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270 エレノアの本気

 ――アリアたち一行がハーペンハウスに入ってから、30分後。


 露店が許可された区域に到着すると、早速、武器を売り始めた。

 設定上、ミハイルとカレンが武器商人ではあるが、あまりやる気はないらしい。


「え? 実際に、武器を売買するのは君たちだよ? 僕とカレンは休んでいるから、頑張ってよ!」


 ミハイルはそう言うと、露店の近くに折り畳みのイスを持ってくる。

 どうやら、アリアたちを見守るだけのようだ。


 カレンはというと、馬の手綱を握る場所である御者席に座っていた。

 特に手伝ってくれるワケではないようだ。


 そんな中、アリアたちは、呼び込みやら、ポツポツと訪れるお客さんに尋ねられたことを答えていた。


(エレノアさん、頑張っているな。まぁ、個人の出来高でお給料も変わるから、当然か。金欠のエレノアさんにとっては、願ってもない機会だろう)


 アリアは、馬車の中から武器を下ろしている。

 そんな折、エレノアの姿が見えた。


「ワタクシたちの武器は、最高ですわ!! 品質も良し! 値段も良し! こんな機会は滅多にありませんの! 買うなら、今ですわ!」


 通りを歩いている人たちに向かって、大きな声で叫んでいる。

 だが、あまり上手くいっていないようだ。


 元々、ハーペンハウスには、それなりの数の武器屋がある。

 しかも、同じ区域で露店をしている武器屋も多い。

 どうしても、アリアたちの武器屋で武器を買う理由がなかった。


「ああああああ! このままでは、マズいですわ! 全然、武器が売れませんの! せっかくのお金を得る機会がああああ!」


 あまりの売れ行きの悪さに、エレノアは発狂してしまっていた。


「まぁ、武器は高価な買い物ですからね。今、陳列している武器も、安くて数万ゴールド。そこそこ良いのになると、数十万ゴールドはします。知名度もない、新参の武器屋では売れなくても仕方がありません」


 発狂しているエレノアの近くで、ステラは分析を述べる。


「こればかりは、しょうがありませんの。商売も、地道な努力が必要ですわね」


 サラは、若干、諦めているようだ。

 先ほどから、短くなった金髪をさわっている。


(たしかに、高い買い物だよな。私の剣も、タダでもらえたとはいえ、買ったら500万ゴールドもする。まぁ、命を懸けるものだからな。あまり安物を使いたいとは思わないよ。数万ゴールドの剣なんて、使うには怖過ぎる)


 アリアは、店先に並べられた武器を手に取った。

 そして、軽く素振りをする。

 ブンブンと風切り音が、周囲に響いていた。


「結構、値段の割には良い剣だと思います。さすがに、何百万ゴールドもする剣と比べたら、分が悪いですが。とはいえ、この値段で買えるなら悪くない買い物な気がします」


「それは、そうだと思うよ! なんせ、僕が王都ハリルで直々に仕入れたものだからね! ここにある武器は、品質良し、値段良しの良品ばかりだよ! 物は良いハズだから、頑張って売ってね!」


 ミハイルは、イスに座ったまま、頭の後ろで手を組んでいた。


(とは言ってもな。この状況で、武器を売るのは難しいよ。しかも、正直、出来高のお金も、そこまでほしいワケではないし。エレノアさんは違うだろうけど、やる気が出ないな)


 アリアたちは、近衛騎士団に所属する士官だ。

 なので、普通の軍人よりも、給料は多く貰っている。

 加えて、海外赴任の手当てもついているので、自由に使えるお金はそれなりにある状態だ。


 金欠のエレノア以外は、そこまで頑張る理由がなかった。

 そんな中、エレノアが御者席に座っているカレンに近づく。

 どうやら、経験豊富なカレンに、武器を売るコツを聞きにいったようだ。


 それから、しばらくすると、トボトボと歩いて、アリアたちのもとにやってくる。


「どうでしたか、エレノアさん?」


 少し気になったアリアは、質問をする。


「……現地な武装勢力さんに売れば、凄い儲けになると言われましたの。具体的なやり方を教わりましたわ……」


 どうやら、現時点では、あまり役に立たなさそうであった。

 かなりガッカリしているエレノアを見かねてか、エドワードが提案をする。


「実際に、武器を振るって実演するのはどうだ? 見る人が見れば、造りの良さも分かるだろう」


「それですわ! さすが、エドワード! 人生で初めて、ワタクシの役に立ちましたわね!」


「……言わなければ良かった」


 喜んでいるエレノアとは対照的に、エドワードは気落ちをしてしまっていた。

 そんなワケで、エレノアは、色々と準備をし始める。

 先ほどの様子からは、考えられない姿だ。


 数分後、エレノアによる、武器の実演販売が始まった。


「皆さん! 注目ですの! この盾は凄いですわよ! どんな攻撃でも軽々と防いでしまうくらい堅いですの!」


 盾を持ったエレノアは、エドワードに目配せをする。


「はぁ……面倒だな……」


 エドワードは、手に持った剣で、盾を持ったエレノアに斬りかかった。

 直後、ガンという金属音が響く。

 エドワードは普通に手を抜いていたため、エレノアは難なく受け止めることができた。


 その様子を見て、聴衆が少しだけ集まり始める。


 次に、エレノアは、聴衆に見えるように売り物の剣を掲げた。


「この剣は、もの凄いですわ! どんな鎧や盾でも、斬り裂くことができますの!」


 またも、エレノアは、エドワードに目配せをした。


「…………」


 エドワードは、何も言わずに、盾を構える。


(あれ? エドワードさんの持っている盾って、さっきの実演で使った盾だよな? どんな攻撃でも防ぐ盾に、どんな鎧や盾でも斬り裂く剣。これ、矛盾していないか?)


 アリアは、ふと頭に浮かんだ。

 聴衆の中からも、同様の疑問が投げかけられていた。


 そんな矛盾に対して、エレノアは、


「キー! 細かいですわよ! どうなるか、良く見ておきますの!」


 エレノアも矛盾に気づいたようだ。

 だが、弁明に走るワケではなく、行動に移してしまう。


「おい! 馬鹿! 本気になるな! くっ! やるしかないか!」


 戦場で見せるような動きをしているエレノア。

 さすがに、盾で防ぐのは無理だと判断したようだ。


 エドワードは、盾を放り投げ、腰につけた剣を抜くとエレノアの攻撃を防ぐ。


「コラ! 何をしていますの! 盾をちゃんと構えますの!」


「ふざけるな! 盾ごと、僕を斬るつもりだっただろう!? 頭、おかしいのか!?」


「誰の頭がおかしいですって!? キー! エドワードの分際で許せませんの! この剣の試し斬りをしてあげますわ!」


 そこから、エレノアとエドワードの戦いが始まる。

 ガン、ガンと鉄の打ちつけ合う音が響く。

 その度に、聴衆からは歓声が上がっていた。


 二人とも、腐っても、近衛騎士である。

 それなりに見ごたえのある戦いを繰り広げていた。


 そのため、いつの間にか、聴衆の数はかなり増えることになる。

 話題が話題を呼んだようだ。


 ただ、いつまでも続けさせるワケにはいかないと考えたのか、カレンによって、強制的に終了させられる。


(……結果的には、人を集められたし成功かな。実際に、武器も売れて、エレノアさんにとっては良かっただろう)


 アリアは、武器に関する質問に答えつつ、そんなことを考えていた。


 たんこぶを頭に作ったエレノアも、頑張って、武器を売っているようだ。

 結局、その日の終わりには、馬車に積んであった武器は全て売れてしまう。


「グヘへ! これで、たんまりとお金が手に入りますわ!」


 空になった馬車を見て、エレノアは、満足そうであった。


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