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46 冬の夜

「うう……寒くて、死にそうですの……」


「本当ですね……」


 魚とりを終えたサラとアリアは、木で作った自分たちの寝床へ向けて、引き返していた。

 二人とも、震えが止まらず、唇は紫色になっている。

 しかも、腕と足が濡れていたので、余計、寒く感じていた。


 もはや、感覚がない状況となっている。


「……ステラは寒くないんですの?」


 血抜きをした魚が入った袋を持っているステラに、サラは質問をした。


「寒いに決まっています。でも、これより寒い思いをしたことがあるので、まだマシですね」


 ステラは、平然とした顔で答える。

 ただ、本当に寒いのか、唇は紫色になっていた。


「……これより、寒いって死にますよ」


 アリアは少しでも体を温めるため、両腕で体をさすっている。


「ええ、本当に死にかけましたよ。帰るまでの暇つぶしに、そのときのお話でもしますか?」


「……いや、いいです。余計、寒くなりそうなので」


「遠慮しておきますの……」


 これ以上、寒い思いをしたくなかったアリアとサラは、力無く答えた。


「そうですか。お二人がそう言うなら、やめておきます」


 二人の様子を確認したステラは、そう言った。

 早く寝床に帰るために、三人は歩く速度を速くする。

 すでに、辺りが暗くなってきていて、危ないというのも理由の一つであった。


 歩くこと、20分間。

 体を動かしたことによって、三人は多少温かくなっていた。

 道中、食べられそうな木の実をとることができたため、袋は少しだけ大きくなっている。


 あと少し歩けば、寝床に着きそうであった。

 そのような状況で、いきなりステラが歩みを止める。


「どうかしましたの、ステラ?」


 サラは不思議に思ったのか、質問をする。


「シッ」


 ステラは、口に人差し指を当てて、静かにするように指示をした。

 アリアとサラは、顔を見合わせ、ステラに視線を戻す。

 ステラはというと、地面に耳を近づけていた。


 どうやら、何かの気配を探っているようである。


「すいません、少し、ここで待っていてもらえますか?」


 立ち上がったステラは小声でそう言うと、アリアに持っていた袋を渡す。


「分かりました」


 袋を受けとったアリアは、小声で返事をする。


「了解ですの」


 サラも小声で返事をした。

 二人が返事をしたことを確認したステラは、足音を立てないように素早く森の中へ入っていく。


「なにか見つけたんですかね?」


「分かりませんの。ここは待つしかありませんわ」


「そうですね。大人しく待っていますか」


 サラとアリアは、ステラの帰りを待つ。

 辺りは完全に暗くなっていたが、目がある程度慣れてきたため、近くの木などは見える状態である。

 ただ、寒いことには変わりがなかった。


 数分後、ステラが森に入っていった方向から、動物の鳴き声とともにガサガサと草をかき分ける音が聞こえてくる。


「サラさん。出てきたのが、熊だったらどうしますか?」


 袋を地面に置き、剣に手をかけたアリアは、軽口を叩く。


「縁起でもないことを言わないでくださいまし!」


 サラは小声でそう言うと、アリアと同じく、剣に手をかける。

 草をかき分ける音はどんどんと大きくなっていく。

 と同時に、動物の鳴き声も大きくなっていった。


 それに伴い、二人は剣を持つ手に力を入れる。

 数秒後、とうとう、二人のすぐそばまで迫ってきた。


「アリア!」


「分かっています!」


 二人は、なにが出てきても良いように声をかけあう。

 ついに、鳴き声の正体が二人の前に現れる。


「どうしたんですか、サラさん、アリアさん?」


 森の中から出てきたステラは、二人が剣に手をかけているのを見ると、声をかけた。


「なんだ、ステラさんですか! 緊張して損しました!」


「本当ですの!」


 アリアとサラは、剣にかけていた手を放すと安心をした。


「まぁ、熊とかいるでしょうし、警戒するのは当然だと思います」


 ステラは、いつも通りの落ちついた声でそう言った。


「それより、暗くてよく見えませんけど、なにを持っていますの?」


 サラは、ステラが両手で抱えている動物を確認しようと顔を近づける。

 20cm程の動物は、鳴き声を上げながら、ステラから逃れようと暴れていた。

 だが、ステラの力が強いため、失敗をしていた。


「フユブタですね。食べると、おいしいですよ」


 ステラはフユブタを押さえながら、サラに答える。


「フユブタですの? 聞いたことありませんわ!」


「私も初めて聞きました!」


 サラとアリアは、聞いたこともない名前の動物を前に首をかしげた。


「まぁ、ルーンブル山脈のような寒い場所に生息している動物ですので、聞いたことがないのは当然だと思います」


 ステラがそう言っている間も、フユブタは、『ブヒィィ!』と泣きわめいている。

 当然、アリアとサラにも、その悲壮な鳴き声は聞こえていた。


「暗くてお顔が見えませんけど、鳴き声を聞いていたら、可哀想になってきましたの!」


「ステラさん、本当に食べるんですか? 可哀想ですよ!」


 鳴き声に感化されたアリアとサラは、ステラに訴える。


「なにを言っているんですか? お二人が普段食べているお肉も、このような動物を殺して、作られているんですよ? ましてや、今は生存訓練の最中。ですので、このフユブタには、私たちのご馳走になってもらいましょう」


「ワタクシには、この子を殺すことなんてできませんの!」


「私もです!」


「そこらへんは大丈夫です。血抜きから解体まで私が行いますので」


「もう! とりあえず、この子は私が管理しますわ!」


 サラはそう言うと、フユブタを強引にステラから引きはがそうとした。


「サラさん、駄目ですよ。貴重な食料なんですから」


 当然、食べる気満々のステラは、フユブタを放そうとしない。


「ステラさん、諦めてください!」


 アリアもそう言うと、サラに加勢をする。

 二人は、フユブタの前足を片方ずつ持って引っ張った。

 そのおかげで、ステラの体からフユブタが少し離れる。


「お二人とも、やめてください。今日はフユブタの丸焼きが食べたい気分なんです」


 ステラはそう言うと、離れかけていたフユブタの後ろ足を両手でつかむ。

 フユブタは空中で三人に引っ張られている状況である。


「ブヒィィ! ブヒ! ブヒ!」


 フユブタは今まで以上に大きな鳴き声を上げた。

 どうやら、相当痛いようである。


 数分後、まだ、三人はフユブタを引っ張っていた。

 そんな状況で、埒が明かないと思ったのか、ステラが口を開く。


「分かりました。このフユブタを食べるのはやめます。今後、食料がとれない日があったら、食べるということにしましょう」


 ステラはそう言うと、フユブタを放す。


「それだったら、良いですよね、サラさん?」


 アリアも、フユブタの前足を放した。

 サラは二人が放したことを確認すると、両手でフユブタを抱える。


「そうですわね! 食料を頑張ってとれば良いだけですの!」


 サラは、フユブタを救えて嬉しいようである。


「とりあえず、寝床に早く帰りましょう。夜の森は危険ですからね」


「分かりましたの!」


「はい!」


 二人の返事を聞いたステラは、アリアが地面に置いた袋を拾い、歩き出す。

 フユブタを救えて満足したサラとアリアも、後ろをついていく。






 ――10分後。


 寝床についた三人は、急いで夕食の準備を始める。

 サラが保護しているフユブタは、寝床の中で木の実を食べていた。


「なかなか、火がつきませんね。これは。時間がかかるかもしれません」


 地面にかがんだステラは、持ってきていた火打石を打ちつけ、火を起こそうとする。

 木の枝を裂いて細くしたものに、小さい火花自体は落ちていた。

 だが、雪がチラチラと降っている上、風が吹いているので、点火にはいたらない。


「寝床の中で火をつけられれば良いんですけど、燃えちゃいますもんね!」


 ピューピューと風が吹く中、事前に処理をした魚の体に、アリアは小枝を通していく。

 頭から尻尾のほうまで通し終わると、立てるようにして地面に突き刺していった。


「この状況だと、火をつけるのは厳しいかもしれませんの! ロバート大尉のところに行って、火をもらってきますわ!」


 ステラと同様に火打石を使って火をつけようとしていたサラは、諦めたのか、立ち上がる。


「それが良いかもしれませんね。サラさん、お願いします」


「お願いします!」


 ステラとアリアは、サラに火をもらってくるように頼む。


「分かりましたの!」


 サラはそう言うと、教官たちがいる天幕へと歩いていく。


「サラさんが火をもらいにいってくれましたけど、なにもしないワケにはいかないので、一応、私たちも火をつけるのを頑張りますか」


「そのほうが良いと思います!」


「ただ、火を起こすのだけは寝床の中でやりますか。燃える危険性はあるので、あまりやりたくはないのですが、外でやるよりはマシだと思いますし」


「分かりました!」


 アリアは最後の魚を地面に突き刺した状態にすると、サラが持っていた火打石と細かく裂いた木の枝を持って、寝床に移動する。

 すでに、ステラは寝床に移動して、火を起こそうと奮闘していた。


「これは、いけそうかもしれません」


 寝床についたアリアが火打石を打ちつけている中、ステラはつぶやく。

 先ほどよりも落ちた火花の消える速度が遅くなっていた。


「そうですね! 私も加勢します!」


 アリアはそう言うと、ステラのところにある細く裂いた木の枝に向かって、火花を飛ばす。

 そうして、二人が奮闘していると、ついに火種を作ることに成功した。


「やりましたね! あとは、燃やすだけです!」


 ステラは珍しく嬉しそうな声を上げると、急いで種火を外に持っていく。


「はい!」


 アリアもそう言うと、少しでも風を防げるように体を種火に近づけながら、走っていた。

 魚が突き刺してある場所に到着したステラは、樹脂が塗られた木の枝に種火を落とし、息を吹きかける。

 数秒後、勢いよく、火が燃え上がった。


「アリアさん、やりましたよ!」


「はい!」


 勢いよく燃える火を見た二人は、手をとって喜んでいた。

 しばらくの間、火が消えないように残った木材で風を防ぎ続ける。

 そのおかげで、地面に突き刺した魚は、無事に焼き上がっていた。


 焼き上がった魚からは、脂が垂れており、ステラとアリアの食欲をそそる。


「そういえば、サラさん、帰ってきませんね」


「たしかに遅いですね! 少し様子を見てきます!」


 アリアは立ち上がり、教官たちのいる天幕へ向かおうとする。

 ちょうど、そのとき、サラが松明を持って戻ってきた。


「あ! サラさん! 遅かったですね!」


 アリアはそう言うと、サラに近づく。


「……疲れましたの。しかも、火がついていますし……ワタクシの苦労は無駄でしたわ……」


 顔から大粒の汗を流しているサラは、疲れ切った声でそう言った。


「どうしたんですか、サラさん!? 汗だくじゃないですか!?」


「火をもらいにいったら、500回、腕立て伏せをすることになりましたの……」


「……なんだか、すいません」


「もう、終わったことですし、いいですわ……」


 サラはそう言うと、松明をアリアに渡し、ステラの隣に座る。


「……サラさん、お疲れさまでした」


 ステラは瞬時に状況を察したようであり、焼き上がった魚をサラに勧めた。


「ありがとうですの……」


 サラはそう言うと、魚を受けとり、食べ始める。

 とりあえず、松明を地面に突き刺したアリアは、サラの隣に座った。


「ステラさん! 私たちは3匹だけ食べて、残りはサラさんに食べてもらいましょう!」


「そのほうがいいですね」


「二人とも、ありがとうですの……」


 サラは力無い声でお礼を言うと、黙々と魚を食べる。

 アリアとステラも、自分の分の魚を食べ始めた。


 今日一日、三人はなにも食べていなかったため、すぐに魚を食べ終える。


「ふぁぁ~、なんだか食べ終わったら眠くなってきました」


 アリアはあくびすると、口に手を当てた。


「体力温存のために、もう寝ますか?」


「それが良いですの」


「私もそのほうが良いと思います」


 サラとアリアはステラの案に賛成すると、寝床に向かう。

 ステラもなるべく火が消えないような対策をすると、寝床へ向かった。

 疲れていた三人は、すぐに眠りにつく。


 お腹いっぱいになっていたフユブタは、すでに眠っていた。

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