189 我慢できるかな?
昨日、投稿したと思っていたら、していませんでした。
まぁ、そういうこともありますよね。
――午後。
バスクのおかげで、8組の教室は、若干、緩やかな空気が流れる。
アリアは、自然と教壇から離れた。
と同時に、バスクが、登壇する。
「8組の主任教官を務めるバスクだ! よろしく!」
バスクは、気楽な様子で話し始めた。
「よろしくお願いします!」
対して、8組の入校生は、アリアのときと同様、大きな声で返事をする。
和やかは和やかな雰囲気だが、区別はついているようだ。
「お! 元気があるな! 俺にも分けてほしいくらいだ! とりあえず、自己紹介しておくか。出身は、ミハルーグ帝国の獅子軍団だ。さっき、正門で戦っていた奴らがいただろう? あいつらの中隊長をしている。まぁ、主任教官のほうが優先ではあるけどな」
バスクは、凄く面倒そうな顔をする。
(ちょっと! 中隊長と主任教官の兼務が面倒だからって、そんな顔しないでくださいよ! 教官としての威厳がなくなってしまいますって! もう、本当に面倒くさがりだな!)
アリアは思ったが、口には出さない。
ついでに、表情にも。
言ってしまえば、余計に面倒なことになりそうであったからだ。
入校生たちはというと、少し戸惑っている。
想像していた教官像とは、違うようだ。
ただ、まだ、警戒しているのか、気楽に質問などはないようである。
「お前ら、警戒しすぎだ! 別に、怒ったりしないから、普通にしておけ! こっちの肩まで凝りそうだ! まぁ、とはいっても、無理か。軍隊生活が染みついていたら、そうなってしまうものな」
バスクは、頭をポリポリとかいていた。
入校生は、先ほど変わらず、堅いままである。
「まぁ、気楽にやっていこうぜ。とりあえず、俺からは、こんなものか。細かいことを言い出すとキリがないからな。アリア中尉。後は頼んだ」
バスクはそう言うと、教壇から降り、近くにあったイスに座る。
眠いのか、『ふわぁ~』と、普通にあくびをしていた。
(……なんだか、私も取り繕うのが面倒だから、普通にやるか。バスク少佐も、そのつもりみたいだし。私だけ無理しても、仕方がないか)
アリアは返事をしつつ、そんなことを思う。
もう、教官としてというよりは、普通の軍人としてやっていくつもりであった。
そこから、アリアは、ハリル士官学校の生活について説明を始める。
入校生たちはというと、必死になってメモをとっていた。
変なミスをして、目をつけられるのは避けたい。
それが、共通した思いである。
説明が終わった後は、入校生が自己紹介をすることになった。
(まぁ、事前の書類通りか。それ以上の情報は、特になさそうだ。あ、でも、好きな食べ物とかは、覚えておいたほうが良いか。あと、名前と顔を一致させよう)
アリアは、自己紹介を聞きつつ、入校生の顔と名前を覚える。
バスクはというと、気になったことを、都度、質問をしていた。
大体は、和ませるようなことばかりであるが。
そのおかげか、入校生たちも、少しずつ、笑顔が増えていった。
そんなこんなで、士官学校の生活についての説明も終わる。
「お前ら! 分かっているとは思うが、貴族の奴らと問題は起こすなよ! というか、何かあったら、すぐ教官室に来い! あと、明日までに学級委員長を決めておけ!」
バスクはそれだけ言うと、8組の教室を出ていった。
「バスク少佐も言っていたと思いますけど、多分、貴族がケンカ売ってくる可能性は高いですから。そうなったら、すぐに教官室へ来てください。なんとかしますので。それでは、学級委員長決め、頑張ってください」
アリアも、一応、注意しておく。
入校生はというと、大きな声で返事をする。
ただ、本当に分かっているかどうかは、分からなかった。
――教官室。
アリアが席に座ったのを見計らって、バスクが話しかけてくる。
「アリア中尉。あいつら、貴族にケンカを売られて、我慢できると思うか?」
「多分、無理だと思いますよ。今日、パッと見た感じではありますけど、結構、やる気がある入校生が多かったので。戦場を知らない貴族とかに、馬鹿にされたら、キレてしまいますよ」
「だよな。はぁ……頼むから、自制してほしい限りだ。なぁ、アリア中尉?」
「心配なんですか?」
アリアは書類書きをやめ、バスクのほうに顔を向ける。
「心配だな。貴族の奴らがな。多分、殴りかかっても、うちの組の奴らがボコボコにして終わりだろう? それはマズいよな」
どうやら、相手のほうを心配しているようだ。
戦場帰りの平民と戦場を知らない貴族。
殴り合いの結果は明らかだ。
「まぁ、マズいですね。貴族の親が出てきたら、平民なんて、やられてしまいますよ。何か、話がこじれそうなときは、団長……副校長にお願いするしかありません」
「ミハイル少将か。結構、優しい感じがするが、そこらへんは厳しくないのか?」
バスクは、よく分からないといった顔をする。
貴族は、貴族の味方であった。
それは、ローマルク王国だろうが、アミーラ王国であろうが変わらない認識である。
「多分、大丈夫だと思います。普通に、貴族、平民の関わりなく、話を聞いてくれるハズです」
アリアは、自信をもって答えていた。




