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40 1組対4組

 ――3日後。


 学級対抗戦は一試合を行うたびに、3日間の休息期間が設けられていた。

 昔は、日を置かずに試合を行っていたようである。

 だが、あまりにも負傷者が多いのが問題になっていた。


 ひどいときには、レイル士官学校を退校しなければいけないほどのケガを負ってしまうこともしばしばあるような状況であった。

 そのため、現国王ハインツ・アミーラの代に代わってからは、一試合を行うたびに3日間の休息期間を義務づけられることとなった。


 4組の入校生たちは3組に勝利はしたが、かなりの人数がケガをしていた。

 休息期間で、ある程度回復したとはいえ、万全の状態とは言えない状態であった。

 だが、それは1組以外の他の組も同様であったため、特段、4組だけが不利というワケではなかった。


 そうして、学級対抗戦は2日目を迎える。


 1日目と同様に、アリア率いる4組は小高い丘で立って観戦をしていた。

 2日目の最初は、2組対3組の試合が行なわれるようである。

 それぞれの組は、ビヨンド平原に展開し終わっていた。


 しばらくすると、開始の合図である銅鑼の音が鳴らされる。


「始まりましたね! アリアさん、サラさん! 一つ賭けをしませんか?」


「賭けに勝ったら、なにがもらえますの?」


 アリアの言葉に興味を持ったサラは、質問をした。


「私が最近買ったクッキー10枚です!」


「まぁ、悪くありませんわね。それで、ワタクシとステラが負けたら、なにを提供すれば良いですの?」


「お二人が使っているシャンプーとボディーソープをそれぞれ一つずつください!」


「えぇ! 値段が違いすぎますの! でも、ワタクシはそれでも良いですわ! 絶対、勝つ自信がありますもの!」


「私も賭けに勝てると思うので、それで良いですよ」


 ステラはそう言うと、ビヨンド平原のほうへ顔を向ける。

 前と変わりがない弓兵主体の2組は、今日も矢の雨を降らせていた。

 後方からは、6組の入校生たちが魔法を山なりに放っている。


 3組はというと、馬に乗っているということに関しては前と変わりがなかった。

 だが、重装甲兵が着ているような分厚い鉄の鎧と鉄の盾を装備している。

 いわゆる、重装甲騎兵と言われる兵種に変化していた。

 当然、馬にも鉄の鎧がつけられている。


 3組の重装甲騎馬兵たちは機動力こそ若干落ちているが、代わりに圧倒的な防御力を手に入れていた。


 そんな3組の様子を見ながら、アリアは口を開く。


「それでは、賭け成立ですね! 一人ずつ言いましょうか! 私は、3組が勝つと思います!」


「ワタクシも3組ですわ!」


「私も3組が勝利すると思います。2組は1組と戦ったときより、相性が悪いですね。機動力の問題がほぼ解消されたに等しいですから、2組に勝ち目はありません」


 サラとステラは、どちらも3組が勝つと予想していた。


「これじゃ、賭けになりませんよ! もうやめて、観戦しましょう!」


 アリアはそう叫ぶと、ビヨンド平原で行われている試合に集中する。

 三人の予想通り、ぎこちないながらも3組の重装甲騎馬兵は、2組の隊列を次々と破っているようであった。

 2組は弓で攻撃するのをやめ、白兵戦に移行している。


 だが、3組の重装甲騎馬兵の圧倒的な防御力を前に、ほとんどなにもできていないような状況であった。

 あっという間に、2組の入校生たちのほとんどは戦闘不能になってしまう。


 そのままの勢いで重装甲騎馬兵たちは、指揮官である2組の学級委員長目がけて殺到をする。

 結果、あえなく指揮官を戦闘不能にされてしまう。

 どうやら、白旗を振る余裕すらなかったようである。


 すぐに、試合終了の銅鑼の音が鳴り響く。


「それでは、私たちも試合の準備をしますか!」


「分かりましたの!」


「そうですね」


 アリアの言葉を聞いたサラとステラは、準備をするために小高い丘を下り始めた。






 ――30分後。


「フェイ大尉はいないみたいですね! 良かったです!」


 アリアは1組の重装甲兵を眺めながら、嬉しそうな声を上げる。

 すでに、4組の入校生たちは展開を終えていた。


「どうやら、4組と同程度の実力だと判断されているようですね。フェイ大尉どころか、他の近衛騎士団の人もいないみたいですし」


 アリアの近くに立っていたステラは、目を細めている。


「たしかに、重装甲兵部隊としての完成度は高いですの! しかも、指揮官の指揮能力が卓越していますわ! 普通に戦ったら、負けるかもしれませんの!」


 サラは興奮しながら、手をブンブンと振っていた。


「おーほっほっほ! ワタクシには、重装甲兵だろうがなんだろうが関係ありませんわ! 今回こそ、周りをアッと言わせてみせますの!」


 エレノアはそう言うと、剣を頭の上で振り回している。


「今回はボコボコにされないと良いですね。この前は、お得意のキンキン声で鳴くこともできなくなっていたみたいですしね」


 ステラは、エレノアに冷や水を浴びせた。


「また馬鹿にしましたわね! 今日という今日こそ、許しませんの! その澄ました顔を泣き顔に変えてあげますわ!」


「できるものならやってみてほしいですね」


 ステラは剣を抜くと、臨戦態勢に移行する。

 エレノアも持っていた剣をステラに向けていた。


「ああ、もう! 試合前にケンカするのはやめてください! エドワードさん、エレノアさんを頼みます!」


 アリアはそう言うと、ステラを羽交い絞めにする。


「はぁ……なんで試合前にケンカをするかな。エレノア、頼むから落ちついてくれ!」


 エドワードも、エレノアを羽交い絞めにした。

 そのまま、5組の入校生たちの下に強引に引きずっていく。


「放しなさい、奴隷1号! 今日こそ、あの女を成敗してやりますわ!」


「なんども言っているが、僕は奴隷1号じゃない! いいから、いくぞ!」


 エレノアをとめることに最近では慣れていたため、顔面に手が当たったりしていたが、エドワードはなんとか連れ戻していた。


(はぁ……こんなんで、大丈夫かな? 重装甲兵を倒すためにメイスを準備してきたから、大丈夫だとは思うけど。ただ、エレノアさんが暴走しないことだけを祈ろう)


 アリアはそんなことを思いながら、ステラを落ちつかせる。


 4組の入校生たちは、剣と合わせて、メイスも腰につけていた。

 メイスは、鉄製の鈍器であり、剣よりも重く、振り回しづらい武器であった。

 だが、分厚い鎧をへこませるほどの威力がある。


 そのため、今回は重装甲兵対策として、アリアは4組の入校生たちに装備させていた。


 アリアはサラと一緒に、ステラを落ちつかせると、持ち場に戻らせる。


(今回も勝てるように頑張らないとな!)


 アリアは眼前に広がる重装甲兵たちを見ながら、そんなことを思っていた。


 数分後、バンバンバンという銅鑼の音がビヨンド平原に鳴り響く。

 試合開始の合図であった。


「4組、突撃!」


 銅鑼の音が聞こえると同時に、アリアは大きな声で叫ぶ。


「おおおお!」


 4組の入校生たちは喚声を上げながら、1組に向かって突撃をしていく。

 対して、1組は隊列を組み、迎撃する態勢を整えているようであった。

 その間にも、両方の組の後方から炎の球が飛んできている。


 もうすぐで衝突するという段階で、アリアは口を開く。


「サラさん、ステラさん! 頼みましたよ!」


「分かっていますの!」


「はい!」


 二人は返事をすると、それぞれが率いている部隊を連れて、左右に展開をした。

 そのまま、隊列を組んでいる1組の後方に回りこむと、6組の魔法兵を狙って攻撃し始める。

 一応、後方にも重装甲兵がいるようであるが、正面よりは少ない人数であった。


「メイスで叩き潰しますの!」


 サラはそう言うと、手近にいた重装甲兵のお腹に向かってメイスを振るう。

 ガンという金属と金属がぶつかり合う音がした後、重装甲兵が膝をつく。

 見た目には、鎧がへこんでいるだけのように見える。


 だが、中身の人間には確実に衝撃が伝わっているようであった。

 サラの率いている部隊は、メイスを持って重装甲兵たちを叩いていく。

 さすがに、サラほど上手くはいかないようである。


 何発も叩くことによって、やっとの思いで重装甲兵たちを倒していく。


「魔法兵たちを倒してください!」


 ステラはそう言うと、重装甲兵の守りがなくなった魔法兵に向かって剣を振るう。

 6組の入校生は、持っていた剣で防ごうとするが、あまりにも動きが遅い。

 そのため、攻撃を防ぐことができず、戦闘不能になってしまう。


 ステラの率いている部隊は、重装甲兵たちの攻撃をくぐり抜け、次々と魔法兵を戦闘不能にしていく。


 そんな中、1組正面のアリアの率いる部隊は苦戦をしていた。


(さすがに、正面は防御が固いな)


 アリアはそんなことを思いながら、近くにいる重装甲兵をメイスで叩く。

 叩かれた重装甲兵はたまらず、膝をついていた。

 だが、すぐに後ろに控えていた重装甲兵が盾を前に、剣で斬りかかってくる。


「はぁ……」


 アリアはため息つくと、振るわれた剣にメイスを叩きつけ、弾き落とす。

 その後、すぐに攻撃してきた重装甲兵にメイスの一撃をお見舞いする。

 ガンガンガンと三回ほどお腹を叩くと、重装甲兵は倒れた。


 相当な衝撃だったのか、頭につけている鎧の隙間から白目を向いているのが見える。


(さっきから倒しているけど、次から次へとキリがないな。しかも、私が連れてきた入校生より数が多いから、倒され始めているしな。分かってはいたけど、かなり厳しい!)


 アリアはそんなことを思いながら、率いてきた部隊の状況を確認した。

 4組の入校生たちは、メイスで必死に戦っている。

 だが、多勢に無勢であり、重装甲兵たちの攻撃の前に苦戦を強いられていた。


 今回の作戦は、アリアの率いる部隊が正面で粘っている間に、後方からステラとサラの率いる部隊が攻撃をし、指揮官を倒すというものである。


 そのため、アリアたちがどれだけ耐えられるかが、重要であった。

 仮にアリアたちが先に倒されてしまうと、後方から攻めているサラとステラの部隊が包囲され負けてしまうからである。


(思ったよりも、損耗していくのが早いな! しょうがない! ここは、あの策を使うか! できれば使いたくないけど、手段を選んではいられない!」


 アリアはそう思うと、懐から丸まった赤い布を取りだすと上空へ放り投げた。

 すると、アリアたちの後方にいた5組の入校生たちがメイスを持って、走ってくる。

 数秒後、アリアたちと合流すると、メイスで重装甲兵を叩きまくっていた。


「おーほっほっほ! ついにワタクシの出番ですわね!」


「エレノア! 頼むから、味方には攻撃しないでくれよ!」


 合流した面子の中には、エレノアとエドワードもおり、メイスで重装甲兵たちを倒しているようである。

 魔法兵も加わったことによって、アリアたちは一時的に立て直すことに成功していた。

 だが、長くは続かなそうである。


(やっぱり、魔法兵は白兵戦に慣れていないから、すぐに倒されるな)


 アリアは周囲を確認しながら、そんなことを思った。

 エレノアとエドワードは良いとしても、普段から武器を使って戦っていない5組の入校生たちは、素人丸出しである。

 そのため、有効な攻撃を与えることができず、一方的に倒されてしまっている状態であった。


 だが、時間を稼ぐこと自体には成功をしていた。

 アリアが戦いながら、ステラとサラのいるであろうほうを確認する。


(お! かなり指揮官の近くまで来ているみたいだ! ここを耐え切れば、勝機は十分にあるな!)


 アリアはそう思うと、近くで戦っている入校生たちに向かって激を飛ばす。


「ここが正念場です! 皆さん、頑張ってください!」


「おう!」


 アリアの声を聞いた入校生たちは大きな声で返事をすると、必死で攻撃をしていた。

 そんな中、指揮官である1組の学級委員長は、マズいと思ったのか、アリアたちに総攻撃をかける。

 どうやら、アリアを倒そうとしているようであった。


「くっ!」


 明らかに攻撃の苛烈さが増しているため、アリアは戦うので精一杯になってしまう。

 とても指揮ができるような状況ではなかった。

 そんな中、エレノアとエドワードがアリアを援護しようと近づく。


「おーほっほっほ! 指揮官が指揮することを放棄してはいけませんわよ!」


「アリア! 周りの敵は任せてくれ! 君は指揮に専念するんだ!」


「二人とも、ありがとうございます!」


 アリアはそう言うと、声を枯らして指揮をし始める。

 その後、1組の正面にいたアリアたちが多少盛り返したことにより時間を稼ぐことに成功する。

 結果、ステラとサラが1組の学級委員長を倒してくれたため、4組が勝利することができた。

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