186 教官なだけはある
ハリル士官学校の正門が見えてきたアリアたち。
「まぁまぁいますね。というか、本当に治安が悪いですね、王都ハリルは。こんなことを起こしても、すぐに兵士が飛んでこないなんて」
ステラは、剣を抜き、戦闘態勢に入る。
もちろん、アリアとステラの組の主任教官も、戦う準備をしていた。
「同時多発的に発生しているのかもしれません! そうでないと、兵士が飛んでこないのは、考えらませんよ! とりあえず、入校生を守らないと!」
襲撃した者たちは、丸腰の入校生を狙っている。
対して、入校生たちはというと、剣を持ち戦っている者、逃げ惑っている者、様々であった。
悲鳴、怒号、鉄の打ちつける音などなど、状況は混沌としている。
そんな中、笑い声が響き渡る。
「おーっほっほっほ! ハリル士官学校を襲撃するなんて、良い度胸していますわ! その程度の実力で、勝てると思いますの? 丸焦げにしてあげますわ!」
赤髪が特徴的なエレノアは、炎の球を連発し始めた。
結果、襲撃した者の一人が、反応できず、燃えてしまう。
壮絶な叫び声とともに、地面を転がっていた。
だが、その隙を見逃すような者は、教官にはいない。
すぐに、剣でトドメを刺されていた。
アリアたちも、負けじと、入校生に襲いかかる者たちを倒していく。
「それにしても、この人たちは、どこから湧いて出てきたんですかね? 襲撃するにしても、もっと、人数がいりそうな気がしますけど?」
「さぁ? 捕まえて、尋問しないことには分かりませんよ。ただ、入校生の中には、ケガしてる者もいそうですね。そこらへんが狙いなのでは?」
アリアとステラは、襲撃者を倒しつつ、推測する。
周りでは、続々と教官が集まり、戦闘を始めていた。
相手は、よくて一般兵ぐらいの実力である。
教官を務めるほどの実力者にとっては、大した相手ではなかった。
ほぼ一方的に倒されていく。
そんな中、白い長髪をまとめた人物が現れる。
「君たち! 何人かは、捕まえておいてよ! そうじゃないと、背後関係とか分からないからさ! あと、暇な教官は、ケガした入校生の手当てをして!」
ミハイルは、いつも通りの笑顔で指示を飛ばしていく。
その声に反応したのか、襲撃者の何人かが、ミハイルのもとに向かう。
「え? 僕を狙うの? 目的は、入校生じゃないのかな? まぁ、あとで調べれば良いか」
焦った様子は、一切ない。
向かってきた襲撃者の剣を避けると、蹴りで腕を折っていた。
どうやら、剣を使うまでもないようだ。
(……相変わらず、団長はおかしい。まぁ、私でも余裕を持って相手できるくらいだからな。団長からしてみれば、剣を抜く必要もないということか。というか、他の組の主任教官って、やっぱり、強いんだ。まぁ、そうでもないと、教官は務められないか。近衛騎士と互角か、それ以上の人もチラホラいるな)
アリアは、襲撃者の相手をしつつ、周囲の状況を見ていた。
ある主任教官は、槍を使うようだ。
剣での斬りかかりを受ける前に、心臓を一突きにしている。
ステラの組の主任教官はというと、双剣を使っていた。
半身で攻撃を避けると、二人同時にトドメを刺す。
いずれも、かなりの実力者であるのは間違いないようだ。
そんなこんなで、アリアたちが戦闘を開始してから、数分後。
40人ほどのまとまった集団が、正門に集まってくる。
ほとんどの者は、巨大なランスと大盾を持っていた。
ただ、全員共通して、鎧はつけていないようだ。
「お。アリア中尉。頑張っているみたいだな。感心、感心。もう、これなら、俺たちの出番はないか」
「バスク少佐!」
アリアは、大きな声を上げる。
対して、バスクは凄く面倒そうな顔であった。
できるなら戦いたくない。
そんな態度がありありと見えた。
「アリア中尉。俺は、帰るから、あとはよろしく」
「いや、何を言っているんですか! 副校長もいるので、ちゃんとやらないと、マズいですよ!」
アリアは、大きな声で中尉をする。
対して、バスクはというと、『はぁ……面倒だな。とはいえ、ハインリッヒ上級大将に、サボっていたと報告されたマズいか。ちゃんとやるしかないな』などと、つぶやいていた。
本人的には、小さい声で言ったのだろうが、アリアにはバッチリ聞こえている。
(これは、あれだな。私がしっかりしないとダメだ。どうやら、バスク少佐の面倒くさがりは、私の想像を超えているみたいだ。とはいえ、獅子軍団で中隊長をやっていたみたいだし、戦闘は折り紙つきか)
アリアは、ひそかに心の中で思ってしまう。
「よし! お前ら! あいつらを捕まえてこい! 殺すなよ! 副校長も言っている通り、なるべく、生かして捕まえろ!」
先ほどとはうって変わり、バスクは指揮官に相応しい声を出す。
と同時に、率いていた兵士たちが、大盾を持って、突進していく。
どうやら、ランスはあまり使わないようである。
馬上でなくても、獅子軍団の集団突撃はそれだけで、迫力があるものであった。
(うわ! 筋骨隆々な人たちが、集団で突っこんでいる! あれにぶつかられたら、ひとたまりもない!)
アリアは、邪魔をしないよう、負傷した入校生を運ぶことにする。




