196 またも、襲撃
――銅鑼がなってから、15分後。
入校生たちは、やっと校庭に集まる。
ちなみに、8組は5分以内に集合完了していた。
軍隊生活に慣れた者が多いので、当たり前といえば当たり前だが。
「いや、皆、こんな夜遅くに悪いね! あ! 自己紹介が、まだだった! 副校長のミハイル・ホワイトです! よろしく! さて、時間もないことだし、本題に入るよ!」
ミハイルは、お立ち台に立っている。
松明が焚かれているため、その姿は、列の一番後ろの入校生にも見えていた。
「えっと、3組の入校生が脱走したみたいでね! 多分、士官学校の外には出ていないかな? 周りには、松明があるし、それに巡回の兵士が常駐しているから無理だね! というわけで、皆、眠いと思うけど、捜索を頑張ろう!」
ミハイルは、いつも通りの陽気な声を出す。
対して、入校生のほとんどは、大きな声で返事ができない。
8組の入校生だけが、気合いの入った声を出していた。
(……まぁ、無理だよな。疲れ切った中で、叩き起こされたら、こんな感じになるよ。今回は、怒らなくても良いか。そのうち、8組の入校生みたいに、嫌でもなるし。初日から飛ばし過ぎても、ダメな気がするからな)
あくびをしそうになるが、アリアは、なんとかこらえる。
数分後、教官の指示の下、各組が捜索を始めていた。
アリアの指揮する8組は、屋内訓練場周辺の捜索を担当している。
「アリア中尉! 脱走した入校生を見つけた場合ですが、どのくらいボコしてもよろしいでしょうか?」
ゲオルクは、元気よく質問をした。
現在、アリア率いる8組は、屋内訓練場の中を捜索中だ。
手に持った松明が密集しているおかげで、かなり明るい。
「気持ちは分かりますが、ボコしてはいけません。あなたたちは、慣れているでしょうが、他の組の入校生は、逃げ出しても、しょうがありませんよ。今日は、朝から、色々あり過ぎです。とはいえ、捕まえるために、多少、手荒にしても良いですよ。学級委員長は、やりすぎないよう、しっかりと監督してください」
アリアは、一応、注意しておく。
「ハイ! もちろんです! そこらへんは分かっていますので、任せてください!」
ゲオルクは、またも元気よく返事をする。
(……絶対、見つけたら、ボコすだろう。まぁ、気持ちは分かるよ。ただでさえ、貴族に対しての反感があるものな。それが、夜中に脱走とか、見つけたら、ボコすに決まっている。まぁ、やりすぎないよう、見張っておけば大丈夫だとは思うけど)
アリアは、動き回っている入校生を見ていた。
結構、殺伐とした雰囲気だ。
だが、ゲオルクは、この状況を笑いに変えようとしている。
一応、なんとか、皆のやる気を出させようと考えているようだ。
――2時間後。
8組の入校生は、屋内訓練場の捜索を終え、校庭へと戻る最中であった。
今のところ、見つかったという報告は来ていない。
(……もう、4時ぐらいか。さすがに、入校生が可哀想だ。起床時間は変わらないし、眠れる時間がほとんどない。まぁ、それは、教官陣も一緒だけど。というか、一回、お風呂に入りたいな。軍服とか髪とか、汚いし、キレイにしたい。このまま、今日も勤務とかは、さすがに勘弁してほしいな)
そんなことを思った後、アリアは、ふわぁとあくびをする。
入校生が見ていようが、気にする元気は、すでになかった。
8組の入校生のほうも、普通に疲れた顔をしている。
もし、ここで寝ろと言われたら、すぐに地面で寝始めるだろう。
それほど、疲労の色が濃い。
そんな中、突如、銅鑼の音が鳴り響く。
と同時に、『襲撃だ!』という声が聞こえてくる。
「はぁ……さすがに、面倒だな。学級委員長、とりあえず、8組の入校生を校庭に集めておいてください。誰かしらいると思うので、守ってもらえるハズです。私は、行ってくるので」
アリアは、思わず、ため息をついてしまう。
対して、ゲオルクは大きな声を出す。
「いえ、私たちも戦わせてください! あの程度の敵であれば、対処可能です!」
「そうしてもらいたいのは、山々なのですが、今後のことを考えると、ケガをしてほしくないのですよね。まぁ、襲ってこられても困りますし、屋内訓練場から武器を持ってきておいてください。学級委員長、お願いしますね」
「ハイ! 任せてください!」
ゲオルクは、すぐに指示を出し始める。
(さすが、学級委員長に選ばれるだけはあるな。次々と指示を出している。本当は、私がついていたほうが良いのだろうけど、正門方向が騒がしいからな。団体客がいるみたいだし、私も行かないとマズい気がする)
アリアは、正門のほうへ顔を向けていた。
明らかに、午前中とは比較にならないほどの音が聞こえてきている。
怒声やら、鉄の打ちつける音が、大きく響いてきていた。
そんな中、慌てた顔のサラが後ろからやってくる。
「ヤバいですわよ、アリア! 多分、一杯いますわ! 早く行かないといけませの!」
「もちろんです! 行きましょう、サラさん!」
頭を切り替えたアリアは、大きな声を出していた。




