198 本当に効果的
――ハリル士官学校正門。
夜が明けている中、爽やかとは言えない朝を迎えていた。
アリア、サラ、ステラの顔には、汗が浮かんでいる。
別に、鍛錬をしているワケではない。
黒づくめの者たちと、絶賛、戦闘中であった。
「ああ、もう! 今回は、強すぎですの! 援軍がほしいですわ! どう考えても、この人数で抑えるのは無理ですの!」
サラは、ブンブンと剣を振り続けている。
先ほどから、力強さは変わっていない。
これも、近衛騎士団にいたおかげである。
明らかに、昔と比べて、強くなっていた。
ただ、それでも、今回は厳しい。
「こちらは、8人。対して、相手は20人くらいいますかね? このまま戦い続けても、ジリ貧な気がします。相手も、中々、倒させてくれませんしね」
アリア、サラ、ステラ。
それに、バスクを含めた主任教官三人。
どこかの部署の人が二人。
かなり厳しい状況であった。
加えて、黒づくめの者たちも、かなり警戒している。
粘って、アリアたちを疲弊させる方針に切り替えたようだ。
「どこかから、援軍が来るまでは、この状態ですかね? というか、これ、一人でもやられたら、戦線が崩壊しませんか?」
アリアは、隙をみて、辺りを見渡す。
バスク、サラの組の主任教官、ステラの組の主任教官は、普通に戦っている。
ステラの組の主任教官に至っては、かなり有利に進めていた。
双剣の乱舞で、敵を翻弄し続けている。
問題は、どこかの部署の二人であった。
それなりに戦えてはいるが、かなりキツそうな顔をしている。
全力で戦っているのは、丸わかりであった。
「かと言って、援軍を呼びに行くのは難しそうですしね。そんな余裕をくれる相手ではないですよ」
ステラは、黒づくめの一人に蹴りを入れつつ、攻撃を剣で受けとめていた。
(う~ん、状況があまりよろしくないな。というか、こんなに援軍が来ないなんて、おかしい。もしかすると、校庭のほうが激戦なのかも。意外と、こっちのほうが楽とか、そういう感じかな?)
アリアは、一瞬、校庭のほうに意識を向ける。
たしかに、騒がしい音が聞こえてきてはいた。
ドンパチ音も、かなり大きい。
戦闘が起こっているのは、間違いないようだ。
(とはいえ、こっちも、そろそろマズい。特に、あっちの二人が、本当によろしくない。さっきから動きが鈍くなってきている。なんとかしたいけど、私も手一杯だ。どこかから、援軍、来てくれないかな?)
静かに、アリアは焦っていた。
他の教官陣も、同じことを考えているのか、先ほどよりも攻撃が増している。
そんな中、白い長髪を結んだ男性が走ってきた。
「ふぅ~! 良かった! やられていたら、僕の首が泣き別れになっていたよ!」
「団長!」
アリアは、思わず大きな声を出す。
「これで、いけますわ! チョイヤーですの!!」
サラは、一段と大きな声を出しながら、ガンガンし続ける。
(助かった! 団長が来てくれれば、一気に形勢を逆転できる! よし! なんだか、やる気が出てきた!)
アリアは、流れが良くなるのを感じていた。
だが、それ以上、正門で戦闘をするワケではないようだ。
「やる気出してくれているところ、悪いんだけど、校庭のほうに行ってくれないかな? あっちは、人手がいるからさ! こっちは、僕に任せておいてよ!」
「え!? この人数を一人で相手するつもりですか!? 厳しくないですか!?」
アリアは、思わず、声に出してしまう。
「う~ん、厳しいけど、しょうがないよね! できれば、僕もやりたくないけど、状況が状況だから! それじゃ、頼んだよ!」
ミハイルは、若干、苦笑している。
アリアたちは、それ以上、声を出すのをやめることにした。
(まぁ、団長の命令だからな。逆らえるワケもない。それに、団長が倒されるとか、考えられないよ。まぁ、それは私の願望が入ってしまっているかもしれないけど。どちらにせよ、早く校庭に行ったほうが良いか)
アリアは返事だけをすると、校庭へ向かって走り始める。
残りの教官陣も、隙を見て、駆け出していた。
ただ、そんな隙を見逃すほど、敵は優しくない。
当然、攻撃を加えようとしてくる。
「う~ん、攻撃されるのはマズいんだよね! 僕で勘弁してくれないかな? 一応、これでも少将だし、倒せれば、表彰されるかもしれないよ?」
敵の進行方向に、ミハイルがいきなり現れた。
そのため、少なからず、敵に動揺が走る。
ただ、それも一瞬の間だけであった。
すぐに、黒づくめの者三人が、ミハイルに襲いかかる。
「いや、この前の騎馬隊よりは、全然、マシかな? 練度はこっちのほうが高そうだけど、数が少ないからね! まぁ、僕から見れば、ほとんど変わらないんだけど!」
言い終わると同時に、剣が振り抜かれていた。
あまりの速さに、黒づくめの者三人は、反応できなかったようだ。
地面に、6つの肉塊が転がっているのが、証拠である。
(相変わらず、おかしな強さをしているな、団長は。ほとんど、斬撃が見えなかったのだけど。くるって分かっていても、防御できない類の攻撃だよ、あれは)
一瞬、後ろを振り替えったアリアは、そんなことを思っていた。




