171 数が多すぎるよ
平原を駆け抜けている馬車。
その後方には、騎馬隊が迫ってきている。
もちろん、味方ではない。
どう考えても、敵であった。
「おーっほっほっほ! 先手必勝ですわ! ワタクシの魔法の威力を味わいなさい!」
馬車の上にいるエレノアは、左手をかざす。
と同時に、炎の球が連射されていく。
敵の騎馬隊はというと、エレノアの動きが見えた瞬間、行動を変える。
エレノアのいる直線状から、横に移動していた。
そのため、炎の球は、むなしく空を切ってしまう。
「もう! どうして、避けられますの! ワタクシのことを知っていないと、できない動きでしたわよ!?」
「実際、知られているんだろう。部隊内で、エレノアのことを伝えているみたいだな。当たり前と言えば、当たり前か」
エドワードは、テキパキと弓に矢をつがえる。
学級委員長三人組も、狙う準備に入っていた。
「エレノア! もっと、相手が近づいたら、魔法を使えば良いんですの! それまでは、弓で攻撃するのが一番ですわ!」
サラは、プリプリ怒り出したエレノアに声をかける。
炎の球は、赤いため、遠くからでも確認しやすい。
そのため、距離がある状況では、あまり有効とは言えなかった。
普通に、避けられるからである。
それか、切り払われるか。
「体力節約のためにも、そっちのほうが良いですよ! エレノアさんの魔法は、ここぞというときに使うものです! それだけ、凄いんですから!」
アリアは、とりあえず、エレノアを褒めておく。
「そうですわよね! 近づいてきたら、黒焦げにしてやりますわ! それまでは、矢で攻撃しますの!」
アリアに褒められて、エレノアは少し機嫌が良くなっていた。
弓に矢をつがえると、次々と放っていく。
アリアたちも、狙いをつけて矢を放っている。
ただ、全然、当たらない。
(騎馬隊が変則的な動きをしているから、狙いづらい! というか、物量が足りていない気がする! とはいえ、馬車に攻撃されたらマズいしな……ここは、粘るしかないか)
アリアは、若干、突出している騎馬兵に狙いをつける。
弓を引き絞り、方向を変えた瞬間、矢を放つ。
(当たって……ないな。はぁ、さすがに馬は速すぎるよ。ああ、動かれると、当たらないよ)
アリアは、心の中で、ため息をつく。
そんな中、突如、アリアの狙っていた騎馬兵が落馬をする。
「さすがですね! 凄すぎますよ! よく当てられましたね!」
アリアは、弓に矢をつがえながら、賞賛の声を上げる。
矢を当てた主は、2組の学級委員長であった。
アリアの矢に気をとられた一瞬で仕留めたようだ。
他の面々も、真似て、同じ方法をとり始める。
ただ、どうしても当たらない。
(やっぱり、2組の学級委員長さんくらい、弓が上手くないと無理だよな。まぁ、でも、近づいてきたから、かするようにはなってきたか。とはいえ、相手も、そろそろ、矢で攻撃してきそうだな)
騎馬隊は、先ほどより、明らかに近づいてきていた。
もちろん、ただ、手をこまねいているワケがない。
馬上から、矢が放たれ始める。
「くっ! これは厳しい! さすがに、相手のほうが多いからな! 矢の量が桁違いだ!」
エドワードは、なんとか矢を放とうとはしていた。
だが、矢が降り注いできているため、断念してしまう。
弓を剣に持ち替え、飛んでくる矢を叩き落としていた。
「君たち、もっと頑張ってよ! 全然、騎馬が減っていないじゃん! とはいえ、矢で攻撃するのも無理かな? こう、攻撃が激しいとね!」
ミハイルは、ステラと馬に矢が当たらないよう、弾き続けている。
別に焦っているワケではないが、どうしようか思案しているようだ。
アリアたちはというと、散発的に大きな声で返事をするのみである。
敵の攻撃が激しかったのだ。
そんな状況が、数十分続く。
結果、敵の騎馬隊が、かなり近づいてきていた。
アリアたちの馬車はというと、すでにハリネズミ状態である。
「おーっほっほっほ! ついに、ワタクシの出番ですわね! 真っ黒に焦げなさい!」
エレノアは、剣で矢を弾きつつ、左手をかざす。
今回は、かなり近かったため、炎の球が騎馬兵に命中していた。
さすがに、避けられなかったようだ。
ただ、次から次へと騎馬兵が現れていく。
アリアたちも、なんとか矢で攻撃しようとはしている。
だが、敵の矢の攻撃が激しく、防戦一方となっていた。
(このままだと、ヤバいな。もう少し近づかれたら、馬車の車輪を狙ってくるだろうし。馬車が壊れたら、包囲されて殲滅されるだけだ。何か、状況に変化が起きない限り、生きて帰れる保証はゼロに等しいな)
アリアは、矢を剣で弾きつつ、今後の予想をしてしまう。
「うわ! これ、本格的にマズいよ! さすがに、僕でも集中攻撃されたら、死ぬからね! 誰か、援軍が来てくれないと、これは確実に死ぬよ!」
ミハイルは、いつもと変わらない。
陽気な声を上げていた。
状況に合っていないのは、明らかであった。
対して、誰もツッコミを入れない。
それほど、状況がマズいことになっていた。
騎馬隊が、かなり近づいてきているからだ。




