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37 ステラとエレノアの決闘

 女子寮での騒ぎの後、アリア、サラ、ステラ、エレノアは、アンにこってりと絞られた。

 その後、四人は散らかった女子寮の掃除をしていた。

 あと少しで終わりそうな状況である。


「はぁ……面倒ですね」


「元はといえば、あなたが殴りかかってきたせいではないの? 文句を言っていないで、さっさと片づけなさい! ワタクシではなく、あなたみたいな貧相な者にこそ、お似合いの仕事ですわ!」


「……もしかしなくても、ケンカを売っていますよね? まったく、キンキン声のお馬鹿さんには、付き合いきれませんね」


「キー! 誰が、お馬鹿さんですって!? あなたこそ、ワタクシにケンカを売っていますの!? それなら、良いですわ! 私と一緒に、屋外訓練場に来なさい! 格の違いを見せつけてあげますわ!」


「良いでしょう。そこで、勝った方が負けた方に一つ命令できるなんて、どうですか? まさか、自意識過剰なあなたが、この申し出を断るなんてしませんよね?」


 ステラは、エレノアを挑発する。


「当たり前ですの! 万が一にも、ワタクシが負けるなんてありえませんわ! さぁ、早くしなさい!」


「キンキン鳴かないでください。うるさいですよ!」


「キー! キンキンなんて鳴いていませんわ!」


「たしかに、キーキーでしたね。ふふ! まるで、お猿さんみたいです」


「猿は、ウキーですの! 馬鹿にするのも、いい加減になさい!」


 ステラとエレノアはそんなことを言いながら、女子寮の外へ向かっていく。

 アリアとステラは、二人の後ろ姿を見ている。


「……アリア、二人をとめなくて良いんですの?」


 サラは、疲れ切った声で、アリアに質問をする。


「……もう良いですよ。勝手にさせましょう。でも、周囲にまで被害が及んだら困りますので、一応ついていきますか」


「そのほうが良いですの。屋外訓練場では、夜でも訓練をしている人がそれなりにいますわ。その人たちにまで危害が及んだら大変ですの」


「あと、二人が殺し合いを始めても、すぐにとめる必要がありますからね」


「ハハハ……全然、笑えませんの……」


 アリアの言葉を聞いたサラは、乾いた笑い声を上げる。

 二人は、ステラとエレノアの後を追って訓練場へ向かう。

 辺りは、すでに暗くなっていた。






 ――10分後。


 屋外訓練場で、ステラとエレノアは刃引きされた剣を持って対峙していた。

 月明かりに照らされた二人を、アリアとサラは離れた場所から見ている。

 隣には、軍服姿のカレンが立っていた。


 アリアたちが女子寮で片づけをすることになってしまったため、カレンは屋外訓練場で自主訓練をしていたようである。


「ステラさん、エレノアさん! 殺し合いだけはやめてくださいね!」


 アリアは、剣を構えている二人に向かって、大きな声で叫ぶ。


「大丈夫です! その前に、倒しますので!」


 ステラは、力強い声で叫び返す。


「おーほっほっほ! 殺し合いになんてなりませんわ! 一方的に叩き潰すだけですの!」


 エレノアは、相当な自信があるようだ。

 二人の準備が完了したこと確認したアリアは、大きな声を上げる。


「それでは、始め!」


 アリアの声を聞くと同時に、ステラとエレノアが一気に間合いを詰めた。

 二人とも、剣を上段から振り下ろす。

 振る速度は、同じのようであった。


 結果、ガキンという音が周囲に響く。


「あら? 思ったより、やりますわね!」


「そちらこそ、ただのキーキー鳴くお馬鹿さんではないようですね」


 二人は、鍔迫り合いをしたまま、言葉を交わす。

 アリア、サラ、カレンは、そんな様子を見ている。


「うわ! 本当にエレノアさんって剣を振るえるんですね! しかも、ステラさんの一撃を受け止めていますよ!」


「信じられませんわ! 本当にエレノアは5組の入校生ですの!?」


「ウワサには聞いていましたが、お嬢様と打ち合えるとは……なかなか悪くないですね」


 三人は、それぞれ口々に感想を言った。

 それだけ、エレノアの動きは驚かせるようなものであった。


 三人が見守る中、動きがあった。

 ステラが手を緩め、後ろに剣を引く。

 そのまま、エレノアの剣を受け流すと、後方へ下がった。


 どうやら、一度仕切り直すようである。

 エレノアは自由になると、左手を剣から放し、ステラのほうにかざす。

 すると、10cmほどの炎の球が現れる。


「離れても、無駄ですわ!」


 エレノアはそう言うと、魔法を放つ。

 矢のような速度で、炎の球が向かっていく。

 まさか、魔法を放ってくると思っていなかったのか、ステラは虚を突かれる。


「ッ!」


 後方に下がりながら、ステラは剣を振り、なんとか炎の球を斬り払う。

 だが、その一発で終わることはなかった。

 エレノアは、左手をかざしたまま、ふたたび、魔法を放つ。


 それも、一発だけではなく、連発をし始めた。

 弓に矢をつがえて射るよりも早く、炎の球がステラを襲う。

 ステラは、後方に下がる途中であったため、体勢を崩されてしまった。


「くっ!」


 剣を高速で振り回して、なんとか魔法を防ぐ。

 だが、ステラは完全に劣勢になっていた。

 炎の球を防ぐので精一杯のようである。


「おーほっほっほ! 無様に逃げ回るだけですの!? それでは、ワタクシに勝てませんわよ!」


 対して、エレノアは余裕のある表情を浮かべている。

 逃げ回るステラに向かって、次々と魔法を放つ。

 そのため、炎の球がアリアたちのいる方向に飛んでくることがあった。


「危ないですの!」


 サラは、持っていた訓練用の剣で斬り払う。

 アリアも、炎の球に当たらないように注意をしていた。

 カレンはというと、剣も使わず手で振り払っている。


「それにしても、ステラさん、かなり苦戦していますね」


 アリアは、目の前で繰り広げられている戦闘の様子を見ながらつぶやく。


「そうですわね。あれだけ高速で魔法を連発されると、近づけませんわ」


 サラも、同意する。

 先ほどから、ステラは炎の球を防ぐので精一杯であるようだ。

 そのため、エレノアに攻撃することができていなかった。


「このままだと確実に負けますね。さて、お嬢様はどうするんでしょうね?」


 カレンは、いつもの落ちついた口調でつぶやく。


(この状態だと、ステラさんと同じ動きをするしかないな……多分、サラさんも同じ動きになると思う。ここは、カレンさんに対処法を聞いてみるか)


 アリアはそんなことを考えると、カレンのほうを向く。


「カレンさんだったら、どうしますか?」


 カレンがどうするかを聞こうと、アリアは質問をする。


「私だったら、隙を見て短剣を投げますね。通常の魔法兵であれば、それで終わりです。魔法を放つのも集中力が必要ですので、短剣が刺さった状態では難しいでしょう」


 カレンは、言葉を区切って続けた。


「ただ、エレノア様は短剣が飛んできても普通に剣で弾きそうですね。そうすると、被弾覚悟で強引に押し切るか、注意をそらして、その隙に攻撃するしかない気がします」


「そうなんですか。いずれにしても、厳しそうですね」


 カレンの言葉を聞いたアリアは、険しい顔をする。


(ステラさん、頑張ってください! 4組のためにも、お願いします!)


 アリアには、祈ることしかできなかった。

 三人が見守る中、戦闘は続く。






 ――10分後。


「はぁはぁはぁ……いい加減、さっさと降参なさい! そして、下僕2号として、私に絶対の忠誠を誓うのです!」


 エレノアは、そんなことを言いながら、魔法を連発し続けている。

 だが、先ほどと比べ、明らかに勢いと威力は落ちていた。

 どうやら、魔力が尽きつつあるようだ。


 10分間、ステラは炎の球に当たることはなかった。

 だが、動きながら高速で剣を振り続けているため、誰から見ても動きが悪くなっていた。


 アリア、サラ、カレンは、そんな戦いの様子を見続けている。


「なんだか、今、下僕2号って聞こえてきましたけど、サラさん知っていますか?」


「知りませんの。でも、2号ってことは、きっと1号もいるハズですわ」


 下僕2号という聞き慣れない言葉を聞いたアリアとサラは、そんなことを話していた。


「下僕1号はエドワード様だと思いますよ。昔、王城でエレノア様がエドワード様をそう呼んでいたところを見かけたことがありますので、間違いないかと」


 カレンは、二人の疑問に答える。


「ハハハ……エドワードさんも大変なんですね……」


「絶対、昔からエレノアにこきつかわれていますの」


 エドワードの顔を思い浮かべながら、アリアとサラはそう言った。


(4大貴族でも、大変なことはあるんだな。私でも、下僕1号なんて呼ばれたことがないよ)


 アリアは、男子寮にいるであろうエドワードに同情をする。


「サラ様、アリア様、そろそろ、勝負がつきそうですよ」


 二人がエドワードのことを話していると、カレンが口を開く。

 声に反応したアリアとサラは、戦闘をしている場所を見ようと顔を動かす。

 そこでは、ステラが、そこら辺に落ちていた石をエレノアに向かって投げ続けていた。


「この、この、このですわ!」


 エレノアは、右手に持った剣で飛んでくる石を弾いている。

 さすがに、魔法を放ちながら行うのは難しいのか、左手はステラに向けたままであった。

 いつでも魔法を放てるようにしているようである。


「どうしました、エレノア? 魔法はもう終わりですか? ふふ! 意外と魔力は少ないんですね」


 ステラは石を投げながら、挑発をする。

 見る見るうちに、エレノアの顔が赤くなっていく。

 同時に、左手に炎の球が現れる。


「馬鹿にしましたわね! もう、泣いても許しませんの!」


 エレノアはそう言うと、剣で石を弾きながら、魔法を放つ。

 だが、集中力が切れているのか、炎の球は明後日の方向に飛んでいく。


「ふふ! どこを狙っているのですか? もしかして、お顔についている二つの眼球は飾りですか?」


 ステラは、さらに挑発をする。

 動きながらも、石を投げるのをやめてはいなかった。


「キー! ここまで馬鹿にされたのは初めてですの! 絶対に下僕にしてやりますわ!」


 怒ったエレノアは、次々と魔法を放つ。

 だが、全てステラのいる方向に飛んでいかなかった。

 そのうちに、どんどんと炎の球はしぼんでいった。


 5分後、決定的な瞬間が訪れる。


「あっ! 魔法が出ませんわ!」


 エレノアは、左手をかざしてステラに魔法を放とうとする。

 だが、炎の球が現れることはなかった。

 とうとう、魔力が切れてしまったようである。


 その隙を見逃すステラではなかった。

 石を投げるのをやめると、一気にエレノアとの距離を詰める。


「魔法が使えなくても、あなた如きには負けませんわ!」


 エレノアは、両手で剣を握ると構えた。

 そうしている間にも、ステラは目前に迫っていた。


「ふぅ!」


 胴体目がけて、ステラは横なぎに剣を振るおうとする。


「そんな攻撃、ワタクシには通じませんわ!」


 当然、エレノアは防御しようと剣で受ける体勢をとる。

 だが、先ほどの魔法を連発した影響があるのか、少し反応が遅れた。


「遅いですよ」


 ステラはそう言うと、一気に剣を振り抜く。

 完璧に受ける体勢をとれていないエレノアの剣に当たる。


「ッ!」


 結果、ガキンという音がした後、剣を弾き飛ばされてしまう。

 その様子は、離れた場所にいるアリアたちにも見えていた。

 誰もが、勝負は決まったと思う瞬間であった。


「まだ、負けていませんわ!」


 エレノアはそう言うと、思いっきり左足でステラの手を蹴り飛ばす。

 剣を弾き飛ばし勝利を確信していたステラは、虚を突かれてしまう。


「くっ!」


 手を蹴られてしまい、その衝撃でステラは剣を放してしまった。

 それほど、重い一撃であったようである。


「これで、同じ条件ですわ!」


 蹴り終わったエレノアは地面に足をつくと、拳を固めた。


「甘いですね」


 対して、丸腰になったステラは、すぐに右足を蹴りだす。

 まさか、蹴りを放ってくると思っていなかったのか、エレノアはもろに顔面に受けてしまう。


「フーフー! よくもワタクシの顔面に蹴りを入れましたわね! このおおお!」


 鼻血を出しながら、エレノアは殴りかかる。

 ステラは蹴り終わった後であったため、少し体勢が崩れていた。


「ぐはぁ!」


 結果、エレノアの右拳を顔面で受けてしまう。

 結構な威力であるのか、ステラは顔を押さえたまま後退していく。

 エレノアは、してやったりという顔をしている。


 その様子を見たステラは、完全にキレてしまったようであった。


「ああああ!」


 珍しく雄叫びを上げながら、エレノアに向かっていく。

 そこから、二人は殴り合いを始める。

 お互いに馬乗りになったりしながら、ステラとエレノアは拳を振るい続けた。


 そんな様子を、離れた場所からアリア、サラ、カレンは見ている。


「若いって良いですね」


「いや、もう止めましょうよ!」


「そうですの!」


「良いじゃないですか、別に死ぬワケでもありませんし。気が済むまで殴れば良いのです」


 カレンはそう言うと、座りこんでしまう。


 屋外訓練場では、殴り合う音が響いていた。

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