180 とりあえず先立つものが必要
アリアたちは、居住することになる建物に到着していた。
とりあえずといった感じで、それぞれ、自分の部屋を見に行く。
(まぁ、普通の部屋だな。近衛騎士団の女子寮と変わらない感じだ。ベッドに、必要最低限の物品。生活するには大丈夫かな)
アリアは、ロウソクで部屋を照らしていた。
荷物もなにもなかったので、確認を終えたアリアは、建物の外に出る。
アリアたちの荷物は、馬車に乗っていたので、手元にはなかった。
平原にある壊れた馬車の中である。
「とりあえず、自分の部屋は確認できたかな? それじゃ、買い物に行ってきなよ! もう、君たちは入校生のときと違って、門限はないからね! でも、常識の範囲内で帰ってきなよ! 明日から、さっそく仕事だからね!」
ミハイルは、月明かりに照らされていた。
たしかに、必要な物品はない。
ただ、もう一つ、重要な物もなかった。
「団長。すいません。荷物の中に財布が入っていたので、お金がありません」
エドワードは、申し訳なさそうにしている。
「あ、そうか! すっかり忘れていたよ! この中に、財布を自分で身に付けていた人とかいる?」
ミハイルは、一応と言った感じで、周りを見渡す。
答えはなく、皆、首を振るばかりであった。
「だよね! 僕も、持ってきたお金は荷物の中だ! 1000万ゴールドくらいあったから、さすがに取りにいかないと! さて、どうしたものかな?」
ミハイルは、チラチラとカレンのほうに目配せをする。
対して、カレンのほうはというと、
「はぁ……気持ちが悪いのでやめくれませんか、それ。分かりましたよ。皆様に、お金をお貸しします」
ミハイルが何を言いたいのか、分かってしまっていた。
カレンは、服をガサゴソして、袋を取りだす。
「いくらいりますかね? そんなに多くは持ってきていないので、最小限でお願いしますよ」
「僕は、40万ゴールド、貸してほしいな! あとで、荷物をとってきたら、すぐ返すね!」
「分かりました。24時間で10割なので、覚えておいてくださいよ」
「いやいや、なに、その莫大な金利は!? どんな金貸しでも、そんな金利つけないよ! もうちょっと安くならないの?」
「無理です。それに、1000万ゴールドあるんですよね? 十分返せると思いますが?」
カレンは、当然と言わんばかりである。
「もう! 分かったよ! あとで、返すから、貸して!」
観念したミハイルは、カレンからお金を貸してもらう。
(うっ。金利が10割か……かなり痛いな……)
アリアは、渋い顔になっていた。
返せない金額ではないが、相当、痛い出費である。
他の面々も、なんとなく嫌な空気を流していた。
いくら貴族とはいえ、お金にはシビアなようだ。
エレノアに至っては、『10割……キツイですわ……』と、少し涙目である。
そんなアリアたちの空気を察したのか、カレンが口を開く。
「あ。お嬢様方は、無利子で大丈夫ですよ。さすがに、利子はとれませんから。そこまで、鬼ではありませんよ」
「本当ですの!? ありがとうございますですわ!」
カレンの言葉に、エレノアは跳び上がらんばかりに喜ぶ。
ステラを除いた面々も、ホッとした顔をしている。
(良かった! さすが、カレンさん! 分かっている! もう、一生ついていきます!)
アリアはそんなことを思った後、必要なお金を受けとった。
――午後7時。
アリアたちは、王都ハリルに繰り出していた。
さすが、王都だけあって、夜になっても、それなりに活況はあるようだ。
「とりあえず、どこかで食事をとりませんか? もう、お腹がペコペコで死にそうです!」
通りを歩いていたアリアは、提案をする。
「うん! そのほうが良いね! カレン、良いお店。知っている?」
ミハイルは、アリアの提案を受け入れていた。
「知らないですね。あまり、王都ハリルは詳しくないので。そこらへんのお店ではダメなんですか?」
「そうなんだ! うん、分かった! じゃあ、あそこのお店にしようか!」
ミハイルも、お腹が減っているようだ。
近くにあった飲食店へと歩みを進める。
(やっと、食事にありつける! 眠気もそうだけど、お腹もヤバいよ! 体に食べ物を入れないと、ぶっ倒れそうだ! う~ん! 楽しみだ!)
アリアは、思わず笑みをこぼしてしまう。
他の面々も、笑顔があふれていた。
ステラでさえ、少しにこやかになっている。
数分と言わず、1分くらいでお店に到着した。
ミハイルを先頭にした面々は、ぞろぞろと入っていく。
お店は賑わっているようである。
あちらこちらから、活気のある声が上がっていた。
「いらっしゃい! おっと! 軍人さんかい? にしても、見たことがない軍服だね? もしかして、外国から来たのかい? 申し訳ないけど、ここは外国の軍人さんが来るような場所ではないからね! もっと、良いお店に行ったほうが良いよ!」
お店に入ると、店主らしきおばさんが話しかけてくる。
ただ、あまり歓迎はされていないようだ。
周りにいたお客さんたちも、ヒソヒソ話をし始める。
(……なんだか、雲行きが怪しくなってきたな。これは、食事にありつけるのは先になるかもしれない)
アリアは、少し、渋い顔になっていた。




