175 厳しい
絶賛、追撃を受けている最中のアリアたち。
戦って死ぬか、このまま逃げて死ぬか。
究極の選択を迫られていた。
「僕は、逃げて死ぬより、戦って死にたい! 最終的に追い詰められて死ぬなんて、貴族の誇りが許さないからな!」
エドワードは、こちら側から仕掛けたいようである。
学級委員長三人組も、同意の声を上げていた。
「普通にムカつきますけど、私もエレノアの案に賛成です。馬を失えば、この人数相手に生き残るのは無理でしょう。なら、戦って死んだほうが良いですよ」
「一言、余計ですの! それで、アリアとサラは、どうしますの!? もう時間がありませんわよ!」
必死の形相をしたエレノアは、問いかける。
全員の馬は、潰れる寸前であった。
敵の馬も、同じような状態ではある。
ただ、数が違いすぎた。
もう、結論は出たようなものである。
「選択肢はありませんわ! 逃げるのは不可能! なら、こちらから仕掛けるしかありませんの! 一人でも多く道連れにしてやりますわ!」
サラは、疲れた自分を奮い立たせていた。
そうでもしないと、疲労で倒れてしまうような状況である。
「もう、考える余地はありません! 私も覚悟を決めました! 少しでも希望があるのなら、戦います!」
アリアも、大きな声を上げた。
その声が聞こえたのか、後方の騎馬隊がざわつき始める。
どうやら、反転するとは思っていなかったようだ。
アリアたちは、馬を走らせながら、目配せをする。
もう、それだけで、お互いの考えが分かるようだ。
アリアたちは、数々の修羅場を潜り抜けてきた。
その過程で、培われたものである。
(エドワードさんと学級委員長さんたちは、左からか! そうなると、私たちは、指揮官ねらいだな! 右から突っこむと見せかけて、一気に指揮官の首をとる!」
アリアは、馬の方向を変え、敵の右側に回りこむ。
もちろん、敵も、それを許すワケがない。
つられた騎馬兵が、アリアの後ろから斬りかかる。
「許すと思っているんですか? 背中がガラ空きですよ」
「アリアの邪魔はさせませんわ!」
ステラとサラは、アリアを追っている騎馬兵に襲いかかった。
近衛騎士は、通常のエンバニア帝国軍の兵士では勝ち目がないほど強い。
それは、アリアたちも例外ではない。
二人に気がついた敵が、大慌てで剣を振るう。
だが、軽々と弾くと、返しの剣で胴体を斬り裂いた。
当然、アリアを追っていた騎馬兵たちは、命を終えてしまう。
「ありがとうございます! 助かりました!」
「当然ですの! このまま、指揮官まで一気に突き抜けますわ!」
「露払いは、お任せを。アリアさんは、敵の指揮官に集中してください」
アリアを守るように、ステラとサラが展開をする。
そのままの隊列で、騎馬兵の海を進んでいく。
対して、エドワードと学級委員長三人組は、猛烈な攻撃を加えていた。
あまりの凄まじさに、騎馬兵たちが、一瞬攻撃するのを躊躇してしまう。
それほど、鬼気迫るものがあった。
一方、その頃、エレノアはというと、
「おかしいですわよ!! なぜ、ワタクシだけ一人ですの!? しかも、敵がたくさん、こっちに来ますわ! ふざけていますのおおおおお!」
などと叫んでいる。
エレノアは、騎馬兵たちにとって、それほど厄介であった。
遠距離から魔法を放たれ、近距離では剣を振るわれる。
しかも、普通に強い。
騎馬兵たちにとって、一人になった今が、最大のチャンスであった。
なので、敵がエレノアに群がるのは、しょうがないことだ。
(……やっぱり、かなり厳しいな。個人の実力では、こちらが勝っている。ただ、数が多すぎる。個人の実力で、なんとかできる感じではないな。とにもかくにも、指揮官を倒して、敵の動揺を誘うしかない。そうなれば、少しは活路を見出せるハズ)
向かってくる騎馬兵を倒しながら、アリアは考えをやめない。
――30分後。
アリアたちは、敵の指揮官を目指して、戦っている最中である。
ただ、当初の勢いが衰え、形勢は逆転されつつあった。
エドワードたちも、奮戦はしているが、数には勝てないようだ。
そんな中、エレノアはというと、相変わらず、逃げ回っていた。
(……これは、ダメかもな。状況的に厳しいな。やっぱり、私たちだけだと、数が足りない。もう10人、近衛騎士がいれば、違ったかもしれない。まぁ、考えても、しょうがないか)
剣を振るいつつ、アリアは、ステラとサラの顔を見る。
二人とも、同じような考えをしているようだ。
長い付き合いである。
それくらいは、すぐに分かった。
(そろそろ、覚悟を決める時間か。来世は、戦争とは無縁の人生が良いな。普通に働いて、普通に生きていける。そんな世界に生まれたいな)
諦めたワケではない。
ただ、アリアは、現実的な考えをしていた。
現在の状況から、逆転する可能性は限りなく低い。
恐らく、自分たちは死ぬだろう。
そんな考えが、アリアの頭に浮かぶ。
現実を直視した結果である。
夢物語の中に入りこむのは、難しい話であった。
どう楽観的に考えても、現実は変わらないからだ。




