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202 今後の相談

 ――アリアたちが教官室でグッタリしている頃。


 ミハイルは、王城に近い立派な建物の中を歩いていた。

 外は暗いが、中は、照明があるので、かなり明るい。


 対ローマルク独立国対策本部。

 その建物の名前である。


 建物内での主は、ハインリッヒ・フォン・グラナック。

 中にいる人間も、ほとんど、ミハルーグ帝国の軍人やら、文官である。


 実質的に、ローマルク王国の今後を決める機関であった。

 それだけではない。

 対ローマルク独立国の司令部も兼ねているからだ。


 ローマルク王国に展開する全ての部隊を統括している。

 文字通り、全て、であった。

 その中には、ローマルク王国軍も含まれる。


 もちろん、ローマルク王国軍本部も存在はしていた。

 ただ、実質的に、ローマルク王国軍を動かしているのは、この場所である。


 そんな中枢とも言える場所を、ミハイルはトコトコ歩いていた。


(いや、やっぱり、大変そうだね! まぁ、それはそうか! 分からないことが多すぎるからね! それに、ハリル士官学校の入校生にも被害が出ている! 加えて、同時多発的な王都ハリルでの無差別殺人! なぜか、貴族街では、何も起きてないらしいけど、意図的な気がする!)


 行き交う人々を眺めながら、ミハイルはそんなことを考える。


 目的のハインリッヒのいる部屋まで、歩みを進めていく。

 道中、すれ違う者たちに、何度も敬礼をされていた。

 その度に、ミハイルも敬礼をする。


(……敬礼、面倒だな。まぁ、一応、僕も将官だし、しょうがないか! 多分、この人たちも敬礼、面倒って思っていそう! いや、それは僕の場合だったらかな? まぁ、どうでもいいや! とりあえず、ハインリッヒ殿に会わないと!)


 そんなことを考えながら歩いていると、ハインリッヒのいる部屋に到着をする。


 通常であれば、閉められているのであろうが、今は緊急事態であった。

 なので、部屋の扉は開けられている。


「突然の訪問、申し訳ありません! ハインリッヒ殿、お時間、よろしいでしょうか?」


 ミハイルは、部屋の前に立つ。

 さすがに、了承がないのに、ズカズカ入ることはしなかった。


 書類をカイカキしていたハインリッヒが、顔を上げる。


「おお! ミハイル殿! 言っていただければ、遣いの者を出しましたのに! とりあえず、部屋にお入りください!」


 ハインリッヒは、すぐ立ち上がると、近づいて来た。

 対して、ミハイルは返事をすると、部屋に入っていく。

 その後、ハインリッヒは、部屋の扉を閉めて、応接用のイスに座る。


「ここにお越しになられたということは、ハリル士官学校関係ですよね?」


 ミハイルがイスに座ると、ハインリッヒは話を始めた。

 余計な前置きはしないようだ。


「そうですね! 端的に申し上げて、現状では、ハリル士官学校の運営は困難かと思います! 今回は、奇跡的に死者こそ出ていません。ただ、それも時間の問題かと! 遅くない時期に、入校生の何人かは亡くなってしまうと思います!」


 ミハイルは、率直な思いを言葉にする。


「……それでも、ハリル士官学校の運営を止めるワケにはいきません」


 ハインリッヒは、苦々しい表情になっていた。


「その理由をお伺いしても、よろしいでしょうか?」


「もちろんです。正直、私個人の意見としては、そもそも、かなり無理のある話だとは思っていました。ただ、フレイギンに屈するワケにはいきません。これは、陛下の意思です」


「この前、お話させていただいたときには、ハインリッヒ殿のお考えかと思いました。ですが、違うようですね」


 ミハイルは、自分の記憶が正しいかを問いかける。


「いえ、本質的には変わりません。今でも、フレイギンを始めとした、反体制派に屈するワケにはいかないと思っています。ただ、このままでは、入校生が犠牲になるのは明白。ローマルク王国との、今後の関係性を考えても、よろしくはないでしょう。ハリル士官学校の運営にこだわらなくても、私は良いのではと考えています」


「……それでも、本国は承知をしないということですか?」


 ミハイルは、慎重に質問をした。

 あまり深入りすると、ハインリッヒとの個人的な関係が崩れる可能性があるためだ。


「何度も、足を運びましたが、無駄でした。陛下のご意思はもとより、帝国軍本部、参謀本部の意見も一致しています。反体制派に屈することはあってはならないの一択です」


 ハインリッヒはそう言うと、はぁとため息をつく。


「……もしやとは思いますが、ローマルク王国の国民の命は勘定に入っていないですよね?」


 入校生は、ローマルク王国の貴族ばかり。

 8組の入校生も、ローマルク王国の国民である。

 士官学校だけではない。


 ローマルク王国の国民自体も、であった。

 死んでも、ミハルーグ帝国には関係ない。

 これが、本音であった。


「……おっしゃる通りです。陛下も、本国の軍人も、興味があるのは、自国の兵士の命。最悪、エンバニア帝国を消耗させてくれれば良い。そういう考えが主流ですね」


 ハインリッヒは、またも、ため息をついてしまう。


(そうだとすると、ハリル士官学校を運営させ続けるよね。反体制派に屈するのはあり得ないし、なにより、自分の懐は痛まない。まぁ、長期的に見たら、どうかは分からないけどね。ふぅ~、分かってはいたけど、かなり厳しいな。何かしらの対策をうたないと、士官学校の存続は無理だろう)


 ミハイルは、疲れ顔のハインリッヒを見ていた。


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