176 援軍
アリアたちは、なんとか、騎馬隊相手に奮戦している。
だが、長い時間は持ちそうにない。
死が一歩一歩、アリアたちに迫っていた。
(……どうしよう? もう、打つ手がないな。指揮官を討てればと思ったけど、たどり着けそうにないか。まぁ、最後まであがこう。戦って死んだほうが、まだ良いでしょう)
アリアは、重くなってしまった剣を振るっている。
いくら近衛騎士とはいえ、長い間、剣を振るうことはできない。
それに、食事、睡眠を昨日からとっていない状況である。
体力、気力ともに限界がきていた。
いつもより剣が重くなる。
それも、当たり前であった。
「アリアさん。私が、一瞬、敵を止めるので、その間に逃げてください」
ステラは、アリアが覚悟を決めたのを感じたらしい。
「ありがとうございます。でも、遠慮しておきます。皆さんをおいて、逃げ出すなんて、私にはできません。しかも、逃げ出したとしても、すぐに追いつかれるのが関の山ですよ」
「誰か一人でも、生きて王都ハリルにたどりつければとは、思いますの。ただ、難しそうですわね。さすがに、数が多すぎますの」
アリアとサラは、逃げ出そうとは思っていないようだ。
「まぁ、アリアさんならそう答えると思っていましたよ。それに、サラさんが言う通り、誰も逃げることは叶わないでしょう。そろそろ、覚悟を決めたほうが良いですね」
ステラは、珍しく笑っていた。
どうやら、さすがに生き残るのは無理だと感じているようだ。
つられて、アリアとサラも笑ってしまう。
考えていることは一緒であった。
そんな中、騎馬兵たちがざわつき始める。
現在進行形で追撃を受けているアリアたちでさえ、様子がおかしいことに気づく。
(どうしたんだろう? なんだか、しきりに横のほうを見ているけど)
覚悟を決めたばかりのアリアは、目を向ける。
遠くのほうで砂煙が巻き起こっているのが見えた。
と同時に、けたたましい銅鑼の音が響いてくる。
もちろん、喚声も聞こえてきた。
「アリア、ステラ! 獅子軍団ですわ! あの旗を見ますの!」
アリアが状況を確認するよりも早く、サラが大きな声を上げる。
獅子の描かれた旗。
アリアたちが、先のローマルク王国防衛戦で何度も見ていたものであった。
その旗を掲げている集団。
一回り大きい馬にまたがり、見るからに重そうな鎧を着ている兵士たちである。
その手には、巨大なランスと大きな盾。
まさに、迫りくる壁である。
「アリアさん、サラさん!」
ステラは、大きな声を上げた後、砂煙に向かって、全力で馬を走らせていた。
アリアとサラも、もちろん続く。
「ちょっと待ちますの! ワタクシを置いていかないでほしいですわ!」
アリアたち三人の後方から、聞き慣れた声が聞こえてくる。
現在、エレノアは、アリアたちよりも多くの敵に追われている状態だ。
「……さすがに見捨てるのはないですかね。いきますか!」
「はぁ……気乗りはしませんけど、しょうがないですね。なんか、化けて出てきたら困りますし」
「ステラ! もっとやる気を出しますの! これが最後ですわよ!」
アリアたち三人は、馬を走らせる方向を変える。
もちろん、後ろにいるエレノアのもとに、であった。
「僕たちも加勢するぞ! ここが踏ん張り時だ!」
エドワードと学級委員長三人組も、エレノア救出に合流をする。
さすがに、見捨てることはできなかったようだ。
そんな救出対象はというと、
「ああああああ! 皆、ずるいですわ! これ、ワタクシだけ死にますの! 絶対、化けて出てやりますわあああああ!」
などと叫びながら、剣を振りまくっている。
もう、完全に発狂していた。
少し離れた場所にいるアリアたちでさえ、声が聞こえてくる。
(それにしても、この期に及んでも撤退しないのか。どうして、そこまで戦えるんだ。いや、もう手遅れだからか。馬も潰れかけている上に、獅子軍団の登場。生き延びるのは難しいだろう。というか、そもそも、ここまで深追いしてくる段階で、生きるのは諦めているのか。そこまでする価値が、私たちにあるとは思えない。本当に、理解できないよ)
アリアは、活力を戻した頭を回転させていた。
そうこうしているうちに、エレノアのもとに、アリアたちは到着する。
「やっぱり、来てくれましたのね! ワタクシ、信じていましたわ! 見捨てるなんて、そんなことをするワケがありませんわよね! ちょっとでも疑ったワタクシを殴りたいですの!」
アリアたちの登場に、エレノアは、泣きそうな顔をしていた。
どうやら、見捨てられたと思っていたらしい。
(……なんだか、エレノアさんが不憫になってきたよ。性格はアレだけど、結構、ひどい目にあっているからな。厄介ごとを引き寄せる体質でもあるのか? まぁ、そんなことより、今は騎馬隊に集中だ!)
アリアは、エレノアの周囲にいる騎馬兵に斬りかかる。
もう、獅子軍団は、目と鼻の先であった。
少し離れた場所にいた騎馬兵などは、重装甲魔法騎兵の水魔法によって押し流されてしまっている。
地面と友達になっている騎馬兵の運命は分かりきっていた。




