177 いや、凄すぎるだろう
エレノアのもとにたどりついたアリアたち。
すぐに、騎馬兵を撃退し始める。
ただ、敵も、激烈な抵抗をしてきた。
「くっ! ここまでしてくるとは!? どれだけの覚悟があれば、できるんだ!?」
エドワードは、対処に難儀をしている。
馬ごと、体当たりしてきたためであった。
普通であれば、考えられないことである。
体当たりをしてしまうと、馬はもちろん、自分も危ないからであった。
その上、最悪、死んでしまう可能性もある。
落馬、返しの剣で殺されるなど。
考え出せばきりがない。
それでも、敵は、馬ごと体当たりをしてきた。
「もう、完全に死兵になっていますよ! 皆さん! 気をつけてください!」
アリアは、体当たりをしてきそうな騎馬兵のほうを向く。
もちろん、すぐに馬の走らせる方向を変え、全力で避ける。
結果、体当たりをしてきた騎馬兵は、他の騎馬兵に当たってしまう。
ドンという鈍い音ともに、どちらも地面に倒れていた。
同士討ちである。
だが、周りの騎馬兵たちは、まったく意に介していない。
「どうなっても、構わないといった感じですか。たしかに、もう死ぬしかありませんからね。本当に厄介ですよ」
ステラは、すれ違いざまに、騎馬兵の首を斬り飛ばしていた。
主が動かさない馬。
宙を舞う首。
胴体から吹き出す赤い液体。
誰も気にしてはいない。
各々ができることをやっているだけであった。
「でも、大丈夫ですわよ! もう、すぐそこに獅子軍団が来ていますわ!」
元気になったエレノアは、少しだけ余裕があるようだ。
後方に迫っている獅子軍団に気を配っていた。
その獅子軍団はというと、ランスを脇に抱え、突撃体勢に入っている。
重装甲魔法兵も、水魔法で群がってくる騎馬兵たちを流していた。
「そろそろ、離脱しないと、ワタクシたちも危ないですの! ついてきてくださいまし!」
サラは、なんとか、突破口を見つけたようだ。
騎馬兵たちの間に、少しだけ空間が空いている。
アリアたちは、群がってくる騎馬兵をなんとかすると、サラについていく。
直後、獅子軍団が騎馬兵たちに向かって、突撃を開始する。
(うわ、危ない! あと少し離脱が遅れていたら、巻きこまれていたよ! もう、迫りくる壁だ! 現に、馬がいるのに、全然、関係ないもんな! 魔法と突撃の組み合わせが凄すぎる! あれは、どうしようもないよ!)
アリアは、馬に乗りながら、後方を振り返る。
騎馬兵たちは、なんとか抵抗しようと、剣を振っているのが見えた。
ただ、獅子軍団の前には無意味のようだ。
ある騎馬兵は、剣で重装甲騎兵に攻撃をしようとする。
だが、攻撃をする前に、ランスで刺し貫かれてしまう。
また、ある騎馬兵は、重りのついた鎖を取りだし、馬に向かって投げようとする。
だが、重装甲魔法兵の激烈な水魔法に押し流され、落馬してしまう。
そうなると、たどる運命は一つしかない。
騎馬兵の上を獅子軍団の馬が通り過ぎていく。
残るのは、原形を留めていない肉の塊であった。
「久しぶりに見たが、やっぱり凄いな。獅子軍団は。正面から当たって、勝てるとは思えない。竜騎兵でも勢いを止めるのは無理な気がするな。近づいたら、重装甲魔法兵の水魔法で落とされてしまうだろう。まさに、平原では最強の存在だ」
「何回みても、この光景には衝撃を受けますわ! 戦場で死体はたくさん見ましたが、あそこまで原形がないのは見たことがありませんの! 死ぬにしても、踏みつぶされて死ぬのは嫌ですわ!」
エドワードとサラは、少し離れた場所に到着すると、馬から降りた。
アリア、ステラ、エレノア、学級委員長三人組は、すでに地面に足をつけている。
乗っていた馬はというと、アリアたちが降りるとすぐに、動かなくなってしまう。
「ミハルーグ帝国の東部は、平原ですからね。侵攻する敵は、獅子軍団と戦わないといけません。ですが、戦いになりますかね? 現に、騎馬兵とか、何もできずにやられていますけど? 矢とかも、重装甲の前には無意味ですからね。味方でほっとしていますよ」
「本当ですの! 味方で良かったですわ! 獅子軍団と戦うのは無理ですわ! 絶対、戦いになりませんの!」
ステラとエレノアは、珍しく、意見が一致していた。
いがみ合う二人でさえも、同じ感想が抱いてしまう。
それほど、獅子軍団は圧倒的であった。
(とりあえずは生き残ったか。本当に運が良かった。それにしても、誰が、援軍を呼んでくれたんだろう? 王都ハリルに近いとはいえ、まだ、少しだけ距離はある。襲撃が伝わるにしても、早すぎるな)
命が助かったことで、少しだけ余裕ができていた。
そんなアリアの前に、答えが、いきなり現れる。
「お嬢様方。無事だったみたいですね。走ったかいがありましたよ」
「カレンさん!」
アリアは、思わず、声を出してしまう。
「カレン。もしかして、獅子軍団を呼んでくれたんですか?」
驚きもせず、ステラは質問をする。
「はい、そうですね。久しぶりに、こんなに走りましたよ。おかげで、もう立っているのもやっとです」
珍しく、カレンは疲れた顔をしていた。
心なしか、顔が細くなっている。
(いやいや、走って、どうにかできる距離ではなかったよ! どれだけの脚力があるんだ!? 普通ではないだろう!)
アリアは、声に出さず、ツッコミを入れてしまう。




