179 やっと到着した
「ミハイル殿! ご無事でなによりです! もしかして、単騎で斬り抜けてきたのですか?」
ハインリッヒは、頭の鎧を脱ぐ。
「ハイ! 今回は、本当に厳しかったですね! さすがに、一斉攻撃されるとさばくのにも限界がありますから! まぁ、私のことはいいです! そんなことよりも、ありがとうございました! 彼女たちを救うために、自ら出陣なされたんですよね? おかげで、優秀な士官を失わずに済みました!」
赤黒い見た目とは違い、ミハイルの歯は白かった。
「いえいえ、当然のことをしたまでです。ケガをなされているんですよね? すぐに治療させましょう」
「ありがとうございます! 実は、かなり痛かったんですよ!」
ミハイルは、笑顔である。
だが、槍で体を刺されたりしたのは事実であった。
ハインリッヒは、エドウィンに命じ、馬車を呼び寄せる。
ミハイルを含む、アリアたちは、その馬車に乗りこむ。
その後、獅子軍団とともに、馬車が動き出した。
「いや、それにしても、今回は本当にマズかったよ! 君たちを失いそうになったのも、そうだけど、死ぬかと思った! 一人に対して、集団で攻撃をしかけてくるのは反則だよ!」
ミハイルは、服を脱ぎ、肩の治療をカレンにやってもらっていた。
ハインリッヒも、衛生兵を用意してくれてはいたが、迷惑はかけられないと、断ったためである。
「団長。あの中で、どうやって生きて帰ってきたんですか?」
エドワードは、率直な疑問をぶつける。
「いや、君たちと別れたところの近くに森があってさ! なんとか、そこに逃げこんで、そこからは、攻撃したら逃げるを繰り返していたね! でも、さすがに何回か攻撃をもらってしまったよ! 自分が斬られるのいとわずに、突っ込んできたし、しょうがないよね!」
カレンに包帯を巻かれながら、ミハイルは答えた。
肩の突き傷、体の斬り傷。
ミハイルの言葉に疑いはないようだ。
「それで、敵の騎馬兵はどうなったんですか?」
ガタゴト揺れる馬車の中で、再度、エドワードは質問をする。
「うん! 全部、倒してきたよ! 生き残りがいて、連絡されたら困るからね! まぁ、彼らは、そもそも、覚悟が決まっていたみたいだしね! ただ、もう、僕たちの存在は、エンバニア帝国の本国に知られていると思ったほうが良いかも! そこらへんは、どうなっているの?」
ミハイルは、包帯グルグルをしていたカレンのほうを向く。
「私が追いついたときには、連絡員が行っていたみたいですね。追いかければ、なんとかすることもできたでしょうけど、さすがに援軍を呼びに行きましたよ。お嬢様方が死んでは困るので。私の首が飛んでしまいますよ」
カレンは、淡々と答える。
少し疲れが見えるが、いつも通りの様子であった。
「もしかしなくても、その中に、僕って含まれているよね?」
ミハイルは、一応、確認といった感じで聞く。
対して、カレンの答えは冷たいものであった。
「含まれているワケがありません。あなたが死んでも、私は特に困らないので。そもそも、一人で逃げるなら、自力でなんとかできると思っていましたので」
「……もうちょっと、僕のことを労わってくれても、良いんじゃないのかな? こんなに、頑張ったのに!」
「頑張るのは、当たり前ですよ。私も王都ハリルまで、不眠不休で走りましたから。それに、お嬢様方も、諦めずに戦ったから、あの中を生きて帰ってこれたハズです。頑張ったのは、なにも、あなただけではありませんよ」
カレンは、ミハイルの傷の治療をしながら、淡々と答える。
(……カレンさんって、団長に当たりが強いよな。理由とかは知らないけど、昔、何かあったんだろう。まぁ、今はそんなことより寝ておくか。もう、ずっと戦って、さすがに疲れたな……)
薄れゆく意識の中で、アリアはそんなことを考えていた。
もう、他の面々は、すでに眠りについている。
生きるか死ぬかの戦いが終わった後であった。
誰しもが、疲労の限界である。
――半日後。
アリアたちを乗せた馬車は、ローマルク王国の王都ハリルに到着をする。
「ほら、君たち! 君たちが生活する建物についたよ! とりあえず、確認してきてよ!」
ミハイルはそう言うと、手を打ち鳴らす。
その音に反応して、アリアたちが起床をする。
(……なんだか、一瞬しか眠れなった気がするな。まぁ、実際は、それなりに寝れただろうし、気のせいか)
アリアは、馬車の外に出る。
もう、すでに夜になっていた。
遠くの方で、明かりが道を照らしているのが見える。
「ここって、ハリル士官学校の敷地内ですかね? なんだか、レイル士官学校に似ています。周囲の感じが、本当にそっくりですね」
ステラは、周囲の様子を確認していた。
暗い中でも、周囲の建物の感じなどは分かる。
これも、訓練の賜物であった。
「ご名答! ここが君たちの働く、ハリル士官学校だよ! 居住する場所も敷地内にあるし、近衛騎士団にいるときと、そんなに変わらないね! 通勤が楽だよ!」
治療を終えていたミハイルは、元気そうである。
激戦をくぐり抜けてきたとは思えない様子であった。




