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175/206

175 厳しい

 絶賛、追撃を受けている最中のアリアたち。

 戦って死ぬか、このまま逃げて死ぬか。

 究極の選択を迫られていた。


「僕は、逃げて死ぬより、戦って死にたい! 最終的に追い詰められて死ぬなんて、貴族の誇りが許さないからな!」


 エドワードは、こちら側から仕掛けたいようである。

 学級委員長三人組も、同意の声を上げていた。


「普通にムカつきますけど、私もエレノアの案に賛成です。馬を失えば、この人数相手に生き残るのは無理でしょう。なら、戦って死んだほうが良いですよ」


「一言、余計ですの! それで、アリアとサラは、どうしますの!? もう時間がありませんわよ!」


 必死の形相をしたエレノアは、問いかける。


 全員の馬は、潰れる寸前であった。

 敵の馬も、同じような状態ではある。

 ただ、数が違いすぎた。


 もう、結論は出たようなものである。


「選択肢はありませんわ! 逃げるのは不可能! なら、こちらから仕掛けるしかありませんの! 一人でも多く道連れにしてやりますわ!」


 サラは、疲れた自分を奮い立たせていた。

 そうでもしないと、疲労で倒れてしまうような状況である。


「もう、考える余地はありません! 私も覚悟を決めました! 少しでも希望があるのなら、戦います!」


 アリアも、大きな声を上げた。


 その声が聞こえたのか、後方の騎馬隊がざわつき始める。

 どうやら、反転するとは思っていなかったようだ。


 アリアたちは、馬を走らせながら、目配せをする。

 もう、それだけで、お互いの考えが分かるようだ。


 アリアたちは、数々の修羅場を潜り抜けてきた。

 その過程で、培われたものである。


(エドワードさんと学級委員長さんたちは、左からか! そうなると、私たちは、指揮官ねらいだな! 右から突っこむと見せかけて、一気に指揮官の首をとる!」


 アリアは、馬の方向を変え、敵の右側に回りこむ。

 もちろん、敵も、それを許すワケがない。

 つられた騎馬兵が、アリアの後ろから斬りかかる。


「許すと思っているんですか? 背中がガラ空きですよ」


「アリアの邪魔はさせませんわ!」


 ステラとサラは、アリアを追っている騎馬兵に襲いかかった。

 

 近衛騎士は、通常のエンバニア帝国軍の兵士では勝ち目がないほど強い。

 それは、アリアたちも例外ではない。


 二人に気がついた敵が、大慌てで剣を振るう。

 だが、軽々と弾くと、返しの剣で胴体を斬り裂いた。

 当然、アリアを追っていた騎馬兵たちは、命を終えてしまう。


「ありがとうございます! 助かりました!」


「当然ですの! このまま、指揮官まで一気に突き抜けますわ!」


「露払いは、お任せを。アリアさんは、敵の指揮官に集中してください」


 アリアを守るように、ステラとサラが展開をする。

 そのままの隊列で、騎馬兵の海を進んでいく。


 対して、エドワードと学級委員長三人組は、猛烈な攻撃を加えていた。

 あまりの凄まじさに、騎馬兵たちが、一瞬攻撃するのを躊躇してしまう。

 それほど、鬼気迫るものがあった。


 一方、その頃、エレノアはというと、


「おかしいですわよ!! なぜ、ワタクシだけ一人ですの!? しかも、敵がたくさん、こっちに来ますわ! ふざけていますのおおおおお!」


 などと叫んでいる。


 エレノアは、騎馬兵たちにとって、それほど厄介であった。

 遠距離から魔法を放たれ、近距離では剣を振るわれる。

 しかも、普通に強い。


 騎馬兵たちにとって、一人になった今が、最大のチャンスであった。

 なので、敵がエレノアに群がるのは、しょうがないことだ。


(……やっぱり、かなり厳しいな。個人の実力では、こちらが勝っている。ただ、数が多すぎる。個人の実力で、なんとかできる感じではないな。とにもかくにも、指揮官を倒して、敵の動揺を誘うしかない。そうなれば、少しは活路を見出せるハズ)


 向かってくる騎馬兵を倒しながら、アリアは考えをやめない。






 ――30分後。


 アリアたちは、敵の指揮官を目指して、戦っている最中である。

 ただ、当初の勢いが衰え、形勢は逆転されつつあった。


 エドワードたちも、奮戦はしているが、数には勝てないようだ。

 そんな中、エレノアはというと、相変わらず、逃げ回っていた。


(……これは、ダメかもな。状況的に厳しいな。やっぱり、私たちだけだと、数が足りない。もう10人、近衛騎士がいれば、違ったかもしれない。まぁ、考えても、しょうがないか)


 剣を振るいつつ、アリアは、ステラとサラの顔を見る。

 二人とも、同じような考えをしているようだ。


 長い付き合いである。

 それくらいは、すぐに分かった。


(そろそろ、覚悟を決める時間か。来世は、戦争とは無縁の人生が良いな。普通に働いて、普通に生きていける。そんな世界に生まれたいな)


 諦めたワケではない。

 ただ、アリアは、現実的な考えをしていた。

 現在の状況から、逆転する可能性は限りなく低い。


 恐らく、自分たちは死ぬだろう。


 そんな考えが、アリアの頭に浮かぶ。

 現実を直視した結果である。

 夢物語の中に入りこむのは、難しい話であった。


 どう楽観的に考えても、現実は変わらないからだ。

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