41 余裕のある観戦
4組が1組に苦戦しながらも勝利してから、3日が経過した。
今日は学級対抗戦の最終日であった。
太陽の日差しがまぶしく、秋晴れと言っても差し支えない天気である。
すでに、1組と3組が展開を終えている状態であった。
1組は、いつも通りの重装甲兵を中心にした編成である。
対して、3組は初日と同様に騎馬兵で部隊を構成していた。
今回は、重装甲兵が着ているような鎧は着ていない。
ただ、その手にはメイスが握られていた。
どうやら、機動力を活かしてメイスで叩き潰す作戦のようである。
しかも、3組には一人だけ近衛騎士団の団員が配属されている状況であった。
「アリア! あと少しで始まりそうですの!」
ビヨンド平原を見ていたサラは、アリアに声をかける。
「分かりました! すぐ行きます!」
アリアはそう言うと、装備の確認をした。
もうほとんど終えていたので、すぐにサラの隣へ行くことができた。
「ふぅ! そろそろですか! 今回はどっちが勝っても構わないので、安心して見ていられますね!」
アリアはそう言うと、観戦に集中する。
現時点で4組が2勝0敗、3組が1勝1敗、1組も1勝1敗、2組が全敗であった。
ここで、仮に4組が2組に負けて、勝敗数が並んだとする。
学級対抗戦では、勝敗数が並んだ場合、直接対決で勝っているほうが優先されるという決まり事があった。
そのため、例え、4組が2組に負けたとしても、1組と3組に直接対決で勝利しているため、どちらが勝っても優勝することに変わりはない状況である。
逆に言えば、2組は現時点でビリになることが決まっているということであった。
そんなワケで、1組と3組のどちらが勝っても問題はなく、安心して観戦できる状況である。
「アリアさん、サラさん。ここは前できなかった賭けをしますか」
サラの隣に立っているステラは、二人に提案をした。
「それは良い案です! どちらの組とも戦っていて、実力は分かっていますしね!」
アリアは、俄然やる気のようである。
「たしかに、面白そうですの! 賭けに勝ったときの商品は、この前に話した通りで良いですわよね?」
「はい! それで大丈夫です!」
「私もそれで良いです」
サラの言葉に、二人は賛成をした。
「それでは、どちらが勝つか言いましょうか! 私は、3組が勝つと思います!」
自信満々に、アリアはそう言った。
「私も3組が勝つと思います。ちなみに、アリアさん。理由を聞いても大丈夫でしょうか?」
「はい! なんたって、3組は機動力がありますからね! 馬に乗って、勢いがある状態からのメイスの一撃は強烈だと思います! しかも、3組には近衛騎士団の人もいますしね! これだけあれば、3組の勝利は揺るぎないです!」
ステラに理由を聞かれ、アリアはそう答える。
「私もアリアさんと同じような考えです。やはり、戦場において機動力の差というのは、それだけで勝敗が決してしまうほど重要な要素であると思います」
ステラは、一度言葉を区切った。
「その点、3組のほうが1組よりも機動力に分があります。いくら重装甲兵が固かろうと、メイスを持った騎馬兵には無意味でしょう」
ステラはそう言うと、サラの顔を見る。
「ぐぬぬ! 二人の言い分を聞くと、1組が勝てる未来が一切見えませんの! でも、ワタクシは自分の直感を信じますわ! 1組に賭けますの!」
サラは、なにか決意した顔をしていた。
(なんでサラさんは、1組に賭けたんだろう? 普通に考えて、3組を選ぶんじゃないかな?)
アリアは驚いた顔をしながら、そう思った。
サラが3組を選ぶと思っていたのか、ステラも珍しく驚いた顔をしている。
「サラさん、理由を教えてください!」
アリアは、サラに疑問をぶつけた。
ステラも落ちついた顔をして、サラを見ている。
「分かりましたの! 1組と3組と実際に戦って、指揮能力は1組のほうが高いと感じましたわ! それが、一番の決め手ですの! あとは、自分の直感ですわ!」
「なるほど! たしかに、私も指揮能力は1組の学級委員長のほうが高いと思いました! でも、根拠が弱い気がします!」
「指揮能力だけでは、判断できませんよ」
アリアとステラは、サラの言い分に反論をする。
「もういいですわ! 理論的に言えば、3組に賭けるほうが自然だと、ワタクシ自身も思いますの!」
サラは、プンプンと怒り出す。
「別にサラさんを責めているワケではありませんよ! とりあえず、観戦をしましょうか!」
「そのほうが良いですの!」
「そうしますか」
サラとステラは返事をすると、アルビス平原のほうを向く。
アリアも戦いの行く末を見届けようと、1組と3組に注目する。
その数秒後、バンバンバンという銅鑼の音が鳴り響く。
戦闘開始の合図であった。
銅鑼の音がすると同時に、3組の騎馬兵たちが突撃を開始する。
対して、1組の重装甲兵たちは隊列を組み迎撃するようであった。
予想通りの動きであったので、三人は特に驚きもしなかった。
「さて、どうなりますかね……あ! 近衛騎士団の人が動きましたよ!」
アリアはそう言うと、遠くのほうを指差す。
そこには、騎馬兵たちと違う方向から、1組に迫っている近衛騎士団の人の姿があった。
「動きを見ると、指揮官狙いのようですね」
ステラは、冷静に分析していた。
「そうみたいですわね! ああ! 1組の学級委員長が逃げだしましたの!」
サラは驚きながら、指を差す。
馬に乗った1組の学級委員長が、どんどんと1組から離れていくのが確認できる。
近衛騎士団の人は、追いかけている状態であった。
「とりあえず、近衛騎士団の人を引きつけようとしてるみたいですね! でも、1組の指揮はどうするつもりなんですかね?」
アリアは、疑問の声を上げる。
「きっと、なにか策があるハズですの! このままで終わるのは考えられませんわ!」
「たしかに、この状態で負けたら1組の学級委員長は笑い者になってしまいますね。指揮官が敵前逃亡するなんて、話になりませんよ」
「さすがに、このまま負けるのはあり得ないですよ! サラさんの言う通り、なにか策があるのかもしれません!」
アリアはそう言うと、戦況の推移に注目した。
サラとステラも、ビヨンド平原の様子を食い入るように見ている。
時間が経過し、3組の騎馬兵たちが1組の目前に迫っていた。
すると、いきなり重装甲兵たちの隊列が変化をする。
直線的に進んでくる騎馬兵を避けるように、横に動き出す。
数秒後、進んでいる騎馬兵の左右の側面には、沿うように重装甲兵たちの列ができていた。
(なにをする気かな? あそこから攻撃するとしても、剣では届かないしな……もう少し考えるか)
重装甲兵たちの動きの意味が分からず、アリアは思案していた。
サラとステラも黙って、行動の意味を考えているようである。
その答えは、すぐに分かることになった。
「あ! 鎖ですの! 1組の入校生が鎖を投げていますわ!」
サラは驚きながら、指差す。
アリアとステラの目にも、重装甲兵たちが鎖を投げている姿は見えていた。
鎖の先には重りがついているようであった。
そのため、横から鎖を当てられた3組の入校生は落馬してしまう。
加えて、3組の騎馬兵が進んでいる方向の正面から、6組の入校生たちが放った炎の球が飛んできていた。
側面からの鎖での攻撃、正面からの魔法攻撃によって、なすすべもなく、次々と落馬していく。
落馬してしまった3組の入校生たちは、駆けよってきた重装甲兵たちに戦闘不能にされてしまう。
あっという間に、3組の騎馬兵たちは消えてしまった。
「これは、もうどうしようもありませんね。3組の入校生の多くがやられてしまいましたし、部隊として戦うのは無理でしょう」
ビヨンド平原を眺めながら、ステラは冷静に分析している。
「3組の学級委員長は、白旗を振りますかね?」
もう勝負が見えていたので、アリアはステラに向かって、そう言った。
「いえ、振らないみたいですよ」
ステラはそう言うと、細目になる。
アリアは状況を確認するために、3組の学級委員長のほうを見ていた。
「あ! 3組の残りの入校生たちが、1組の学級委員長に向かって突撃をしていきますの!」
ステラは腕をブンブンと振りながら、そう言った。
「最後の賭けといった感じがします! 1組の学級委員長は逃げきれますかね!?」
「きっと逃げきれますの! 頑張れ、1組ですわ!」
アリアの言葉を聞いたサラは興奮しながら、応援をする。
まさか、1組が優勢になるとは思っていなかったようであった。
3組の騎馬兵たちを倒した重装甲兵たちは、1組の学級委員長に向かって移動を開始していた。
と同時に、1組の学級委員長も重装甲兵たちに近づいていく。
どうやら、合流しようと考えているようである。
当然、3組の入校生たちも、そのことに気づく。
合流させないように、必死で追撃をしている。
だが、1組の学級委員長はこうなることを予想していたのか、絶妙に追撃をしづらい場所を移動していた。
近衛騎士団の人も急いで追いかけてはいるが、さすがに馬の走る速度には勝てないようである。
そうこうしているうちに、1組の学級委員長は重装甲兵たちと合流をした。
指揮官が戻ってきた1組は、すぐに隊列を整える。
「3組は詰みましたね。ここからは、掃討戦に移行するでしょう」
ステラは戦況を冷静に分析しながら、つぶやく。
その言葉通り、1組は残りの騎馬兵を包囲すべく、突撃を開始する。
動き自体は遅いが、確実に迫ってきていた。
そんな中、3組の学級委員長は覚悟を決めたようであり、残存部隊を率いて1組に突撃をしていく。
近衛騎士団の人も、その意思をくみとったのか、突撃に参加をする。
「まぁ、3組にとっては最後の試合ですし玉砕覚悟の突撃でしょう。もはや、戦力温存のために白旗を振る意味もないですしね」
ステラはつまらなそうに、そう言った。
「あと、ここで白旗を振ったら、逃げたと思われるかもしれませんの! 貴族の誇りがそれを許さないのかもしれませんわ!」
「貴族の誇りですか……戦場では、まったく役に立つ代物ではないと思いますけど……」
アリアはサラの言っている意味が分からず、困惑をする。
(その貴族の誇りとやらに巻きこまれる人は可哀そうだな……私は、平民だからよく分からないや)
アリアはそんなことを思いながら、ビヨンド平原を眺めていた。
「私も、アリアさんと同じ意見です。指揮官に誇りは不要だと思います。冷静に状況を分析して、敵を倒すために最善の行動をする。ただ、それだけです。散り際の美など考えたくもありませんよ」
ステラは落ちついた声で、そう言った。
(現実主義者だな、ステラさんは。まぁ、貴族の誇りとやらに固執せずに、柔軟に状況判断をしろということなんだろうな)
ステラの声を聞いたアリアは、そんなことを思った。
その後、1組の重装甲兵たちは、3組の騎馬兵たちを包囲した。
そんな中、近衛騎士団の人は、なんとか1組の学級委員長を倒そうとする。
だが、さすがに近衛騎士団といえども、多数の重装甲兵たちを相手にしながらは難しいようであった。
そうこうしているうちに、3組の残存部隊は圧殺されてしまう。
学級委員長も戦闘不能にされてしまったようである。
静まり返ったビヨンド平原に、銅鑼の音だけが響いていた。
「さて、1組と3組の試合も終わったようですし、準備をしますか」
アリアは首をゴキゴキと動かすと、丘を下ろうとする。
「そうですね。消化試合といえど、勝つと負けるでは雲泥の差がありますから」
ステラも同意すると、アリアの後ろをついていく。
「ちょっと、二人とも! 賭けに勝ったのは、ワタクシですわよ! 忘れないでくださいまし!」
サラは二人に向かって叫びながら、後を追う。
「分かっていますよ!」
「サラさん、心配しないでください」
アリアとステラは振り返ると、そう言った。
「それなら、良いですわ! それよりも、本当に重装甲兵にしなくても良いんですの?」
追いついたサラは、アリアに疑問をぶつける。
「大丈夫です。というか、そうしたら、4組の持ち味である臨機応変に対応する力がなくなってしまうと思います」
「アリアさんの言う通りですね。さすがに、2組も対策としてメイスを装備していると思うので、余計、重装甲兵にしないほうが良いと思いますよ」
アリアの言葉を聞いたステラは、そう言った。
「納得できましたの! これで、後顧の憂いなく戦えそうですわ!」
サラは、元気な声を上げる。
その後、三人は最後の試合の準備を始めた。
いくら消化試合といえども、4組の入校生たちは勝つために全力を尽くしていた。