197 今回が本物
正門に到着したアリアとサラ。
怒号、鉄の打ちつける音、悲鳴。
まさに、戦場という感じである。
「ステラ! 大丈夫ですの!?」
「加勢します!」
サラとアリアは、剣を抜き、すぐさま戦い始める。
「助かります。さすがに、何人も相手するのは難しそうですね。この強さでは」
現在、ステラは、黒づくめの者たち三人を相手にしていた。
アリアとサラは、そこに割って入る形になる。
(たしかに、昨日の襲撃してきた人たちとは、全然、違うな。明らかに強い。子供と大人ぐらいの違いがあるよ。普通の兵士とは比べものにならない。これは、苦戦するぞ)
アリアは、敵の剣を避けると、十八番の戦法を仕掛けた。
体勢を低くし、そのまま、敵の足元に横なぎを放っていく。
黒づくめの者は、虚を突かれたのか、反応が遅れてしまっている。
だが、上段から剣を強引に叩きつけてきた。
「チッ!」
アリアは、思わず、舌打ちをしてしまう。
攻撃がギリギリ届かなかったためである。
そんな中、サラの剣戟が響いてきていた。
「どんどんいきますわよ! チェイヤー!!!」
よく分からない声を出しながら、サラは、剣を振り続けている。
相手のほうはというと、戸惑っていた。
サラの見た目と、剣の重さがつり合っていないためである。
なんとか、サラの剣に対応はしているが、完全に押しこまれていた。
「隙ありですの! これで、終わりですわ!」
一瞬の剣の乱れ。
サラが見逃すワケがなかった。
黒づくめの者は、剣を強引に弾かれてしまう。
それも束の間、返しの剣で、胴体を横一文字に斬られ、倒されていた。
「アリア、加勢しますわ!」
「ありがとうございます!」
サラは、すぐに襲いかかる。
アリア一人で手一杯のところに、サラの加勢。
結果は明らかであった。
すぐに、アリアを相手していた黒づくめの者は倒されてしまう。
そのまま流れで、ステラの相手も地面に伏せることになっていた。
「いや、さすが、近衛騎士だな! 頼もしい限りだ! アリア中尉! あとは頼んだぞ!」
黒づくめの三人を倒したところ、後ろから声が聞こえてくる。
「バスク少佐! お願いなので、戦ってください! さすがに、キツイです!」
アリアは、後ろを振り返った。
そこには、ランスと大盾を持ったバスクがいる。
ただ、鎧はつけていない。
「やっぱり、戦わないと、ダメか? だよな~! よし! たまには、やる気を出すか!」
バスクはそう言うと、大盾とランスを構え、一気に駆け出す。
目標は、正門にいる黒づくめの集団である。
(あれ、普通に避けられないか? 昨日の人たちなら、まだしも、今回の敵には無駄な気がする。というか、返しの剣で倒されてしまうよ、あのままじゃ)
アリアは、大きな声を出そうとした。
だが、もう、集団の手前まできている。
到底、間に合いそうにない。
黒づくめの集団は、余裕を持って、避ける体勢を整えていた。
もちろん、返しの斬撃を出す準備も、である。
「……本当に突っこむと思っているのか? 意外と大したことないのかもな」
バスクは、ボソッとつぶやく。
その直後、いきなり、方向転換をする。
角度にして、90度であった。
バスクが蹴った地面が、若干、陥没している。
それほどの力が加わったようだ。
(え!? そんな曲がり方するの!? あれは予測できない! しかも、狙いが分からない!)
アリアは、思わず声が出てしまいそうになる。
黒づくめの集団にも、動揺が見てとれた。
実際、陣形が少し崩れてしまっている。
一人だけ、飛び出ていた。
そんな一人に、無慈悲な攻撃が飛んでくる。
「これでも、食らっておけ!!」
バスクは、いきなり立ち止まり、ランスの一撃を見舞う。
勢いのある突きが、黒づくめの者に迫る。
なんとか、剣で払いのけようとしていた。
だが、重さが違いすぎる。
剣と比べ、ランスの方が圧倒的に重い。
加えて、突撃の勢いものっている。
結末は、予想できるものだ。
「ぐぅぅぅ……」
胴体を刺し貫かれてしまった。
断末魔というより、うめき声が聞こえてくる。
バスクはというと、大盾を構えたまま、すぐに後ろに跳び続けていた。
と同時に、ランスで遺体を払う。
ドサリと肉の落ちる音が聞こえてくる。
(刺し貫いた後、すぐに距離をとる。あれが、ランスの戦い方か。一対一であれば、相当、優位に戦えそうだ。ただ、多数が相手の場合は厳しいか)
アリアは、すぐにバスクのもとへ向かう。
サラとステラも同じ考えのようだ。
「お! さすが、分かってるな! そう! 囲まれると、マズいんだよ! 一方的にやられてしまう!」
バスクはそう言いつつ、三人ほど相手にしている。
大盾で弾いたり、ランスでけん制したり、後ろに跳ねたりと大忙しであった。
(普段は、やる気なさそうにしているけど、さすがに獅子軍団の中隊長をしているだけはある。普通に、私たちよりも強いな。これだけの実力があれば、たしかに、8組の入校生の相手は、大盾だけで十分だ)
アリアは、バスクの援護をしつつ、そんなことを考える。
黒づくめの集団との戦いは、まだまだ、終わりそうにない状況であった。




