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55 入国

 王城での会議が終わってから、30分後。


 アリア、サラ、ステラは、普段着に着替え、近衛騎士団の詰め所に向かっていた。

 もちろん、近衛騎士団が援軍として、ローマルク王国に行くことは、まだ知らない。

 三人は、近衛騎士団の基地の中を歩いている。


「久しぶりの休日ですね! 目一杯、遊びましょう!」


 アリアは、元気な声を上げた。


「お金もありますし、準備はバッチリですわ!」


 サラも、アリア同様、元気そうである。


「遊ぶのが楽しみです!」


 珍しく、ステラも嬉しそうな声を出す。


 近衛騎士団に着隊して以来、毎日、三人は特別訓練を受けていた。

 フェイと連れてきた二人による特別訓練は、苛烈なものであった。

 そのため、強くはなっていたが、毎日、クタクタになってしまっていた。


 また、休日は平日より厳しく、朝早くから夜遅くまで、特別訓練を受けていた。

 そんな中での久しぶりの休日である

 楽しみにしていないワケがなかった。


 三人は歩きながら、どこで遊ぶかを相談していると、近衛騎士団の詰め所に到着する。

 警備の近衛騎士に軍の身分証を見せて、一人ずつ詰め所の外に出ていく。


「さぁ、レイルの平民街に行きますか!」


「おーですわ!」


「はい!」


 三人は元気な声を上げ、王城の門をくぐり抜けようとする。

 そのときであった。

 バンバンバンという銅鑼の音が聞こえてくる。


 音の発生源は、王城に備えつけられた銅鑼がある場所であった。

 高い位置にあるため、王都レイルのどこにいても聞こえそうである。


「ハハハ……なにか、聞こえますよ……おめでたいことでもあったんですかね……」


 アリアは半笑いになりながら、門の外に出ようとする。


「きっと、そうですわ……そうに違いませんの……」


 サラは、歩みを止めない。


「銅鑼の点検をしている可能性もありますね」


 ステラも、歩みを止めなかった。

 そんな中、近衛騎士団の詰め所が騒がしくなる。

 三人から少し離れた場所にあるため、嫌でも、近衛騎士の慌てた声が聞こえてきた。


「お~い! 君たち~! 緊急招集が発令されたぞ~! 軍服に着替えて、訓練場に行かないと~!」


 三人の耳に、詰め所にいた近衛騎士の声が入ってくる。

 正面では、普段着姿の者たちが、急いでこちらに走ってきているのが見えた。


(なにも見ず、なにも聞こえなかったことにしようかな……)


 門のすぐ手前で立ち止まったアリアは、目の前の現実から目をそらそうとする。


「アリアさん」


 アリアの肩に手を置いたステラは、首を横に振る。


「やっぱり、駄目ですよね……サラさん、女子寮に戻って着替えましょう……」


 アリアは、現実に戻った。


「はぁ……久しぶりの休日でしたのに……」


 サラは、残念そうな声を上げる。


「アリアさん、サラさん。きっと、そのうち、良いことがあります。とりあえず、ここは耐えましょう」


 ステラはそう言うと、女子寮に向かって走り出した。

 辺りでは、普段着姿の近衛騎士たちが走っている。

 アリアとサラは顔を見合わせた後、走り始めた。


 最悪な気分であることをお互いに察していた。






 ――10分後。


 自分の部屋に戻って着替えた三人は、訓練場へと向かっていた。

 途中、髪の毛ボサボサのフェイと合流する。

 どうやら、直前まで寝ていたようであった。


 走りながら、『人が気持ちよく寝ていたのに……』と恨み節をつぶやくのが聞こえた。


 訓練場に到着すると、三人は各小隊の状況を把握し、報告することになる。

 しばらくすると、小隊長が到着し、その役目は交代となった。

 代わりに、フェイの指示で、あちらこちらを動き回ることになる。


 1時間後には、近衛騎士団の全員が訓練場に整列していた。

 各部隊の指揮官が揃ったことを報告し終わる。

 すると、ミハイルがお立ち台に上がった。


 近衛騎士団の面々は、ミハイルに注目する。


「休日に悪いね、皆! これから、近衛騎士団は援軍として、ローマルク王国に行くことになったんだよね! そういうワケだから、よろしく!」


 ミハイルはいつもと変わらない気軽な感じで、そう言った。


(いやいやいや! どういうワケだよ! え? それって、戦場に行くってこと? そうだとしたら、最悪だよ!)


 整列していたアリアは、グルグルと考えを巡らせる。

 アリアの頭が爆発しそうになっている中、ミハイルは言葉を続けた。


「もう面倒だから、ここで僕が指示をするね! 第1、第2中隊は準備が出来次第、ローマルク王国の王都ハイルへ向けて出発! 僕も、いろいろと調整しないといけないから、先発隊と同行するよ! 残りの第1大隊と第2大隊は、第1師団の後方部隊から食料、軍需物資を受けとった後、副団長の指揮でローマルク王国の王都ハリルに来て! それじゃ、よろしく!」


 ミハイルは早口でそう言うと、お立ち台を下りる。

 指示を受けた部隊の指揮官は、大きな声で返事をすると、自分の部隊に指示を出し始めた。

 もちろん、第2中隊の中隊長であるフェイも、次々と指示を出す。


 アリア、ステラ、サラは、第2中隊の近衛騎士たちに混じって、軍需物資、食料などを急いで馬車に積みこむ。

 忙しく動き回っていたため、なにかを考える余裕は一切なかった。


 1時間後、準備が整ったため、先発隊である第1、第2中隊はローマルク王国の王都ハリルへ向けて出発をする。

 近衛騎士団長の専用馬車も続いていた。






 ――2週間後。


 途中で補給をしながら進んでいた先発隊は、イメリア王国を抜けて、ローマルク王国の領内に入っていた。

 ここからは、エンバニア帝国の南部侵攻軍に出くわす可能性があった。


 ローマルク王国の戦況報告を受けてから時間が経過していたためである。

 そこで、道中の安全を確認するため、若手の士官であるアリアたちが先行することになった。


 そのため、アリアたちは先発隊から3時間ほど先に進んだ森林地帯にいた。

 太陽が高く昇り、快晴の中、馬を走らせている。


「レイル士官学校で馬に乗る練習をしていて、本当に良かったです!」


 アリアは馬を走らせながら、そう言った。

 周囲には、エドワードを始めとした配属されたばかりの士官がいる状況である。


「本当ですわ! 夏休みが終わった後、練習していて良かったですの!」


 見事に馬を走らせていたサラは、同意する。


「お二人とも、コニダールから逃げるとき、馬に乗れないばかりにひどい目にあっていましたね。あのときと比べたら、今のお二人は、見違えるようです」


 ステラは、コニダールから逃げたときのことを思い出しているようであった。


「ハハハ……あのときは大変でしたね……」


「本当に死ぬかと思いましたの……」


 アリアとサラは、遠い目をしている。


「まぁ、もう昔のことですから、思い返しても仕方がないですよ。それより、前を見てください」


 ステラはそう言うと、剣を鞘から抜いた。


「え? うわ! エンバニア帝国軍じゃないですか? しかも、こっちに気づいていますよ!」


「本当ですの! それなりに数がいますわ!」


 アリアとサラは、目の前を確認した後、剣を抜く。

 後方からも、剣を抜く音が聞こえる。

 どうやら、エドワードたちも、戦う準備をしたようである。


「隠れているつもりでしょうけど、殺気が出ているので、一発で分かりましたよ。規模的に斥候かもしれません」


 ステラは、やれやれといった感じでそう言った。

 エンバニア帝国軍の兵士は、少し離れた場所の茂みに隠れている。

 どうやら、奇襲を仕掛けようと考えているようであった。


「斥候ということは、一人でも逃がしたら、エンバニア帝国軍の本隊に知らされる可能性がありますね! エドワードさん! 逃がしたら駄目ですよ!」


「そうですわ! エドワード、頑張りますの!」


「頑張ってください、エドワードさん」


 三人は後ろを振り向き、応援をする。


「僕だけじゃなく、君たちも頑張るんだ! それより、そろそろ、馬を降りたほうが良い!」


 エドワードは怒った声でそう言うと、馬を減速させる。

 かつての学級委員長三人も、エドワードにあわせていた。


「エドワードさんの言う通りですね! 降りますか!」


「そうですわね! このまま、突っこんだら、馬がケガをしますの!」


「一人でも逃がしたら面倒になるので、頼みますね」


 三人はそう言うと、馬を停止させ、飛び降りる

 後続の四人も続く。


「それじゃ、皆さん! いきますよ!」


 アリアは大きな声で叫ぶと、エンバニア帝国軍の兵士たちに向かって、突撃をしていく。

 後ろには、サラとエドワードたちが続く。

 ステラはというと、一番離れた場所にいる敵を倒すために、先行しているようであった。


「なぜ、バレた! 迎撃をしろ!」


 離れた場所にいる敵の指揮官らしき人が、叫んでいる。

 どうやら、奇襲するつもりが、逆に奇襲を受けるとは思っていなかったようであった。


「死ねええ!」


 近くにいた敵の兵士がアリアに斬りかかる。


(いや、遅すぎて、当たるほうが難しい! フェイ大尉相手だったら、この一瞬で三回は突かれているよ!)


 アリアは兵士の剣を避けると、弾き飛ばし、返しの一撃で首を斬り飛ばす。

 結果、兵士の頭と体は永遠の別れをすることになってしまった。

 サラとエドワードたちも、次々と倒している。


(皆も大丈夫みたいだな! とりあえず、逃がさないようにしないと!)


 アリアはそう思うと、残りの敵の兵士に向かっていく。


「こいつらは、情報にあったアミーラ王国軍の近衛騎士か! 勝てるワケがない! 引け、引けええ!」


 敵の指揮官らしき人は大声で叫び、逃げ出そうとする。

 続いて、敵の兵士たちも悲鳴を上げながら、逃げ出そうとしていた。


「皆さん! 逃がさないでください! あとが面倒ですよ!」


 アリアは敵の兵士を倒しながら、大きな声で叫ぶ。

 その声を聞いたサラとエドワードたちは、殲滅する速度を上げる。

 数分後には、敵の指揮官らしき人以外を全滅させることに成功していた。


 アリア、サラ、エドワードたちは、逃げていった敵の兵士たちを全員倒すと、馬のいる場所に戻ってきた。

 近くでは、ステラと木にもたれかかった敵の指揮官らしき人がいる。

 指揮官の様子は、ステラに隠れて見えない。


「皆さん、全員、倒したみたいですね。私のほうも尋問が終わったので、一度、先発隊に合流しましょうか」


 ステラはそう言うと、馬に乗る。

 アリアたちも、続く。

 そのとき、自然と、木にもたれかかった死体を見ることになった。


(うわ! 見なきゃ良かった! 腕と足が有り得ない方向に曲がっているし、おぞましい形相をしているよ!)


 馬に乗ったアリアは、渋い顔になる。


「うげぇ! 見ないほうが良かったですの!」


「オウェ! 酸っぱい味が首をのぼってきた! これは、尋問ではなく拷問だろう! まったく、見なければ良かった!」


 サラとエドワードは、吐きそうになっている。

 学級委員長三人組も、口には出さないが、苦々しい顔になっていた。

 その後、先行していた七人は先発隊に戻っていく。






 ――2時間後。


 七人は、先発隊と合流することに成功していた。

 そこで、ステラから概要を聞いたフェイは、バールとともに、ミハイルの下を訪れる。

 もちろん、先行組七人も一緒であった。


 中隊長であるフェイとバールが報告をしにいったため、先発隊は行進を一時停止している状況である。


「それで、報告って、なに? 全体を止める必要があるくらいだから、よっぽど重要なんでしょう? 早く教えて!」


 団長専用の馬車から降りてきたミハイルは、地面に小さい木製のイスを置くと、そこに座った。

 目の前には、ステラが鹵獲した地図が広げられていた。

 そこには、なにやら様々な記号が記されている。


「詳しい報告は、ステラからさせます!」


 フェイがそう言うと、ステラが小枝を持って進み出た。


「報告します。ここから1時間程進んだ場所で、エンバニア帝国軍の斥候と遭遇。全員を討ち取りました。その後、斥候隊の指揮官を尋問にかけ、本隊の居場所を吐かせることに成功。場所は、地図でいうと、この場所です」


 ステラはそう言うと、鉛筆で黒い丸がつけられた場所を指し示す。


「とりあえず、お疲れ様! 一人も逃がしていないんだったら、上出来だよ! にしても、地図をとられちゃうなんて、間抜けな斥候だね! ヤバいと思ったら、燃やすなり、なんなりしないといけないのに!」


 ミハイルは続ける。


「まぁ、それはいいや! 一人にしか聞いていないから信憑性は微妙なところだけど、西に迂回して、王都ハリルを目指そうか! 地図を信じるなら、敵の主力はここからそれほど離れていない位置にいるみたいだしね! 待ち伏せされたら、面倒だよ! それじゃ、後ろの本隊にも伝えておいて!」


 ミハイルはそう言うと、馬車に戻っていった。

 それから、近衛騎士団の先発隊と本隊は、西に迂回して、王都ハリルを目指すことになる。

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