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38 学級対抗戦

 ――あれから1時間後。


 結局、ステラとエレノアの殴り合いは痛み分けに終わる。

 二人とも顔を腫らし、地面に大の字で寝そべってしまっていた。


 アリア、ステラ、カレンは、二人を部屋に運ぶと、エバーを使って治療を行う。

 そのおかげで、次の日には腫れが引いて、体力も回復したようであった。

 ステラ、エレノアともに、訓練には支障がない状態である。


 そうして、今日も午後の訓練の時間になった。

 アリアは、5組の入校生たちの代表であるエレノアの目の前に立っている。


「エレノアさん、魔法を避ける訓練をこれから行いたいと思います! 言っておきますけど、この前みたいに巨大な火の球は作らないでくださいね!」


「おーほっほっほ! 分かっていますわ! この前みたいな巨大な火の球は作りませんの! アリアも心配せず、このワタクシにドンと任せておきなさい! 5組の者たち! 行きますわよ!」


 エレノアはそう言うと、ここから離れた建物に向かって歩いていく。

 その後ろを5組の入校生たちがぞろぞろとついていっている。


「はぁ……大丈夫かな……」


 アリアは、エレノアの後ろ姿を見ながらつぶやく。


「大丈夫なワケがありませんの……」


 アリアの隣にいるサラは、げんなりとした顔をした。


「まぁ、今回はエレノアの見張り役として奴隷1号こと、エドワードさんを同行させていますから、大丈夫でしょう」


 ステラはそう言うと、歩いている5組の入校生たちのほうを見る。

 そこには、エドワードが混じっていた。


 三人がエレノアの対策を考えた結果、幼馴染であるエドワードに見張りをお願いすることにした。

 当然、エドワードは嫌がっていた。

 だが、アリアが頼みこんだため、最終的には折れてエレノアの見張りをしてくれることになった。


 そんなワケで、エドワードは4組の入校生たちを守るための重大な使命を担っていた。


「とりあえず、エドワードさんを信じるしかありませんね。4組の皆さん! 屋外訓練場の入口に集合してください! 魔法を避ける訓練を行いますよ!」


 アリアはそう言うと、歩き始める。

 4組の入校生たちは、『またか』という顔をすると、屋外訓練場の入口に集まっていく。


(今回は、無事に訓練が終わりますように)


 アリアはそんなことを思いながら、屋内訓練場を出た。






 ――10分後。


 4組の入校生たちは、魔法を避ける訓練の準備を終えていた。

 あとは、アリアの号令を待つだけである。


(5組の人たちも準備ができたみたい)


 離れた場所にある建物の近くには、5組の入校生たちが待機している様子が見えた。

 もちろん、エレノアの近くには見張り役のエドワードがいる。


「突撃!」


 アリアは大きな声でそう言うと、白い旗を大きく振った。

 すると、5組の入校生たちが魔法を放とうとしている様子が見える。

 数秒後には、こちらに向かって飛んできた。


 4組の入校生たちは、突撃をしながら斬り払ったり、避けたりしている。


(今のところは順調だな)


 アリアは突撃の最後尾を走りながら、そんなことを思う。

 だが、しばらくすると、異変が起きる。


(なんだか、やたらステラさんのほうにばかり炎の球が飛んできているな。しかも、真っ直ぐに)


 アリアは、原因を確かめるために上空に向けていた意識を前方に向けた。

 近くにいたステラも同じことを思ったのか、前のほうを向いている。

 原因はすぐに判明した。


「あ! エレノアさんが魔法を放ってきていますよ!」


「はぁ……あのお馬鹿さんはしょうがありませんね」


 高速で飛んでくる魔法を斬り払いながら、ステラはため息をつく。

 他の5組の入校生たちが山なりに炎の球を飛ばしている中、エレノアが一人だけ真っ直ぐに飛ばしていた。


 近くでは、エドワードがなんとかして説得しようとしている様子が見える。

 だが、エレノアは聞く耳持たずといった感じであった。


「アリアさん。少しエレノアを懲らしめてきますね」


 ステラはそう言うと、一気に加速する。


「あ! ステラさん!」


 アリアが声をかけたが、止まる様子はない。

 エレノアのほうはというと、エドワードが羽交い絞めにして止めようとしている。

 ステラは、その間にもどんどんと近づく。


 あっという間に真ん前まで来ると、飛び蹴りを放つ。

 エレノアは、もろに顔面で受けてしまっていた。

 どうやら、エドワードに押さえられていたため、避けることができなかったようである。


「はぁ……また、始まりましたよ……」


 アリアは、遠目でエレノアとステラのいる場所の様子を確認した。

 そこでは、昨日の夜と同様に、殴り合いのケンカをしているようである。

 エドワードは、そんな二人を必死で止めようとしていた。


「アリア……あれ、止めなくても良いんですの?」


 近くにいたサラは指差しながら、聞いてくる。


「……もう好きにさせましょう。二人を放っておいても、魔法を避ける訓練としては成立しているので」


「……しょうがないですわね」


 アリアとサラは諦めて、訓練に集中することにした。


 結局、訓練が終わるまでステラとエレノアは殴り合いを続けていた。

 終わった頃には、二人とも顔面が腫れあがった状態になっていた。

 ついでに、エドワードの顔も腫れていた。


 どうやら、二人の殴り合いに巻きこまれてしまったようである。

 こうして、若干3名を除き、午後の魔法を避ける訓練は無事に終了した。






 ――9月末。


 4組の入校生たちは、なんやかんやで学級対抗戦の日を迎えることができた。

 1名は顔が腫れて痛そうであるが、戦う分には問題ないようである。


 学級対抗戦の舞台となるビヨンド平原には、太陽の光が降り注いでいた。

 まさに、戦日和といった感じである。


 レイル士官学校の入校生たちは、学級委員長を先頭にして整列をしていた。

 各組に割り振られた5組と6組の入校生たちは、それぞれの組の後方に並んでいる。

 少し離れた小高い丘からは、王族、貴族、将官などがこちらを見ているようである。


 アリアが知っている人も何人かいた。

 近衛騎士団長のミハイルはもちろん、コニダールから逃げるときにサラとアリアが背負ったおじさんの姿も見える。

 どうやら、それなりに偉い将官のようであった。


 しばらくすると、学級対抗戦の開始が告げられる。

 そこから、偉い人の『頑張ってくれ!』的な話が延々と続く。

 しかも、一人ではなく、何人もである。


(はぁ……本当に早く終わってくれないかな……)


 アリアは小高い丘を見つめながら、そんなことを思った。

 立っているだけで少し疲れてしまっていた。


 結局、偉い人たちのお話しが終わったのは、1時間後であった。


(やっと、終わったよ……)


 アリアはげんなりとした顔をすると、4組の入校生たちに指示を出す。

 指示を受けると、小高い丘のほうに移動し始めた。

 学級対抗戦の準備をするためである。


 各組とも、小高い丘に移動しているようであった。


 それから、30分後。

 準備が整った1組と2組の入校生たちは、それぞれアルビス平原に展開していた。


 学級対抗戦は、総当たり戦である。

 また、二つの組ずつ試合を行うため、残りの二つの組は小高い丘から観戦することができた。

 そんなワケで、アリアは敵情視察も兼ねて観戦をすることになった。


 ただし、立ったままである。

 小高い丘の上のほうにいる偉い人たちはイスに座って見ているが、入校生たちにはイスが用意されていないため、立って観戦するしかなかった。


「アリア! そろそろ、始まりそうですの!」


 隣にいたサラは、小高い丘の上のほうを指差す。

 そこでは、戦場で使われるような大きな銅鑼が、今まさに叩かれようとしていた。

 すぐに、バンバンバンという、アリアにとって馴染みのある音が聞こえてくる。


 アミーラ王国軍で使用されている戦闘開始の合図であった。


 展開していた1組と2組の入校生たちは、銅鑼の音が聞こえると動き出す。

 しばらくすると、交戦を開始する。


「ステラさん、サラさん! どちらが勝つと思いますか?」


 隣で立っていた二人に対して、アリアは質問をする。


「どう見ても、1組でしょうね。相性が悪すぎます。1組が重装甲兵で固めているのに対して、2組は弓兵主体ですからね」


「ワタクシも、そう思いますわ!」


「やっぱり、そうですよね!」


 予想どおりの返事を聞いたアリアは、アルビス平原のほうに顔を向ける。

 そこでは、2組の入校生たちが必死で矢の雨を降らせていた。

 だが、鉄でできた分厚い鎧を着ている1組の入校生たちには、効いていないようである。


 左手で持っている、これまた分厚い鉄の盾で簡単に防がれていた。

 当たったとしても無視できるようである。


 2組が使っている矢は訓練用であり、矢じりが潰されている。

 とはいえ、当たれば普通に痛く、しかも、当たりどころが悪ければ死ぬ可能性もあった。

 だが、重装甲兵には無意味であるようだ。


 2組の後方からは、割り振られた6組の入校生たちが必死に魔法を飛ばしていた。

 1組の入校生たちは、飛んできた魔法を気にしてはいないようである。

 分厚い鎧に当たっても、中身の人間には関係ないようであった。


 1組の入校生たちは、動きは遅いが着実に2組の入校生たちに迫っている。


「そろそろ、終わりますかね」


 始まって20分後、ステラは戦闘の様子を見ながらつぶやく。

 すでに、2組の入校生たちは、1組の入校生たちに囲まれてしまっていた。

 なんとか抵抗しているようだが、どんどんと押しこまれている状況である。


 しばらくすると、指揮官である2組の学級委員長が白旗を振った。

 どうやら、これ以上戦っても勝てないと判断したようである。

 その瞬間、銅鑼の音が打ち鳴らされた。


 試合は、1組の勝利に終わることとなった。


「まぁ、よく粘ったほうだと思いますよ」


「本当にそう思いますの!」


「とりあえず、私たちも準備を始めましょうか」


 試合を見届けた三人は、準備を始める。

 次の試合は、3組対4組であった。






 ――30分後。


 4組の入校生たちは、展開を完了していた。

 内訳は、エレノアが率いている5組の入校生たち、ステラが率いる小部隊、サラが率いる小部隊、アリアが率いる小部隊の四部隊編成である。

 4組は、かなり基本に忠実な歩兵部隊であった。


 少し離れた場所では、3組の入校生たちが展開している様子が見える。


(3組は騎馬兵主体か……これは、苦戦するかもしれないな。しかも……)


 アリアは、前方を注視した。

 騎馬兵に混じって、見覚えのあるおかっぱ頭の人物がいることを確認できた。


「はぁ……なんで、フェイ大尉がいるかな……」


「本当ですの……」


 アリアとサラは、げんなりとした顔をしている。


 学級対抗戦では、片方の組の戦力が劣っていると考えられる場合、教官たちの判断により、戦力を増やすことが認められていた。

 また、慣例として、加勢するのは近衛騎士団の団員であることがほとんどであった。


 そのため、3組と4組の場合、明らかに4組のほうが強かったため、フェイが3組に加勢をすることになったようである。

 この前の実技試験での満点をとった者が三人もおり、しかも、エレノアがいるためであった。


「とりあえず、フェイ大尉は私とサラさんで押さえますか。間違いなく、指揮官であるアリアさんを狙ってくると思いますし」


「はぁ……そうするしかないですわね。まったく、気が進みませんの……」


「すいません。お願いします」


「これも、4組の勝利のためです」


「……そうですわね」


 ステラとサラはそう言うと、自分の指揮する部隊の場所まで戻っていく。


(とりあえず、騎馬の機動力をなんとかしないと話にならないな……)


 試合開始の銅鑼の音を待ちながら、アリアはそんなことを考えていた。

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