274 逃げる者
――ハーペンハウスを出発してから、数日後。
アリアたちは、中部の都市であるレベンリードの近くまで到着していた。
現状、中部のダルム要塞から一番近い都市である。
しかも、ローマルク独立国との国境線にも近い場所だ。
レベンリードからでも、遠目で見れば、国境地帯を見ることができるような位置にある。
それほどの距離にある都市であった。
そんな都市を目指して、アリアたち一行を乗せた馬車は進んでいる。
「あと少しで、レベンリードですの! グヘへ! 今回も武器を売りまくってやりますわ!」
エレノアは、待ちきれないのか、先ほどから遠くに見えるレベンリードに釘づけだ。
ちなみに、前回、武器を売って、ミハイルから最もお金を貰っていたのはエレノアである。
実演のおかげもあってか、エレノアに助言を求めて買う者が多かったためだ。
もちろん、エレノアがそこそこ値段のする武器を勧めたのもある。
とはいえ、品質的には、どれも値段以上の価値はあるものだ。
結果的に、良い買い物にはなっていた。
「前は、たまたま上手くいっただけだ。都市が違えば、雰囲気も違う。エレノアの思い通りになるかは、まだ分からないだろう」
「おーっほっほっほ! 情けないですわね、エドワード! もしかして、武器を売る自信がありませんの?」
「自信があるとか、そういう問題ではない! レベンリードは、独立国との国境に近い都市だからな! ハーペンハウスのようにはいかないと思っただけだ!」
エレノアに挑発をされて、エドワードは少しムッとしたようだ。
そこから、エレノアとエドワードは、いつも通り、不毛な言い争いを始めてしまう。
そんな二人をこれまた、いつも通り、学級委員長三人組が何とかなだめようとしていた。
(……こんなに暑いのに、二人とも元気だな。とりあえず、レベンリードに着いたら、何か冷たいモノが食べたい。この状態のまま、武器を売るのはキツイよ。干からびそう)
今日も、夏らしい日差しが地面に向かって降り注いでいる。
必然、気温もかなり上がっていた。
馬車の荷台も通気性が良いとはいえ、暑いことには変わりない。
そんな中、アリアは何とかして涼を得ようと、座席の端に移動をする。
若干、マシ程度ではあるが、風が吹いてきてはいた。
流れていく風景を見つつ、涼を得ることに成功したアリア。
ちなみに、反対側の座席には、アリアと同じような状態のサラがいる。
もれなく、干からびていた。
そんなこんなで、数分後。
「あ! あれ! あれですの!」
風景を見ていたサラが、いきなり大声を出す。
指を差した先には、独立国との国境地帯が存在している。
アリアも、急いで、サラの指差した方向に顔を向けた。
「独立国に向かって、走っていっている人たちがいますよ!」
思わず、叫んでしまう。
必死に走って、独立国との国境を目指す一団。
その背後からは、ローマルク王国の騎馬兵と思われる集団が迫っていた。
どうやら、国境を抜ける最中に見つかってしまったようだ。
しかも、それだけではない。
「空を見ろ! 竜騎兵だ!」
アリアとサラがいる場所の反対側にいたエドワードが、声を上げていた。
その声につられ、アリアは空に目を向ける。
「うわ! 5騎もいますよ!」
国境に向かって走る集団に向かって、独立国側から竜騎兵が飛んできていた。
どうやら、援護をしようとしているようだ。
馬車を動かしているカレンと寝ているミハイルを除き、全員が身を乗り出して、状況の推移を見守ることになる。
そんな中、変化が訪れた。
「あ! 矢を放ち始めましたの!」
「もう、追いつけないと悟ったのでしょう。独立国に行かせるくらいなら、殺してしまおうという考えですね」
サラは驚いた表情。
対して、ステラは、いつも通りの顔であった。
騎馬兵たちは、逃げる背中に向かって矢を放っている。
どうやら、ステラの言った通りのようだ。
「……最悪だ。兵士でもない者の背中に向かって、矢を放つとは。それほどまで過激な手段をとるしかないのか……」
エドワードは、眉間にしわを寄せてしまっている。
学級委員長三人組も、何とも言えない顔をしていた。
そんな中、エドワードを押しのけ、エレノアが声を上げる。
「竜騎兵も攻撃を始めましたわよ!」
その言葉通り、追いついた竜騎兵たちも、上空から矢を放ち始めていた。
加えて、竜そのものも、炎の球を吐いている。
当然、騎馬兵たちは、当たらないように散開していた。
竜騎兵たちの援護のもと、追い立てられた集団は一心不乱に走っている。
数分後には、矢にも当たることなく、なんとか独立国に入ることができていた。
騎馬兵たちも諦めたのか、逃げた集団を追わず、戻っていく。
それに伴い、竜騎兵も撤退していった。
「……これが国境地帯の現実か。南部の森林地帯でもそうだが、命を懸けてでも、ローマルク独立国に向かう者はいるのだな。それほど、魅力的なのだろう」
エドワードは、ボソッとつぶやいてしまう。
(……ローマルク王国に未来はあるのかな? 命の危険を冒してまで脱出をするって、相当だ。それくらい失望しているということだろう? ローマルク王国って、私が思うよりも厳しいのかな?)
衝撃的な光景を目にして、アリアは考えこんでしまった。




