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201 やっと、援軍がきた

 ――1時間後。


 教官陣や獅子軍団の人たちが、てんやわんやしていると、正門付近が騒がしくなる。

 どうやら、団体客のご登場であった。


「今更来ても、意味ありませんわ! 来るなら、もっと早く来てほしいですの! まったく、本当に許せませんわ!」


「サラさん。きっと、来れない事情があったのですよ。怒ってもしょうがないです」


「アリアさんの言う通りですね。役に立たない援軍なんて、放っておきましょう」


 ステラは、かなり辛辣であった。

 実際、今の段階で来られても、しょうがない。

 というか、本当に意味がなかった。


 黒づくめの者たちは、とっくに撤退している。

 加えて、入校生の応急処置も、ほとんど完了していた。


 校庭や正門には、死体を片づけている者だけが残っている。


(どんな事情があったのだろう? それだけは気になるな。ちょうど、ここらへんなら、聞こえるだろうし)


 アリアは、死体の片づけをしながら、聞き耳を立てることにした。

 今、現在、アリア、サラ、ステラの三人は、正門付近で、お片づけをしている。

 援軍として来た者たちが見える状態だ。


「もしかして、援軍ですか? いや、助かりました! もしかして、ハインリッヒ上級大将のご采配ですか?」


 応対として、ミハイルが出てきていた。


「ハッ! その通りです! ですが、もう必要なさそうですね……」


 指揮官らしき男性が、申し訳なさそうな顔をする。

 どうやら、正門と校庭の様子を見て、察したようだ。


「いえ、来ていただいただけでも、ありがたいです! 負傷した入校生の応急処置自体は、ほとんど終わっているのですが、本格的な治療はできていないので! 病院に輸送していただくのを手伝ってはいただけないでしょうか?」


 ハリル士官学校には、もちろん、衛生兵もいる。

 だが、あまりにも負傷した入校生が多いので、間に合っていない状況であった。

 加えて、十分な医療設備もない。


 一刻も早く、病院に連れていく必要があった。


「もちろんです! 全力で働かせていただきます!」


 指揮官らしき男性はそう言うと、次々と指示を出していく。

 付き従っていた兵士たちはというと、すぐに行動を開始する。

 その後、ミハイルと指揮官らしき男性は、話しながら、どこかへと行ってしまう。


「結局、事情は分かりませんでしたね。まぁ、そのうち分かりますか。それよりも、この死体の山をなんとかしますか」


 アリア同様、ステラも聞き耳を立てていたようだ。

 現在、アリア、サラ、ステラの三人の前には、死体が折り重なっている。

 黒づくめの者たちであった。


「エレノアさん! 集まったので、お願いしますね!」


 アリアは、少し離れた場所にいるエレノアに声をかける。


「もう! さっさと燃やしてしまいますわ! サラ、油をかけますの!」


 プンプン顔のエレノアが近づいてきた。

 指示された、サラはというと、黙って、油をまく。

 反応することすら、面倒なようだ。


 しばらくすると、死体が燃え上がり始める。

 辺りには、何とも言えない匂いが漂っていく。


(……もう慣れてしまったな、この匂いにも。それだけ、戦場で戦ってきたってことか……なんだか、悲しくなってきた。そもそも、教官として来たのに、なぜ、こんなことになっているんだ?)


 アリアは、燃え上がる死体の山を見ていた。






 ――数時間後。


 やっと、一息がつけそうであった。

 入校生の治療、死体の処理、その他もろもろ。

 その全てが完了しつつあったためだ。


 もう、日も暮れかけている。


「……昨日から、まともに休んでいませんの。さすがに、死にそうですわ」


 エレノアは、教官室の机で伸びてしまっていた。


「おい! エレノア、入校生に見られたら、どうする!? もっと、ちゃんとしろ!」


 エドワードは、とりあえず、ツッコむ。


 今、現在、アリアたち教官陣は、なんとか教官室に戻ってくることができていた。


「何を言っていますの? こんな状況で、入校生なんて来ませんわよ。それに、バスク少佐を見ますの」


 エレノアは、顔を上げ、アリアの隣に目を向ける。

 そこには、首を下に向けたバスクがいた。

 端的に言えば、普通に寝ている。

 時折、いびきのようなものが聞こえてくるので、確実だ。


「……いや、あれは考え事をしているだけだ! 寝てはいないぞ……多分!」


 エドワードは、なんとかして、正当化を図る。


「もう、どっちでも良いですわ。とりあえず、疲れたから、放っておいてほしいですの。今度、時間があるときに、相手してあげますわ」


 エレノアはそれだけ言うと、またも、机に突っ伏してしまった。

 エドワードはというと、諦めたのか、自分の席に戻っていく。


(……さすがに、疲れたな。結局、援軍が遅れた理由も、しょうもなかったし。貴族がごねたからとか、話しにならないよ。というか、これ、ハリル士官学校で、教育続けるのは無理だろう。あまりにも、被害が出過ぎだ。入校生が、何人も負傷したし)


 アリアは、自然と目を閉じてしまう。


 何度でも襲撃の可能性がある。

 そんな状況で、教育を続けるのは難しい。

 誰が、考えても、そう結論が出てしまうだろう。


 死者こそ出ていないが、時間の問題であった。

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