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56 村の救援

 ――4日後の朝。


 ローマルク王国内を進んでいた近衛騎士団の先発隊は、王都ハリルまで半日という場所まで来ていた。

 近衛騎士団の本隊も、無事にローマルク王国に入国できたようである。

 そんな状況で、アリアたち先行組は、先発隊から3時間程進んだ場所にいた。


 快晴の中、森林地帯を抜けて、王都ハリル周辺を馬で走っている。

 アリアたちの先頭には、お守りとしてついてきたフェイがいた。


「そろそろ、王都ハリルか! さすがに、エンバニア帝国軍も、ここまでは来ていないようだな! だが、なにが起こるか分からないから、警戒だけはしておけ!」


 フェイは、アリアたちに向かって大声で叫ぶ。

 それに対し、全員、大きな声で返事をする。

 先行組は周囲を警戒しながら、馬を走らせていた。


 しばらくすると、木の柵に囲まれた村らしきものが左手に見えてくる。

 その村からは、煙が立ち上がっていた。


「なんだか、様子がおかしいぞ! 炊事の煙にしては、大きすぎる!」


 左手に目を向けながら、フェイは声を出す。

 そのまま先行組が村のほうに進んでいると、怒号と悲鳴が聞こえてきた。


「賊に襲われているかもしれない! 全員、戦闘準備!」


 フェイは剣を鞘から抜き、大声で叫ぶ。

 アリアたちも大きな声で返事をすると、剣を構える。

 フェイを先頭にして、先行組は壊れた門から村に入っていく。


 村の中では、村人と軍服らしき服を着た賊が怒号を上げながら戦っていた。

 すでにやられてしまったのか、地面に多くの村人が横たわっている状況である。

 家は燃えているものもあり、まさに戦場といった感じであった。


「こいつら、もしかして、ローマルク王国軍か? なんで、軍が村を襲っているんだ! まぁ、いい! お前たち、一人も逃がすな! 全員、討ち取れ!」


 フェイは大声でそう言うと、馬上から突きを繰り出す。

 村人と戦っていた賊は、背中に槍の一撃を受け倒れてしまう。


「た、助けが来たぞ!」


 賊が倒れたのを見た村人が、大声で叫ぶ。

 その声を聞いたのか、散らばっていた賊が集まってきていた。


「アリア、サラ、ステラ! 集まってきた賊は私たちで倒すから、周囲にいるやつらは頼んだぞ!」


 フェイはそう言うと、馬から飛び降り、賊の集まりに突っこんでいく。

 その後ろには、エドワードと学級委員長三人組も続いていた。


「分かりました!」


「了解ですの!」


「了解しました」


 三人は返事をすると、馬を降り、周囲の探索に向かう。

 すると、すぐに10人程の賊が見つかった。

 三人は、一気に距離を詰めると斬りかかる。


「この人たち、ローマルク王国軍の兵士たちですよね? なんで、自国の村を襲っているんですか?」


「さぁ? 物資の徴発をしようとして、抵抗されたから殺して回っているのかもしれません」


「酷すぎですの! 守るべき国民を、逆に殺すなんてあり得ませんわ!」


 三人は会話しながらも、次々と賊を倒していく。

 まともな抵抗もできずに、一方的に倒されてしまう。

 1分後には、全員、物言わぬ肉の塊になっていた。


「とりあえず、ここは大丈夫そうですね! 他の場所に行きましょうか!」


 アリアは、剣を振って血を飛ばす。


「そのほうが良いですわ! 一人でも被害を減らしますの!」


「そうですね。少し急ぎましょう」


 サラとステラは返事をすると、走り出す。

 アリアも、二人の後ろに続く。

 そこから、三人は村の中を回り、次々と賊を倒していった。


 途中、賊が逃げ出したが、一人も逃げることはできなかった。

 10分後、三人は村に散らばっていた賊を全員倒すことに成功する。

 その後、報告をするために、フェイのいたところに戻った。


「お! 倒し終わったか! こっちも、終わったところだ!」


 村の広場にいたフェイは、三人を見つけると手を振る。

 その近くでは、エドワードと学級委員長三人組が、死体を一ヶ所に集めていた。

 広場には、30人程の賊が横たわっている。


 三人はフェイたちと合流し、村の中の死体を広場に集めていた。

 そんな中、一人の老人がフェイに近づいてきた。


 三人は死体運びを一時中断し、フェイのほうに注目する。


「どなたかは存じませんが、村を助けていたただき、ありがとうございます!」


 老人は涙を流しながら、フェイにお礼を言っていた。


「礼には及びません! 当然のことをしたまでです! 失礼ですが、あなたは?」


「ああ! これは、失礼! 私は、この村の村長です!」


 村長はそう言うと、お辞儀をする。


「村長ですか! 私は、アミーラ王国軍の近衛騎士団に所属するフェイという者です!」


「アミーラ王国軍! もしかして、ローマルク王国に援軍として来てくださったのですか?」


 老人は大きな声を出して、驚く。

 その声を聞いた村人たちが、広場に集まってくる。

 どうやら、味方だと判断したようであった。


「はい! ところで、一つお聞きしたいのですが、どうしてローマルク王国軍に襲われていたのですか? 彼らは、本来、あなたがたを守るべき存在のハズです!」


 フェイは、村長に質問をする。

 その言葉を聞いた村長は、顔を曇らせていた。


「フェイ殿のおっしゃる通りです。彼らも、かつては我々を守る誇り高き兵士でした。ですが、エンバニア帝国との戦争が彼らを変えたのです。まともな食料がない状況で戦わされ、結果、生き延びるために脱走をすることになってしまった」


 老人はそう言うと、俯いてしまう。


「それで、途方に暮れた彼らは、この村を襲って食料を奪おうとしたのですね?」


「はい、そうです。最初、彼らの指揮官は私どもに事情を説明して、食料を分けてくれるように頼んできました。ですが、度重なる徴発で、この村には私どもの食べる食料さえほとんどない状況です。当然、お断りすることになりました」


 老人は、心苦しそうに続ける。


「すると、無理矢理、食料を奪おうとしたのです。数少ない食料を奪われてしまえば、私どもは餓死することになってしまいます……戦うしかなかったのです。生き延びるために」


 老人は、つらそうに声を絞り出す。

 そんな中、村長とフェイの会話を聞いていたアリアは、一つ疑問に思うことがあった。


(軍にいて食料がないってあり得るのか? 軍こそ、食料がありそうだけど。徴発した食料は、兵士に配布されているハズだし。しかも、ミハルーグ帝国から食料、軍需物資を送られている。余計、足りなくなるとは、考えづらいな)


 アリアは村長とフェイを見ながら、そんなことを考える。


「一つ質問をしてもよろしいでしょうか? 軍には、徴発された食料やミハルーグ帝国から運ばれた食料があるハズです! なので、食料が足りなくなるのは考えられないのですが、なにか原因でもあるのですか?」


 アリアと同じ疑問を持ったのか、フェイは村長に尋ねた。


「……あくまで、これはウワサです。老人のたわごとだと思って聞いてください。なんでも、力のある貴族や将官たちが、食料を横領しているらしいです。高値で売りさばいたり、エンバニア帝国に横流しをしたりして、私服を肥やしていると、もっぱらウワサになっています」


「なるほど! それが、本当だとしたら、末端の兵士に食料がいき渡らないのも納得です。おそらく、大佐や中佐ぐらいの階級の者の中にも、横領している者がいるでしょう!」


「あくまで、ウワサ。ウワサですので、本気になさらないでください」


 老人は、バレるのを恐れているのか、念押しをする。


「村長、大丈夫です! 近衛騎士の名誉にかけて、信頼できる者以外には話さないことを誓います」


「本当にお願いしますよ。私には、フェイ殿を信じるしかありませんので」


「承知しました! それでは、我々は先を急ぎますので、死体の処理をお願いします! お前たち、撤収だ!」


 フェイはそう言うと、馬のいる場所に戻ろうとした。


「お待ちください!」


 村長はそう言うと、フェイの目の前に移動する。


「なんでしょうか?」


「大変、申し上げにくいのですが、食料を少し分けてはいただけないでしょうか?」


 村長はそう言うと、フェイに対して、土下座をしていた。


「村長! 顔を上げてください! 私の一存では決められませんので、上官とかけあってみます! 確約はできませんが、多分、大丈夫だと思います!」


 フェイは急いで村長を立たせると、そう言った。


「フェイ殿、ありがとうございます! かけあっていただけるだけでも、ありがたいことです!」


 村長はそう言うと、涙を流しながらフェイの手を握りしめていた。

 フェイはというと、困っているようである。

 アリアは、そんな様子を眺めていた。


(死体になった人たちも悪い人ではなかったのかもしれない……今となっては、確かめようがないけど。ただ、生き延びたかっただけなんだろうな。食料がない状況で戦うなんて考えたくもない。しかも、ウワサが本当だとしたら、国のために戦おうなんて、絶対に思わないだろう)


 考えがグルグルと、アリアの頭の中を回り続ける。


(本当、なんで戦争するんだろうな。死人が増えるだけなのに……やめよう。考えても、しょうがない)


 アリアはそう思うと、死体を積み上げた。






 ――30分後。


 先行組は、村の近くまで来ていた先発隊と合流することができた。

 すぐに、フェイはミハイルの下を訪れ、村でのことを報告し、食料の件をかけあう。

 そばには、一応、アリアたちもいた。


 村で行った戦闘について聞かれる可能性があったからだ。


「まぁ、大体、事情は分かったよ。もう王都ハリルも近いし、先発隊の食料を全部あげちゃって良いよ!」


 馬車から降りたミハイルはそう言うと、肩を動かしていた。

 どうやら、馬車にずっと乗っていたので、肩が凝っているようである。


「本当ですか!? ありがとうございます!!」


 フェイは大きな声を上げて、驚いていた。

 あっさりと認められると思っていなかったようである。


「団長。待ってください。ウワサが本当であれば、ローマルク王国からのまともな補給は期待できません。ここは、食料を温存しておいたほうが良いのではないでしょうか?」


 フェイの隣に立っていたバールが、進言をした。


「バール! いきなり、なにを言うんだ!? それでは、村の人たちを見殺しにするということか!?」


 まとまりかけた話を蒸し返されたため、フェイは激怒する。


「そういうことではない。ただ、今後のことを考えて進言したまでだ」


 対して、バールは落ちついていた。


「なんだと!? バール、剣を抜け! 腐りきった根性を叩き直してやる!」


 頭に血が上ったフェイは、背中に背負っていた槍をバールに向ける。

 バールも、売られたケンカを買うようであり、大剣を構えた。


「ハイハイ! 二人とも、落ちついて! そこらへんも、ちゃんと考えているよ! 直接、ミハルーグ帝国から食料をもらえるようにお願いするから、大丈夫! それでも納得できないんだったら、僕が相手になるよ!」


 ミハイルはそう言うと、フェイとバールの間に入った。


「私は元々、団長の言った言葉に依存はありません!」


「失礼しました」


 フェイとバールは、すぐさま武器を背中に戻す。

 ミハイルは、二人が矛を収めたのを確認すると、アリアたちのほうを向く。


「君たちもお疲れ様! もう、先行組として、経路の安全確認をしなくても良いからね! あとは、中隊に合流して、その指揮下で動いて!」


 ミハイルはそう言うと、再度、フェイとバールのほうを向いた。


「それじゃ、食料を届けるために、前進をしようか! 二人とも、中隊の指揮は頼んだよ!」


「はい!」


 フェイとバールは大きな声で返事をすると、自分の中隊に戻っていく。

 アリアたちも、所属中隊に戻っていった。


 それから、すぐに近衛騎士団の先発隊は村に到着する。

 村人たちは、大歓声で迎えた。

 その後、先発隊の面々は、持ってきていた全ての食料を村に置いていく。


 その間、ミハイルは、涙を流している村長に、ずっとお礼を言われていた。

 手を握られ、ずっとブンブンと上下に振られていたので、困惑していたようである。

 そうして、全ての食料を置き終わると、先発隊は村を出発した。


 村人たちは、村の外に出て、姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

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