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44 冬の筆記試験

タイトルの変更をしました。


「ガリス戦記」 → 「アリアの軍生活」

 ――散々だった学級対抗戦から、約2ヶ月後。


 12月となり、気温がかなり下がってきた。

 王都レイルでは、雪が降ることが多くなっている。

 そんな中、アリア、サラ、ステラは、女子寮にある自分たちの部屋で勉強をしていた。


 定期試験が行われる時期となっていたためである。

 今回の定期試験は、3日間にわたる筆記試験だけであった。

 ただ、勉強しなければいけない分量が、前回のときよりも3倍以上あるため、つらいことには変わりなかった。


「今回の定期試験は、頑張りますの!」


「サラさん、気合が入っていますね!」


「もちろんですの! 10番以内に入ってみせますわ!」


 サラは、やる気十分のようである。

 夏休みに帰ったとき、『なんだ、サラは10番以内に入れなかったのか。まぁ、私はいつも入っていたけどな』と、クレアに言われたことを根に持っているようであった。


「アリアさん。消灯時間は、サラさんの勉強が終わったときにしましょう」


「それが良いですね、ステラさん! 部屋が明るくて、どうせ眠れないと思いますし、サラさんが起きている間は、私たちも勉強しましょう!」


「そうしましょうか」


「アリア、ステラ! ありがとうですの!」


 サラは、二人の気遣いに礼を言っていた。


 試験の1週間前から、消灯時間は各部屋で決めることが可能である。

 しかも、何時までに寝ないといけないということを決められていなかった。

 極論、徹夜し続けることもできなくはない。


「でも、夜1時までには寝たほうが良いと思いますよ。私の経験上、寝た方が体調も悪くなりにくいですし、なにより、勉強の効率が上がることが多かったので」


 ステラは一応といった感じで、サラに伝える。


「たしかに、無理は禁物ですわね! 体調を崩して、勉強をできなくなってしまっては、本末転倒ですの!」


 ステラの言葉に納得したサラは、うなずいていた。


「それでは、夜1時には寝るようにしますか! サラさんも、それで良いですよね?」


「はいですの!」


 アリアの確認に、サラは元気よく返事をする。

 こうして、三人は筆記試験の日まで、勉強を頑張ることとなった。

 いつもなら夕方にカレンが来ていたが、試験前は三人が自主訓練をしないので、来ないようであった。


 1週間後、筆記試験の日を迎えた。

 この日を迎えるまでに、途中でサラがあまりの分量の多さに発狂することもあったが、なんとか諦めないで頑張っていたようである。


 前日に十分な睡眠をとった三人は、いつもより早めに女子寮を出発した。

 三人は白い息を吐きながら、4組の教室へ向かう。

 昨日の夜に雪が降ったのか、三人が歩いている道には雪が積もっている。


「なんだか、前回よりも緊張しますわ!」


 サラはいつもと違い、かなり緊張しているようである。


「まぁ、今回は前回と比べて、かなり勉強しましたからね! 大丈夫ですよ、サラさん!」


 アリアは、サラの緊張をほぐそうとした。


「うう……それで駄目だったらと思うと、余計、緊張してきましたの……」


 アリアの言葉を聞いたサラは、吐きそうな顔をしている。


(サラさんは、10番以内に入るために頑張ってたからな。できれば上のほうの順位が良いなと思ってる私とは、意気込みが違う。サラさんが緊張するのも当然だ)


 アリアはサラの背中をさすりながら、そんなことを思っていた。

 そんな二人をよそに、ステラは少し離れた場所でかがんで、なにかをしているようである。

 気になったアリアは、ステラのほうを向く。


(なにしているんだろう?)


 アリアはそんなことを思いながら見ていた。

 すると、ステラはいきなり立ち上がり、アリアとステラのほうを向く。


「えい」


 ステラはそう言うと、サラの顔面に目がけて、雪玉を投げる。

 その細い腕からは考えられないほどの速度で飛んでいく。

 当然、雪玉が飛んでくると思っていなかったサラは、避けようがなかった。


「ぶふぅ!」


 顔面に雪玉が当たったサラは、顔についた雪を急いで払うと、ステラのほうを向く。


「なにしますの、ステラ!?」


 いきなり雪玉を当てられたので、サラはプンプンと怒っていた。


「これで、緊張がほぐれましたか?」


 ステラはそう言うと、サラに向かって、新たな雪玉を投げる。


「ちょ! 危ないですの! もう、許しませんわ!」


 サラは飛んできた雪玉を避けると、かがんで雪玉を作り、ステラに向かって投げた。

 だが、ステラは予想していたのか、軽々と避けている。

 そこから、サラとステラは雪合戦を始めた。


「二人とも、やめましょうよ!」


 アリアは止めようと、雪玉が飛び交っている場所に手を広げて立ち塞がる。

 当然、二人が投げた雪玉は、アリアにぶつかって砕けた。


「もう、冷たいですよ!」


 アリアは怒ると、急いで雪玉を作り、二人に向かって雪玉を投げていく。


「アリアさんも参加しますか。負けませんよ」


「ワタクシだって、負けませんわ!」


 ステラとサラはそう言うと、負けじと雪玉を作って投げ返す。

 そこから、三人はお互いに雪玉を投げ合っていた。

 雪玉を当てられたり、当てたりしていたため、軍服が雪で濡れてしまっていた。


 もちろん、顔や髪にも当たっており、雪がついている状態になっている。


 そんなこんなで、雪合戦をしていたとき。

 アリアは、ふと、近くの建物の壁につけられている時計に目を向ける。

 時刻は、7時57分ごろであった。


 時刻を認識した瞬間、アリアの顔色が変わる。


「サラさん、ステラさん! ヤバいです! 試験が始まる前まで、あと3分しかありませんよ!」


「ええ!? 本当ですの!?」


「それは、ヤバいですね」


 アリアの言葉を聞いたサラとステラが、時計を確認する。

 ステラはいつも通りの落ちついた表情のままであった。

 対して、サラの顔は、みるみるうちに青くなっていく。


 ステラは冷静に状況を分析し、次の行動に移る。


「遅れたらマズいことになるので、走りましょうか」


 ステラはそう言うと、いきなり凄まじい速度で走り出す。


「待ってください、ステラさん!」


「置いていかないでくださいまし! ぶへぇ!」


 アリアとサラも、必死になって追いかけようとする。

 その際に、サラが転んでしまい、雪と土だらけになってしまう。


「大丈夫ですか、サラさん!」


「大丈夫ですわ! それよりも急ぎますの!」


「もちろんです!」


 アリアはサラに手を貸して立たせた後、そう言った。

 二人は、遥か先を走っているステラの後を追いかけるため、走り出す。


 2分後、三人は、4組の教室のある建物に到着していた。


「アリアさん、サラさん。あと少しです。頑張りましょう」


 ステラはそう言うと、目の前にある階段を凄まじい速度で駆け上がっていく。


「うえぇ、吐きそうですの!」


「サラさん、とりあえず、教室に入るまでの我慢です! 中に入ってしまえば、吐いても問題ないハズ!」


「いや、物理的に大丈夫でも、私の評判は最悪になりますの!」


「いいから、いきますよ!」


 サラとアリアはそんなことを言い合いながら、階段を駆け上がる。

 もの凄い速度で2階に上がると、4組の教室を目指して、走り出す。


「アリアさん、サラさん。あと少しです」


 ステラが4組の教室の前で、手を振っている。


「間に合えええ!」


「気持ち悪いですのおおお!」


 二人は叫びながら、4組の教室に入っていく。

 ステラは、二人が入ったことを確認すると、教室の扉を閉める。


「おう、お前ら。ギリギリ間に合ったな。間に合わなかったら、4組全員が試験後に、腕立て伏せ1万回やることになるところだったぞ」


 急いで席についた三人を見ると、ロバートはそう言った。


(……1万回って、一日で終わるのかな?)


 アリアは息を切らしながら、そんなことを考えていた。

 冬だというのに、アリアの顔には大粒の汗が流れている。


 数秒後、8時を知らせる音楽が外から聞こえてきた。

 と同時に、ロバートが問題用紙を配っていく。

 配り終わると、口を開いた。


「それでは、始め!」


 4組の入校生たちは、一斉に問題用紙をめくり、解き始める。

 アリア、サラ、ステラも、せわしなく鉛筆を動かす。


(今回は意外といけるかも……サラさんに付き合って、結構、勉強していたからかな?)


 アリアは問題を解きながら、そんなことを思っていた。






 ――5日後の朝。


 いろいろとあったが、3日間にわたる定期試験をこなした三人は、女子寮を出発していた。

 今日は、朝から雪がチラチラと振っている。

 そんな中、三人は教室までの道を歩いていた。


「たしか、今日でしたよね? 定期試験の結果が教室に張り出されるのは」


 アリアは白い息を吐きながら、隣を歩いているサラに質問をする。


「そうですわ! 早く結果が知りたいですの!」


 サラは興奮しているのか、手をブンブンと振っていた。


「そんなに自信があるんですか?」


 ステラは、いつもと変わらない落ちついた声でサラに尋ねる。


「違いますわ! 試験の結果を待っている時間が嫌なだけですの!」


 サラは、相変わらず、腕をブンブンとしていた。


「たしかにソワソワはしますね!」


 サラの言葉を聞いたアリアは、同意した。


「そうですか?」


 ステラは、いつも通りの落ちついた顔をしている。


「とりあえず、落ちつきませんの! もう、早く知りたいですわ!」


 サラはそう叫ぶと、我慢出来なくなったのか、走り出す。


「待ってください、サラさん!」


「元気がありますね」


 アリアとステラはそう言うと、サラの後ろを追いかける。


 10分後、三人は、4組の教室に到着していた。

 中に入ると、案の定、黒板の横に人だかりができている。


「ちょっと、どけてほしいんですの!」


 サラは、ぐいぐいと人混みをかき分けながら、そう言った。


「すいません、定期試験の結果を見せてください」


「ちょっと、失礼しますね」


 アリアとステラも、サラの後ろをついていく。

 そうして、三人は、定期試験の結果が張り出された紙の前までたどり着くことができた。


「ええっとですわ……」


 サラは、自分の名前がどこにあるかを探す。


(この前、10番くらいだったから、今回は上の順位から探すか……)


 アリアはそう思うと、1位から順に確認していく。


(え! エレノアさんが1位だ! あんなんだけど、結構、勉強できるんだな! 前は、自分の順位しか見てなかったから、気づかなかった!)


 紙の一番上にエレノアの名前が書かれていたので、アリアは驚いた。

 ステラはというと、黙って確認している。


「やりましたの! 5位ですわ! 吐きそうになりながら、頑張って、問題を解いた甲斐がありましたの!」


 10番以内に入れて嬉しいのか、サラは跳び上がらんばかりに喜んでいた。


「アリアさんは7位ですね」


 サラの横にいたステラはそう言うと、アリアの順位を指差す。


「あ! 本当に7位だ! ステラさんは、6位じゃないですか!」


 指差されたところを確認すると、アリアは嬉しそうな声を出す。


「そうですね。今回は、調子が良かったみたいです」


 ステラはいつも通りの顔をしていたが、心なしか声は嬉しそうであった。


(前より、順位が上がって嬉しいな! サラさんも10番以内に入れたみたいだし、良かった!)


 アリアが満面の笑みを浮かべながら、そんなことを思っていると、4組の教室の扉がいきなり開く。

 直後に、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「おーほっほっほ! ステラはどこにいますの?」


 エレノアはそう言うと、まるで自分の教室かのように、ズカズカと4組に入ってくる。

 4組の教室にいた誰もが、『うわ! 問題児が現れた!』と思った瞬間であった。

 エレノアは、入るなりキョロキョロし出す。


「あ! いましたわね!」


 ステラを見つけたらしいエレノアは、人混みを強引にかき分けると、三人に近づいてきた。


「なんの用ですか、エレノア? とうとう、自分の組がどこか分からなくなったんですか?」


「違いますわ! そんなことより、定期試験の結果を見ましたわよね?」


「確認しましたけど、なにか?」


「おーほっほっほ! それなら、今回の試験で分かったハズですわ! あなたよりワタクシのほうが、遥かに頭が良いことが!」


「ハァ? 定期試験で順位が上だっただけでしょう? それで、頭の良さが分かるんですか?」


 露骨にステラがイラつき始める。

 その様子を見たアリアとサラは、いつでも二人を止められるように身構えた。


「あなたは6位! ワタクシは1位ですの! 少なくとも、あなたより頭が良いことの証明にはなりますわ!」


「はぁ……分かりました。ケンカを売りにきたんですね。それなら、買ってあげますよ」


 ステラはため息をつくと、一気にエレノアとの距離を詰め、正拳突きを放つ。


「うっえぇ!」


 あまりの速さに、エレノアは避けることができず、よろめく。


「さぁ、5組へ帰ってください」


 ステラは、わざとらしく5組のほうへ手を伸ばす。


「キー! この暴力女! 今日こそ、けちょんけちょんにしてあげますわ!」


 エレノアはそう言うと、ステラに殴りかかる。

 そこから、あっという間に、殴り合いのケンカに発展した。


「ああ、もう! 少しは仲良くしてください!」


「そうですの!」


 アリアとサラは、急いで二人を止める。


 こうして、12月の定期試験は無事に終了した。

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