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50 犬猿の仲

 観客席に戻ったアリアは、サラとステラと少し話した後、闘技場の医務室に向かった。

 多少、休めたため、元気になっている状況である。


 アリアのそばには、カレンがいてくれていた。

 服の上から肩をさわり、状態を確認している。


「脱臼していますね。治しますので、この布をかんでいてください」


 カレンはそう言うと、ベッドの上に座っているアリアに布を渡した。


「分かりました! かめば良いんですね!」


 アリアは、手渡された布を口でかむ。


「それでは、いきますよ」


 かんだことを確認すると、カレンは服の上から肩を一気に押す。

 多少痛みはあったが、はまったようである。

 一瞬、顔をしかめたアリアは、口から布を外し、ベッドの上に置く。


「はまったみたいですね!」


 調子を確かめるために、アリアは左肩を回す。


(多少、違和感があるけど、大丈夫そうか)


 アリアはそう思うと、反対側にあるベッドに顔を向ける。

 そこでは、エドワードが足を吊った状態で寝ていた。

 スースーと寝息を立てているのが聞こえる。


「エドワード様も、なかなか、やるみたいですね」


 カレンも、見ているようである。


「はい! まさか、捨て身でくるとは思いませんでした!」


「それほど、勝ちたかったのでしょう。今どき、珍しい、根性のある青年のようですね」


 カレンはそう言うと、持ってきていた袋からエバーを取りだす。

 アリアは、カレンのいるほうに視線を戻した。


「エバーですか?」


「はい。一応、肩は治しましたけど、痛むようであれば使ってください」


「ありがとうございます!」


 エバーを受けとったアリアは、立ち上がると懐にしまう。


「それでは、観客席に戻りますか」


「分かりました!」


 アリアの返事を聞いたカレンは、医務室を出ていく。

 その後ろをアリアが追う。


 二人が観客席に戻ると、大きな歓声が聞こえてくる。

 ステラの下に戻るために、二人は歩く。


「どうやら、サラ様が勝ったようですね」


 カレンは歩きながら、試合会場を見ている。

 アリアも、その方向に顔を向けた。

 そこでは、1組の学級委員長に勝ったサラが、剣を上に振って喜んでいる様子が確認できた。


「ということは、準決勝での私の相手はサラさんですか!」


「そうなりますね。かなりの激戦になると思いますけど、頑張ってください」


「ありがとうございます」


 カレンとアリアがそんなことを話していると、ステラの下に到着した。


「アリアさん、大丈夫ですか?」


 二人が戻ってきたことに気がついたステラは、アリアに声をかける。


「カレンさんが肩を治してくれたおかげで、バッチリです!」


 アリアはそう言うと、左肩をブンブンと回す。


「それだけ動かせれば、大丈夫そうですね。それでは、エレノアを血祭りにしてきます」


「本当に血祭りにしては駄目ですよ! あくまで試合ですからね!」


 アリアは、念のため、ステラを注意する。


「分かっていますよ。例えです、例え」


 ステラはそう言うと、試合会場へ向かっていく。


「大丈夫ですかね、カレンさん?」


「まぁ、危なそうであれば、私とレナード様が動くので安心してください」


「本当にお願いしますね! ステラさんとエレノアさんは、犬猿の仲なので、なにが起きるか分からないので!」


「承りました。それでは、お嬢様を見送ったので、レナード様の下に戻りますね」


「はい! 肩を治していただいて、ありがとうございました!」


「お気になさらないでください。当然のことをしたまでです」


 カレンはそう言うと、レナードの下へ戻っていった。


(さて、どうなるかな? 願わくは、普通に試合をしてほしい。間違っても、殺し合いだけにはなりませんように)


 アリアは観客席に座ると、試合会場を眺めていた。






 ――数分後。


 アリアは、観客席に戻ってきたサラと一緒に試合開始を待っていた。


「アリア、始まりますわよ!」


「そうみたいですね!」


 二人が見守る中、試合会場ではステラとエレノアが剣を構えている。


「おーほっほっほ! ついに、このときが来ましたわ! ワタクシの剣の前に跪かせてあげますの!」


 観客席にも聞こえるような大声で、エレノアはステラを挑発しているようだ。


「…………」


 対して、ステラは無言であるが、明らかにイラついた顔をしているのが確認できた。

 そんな二人を見ている観客席の誰もが、険悪な雰囲気になっているのを感じていた。


「もう、始まる前から、ヤバそうですの……」


「何事も起きないと良いですが……」


 サラとアリアは、心配そうな声を出す。

 そんな二人をよそに、試合会場の審判は腕を上げている。


「始め!」


 腕を振り下ろすと同時に、大きな声が聞こえてきた。

 その瞬間、ステラとエレノアは一気に間合いを詰めたようである。

 結果、ガキンという音が闘技場に響きわたっていた。


 二人とも、鬼の形相をしたまま、鍔迫り合いをしている。


「うわぁ……二人とも、殺気を隠す気がないみたいですね……」


「そうみたいですわね……もう、どうなるか分かりませの……」


 アリアとサラはげんなりとした顔をしながら、試合を見守っていた。

 そんな中、ガンガンガンと火花を散らしながら、高速で剣を打ちつけあっているようである。

 二人が放つ濃密な殺気を前に、観客席にいる人たちは静かになってしまっていた。


(とりあえず、レナードさんとカレンさんの様子を見ておくか。二人を止める準備をしてくれているかな?)


 アリアはそう思うと、レナードとカレンのいるほうを向く。

 そこでは、観客席に座って頬杖をついているレナードと隣で座っているカレンが確認できた。

 だが、二人とも、これといって準備をしているようには見えない。


(まぁ、一応、近衛騎士団も闘技場の警護でいるから大丈夫だろう!)


 アリアはそう思うことによって、不安を打ち消した。

 ふたたび、試合会場のほうに顔を向ける。


「この前と違って、エレノアから離れませんわね」


「そうですね。多分、魔法を警戒しているんだと思います」


 試合会場を眺めながら、アリアは答える。

 先ほどから、エレノアが後方に下がろうとしていた。

 どうやら、ステラから距離をとって、魔法を使いたいようである。


 だが、ピッタリとくっついて剣を振るってくるため、エレノアは下がれていなかった。


「ここから見る分だと、剣術はステラのほうが上の気がしますわ」


「何度か、エレノアさん、攻撃に当たりそうになっていますしね。それでも、あんなに剣を振れるのは強いですよ」


「本当ですの。あれなら、魔法兵ではなくても、十分やっていける気がしますわ」


「でも、たしかエレノアさんのお父さんって、魔法兵団長ですよね? だったら、魔法兵団に配属されるんではないですか?」


「ワタクシもそう思いますわ。逆に、普通の部隊には入れないと思いますの」


「やらかしても、止める人がいませんしね」


 サラとアリアがそんなことを話していると、試合に変化があったようである。


 エレノアがステラから距離をとることに成功していた。


「おーほっほっほ! これで、ワタクシが有利ですわ!」


 先ほどとは違い、余裕のある顔をしたエレノアは、炎の球を連発している。

 相当、上機嫌なのか、観客席まで声が聞こえてきた。

 対して、ステラは炎の球を避けるので、精一杯のようである。


「なんだか、前に見たときより速い気がしますね」


「もしかすると、ステラ対策かもしれませんわ」


 アリアとサラは、エレノアに注目していた。

 明らかに、連発する速度が上がっていたためである。

 そのせいか、逃げ回っているステラは、闘技場の壁のほうに追いつめられていた。


「このままだと、ステラさん、負けますね」


「その可能性が高いですわ。壁際に追いつめられたら、魔法を避けるのもままならなくなりますの」


 アリアとサラは、冷静に状況を分析する。

 しばらくすると、二人の予想通り、ステラは炎の球を回避するのが難しくなっていた。

 立ち止まって剣を振るい、なんとか防いでいる状況である。


「おーほっほっほ! ワタクシの魔法の前に手も足も出ないようですわね! みじめに降参したら、やめてあげますわよ!」


 勝利を確信したであろうエレノアの声が、闘技場に響きわたっていた。

 観客席の誰から見ても、ステラの劣勢は明らかである。


「いよいよヤバそうです。ここから挽回できますかね?」


「分かりませんの! とりあえず、大声で応援するしかありませんわ!」


「分かりました! ここからは、応援しますか!」


 冷静に状況を分析していたサラとアリアは、一転して、大きな声で応援し始めた。


「ステラさ~ん! 負けないでくださ~い! ここで負けたら、エレノアさんに、ずっと馬鹿にされ続けますよ~!」


「アリアの言う通りですわ~! エレノアに負けないでくださいまし~!」


 観客が試合の殺気で気圧されている中、二人は大声で叫ぶ。

 静かな闘技場に、声が響きわたる。

 ステラにも聞こえているようであった。


 飛んでくる炎の球を剣で防ぎながら、チラリと二人を確認していた。

 その後、ステラの動きに変化が現れる。


 なんと、剣で炎の球を斬り払いながら、走り始めたのだ。


「おーほっほっほ! 丸焦げにしてあげますわ!」


 ステラの様子を確認したエレノアは、余裕そうな表情をしている。

 どうやら、問題なく倒せると考えているようであった。


 どんどんとステラは、エレノアに近づいていく。

 当然、炎の球が飛んでくる間隔が短くなっていた。

 そのため、ステラは死に物狂いで剣を振るっている。


「これ、マズいですわよ! 捨て身で攻撃しにいってますの!」


「さすがに、無理がありますよ!」


 サラとアリアは立ち上がりながら、大きな声を出す。

 そうしている間に、ステラはエレノアのすぐそばまで来ているようであった。


「この! この! この!」


 エレノアはというと、余裕そうな表情が消え、必死の形相で魔法を放っていた。

 ステラは、炎の球を避けきれなかったのか、服に火がついている状態である。


「あああああ!」


 叫びながら、突っこむと、エレノアが右手で持っていた剣を弾き飛ばす。

 そのまま、ステラは剣を返すと、頭を狙って、横なぎの一撃を放つ。


「うわああああ! まだ、負けませんわあああ!」


 剣を弾き飛ばされたエレノアは叫びながら、姿勢を低くする。

 その結果、ステラの一撃は外れてしまう。

 エレノアは剣が通りすぎたことを確認すると、あごに向かって拳を突き上げる。


「ぐはぁ!」


 服に火がついているステラは、まともに受けてしまい、体が宙に浮いている。

 と同時に、衝撃で手から剣を放してしまう。


「ああああ!」


 よろめいたステラは体勢を立て直すと、拳を突き上げているエレノアに殴りかかる。


「ぐへぇ!」


 顔面で受けてしまったエレノアは、衝撃で、倒れてしまう。

 ステラは、すぐに馬乗りになり、顔面を殴り始める。

 そこから、馬乗りになったり、なられたりの殴り合いになっていく。


 ステラから燃え移った火を気にせず、エレノアは殴り続ける。

 もちろん、ステラも負けずに殴り返す。


「審判! 止めてください!」


「水をかけますの!」


 アリアとサラは審判に向かって、大声で叫ぶ。

 呆然としていた審判は、二人の声で我に返ると大声を出す。

 すると、控えていた審判たちが次々と闘技場に現れる。


 その中には、バケツを持っている者もいた。

 どうやら、水が入っているようである。


 審判たちは、バケツに入った水をステラとエレノアにかけた。

 そのおかげで、鎮火することに成功する。

 だが、暴れている二人を止めるには至らない。


「レナードさん、カレンさん!」


 そんな様子を見ていたアリアは振り向くと、大声で叫ぶ。

 だが、そこには二人の姿はなかった。


(え!? もう行ったのか!?)


 アリアは、急いで試合会場を確認する。

 そこでは、顔面と拳が血まみれのステラを、レナードが羽交い絞めにしているのが確認できた。

 さすがに、レナードの力には勝てないのか、血走った眼をしながら暴れている。


 エレノアはというと、闘技場の警護をしていたフェイに取り押さえられていた。

 腕を背中に回され、体全体で地面に押しつけられている。

 そのため、エレノアはまったく身動きがとれない状態であった。


「とりあえず、大丈夫ですかね……」


 試合会場に向かおうとしていたアリアは、ステラとエレノアが取り押さえられたのを確認すると、ホッとする。


「そうみたいですわね……でも、卒業試験は続けられそうにありませんの……」


 サラはそう言うと、闘技場を見渡す。


「この雰囲気では、それもしょうがないと思います……」


 アリアも、周囲を確認する。

 血が飛び交うステラとエレノアの殴り合いを見ていた貴族の何人かが、気を失って倒れてしまっている。

 そのため、観客席は大騒ぎになっていた。


 試合会場と観客席の混乱によって、とても卒業試験をできるような状況ではない。


「とりあえず、ステラさんの下に行きますか……」


「分かりましたの……」


 アリアとサラは、ステラに会うために試合会場へ向かう。

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