いてきますの!」


 そう言うと、エレノアは、木箱の近くで片づけをしている軍人に向かって、走っていく。


「余りとかあるのかな? まぁ、帰るのを待とうか!」


 ミハイルは、遠ざかっていくエレノアの後ろ姿を見ている。

 アリアたちも、食べるのに集中していたため、わざわざ追いかけることはしなかった。

 2分後、息を切らしたエレノアが帰ってくる。


「はぁはぁはぁ! 余りは、ないようでしたわ!」


「だろうね! 夜まで我慢しなよ! 食事が足りなくても、死にはしないんだから!」


 ミハイルは、パンを食べながら諭す。


「くっ! 分かりましたの! ここは我慢しますわ!」


 エレノアはそう言うと、地面に座りこんで、水筒の水をガブガブと飲み始める。

 どうやら、空腹を紛らわそうとしているようであった。


 しばらくして、アリアたちがパンを食べ終わった頃。

 エレノアが、いきなり立ち上がる。


「水をもらってきますの!」


 そう言ったエレノアは、水筒を片手に持ち、歩き始めた。

 そのまま、スタスタと歩いていってしまう。


「う~ん、なんだかエレノアーヌの様子がおかしいな! 君たち、エレノアーヌが変なことをしないように、見張っておいてよ!」


 昼食を食べ終わったミハイルは、草地の上に寝そべっている。

 どうやら、昼休みが終わるまで、横になって休むようであった。


(良いなぁ~! 私も、寝そべって休みたいよ!)


 アリアは立ち上がりながら、そんなことを思ってしまう。

 ミハイルと同様に寝そべって休んでいたサラたちは、嫌そうな顔をしながら立ち上がる。


「それじゃ、エレノアーヌのことを頼むよ! カリス! ヤバそうな事態だけは避けてね!」


 ミハイルは、遠ざかるアリアたちに向かって、横になったまま、手を振っていた。


「はぁ……面倒ですね……」


 カレンは歩きながら、そうつぶやく。

 アリアたちも、渋々といった感じで、歩いていった。

 カレンの後をバレないようについていっていたアリアたちは、しばらく歩くと、立ち止まる。


「エレノアさん、なにをするつもりなんですかね?」


 アリアは、少し離れた場所から様子をうかがっていた。

 近くには、もちろん、カレンたちもいる。

 アリアたちが見守る中、エレノアは、キョロキョロと辺りを確認していた。


 その先では、3mはあろうかという赤い竜が肉塊を食べているのが見える。


「まさか……いや、さすがにお馬鹿さんでも、そんなことするワケがありませんね……」


 ステラは、首を横に振って、頭の中に浮かんだ考えを振り払おうとしていた。


「あ! 動きましたの!」


 サラは、エレノアのほうを指差しながら、大きな声を出す。

 アリアたちも、急いで走り出した。

 追われているエレノアはというと、


「少し分けてくださいまし! そんなに食べたら、太ってしまいますわよ! 食べるお手伝いをしてあげますの!」


 などと言いながら、竜が現在進行形で食べている肉に向かって走っていく。

 どうやら、強奪するつもりのようだ。


「はぁ……馬鹿だとは思っていましたが、ここまでとは……」


 ステラは、走りながら、ため息をついている。


「小さい頃の付き合いだが、未だに、エレノアの行動は読めないな」


 エドワードは、小声でつぶやく。

 学級委員長三人組も、昔から知っているようであり、ウンウンと頷いていた。


「自分で行かずとも、私に頼んでくだされば、すぐに盗ってきましたのに。それほど、我慢できなかったんですかね?」


 カレンは走りながら、首をかしげている。


「いや、竜の食べているお肉を盗るのは駄目ですよ! いくら、簡単にできても!」


「そうですわ! それに生肉を調理するのは、大変ですの!」


 アリアとサラは、カレンに向かって、抗議をしていた。

 そんな中、ステラが口を開く。


「お二人とも、見てください」


 ステラは走りながら、指差す。

 そこでは、エレノアと竜が肉を奪い合っている様子が見えた。

 エレノアは、竜が食べている肉塊を、無理矢理、口から引き離そうとしている。


「ちょっと! あなた! 口からお肉を離しなさい! もっと広い心を持ちますの! それでは、立派な竜になれませんわよ!」


 アリアたちが迫る中、エレノアは、竜に対して、説教をしていた。

 すると、お説教が効いたのか、竜は口を大きく開ける。

 竜と肉塊の綱引きをしていたエレノアは、尻餅をついてしまう。


「おーほっほっほ! ワタクシのお説教が身に染みたみたいですわね! これは、お礼としていただいておきますの!」


 エレノアはそう言うと、肉塊を持ったまま、立ち上がる。

 そんなエレノアに、竜の大口が近づく。


「へ?」


 エレノアは、間の抜けた声を出してしまう。

 竜は、呆けた顔をしているエレノアを頭から丸のみにする。

 当然、アリアたちにもその姿は見えていた。


「ぶふぅ! 竜から肉を奪い取ろうとして、自分が食べられるとは! お馬鹿さんにふさわしい最後ですね!」


 ステラは、珍しく笑顔になっている。


「ステラさん! そんなことを言っている場合ですか!? エレノアさんを助けないと!」


「そうですの! あのままでは、食べられてしまいますわ!」


 アリアとステラは、現在進行形でエレノアを食べようとしている竜の下に到着すると、救出活動を開始した。


「あああああああ! 誰か、助けてくださいまし! まだ、ワタクシにはやり残したことがありますのおおおおお!」


 エレノアはというと、両手を使って、竜の牙を持ち、なんとか口を閉じさせないようにしている。

 アリアたちは、とりあえず、竜の口から出ているエレノアの足をつかむ。


「皆さん! いっせいので引きますよ! いっせいの!」


 アリアは、大きな声でかけ声をかける。

 その声とともに、エレノアの両足を持ったサラたちは引っぱった。

 だが、エレノアの体は、ビクともしない。


「あああああ! 足が千切れますの! もっと優しく助けてくださいまし!」


 それなりに力がある面々に足を思いっきり引かれているため、エレノアには、相当な激痛が走っているようであった。

 しばらくの間、アリアたちはエレノアの足を引き続ける。


 その度に、エレノアの悲鳴が聞こえている状況であった。


「これ、足を引いても、意味がないですね。竜の牙をつかんでいるので、一生、引き抜けませんよ」


 冷静に分析していたカレンは、エレノアの足を手放し、竜の口に注目している。

 食べられないようにエレノアは竜の牙をつかんでいるため、引き抜くのは難しそうであった。


「エレノアさん! 竜の牙から手を放してください! そうでないと、助けられません!」


 エレノアの足を放したアリアは、大きな声でエレノアに伝える。


「なにを言っていますの!? 竜の牙から手を放した瞬間、食われますわ! とりあえず、なんとかしてくださいまし!」


 エレノアは、必死の形相で竜の口が閉じられないようにしていた。


「なんだか、面倒になってきましたね。皆さん、お馬鹿さんは、食われたということにしませんか?」


 ステラは、アリアたちのほうを見ながら、提案をする。


「いや、それは駄目だろう……自業自得とはいえ、さすがに、可哀そうだ」


 エドワードは、冷静な声で返答をした。


「なに、落ちついていますの、奴隷1号! さっさと、ワタクシを助けなさい! まさか、幼馴染を見捨てるつもりですの!?」


 エレノアは、必死で声を上げている。

 そんな中、騒ぎを聞きつけたエンバニア帝国の若い軍人が竜の下に向かってきていた。

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