200 結局、援軍は来ない
「このままだと、本当にジリ貧です。王都ハリルには警備兵がいるハズですけど、いつになったら、来るのですかね? 普通に遅い気がします」
校庭で戦い続けているステラ。
疲れもあってか、普通にイライラしている。
(たしかに、遅い気がするな。多分、私たちが来てから、それなりの時間が経っている。日も高くなってきているしな。貴族の子弟とかいるのに、なぜ、こんなに動きが遅いんだろう? もしかして、同時多発的に起きている?)
アリアは、疑問を浮かべつつ、戦闘を続けていた。
黒づくめの者たちも、それなりの数を倒せてはいる。
ただ、負傷している入校生が、かなり多くなってきていた。
獅子軍団の兵士と教官陣が、守ってはいるが、それも限界だ。
もう、入校生が、束で戦って、なんとかしている。
そんな中、白い長髪をまとめた男性が現れた。
「援軍、来ないね! 何をしているのかな? もう、正門にいた敵は倒してしまったよ! 援軍が来るより、こっちの決着のほうが早そうだ!」
ミハイルは、いつも通りの笑顔である。
(団長、多分、怒っている気がする。いつもより、敵の倒し方が荒いものな。というか、殲滅速度が速すぎる。みるみるうちに、黒づくめが減っていくよ)
ミハイルの姿は見えていた。
ただ、斬撃が速すぎる。
黒づくめの持っている剣など、何の意味もない。
振る前に、全て、決着がついていたからだ。
まるで、無人の野を行くが如くである。
「アリアさん、サラさん。私たちは、入校生の救護をしましょうか。もう、黒づくめの者たちも、撤退するようですし」
ステラは、チラッと、黒づくめのいるほうに目を向けていた。
現在進行形で、校庭から離脱しつつある。
(まぁ、団長が来たら、そうなるよね。襲撃を続ける意味がないものな。一方的に倒されるだけだし、逃げるのが正解だろう。私でも、そういう判断をするな)
アリアは返事をすると、ケガをしている入校生の応急処置をしていた。
サラも、テキパキと動いている。
ほどなくして、黒づくめの者たちは、完全に消えてなくなった。
「追わなくて良いから、入校生の救護を優先してよ! 追っても、どうせ逃げられるだろうし、意味がないからね!」
ミハイルは、次々と指示を出している。
それに従い、教官陣は、すぐに動く。
獅子軍団の中隊はというと、バスクの指示で、包帯などを持ってきている。
(とりあえずは、といった感じか。それにしても、結局、援軍は来なかった。やっぱり、同時多発的に発生したっぽいな。そうでないと考えられない。まぁ、あとで理由は分かるだろうし、今は救護が最優先だ)
アリアは、斬られた傷の手当てをしている。
とは言っても、軽傷であった。
布を当てて、包帯を巻くだけである。
「痛い、痛い! なんとかしてくれ! お金は、あとで払うから! とりあえず、痛みをとりさってくれ!」
手当てを受けている入校生は、泣いてしまっていた。
(大袈裟だな。ちょっと、腕が斬れたくらいだろう。こんなのかすり傷だよ。訓練でも、これくらいは、日常茶飯事だ。まぁ、ケガをあまりしたことがないなら、たしかに痛いだろうけど)
アリアは、何も言わずに、淡々と手当てをしている。
「おい! もうちょっと、慰めの言葉とかはないのか!? こんなに痛いのに、気遣ってくれても良いだろう!」
アリアの態度が気にくわなかったようだ。
見た目が若いとはいえ、相手が教官だということを忘れてしまっている。
「ハイハイ。もうちょっとで終わるので、我慢してくださいね」
アリアは、普通に流す。
というより、疲れているので、応対するのが面倒であった。
侮辱よりも、疲れが勝ってしまっている。
ただ、入校生の無礼を許さない者がいた。
「手当てをしてくれているのに、何ですの、その態度は! ふざけるんじゃありませんわよ!」
近くにいたエレノアが、近づいてくる。
そして、座っている入校生の頭に蹴りを入れていた。
当然、入校生は地面と友達になってしまう。
「アリア! そんなバカは放っておいて、他の入校生の手当てをしたほうが良いですの! 時間の無駄ですわ!」
エレノアは、それだけ言うと、ケガをした入校生のもとへ向かっていく。
(まぁ、蹴りたくなる気持ちも分かるよ。ただ、私には、そんな元気はないな。とりあえず、休みたい)
アリアは、特に反応することなく、倒れた入校生の手当てを続ける。
入校生のほうはというと、倒れたまま、シクシク泣いてしまっていた。
どうやら、色々と限界のようだ。
「ハイ。これで終わりです。あとは、自分で救護室まで歩いてくださいね」
アリアには、入校生を気遣う余裕がない。
それだけ言うと、他の入校生の手当てに行く。
(……これ、絶対、誰かしら死ぬだろう。今は息があっても、この後、病気とかになったら、厳しいな。はぁ……早く、アミーラ王国に帰りたい。そもそも、この状態で教育を続けるなんて、普通に考えて無理だろう。なんとかならないかな?)
アリアは、遠くアミーラ王国のことを想ってしまう。
それほど、状況はよろしくなかった。




