170 やっぱり追ってきた
――夜明け。
ミハイルが動かしている馬車は、それなりの距離を進んでいた。
ただ、王都ハリルに到着するかと言われれば、全然である。
さすがに、距離が遠い。
あと、3日ほどはかかりそうであった。
現在、馬車は平原を駆けている。
襲撃を受けずに、森を抜けることはできていた。
「なんとか、夜明けまで持ちましたね。太陽も出てきましたし、そろそろ、団長と変わりますか」
「そうですね。とりあえず、団長に聞いてみますね」
「お願いします」
アリアは、地平線から現れた太陽を見ている。
対して、ステラは、馬車の窓から身を乗り出していた。
「団長! もう、夜明けですし、変わりますよ!」
ステラは、ミハイルに聞こえるよう、大声を出す。
馬車が動いているためであった。
「そうだね! もう、さすがに大丈夫でしょう! それじゃ、馬車を止めるね!」
ミハイルも負けじと、大きな声を上げる。
その後、馬車はゆっくりと減速し、停止した。
「ふぅ~! やっぱり、久々に馬車を動かすと疲れるね! それじゃ、僕は寝ているから、あとはよろしく! 何かあったら、すぐ起こしてよ!」
馬車に乗りこんだミハイルは、それだけ言うと、寝てしまう。
「とりあえず、私が馬車を動かしますか? それか、誰かを起こしてやらせます?」
「いや、寝ているのを起こすのは悪いですよ。さすがに」
アリアは、馬車の中を見渡す。
サラを始めとした面々は、ぐっすりと寝てしまっている。
昨日の戦闘で疲れていたようだ。
ミハイルはもちろん、エレノアも寝ている。
口から少し、よだれが垂れているのを、アリアは見逃さなかった。
「それもそうですね。とりあえず、最初は私がやります。3時間交代くらいで良いですかね?」
「分かりました。お願いします。次は私がやるので」
アリアは、ステラの提案を受け入れる。
数分後には、ステラが動かす馬車が動き始めていた。
――1時間後。
どうやら、昨日、戦闘をした敵は諦めていなかったようだ。
アリアたちが乗る馬車の後方から、土煙が上がる。
と同時に、喚声が聞こえてきた。
(夜に追撃をされなかったから、諦めたのかと思っていたけど……単に時間がかかっていただけか)
アリアは、思わず、ため息をつきそうになる。
ほぐれかけていた緊張感が、再び、線を張ってしまう。
「まぁ、来るよね、普通! あわよくばって思っていたけど、現実は厳しいよ! ハイ、皆、起きて! 敵襲だよ!」
ミハイルは、立ち上がると、手を叩き、音を鳴らす。
アリア同様、すぐに気がついて、起きたようだ。
「……もう着きましたの? 結構、近かったですわね?」
エレノアは、寝ぼけた声を上げる。
対して、エドワードは、
「エレノア! 寝ぼけている場合か!? 敵襲だぞ! 敵襲!」
即座に起床していた。
悲しいことに、軍での生活が彼を変えてしまったようだ。
何かを言われたら、即座に反応する。
軍隊生活が染みついた証拠であった。
学級委員長三人組も、近くにあった弓やらなんやらを持って、準備している。
「敵襲!? もう、最悪な目覚めですの!! 絶対、丸焦げにしてあげますわ!」
エドワードの言葉によって、エレノアは覚醒をした。
と同時に、怒り出す。
馬車の扉を開けたかと思うと、上部の縁に手をかける。
その後、足をかけ、馬車の上に移動してしまった。
「それじゃ、君たちは、矢で敵をけん制してよ! 僕は、馬とステラに矢が刺さらないように守るから! 頼んだよ!」
アリアたちの準備ができたことを確認したため、ミハイルも馬車の上へ移動する。
エドワードと学級委員長三人組も、それに続く。
「はぁ……ワタクシ、昔はもっと華奢だったハズですわ。今は、これですものね。力が段違いですわ」
サラはため息をつくと、腕だけの力で馬車の上に移動する。
足をかけて、体ごと持ち上げる必要がなかったようだ。
(たしかに、普通、女性って、懸垂するのも厳しいハズだよな。サラさんとか、今、腕だけで上がったけど。悲しいかな、私も、多分、腕だけで上がれるかな。なんだか、一般の女性からどんどんと離れていっている気がする……)
アリアも、腕だけの力で、簡単に馬車の上に移動していた。
すると、馬車の中からは見えなかった、全体像が見えてくる。
「うん! 多いね、ちょっと! てっきり1個小隊規模かと思っていたけど、全然、違うね! 1個中隊くらいはいそうだよ! たかだか、数人に張りきりすぎだね!」
ミハイルは、いつも通りの笑顔であった。
対して、アリアたちの顔は、厳しいものである。
「もう、意味分かりませんわ! 何で、こんなに敵がいますの!? というか、そもそも、何でこんなに潜伏できますの!? ローマルク王国の警備はおかしいですわ!」
エレノアは、頭をクシャクシャし始めた。
(まぁ、たしかに、これだけ潜伏していたのは、おかしいよな。1個中隊規模でしょう? 警備がおざなりになっているとしか思えない。辺境の地域だからと信じたいな。王都ハリルにも工作員が、いるにはいると思うけど、これよりは少ないだろうし)
アリアは、向かってくる騎馬兵たちを見ながら、思考をする。




