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171/206

171 数が多すぎるよ

 平原を駆け抜けている馬車。

 その後方には、騎馬隊が迫ってきている。

 もちろん、味方ではない。


 どう考えても、敵であった。


「おーっほっほっほ! 先手必勝ですわ! ワタクシの魔法の威力を味わいなさい!」


 馬車の上にいるエレノアは、左手をかざす。

 と同時に、炎の球が連射されていく。


 敵の騎馬隊はというと、エレノアの動きが見えた瞬間、行動を変える。

 エレノアのいる直線状から、横に移動していた。

 そのため、炎の球は、むなしく空を切ってしまう。


「もう! どうして、避けられますの! ワタクシのことを知っていないと、できない動きでしたわよ!?」


「実際、知られているんだろう。部隊内で、エレノアのことを伝えているみたいだな。当たり前と言えば、当たり前か」


 エドワードは、テキパキと弓に矢をつがえる。

 学級委員長三人組も、狙う準備に入っていた。


「エレノア! もっと、相手が近づいたら、魔法を使えば良いんですの! それまでは、弓で攻撃するのが一番ですわ!」


 サラは、プリプリ怒り出したエレノアに声をかける。


 炎の球は、赤いため、遠くからでも確認しやすい。

 そのため、距離がある状況では、あまり有効とは言えなかった。

 普通に、避けられるからである。

 それか、切り払われるか。


「体力節約のためにも、そっちのほうが良いですよ! エレノアさんの魔法は、ここぞというときに使うものです! それだけ、凄いんですから!」


 アリアは、とりあえず、エレノアを褒めておく。


「そうですわよね! 近づいてきたら、黒焦げにしてやりますわ! それまでは、矢で攻撃しますの!」


 アリアに褒められて、エレノアは少し機嫌が良くなっていた。

 弓に矢をつがえると、次々と放っていく。


 アリアたちも、狙いをつけて矢を放っている。

 ただ、全然、当たらない。


(騎馬隊が変則的な動きをしているから、狙いづらい! というか、物量が足りていない気がする! とはいえ、馬車に攻撃されたらマズいしな……ここは、粘るしかないか)


 アリアは、若干、突出している騎馬兵に狙いをつける。

 弓を引き絞り、方向を変えた瞬間、矢を放つ。


(当たって……ないな。はぁ、さすがに馬は速すぎるよ。ああ、動かれると、当たらないよ)


 アリアは、心の中で、ため息をつく。

 そんな中、突如、アリアの狙っていた騎馬兵が落馬をする。


「さすがですね! 凄すぎますよ! よく当てられましたね!」


 アリアは、弓に矢をつがえながら、賞賛の声を上げる。

 矢を当てた主は、2組の学級委員長であった。

 アリアの矢に気をとられた一瞬で仕留めたようだ。


 他の面々も、真似て、同じ方法をとり始める。

 ただ、どうしても当たらない。


(やっぱり、2組の学級委員長さんくらい、弓が上手くないと無理だよな。まぁ、でも、近づいてきたから、かするようにはなってきたか。とはいえ、相手も、そろそろ、矢で攻撃してきそうだな)


 騎馬隊は、先ほどより、明らかに近づいてきていた。

 もちろん、ただ、手をこまねいているワケがない。

 馬上から、矢が放たれ始める。


「くっ! これは厳しい! さすがに、相手のほうが多いからな! 矢の量が桁違いだ!」


 エドワードは、なんとか矢を放とうとはしていた。

 だが、矢が降り注いできているため、断念してしまう。

 弓を剣に持ち替え、飛んでくる矢を叩き落としていた。


「君たち、もっと頑張ってよ! 全然、騎馬が減っていないじゃん! とはいえ、矢で攻撃するのも無理かな? こう、攻撃が激しいとね!」


 ミハイルは、ステラと馬に矢が当たらないよう、弾き続けている。

 別に焦っているワケではないが、どうしようか思案しているようだ。


 アリアたちはというと、散発的に大きな声で返事をするのみである。

 敵の攻撃が激しかったのだ。


 そんな状況が、数十分続く。

 結果、敵の騎馬隊が、かなり近づいてきていた。

 アリアたちの馬車はというと、すでにハリネズミ状態である。


「おーっほっほっほ! ついに、ワタクシの出番ですわね! 真っ黒に焦げなさい!」


 エレノアは、剣で矢を弾きつつ、左手をかざす。

 今回は、かなり近かったため、炎の球が騎馬兵に命中していた。

 さすがに、避けられなかったようだ。


 ただ、次から次へと騎馬兵が現れていく。

 アリアたちも、なんとか矢で攻撃しようとはしている。


 だが、敵の矢の攻撃が激しく、防戦一方となっていた。


(このままだと、ヤバいな。もう少し近づかれたら、馬車の車輪を狙ってくるだろうし。馬車が壊れたら、包囲されて殲滅されるだけだ。何か、状況に変化が起きない限り、生きて帰れる保証はゼロに等しいな)


 アリアは、矢を剣で弾きつつ、今後の予想をしてしまう。


「うわ! これ、本格的にマズいよ! さすがに、僕でも集中攻撃されたら、死ぬからね! 誰か、援軍が来てくれないと、これは確実に死ぬよ!」


 ミハイルは、いつもと変わらない。

 陽気な声を上げていた。

 状況に合っていないのは、明らかであった。


 対して、誰もツッコミを入れない。

 それほど、状況がマズいことになっていた。

 

 騎馬隊が、かなり近づいてきているからだ。

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