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39 3組対4組

 3組と4組の準備が完了したことを確認したのか、バンバンバンと銅鑼を叩いた音が聞こえてくる。

 戦闘開始の合図であった。


「4組、突撃!」


 アリアが大きな声を出すと、4組の入校生たちが走り出す。

 エレノアの指揮する5組の入校生たちは、炎の球を山なりに放つ。


 すでに、3組の騎馬兵たちはこちらに向かって来ている。

 フェイも予想通り、アリアを目指して走っているようであった。


「騎馬兵とまともに打ち合ってはいけません! 小突いて落馬させるのに専念してください!」


 アリアは炎の球を斬り払いながら、大きな声で叫ぶ。

 敵の5組の入校生たちが放った魔法が降り注いでいた。

 だが、4組の入校生たちは連日の訓練のおかげで、炎の球に当たらずに済んでいるようである。


 そんな状況で、3組の騎馬兵たちが突撃をしてきた。

 相当な勢いで突っこんでくるため、4組の入校生たちは防御するので精一杯である。

 次々と騎馬兵たちが殺到している状況であった。


「これは、マズいですね!」


 アリアは向かってきた騎馬兵を倒しながら、つぶやく。

 圧倒的な機動力の前に、4組の入校生たちは手も足も出なかった。

 かろうじて、持ちこたえているが、いつ崩壊してもおかしくない状況である。


 さらに、悪いことにフェイまでもが、アリアの近くに来ていた。


「アリア! 悪く思うなよ!」


 フェイは、指揮官狙いのようである。

 他の入校生たちには目もくれず、アリアに突きを放つ。


「させませんの!」


「指揮官を倒させるワケにはいきません」


 サラとステラは、フェイに向かって斬りかかる。

 さすがに、無視するのは難しいと思ったのか、体をひねって、槍ごと一回転をした。

 結果、二人の剣は、弾かれてしまう。


「お! サラとステラではないか? 私の相手はお前らがするみたいだな! ガッカリさせるなよ!」


「もちろんですの!」


「いきます!」


 サラは、フェイの胴体に向けて剣を横なぎに振る。

 ステラは、サラと違い、足元を狙って斬撃を放つ。

 ほぼ同時であるので、並みの者では避けることすらできない攻撃であった。


「いや、二人同時は厳しいものがあるな!」


 フェイはそう言うと、目にも止まらぬ槍さばきで剣を弾く。

 予想はしていたが、二人の顔は険しくなった。

 そこから、フェイを足止めするための戦いが始まる。


 アリアは二人が足止めをしている間に、状況を好転させようとした。


「エレノアさん! 普通に剣で戦って、騎馬兵を減らしてください! じゃないと、負けます!」


「おーほっほっほ! ついにワタクシの出番ですのね! 目を見開いて、見ていなさい!」


 エレノアはそう言うと、5組の入校生たちに迫っていた騎馬兵たちを倒し始める。

 まさか、5組の入校生が剣を振るうと思っていなかったのか、騎馬兵たちは驚いているようであった。


「皆さん! 5組の人たちを守ってください!」


 アリアが大声で叫ぶと、戦闘不能になっていない入校生たちが急いで集まり出す。

 そのおかげか、先ほどまでバラバラになって混乱していた4組は落ちつきを見せていた。


「エドワードさん! 全体の指揮は任せました! 私の部隊で騎馬兵を減らしてきます!」


「おい、アリア! 待ってくれ! いきなり言われても困る!」


 エドワードは向かってくる騎馬兵を倒しながら、叫ぶ。

 だが、届いていないようであった。

 アリアはというと、自分の部隊を率いて、5組の入校生たちを攻撃しようとする騎馬兵の側面から攻撃していく。


 エレノアとアリアの率いている部隊の活躍もあってか、どんどんと騎馬兵は減っていった。

 その間、4組の入校生たちはエドワードの指揮の下、必死で5組の入校生たちを守っていた。

 そんな状況がしばらく続くと、徐々に4組が有利になり始める。


 敵の騎馬兵が減ってきたのだ。


「皆! 戦況はこちらが有利になりつつある! ここが耐え時だ!」


 エドワードが4組の入校生たちに向かって檄を飛ばす。

 3組は騎馬兵がどんどんと倒されているため、焦っているのか、苛烈な攻撃を加える。

 どうやら、4組の入校生たちを倒した後に、アリアを倒そうと考えたようであった。


「皆さん! 急いで、騎馬兵を倒しましょう! そうしないとマズいですよ!」


 アリアは、自分の率いている部隊に向かって大声を出す。

 苛烈な攻撃の前に、4組の入校生たちがかなり押されているためである。


「おーほっほっほ! 誰か、ワタクシの相手をする者はいないの?」


 エレノアはそう言うと、近くにいた騎馬兵に向かって魔法を放つ。

 だが、騎馬兵はかなり速く動いているため、当たらない。

 先ほどから、敵の騎馬兵はエレノアを無視している。


 どうやら、エレノアとまともに戦うのは良くないと判断したようであった。


「エレノアさん! 戻って、魔法を放つのに専念してください! そこにいたって、誰も戦おうとしませんよ! それか、サラさんとステラさんの加勢に行ってください!」


 暇になってしまっているエレノアに向かって、アリアは叫ぶ。


「おーほっほっほ! ワタクシを誰だと思っていますの! エレノア・レッドですわよ! 全て、任せておきなさい!」


 エレノアはそう言うと、戻りも加勢もせず、明後日の方向に走り始める。


「どこに行くんですか、エレノアさん!」


 アリアは、急いで声をかける。

 だが、エレノアに止まる気配はない。


「おーほっほっほ!」


 エレノアは高笑いを上げながら、走っていく。


(どこに行くつもりなんだろう?)


 アリアは行き先を確認する。

 すると、敵の指揮官である3組の学級委員長に向かって走っていることが分かった。

 当然、その周りには指揮官を守る騎馬兵たちがいる状態である。


(……エレノアさんは、もういいや。制御できると思うほうが間違いだったんだ)


 アリアは諦めると、敵の騎馬兵たちを倒そうと動き出す。

 そんな中、エレノアの姿を見たフェイに動きがあった。


「あれは、レッド家の令嬢か! 少しマズい気がするぞ!」


 フェイはそう言うと、ステラとサラを弾き飛ばし、急いでエレノアの後を追う。


(お! これは好期かもしれない! ステラさんとサラさんが自由だ! 一気に敵の騎馬兵を倒せるかもしれない!)


 アリアはそう考えると、体勢を立て直したステラとサラのほうを向く。


「ステラさん、サラさん! フェイ大尉がいない間に、敵の騎馬兵を倒しましょう!」


「了解です!」


「分かりましたの!」


 二人は返事をすると、4組の入校生たちを攻撃している騎馬兵たちに向かって走っていく。

 このことが大きな契機となった。

 敵の騎馬兵たちは、アリア、サラ、ステラの猛攻を前に次々と倒れていく。


 数分後、周囲には戦闘不能になった3組の入校生が多数横たわっていた。

 主を失った馬は、自由に歩き回っているようである。


 学級対抗戦では、戦闘不能になってしまった入校生や自由になった馬は、近くにいる近衛騎士団が回収することになっていた。

 そのため、3組の入校生や主を失った馬は、戦闘の邪魔にならないように速やかに運ばれていった。


 一応、学級対抗戦は訓練の一環であるので、余計なケガをしないようにという配慮の結果でもあった。


「エドワードさん! ここからは、私が指揮をします!」


 周囲に騎馬兵がいなくなったことを確認したアリアは、大声を出す。


「やっとか! アリア、頼んだぞ!」


 エドワードは、ホッとしたような声でそう言った。


「ステラさん、サラさんはフェイ大尉の足止めをお願いします!」


「了解です」


「分かりましたの!」


 ステラとサラはそう言うと、現在進行形でエレノアをボコボコにしているフェイの下に向かった。


「その他の皆さんは突撃の体勢をとってください! 準備ができ次第、突撃をします!」


「おう!」


 4組の入校生たちは返事をすると、準備を始める。


「5組の皆さんは、引き続き魔法での援護をお願いします!」


 アリアがそう言うと、5組の入校生たちは口々に返事をし、疲れた顔をしながら炎の球を飛ばし続けていた。

 そうこうしている間に、4組の入校生たちは突撃の準備が整えた。


「それでは、突撃!」


 アリアが大きな声で叫ぶと、突撃を開始する。

 気合いが入っているようであり、ビヨンド平原に喚声が響いていた。


 残った3組の入校生たちも、一縷の望みをかけて、突撃を開始する。

 どうやら、狙いはアリアのようであった。

 学級対抗戦は、相手の指揮官を倒しても勝利となる。


 そのため、この局面ではアリア以外を狙っても意味がないのは自明であった。


「お! これは、非常にマズい! しょうがない! アリアを狙うとしよう! 私があんまり決定打になるような動きをするのは良くないけど、今更だな! 開幕でアリアを狙ったことだし!」


 フェイはそう言うと、ステアとサラを振り切ろうとする。

 足元には、ボコボコにされたエレノアが横たわっていた。


「させませんの!」


「もう少し付き合ってください」


 サラとステラは、フェイの行く手をさえぎる。


「まったく、二人相手はさすがにキツイ! これでは、アリアのほうに行けないな!」


 フェイは苦笑しながら、サラとステラの苛烈な攻撃をさばいていた。


 戦局は進行し、4組の入校生たちが残った3組の騎馬兵たちを包囲する。


(さすがに、ここから逆転するのは無理だろう。もう少しで降参するハズだ)


 アリアは飛んでくる魔法を斬り払いながら、そんなことを思っていた。

 予想通り、しばらくすると、指揮官である3組の学級委員長が白旗を振る。

 その瞬間、バンバンバンという銅鑼の音が響く。


 かなり苦戦したが、4組が最終的に勝利することができた。


「皆さん! お疲れ様でした! とりあえず、勝利を祝いましょう!」


 アリアは、嬉しそうな声で叫んでいた。

 4組の入校生たちも口々に喜びの声を上げている。


「ふぅ~、さすがに若いやつと戦うと疲れる!」


 3組の学級委員長が白旗を振ったのを確認したフェイは、地面にドサリと座りこんだ。


「フェイ大尉、強すぎですの! 二人がかりで倒せないなんて、おかしいですわ!」


 サラはぐったりとした顔をしながら、文句を言った。


「一応、私も近衛騎士団に所属しているからな! レイル士官学校の入校生に負けたら、笑い者になってしまう! さて、試合も終わったことだし、私はもう帰るよ! またな!」


 フェイはそう言うと、立ち上がり、小高い丘のほうに歩いていく。


「サラさん、とりあえずエレノアを連れて、アリアさんと合流しましょうか」


「そうですわね! 勝利の喜びを分かち合いますの!」


 サラはそう言うと、4組の入校生たちが騒いでいる場所に向けて歩き出した。

 ステラは、ボコボコにされたエレノアの両足をつかむと、そのまま引きずって運び始める。


「ステラ、さすがにそれは可哀そうですの」


 引きずられて土まみれになったエレノアを見たサラは、そう言った。


「そうですかね? まぁ、サラさんがそう言うなら、ちゃんと運びますね」


 ステラはそう言うと、エレノアを肩に担いだ。

 その後、二人はアリアたちに合流をした。


 4組の入校生たちは、ひとしきり喜ぶとレイル士官学校のほうへ戻っていった。

 今日の分の学級対抗戦は終わりであったためである。


 レイル士官学校に到着し、ロバートによる終礼が終わると、解散となった。

 終礼のときのロバートはかなり機嫌が良いようであった。


 アリア、サラ、ステラは、そのまま食堂に行き、夕食を食べると女子寮に戻る。

 自分たちの部屋に到着し、扉を開けると、そこにはカレンがいた。


「お嬢様方、お疲れ様でした。なかなか、厳しい戦いでしたね」


「ありがとうございます、カレンさん! もしかして、どこかで見ていましたか?」


 アリアは、カレンに質問をする。


「はい、貴族の方々がいた小高い丘から見ていましたよ」


「もしかして、父上の付き添いですか?」


 ステラは、カレンの言葉を聞いた瞬間、間髪入れずに質問をした。


「はい、レナード様の付き添いです」


「珍しいですね。父上が暇をしているなんて」


「最近、スオットの流入経路を潰し終わって、暇なようですよ」


「まぁ、父上がいても大してなにも変わりませんし、どうでも良いですね。アリアさん、サラさん。お風呂場に行きましょうか?」


「分かりました!」


「了解ですの!」


 アリアとステラは、レナードについて少し聞きたかったが返事をすると、お風呂場に行く準備をした。

 三人は準備が終わるとお風呂場で汗を流し、ゆっくりと部屋で休んだ。

 さすがに、今日、夜にカレンと訓練するのは無理だと三人は判断していた。


 消灯の時間になると、三人は自分のベッドで横になる。


(とりあえず、1勝か……次の組にも勝てるように頑張って指揮をしないとな)


 アリアはそんなことを思いながら、眠りについた。

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