272 より良い生活
――お店に入ってから、40分後。
アリアたち一行は、夕食を食べ終え、宿までの道を歩いていた。
通りには、それなりに人がおり、賑わっている。
「ふぅ~! 労働の後のお肉は最高ですわ! お腹一杯で幸せですの!」
エレノアは、非常に満足しているようだ。
「やはり、お肉は正義ですわ! 全ての問題は、お肉で解決できますの!」
サラはというと、笑顔で、よく分からないことを言っている。
とりあえず、満足しているのは伝わってきた。
そんな中、アリアたちが談笑をしながら歩いていると、エドワードが口を開く。
「だん……ミルさん。明日から、どうしましょうか? 武器は全部売ってしまいましたし、どこかで仕入れる必要があると思います。そうでないと、武器商人は続けられません」
「うん! 至極ごもっともな意見だね! とりあえず、明日、ハーペンハウスの武器屋を周ろうか! そこで、お値打ちな物があれば買っていけば良いと思うよ! 都市の様子も見ることができるし、一石二鳥だね!」
ミハイルは、笑顔でエドワードの質問に答える。
「となると、ハーペンハウスを出発するのは明後日ということですか?」
「うん、そうだね! 何か問題でもある?」
「いえ、確認をしただけです。ありがとうございます」
エドワードはそう答えると、学級委員長三人組との談笑に戻った。
(出発は明後日か。フカフカのベッド生活も、中部の都市に行くまではお別れだな。あとは、生きている食べ物も、しっかりとっておかないと。移動中は干し肉とパンが多いからな)
アリアは、出発をするまでにやりたいことを、脳内に浮かべる。
そんなこんなで、アリアたち一行は宿までの帰り道を歩いていた。
途中、武器を持って、大きめのリュックを背負っている一団とすれ違う。
「何だか、変わった人たちでしたわね。武器を持ってはいましたけど、傭兵という感じはしませんでしたの」
サラは、先ほどの一団と距離が開くと、口を開いた。
「見た感じは、どこにでもいそうな普通の人たちでしたね。旅をしている人たちかもしれません。とはいえ、今のローマルク王国の現状で、道楽の旅をするのは、あまりオススメできませんね」
ステラは、思ったことを口にする。
春先の一斉検挙によって、王都ハリルにいた反体制派は捕まえられていた。
もちろん、芋づる式に、各都市に潜伏していた反体制派の者たちも捕まってはいる。
とはいえ、現在、ローマルク王国で旅をするのは、勧められるものではない。
戦争によって、各都市は、多かれ少なかれ損害を受けている。
自分が住んでいた土地を追い出されるか、離れた者たちの流入も激しい。
必然的に、治安も悪化している。
それでも都市はまだマシなほうで、一歩外に出れば、盗賊やら犯罪集団が闊歩している世界だ。
それなりの護衛がいないと、移動するのも危ないのが現状である。
「護衛もいなさそうでした。まぁ、色々な事情があるとは思うので、何とも言えませんね」
アリアは、良く分からないといった顔をしていた。
そんな中、エドワードが口を開く。
「……もしかすると、国境を越えて、ローマルク独立国に行くのかもしれないな」
「たしかに、可能性の一つとしては考えられますね。ただ、簡単なことではないと思います。最近、新国王になってから、国境の警備も厳しくなったと聞くことが多いですし」
アリアは、エドワードの言葉に反応する。
「実際、どうなのですか?」
ステラは、カレンのほうに顔を向けた。
「アリア様の言う通りですね。新国王になってから、明らかに警備が厳しくなっていると思います。まぁ、前までがザル過ぎたと言えば、それまでではありますが。なので、最近では、南部の森林地帯を抜けて、ローマルク独立国に行く人たちが多いみたいですよ」
「うげっ! あの森林地帯をですの!? 考えるだけで、頭が痛くなってきますわ!」
エレノアは、有り得ないといった顔になってしまっている。
ステラ、ミハイル、カレン以外の面々も、多少の差はあれど、同じような表情をしていた。
去年、トランタ山に潜入した際、南部の森林地帯を通過したアリアたちからすれば、信じられないことである。
多数の悪辣な罠が仕掛けられているためだ。
訓練を受けているアリアたちでさえ、気付かないものが多い。
ましてや、何の軍事訓練を受けていない者たちでは、悲惨な結末になるだけだ。
そのくらいは簡単に想像できた。
加えて、行き場をなくした犯罪者も潜伏している。
まさに、命懸けであった。
「……そこまでして、ローマルク独立国に行きたいものなのか。僕だったら、考えられない」
エドワードは、思わずつぶやいてしまう。
「ローマルク独立国は景気が良いらしいよ! ローマルク王国にいて死ぬくらいだったら、独立国に行って、豊かな生活をしたいと思うのだろうね! 人それぞれ、生きている環境は違うものだよ!」
つぶやきが聞こえたのか、ミハイルが口を開く。
(……本当に運だよな。懸命に生きていても、どうにもならないことは多い。それでも、何とかして生きていくしかないよ。難しい問題だ)
アリアは、後ろを振り返る。
だが、先ほどの一団は、すでに姿を消していた。




